第26話 門出
今日は入学式だから緊張しない?
そんなことを言った馬鹿はどこのどいつだ。ふざけやがってぶん殴ってやる。
……と、私は会場の椅子に座りながら内心荒れていた。
希望溢れる学校生活の始まり。新入生の期待の眼差し。そんなのはなかった。
新入生はほとんどが貴族の子供達だ。いかに自分が上の立場につけるか、その応酬が会場に入る前から繰り広げられていた。
平民のような人は何人か居たけど、全て等しく会場の端っこの方の椅子で大人しくしている。実際、関わりたくないんだろう。私だってそうだった。でも、悲しいかな。私もその貴族達の変な応酬に巻き込まれそうになっていた。
原因はエリスだ。
王国騎士隊長というエリスは、勿論有名な存在だった。そこにいる人から尊敬の眼差しを受けている。貴族も平民も、教員と思われる人達全員からだ。めちゃくちゃ人気者じゃん……と呆れてしまった。
その人達が次に見るのは、エリスと一緒に行動していて、なおかつ仲がよさそうに話している私だ。しかも、エリスは子供を溺愛する母親のように、私のことをめちゃくちゃ心配している。
普通ならエリスの子供か、それに近しい存在だと思うだろう。……違うんです。彼女とは友達なだけで、決してそういう関係ではないんです。私は何処の馬の骨ともわからない平民です。と言っても無駄なのはわかっている。
流石にエリスがいる前で私を問い詰めるのはしないのか、校門から会場へ歩いている間は変な視線を受けるだけだった。
でも、会場に入ってエリスと別行動になった瞬間、貴族の子供達が私に押し寄せてきた。
咄嗟の判断で逃げて平民らしい人達の席に座ったけれど、平民は揃ってもっと端の方に移動し、空いた両隣に貴族達が座り始めた。
……どうしてこうなった。と私は変な汗をかいていた。
前後左右から視線をビシバシ感じる。顔を上げたが最後、目があった人から何かを言われるに違いない。それが怖くて、私はずっと下を向き続けている。
「──カガミ? 大丈夫か?」
と、そこで私が何度も聞いた声が聞こえる。
その方向を向くと、保護者席に座っていたはずのエリスが近くまで来ていた。
周りが騒がしくなる。生徒達から「エリス様だ……」とか「今日もお美しい」とか囁かれているけど、当の本人は私のことしか気にしていないようだった。
「体調が悪いようなら、教員に言って保健室まで行くか?」
「い、いや……大丈夫だよ。少し、緊張しているだけだから……」
「……そうか。だが、無理をしないでくれ。胃薬飲むか?」
丸い粒状の物とお水を差し出してくる。
どうしてエリスがそれを持っているんだよ。とは言えなかった。
「今のところは大丈夫……本当にキツくなったら言うよ」
「わかった。では私は戻るぞ」
「うん、ありがとう」
最後に私の頭を撫でて、エリスは元の場所に戻る。
彼女のおかげで少しはメンタルが戻った。
でも残念ながら、周りからの視線は一層強くなったので、私の緊張感は倍増したのだった。
入学式が始まると貴族達の無言の圧力は薄まり、私はそこで初めて顔を上げることが出来た。
式自体は普通だった。国の重鎮達、ガイおじさんやその側近達の言葉。……あれ? エリスはあっち側にいなくていいの? という疑問はあえて考えないようにした。
その後、生徒会長や新入生代表挨拶。最後に学園長が話して式は終わった。
まずは来賓であるガイおじさん達が退出し、その後で保護者達が出る。
ようやく新入生も解散となり、私は再び向けられた視線から逃げるように、その会場を飛び出した。
そして私は────
「ぶえええええええんっ! エリズぅうううう!」
外で待っていたエリスに抱きついていた。
「……よしよし、全くお前は甘えん坊だな」
違うんです。周囲の視線が辛すぎたんです。
貴族怖い。なんで私と同年代の子供があんな迫力出せるんだよ。あいつら人間じゃねぇ。
「ははっ、前途多難というやつですね?」
「……ん? あ、マディアスさん!」
そこには側近の一人であるマディアスさんがいた。
「こんにちは、カガミ殿。ご入学、おめでとうございます。側近を代表して、心からの祝福を申し上げます」
「……ありがとうございます。嬉しいです」
注文していいのなら、もっと人目のない場所で言ってほしかった。
側近二人に祝福をされている私は、絶賛注目の的だった。背中に凄まじい量の視線が刺さる。
二人はそういう視線に慣れている……というか気にしないから別になんとも思わないんだろうけど、少しは私のことを考えてほしい。
「……ですが、これでエリスさんとはしばしのお別れですね。寂しいでしょう?」
「ええ、でも、私にはこれがありますから」
そう言って腰の剣を指差す。勿論、純白の剣の方をだ。
魔剣はエリスの言った通り、必要だと思った時にしか剣を抜かない。本当は収納に入れておきたかったんだけど、何故か入れることは出来なかったので、仕方なくこうして二本持ちをしている。
「その剣は……魔法剣ですか。エリスさん、今回の褒美を全て使いましたね?」
「だが、これで構いません。私はこの子に助けられました。私が陛下から頂いた報酬は、全てこの子に使うと最初から決めていました」
「そうですか……よかったですね、カガミ殿」
「はい、とても嬉しいです」
その言葉にマディアスさんは満足そうに笑った。彼は祝福の言葉を言うためだけに来たのか、この後仕事があると言って学園の方に歩いて行ってしまった。
あれ? エリスはあっち側に(以下略)
「新入生は集まってくださーい。クラス分けの表を提示しました。それぞれのクラスに行ってください」
教員がそう言い、貼り出された大きな用紙に新入生がわらわらと集まり始める。
ようやく私のクラスがわかり、新しいクラスメイトとの出会いが始まる。
……でも、出来るならまだその発表は聞きたくなかった。だってそれは、エリスとの別れの合図でもあるのだから。
「……行ってしまうのだな」
「……うん、ここまでありがとうエリス。感謝しているよ」
「感謝を言うのは私の方だ。ありがとうカガミ。……いつでも帰って来い。我が家はお前の帰る場所でもあるのだからな」
「うん、わかった。じゃあ、もう……行くね」
「ああ……」
エリスは私を抱き寄せた。そして、頭を撫でてくれる。
私も彼女を抱き返した。胸に顔を埋め、別れを惜しむ。
「お前なら大丈夫だ。決して負けるな……」
「うん。うん……!」
「よし、いい子だ。……では、カガミ。元気でな」
「エリスも、元気でね……」
こうして私達はしばしの別れとなった。
涙は必死に堪えた。こんなところで泣いていたら、エリスに大丈夫だと安心させられないから。
エリスに背を向けて私は歩き出す。出来る限り堂々と、胸を張って。
……大丈夫だ。私はエリスと約束したから。そのために私は──前に進む。
これにて少女転生編終わりです!
次回からは少女学園編となります。よろしくお願いします。
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