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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女転生編
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第25話 入学

「…………どうしてこんなことに」


 私はとある一室にて、暗い表情をしていた。


「はぁ……」


 これで何度目の溜め息だろう。

 溜め息を一つ吐く度に幸せが一つ逃げていくと聞いたことがあるけど、それは間違いだ。

 だって、もうすでにその人は幸せなんて感じていないからだ。


 どうして私がこんなにも溜め息を吐いているのか。

 それは、今の私の格好が関係している。


 私の知識が正しいのなら、これは『制服』という物だ。

 でも、ただの堅っ苦しい服ではない。シンプルなのにどこか気品のあるようなデザインで、生地も最高級の物が使われている。スカートの端にはフリルが付いていて、可愛らしさも兼ね備えられていた。昔テレビで見た真っ黒の物ではなく、これも年相応の女の子が着ていそうなカラフルな服だ。

 王族や貴族が勢揃いする『王立レヴィナント学園』の制服。それを今、私は着ていた。


 全ての元凶はガイおじさん──国王ガイウス・オードヴェルンだ。

 あの人が言ったこと。私を王都一の学園に入学させることは、残念ながら真実だった。


 しばらくはエリスの家にお泊まりするという話になり、思考を完全に停止させていた私は、いつの間にか終わっていた話し合いの後、エリスに手を引かれて彼女の家に連れてこられた。

 その間には思考力も少しは戻っていて、エリスの家の大きさに驚愕しながら、その玄関を潜った時のことだった。



 ──きっと私は、あの時の絶望を一生忘れることはないだろう。



 玄関から続く廊下に並ぶおびただしい数のダンボール。中身は全て、学園で使う教材や制服だった。予想外の手際の良さに私は、即座に意識を保つことを放棄した。

 目を覚ました時には私専用の部屋で、ふかふかのベッドに寝かされていた。

 目を擦りながら起き上がって周囲を見渡し、部屋の隅っこにダンボールが何段も積まれていた光景を目にしたのは、今でもいつかの魔族以上のトラウマとして残っている。


 それから何日か経って、私は己の置かれている状況を整理することに成功した。

 ──でも、ダメなんだ。

 問題は後一つだけ残っている。


「カガミー? 迎えの馬車が到着したぞー」


 下の階からエリスの声がした。

 そして、階段を上がってくる足音が聞こえる。

 ……私はそれを聞きたくなくて、耳を塞ぐ。


 しかし、現実は非情に話が進んでいくものだ。

 扉が開かれ、儀礼用の服を着込んだエリスが部屋に入ってきた。


「今日は入学式だろう? 遅刻しては大変だ──って何をしているのだ?」


 ──そう、今日は王立レヴィナント学園入学式当日なのだ。




           ◆◇◆




「よし、忘れ物はないか?」


「ないよ」


「ハンカチは持ったか?」


「持ったよ」


「歯は磨いたか?」


「朝にエリスが磨いてくれたよ」


「ご飯はちゃんと食べられたか?」


「これ以上食べたら吐くよ」


「緊張していないか?」


「それ私の台詞だよ」


 私はガラガラと馬車の動く音を聞き流しながら、エリスの質問にも半分以上適当に返していた。


 どうしてエリスが学園行きの馬車に同行しているのか。それは簡単。彼女が私の保護者役だからだ。

 入学式や卒業式には保護者が参列するのは当然のことらしく、むしろ保護者がいない新入生は哀れみの目を向けられるらしい。私は別に周りの視線なんてどうでもよかったんだけど、その視線からカガミを守るのも騎士の役目だー、とエリスが急に言い出したのがきっかけだ。

 だからエリスはいつもの鎧姿ではなく、儀礼用の服を着ていたのだ。


 ──馬車の窓から見える街の風景が綺麗だなぁ。と、私は遠い目で街並みを眺めていた。

 普段は気にしていない風景も、ふとそこに関心を持てば新たな発見を見つけられる。

 まだ冷たい朝の空気が窓から流れ込んできて気持ちがいい。ああ、このまま眠ってしまいたい。


「おい、聞いているのか?」


「聞いているよー」


「……では、先程私は何と言った?」


「えっと……眠いね」


「聞いていないではないか! ったく、その魔剣についてだ」


 ……なんで私が何かを考えている時に限って、そんな重要な話題が出てくるんだ。

 前の冒険者ギルドの時もそんなんだった気がする。


 エリスはいつにも増して真剣な表情になり、私の腰に収まっている漆黒の魔剣、アトラク・メレヴァを指差す。


「何度も言うが、その剣は危険だ。いつお前を呑み込もうと企んでいるかわからない。だから、なるべく使うな。本当にお前の命に危険が迫った時のみ、その剣を抜け。決してメレヴァの囁きに耳を貸してはいけない。奴は心の弱い部分を的確に突く。心が敗北すれば、すぐさま魔剣の力に取り込まれるだろう。学園生活をしている時は、私が贈った剣を使うように。わかったか?」


「わかったわかった。私も安易に魔剣を振ろうとは思っていない。……それに、エリスに貰った剣だけで私は十分満足だよ」


 魔剣を差しているのと反対側にある純白の剣。これはエリスが特別に、王都一番の腕を持つ鍛治師に依頼して作って貰った物だ。

 この剣をプレゼントされたのは昨日の夜。まさかエリスからも剣を貰えるとは思っていなかった私は、夕食の途中だというのに嬉しすぎて家の中を飛び回った。


 その剣の正式名称は魔法剣。

 魔力を流せば剣の性能は何倍にも膨れ上がり、岩さえもバターのように切り裂いてしまうのだとか。

 使い手を選ぶ剣だと教えられたけど、私はこの剣を扱える自信しかなかった。エリスが私のことを考えて依頼してくれた物なんだ。むしろ使いこなせなければ恥だ。


「この剣をエリスだと思って大切にする。寮にいる時も、これのおかげで寂しくならないと思う」


 学園にいる時は全生徒が寮生活になる。

 一人部屋だけど、周りには同じ学園の生徒達が住んでいる。ご飯は寮にある食堂を使うか、外食をするかの二択だ。勿論、私は外食一択。美味しい物を食べ歩いてやる。

 寮に門限はない。その代わり深夜に出歩く場合は自己責任ということになっている。これは寮の制度としては珍しいらしいけど、自由な学生生活を送れるのでありがたい。


 長期休みは実家に帰れるとのことらしいけど、それでも寂しいものは寂しい。

 実際、私はエリスから剣を貰う前は、葬式の時みたいな雰囲気になっていた。でも、これのおかげで何とかやっていけると思う。

 最初は寂しくて夜な夜な枕を濡らすことになるだろう。早めに環境に慣れなければ。


「寂しくなったり辛くなったりしたら、いつでも手紙を送ってくれ。いじめを受けたら隠さないで報告してくれ。私が王国騎士隊長権限で断罪してやる」


「だから怖いって」


 気持ちが先走って剣を抜きそうになるのだけは本当にやめてほしい。心臓に悪いから。


 ……でも、在学中の問題はなるべく自分の力で解決するって決めているんだ。

 エリスの力を信じていない訳じゃない。自分のことも守れない程度の弱さでは、私の過去に勝つことは出来ない。だから在学中に自分で出来ることを増やしたかった。

 それに、少しでも強くなってエリスを安心させてあげたい。……恥ずかしいから本人の前では絶対に言わないけど。


「ああ、緊張するな」


「……エリスが緊張してどうするのさ」


「だって、カガミの晴れ舞台だぞ! 緊張するに決まっているだろう!」


「いや、晴れ舞台って大袈裟な……」


 ただ座っているだけでしょ。

 晴れ舞台っていうのは入学式じゃなくて、卒業式の方が合っている。だから緊張なんてする訳ない。……全くエリスは心配性なんだから。

そろそろストックが無くなってきました。が、頑張ります……(震)

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