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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女転生編
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第24話 アトラク・メレヴァ

 落ち着くために紅茶を飲む。

 うん、美味しい。


「さて、報酬の話をしようか」


「……え、お前が進行するの?」


 ガイおじさんが嘘でしょ? という視線を向けてくるけど、もう私は精神的に疲れていた。さっさと帰りたい。だから、早くやることをやってこの場を立ち去りたかった。考えるのは後だ。


「まぁ、いいか。……え? 本当にいいのか?」


「もうこれ以上考えさせないで」


「わ、わかった……」


 有無を言わさない私の迫力に、ガイおじさんも気圧されているようだった。


 気持ちを切り替えて側近の一人に何かを話し、やがてその人は束になって纏められた書類を持ってきた。おじさんはそれをパラパラとめくり、徐々におじさんの顔はしかめっ面になり、最後に大きめな溜め息を吐き出す。そして、呆れたように私を見てきた。


「……お前、何者?」


「随分と直球だね。鏡だよ」


「名前は聞いてねぇよ……。うちのエリスがボロ負けした相手に圧勝とか、意味わからないんだが? なぁ、エリス。俺があげた鎧はどうした?」


「……申し訳ありません。忘れました」


 ガクッと座りながらコケるガイおじさん。


 鎧? 今着ている純白の鎧は違うのか。……そういえば、他の騎士も同じような鎧だった。

 エリスは騎士隊長だ。彼女だけの特別な鎧が本当はあったのだろう。それがあの時にあれば、少しは結果が変わったのかな。


「まぁ、そうだな。本来お前に頼んだ任務は欠伸が出るほど簡単なやつだった。あれを用意していないのも仕方ないか」


「はい……ですが、今回のことを踏まえて、何が起こるかわからないと知りました。常に収納袋に入れておくことにします」


「ああ、そうしておけ。あれを着ていると着ていないとじゃ、何倍も違うからな。今回は運がよかっただけだ。カガミに感謝しろ?」


「勿論です。カガミは私の命の恩人であり、友人です。絶対に守ると心に決めています」


「おー、お前がそこまで人を気にいるのは珍しいな。……まさかとは思うが、国王優先だよな?」


「……………………勿論です」


「間がなげぇ! そこまで引き延ばすなら無理して言わなくていいわ!」


 頭を抱えて叫ぶ国王に対し、そこの王国騎士隊長はただ「すいません……」と謝るだけだった。

 そこは流石に王様を優先しようよと思ったけど、それだけ私のことを大切に思ってくれていたのだとわかって嬉しくなった。でも、やっぱりそこは王様を優先してあげて。


「ったく、というかカガミほどの実力者なら助けいらないだろ。何だよこの報告書は。魔物約百体を全壊。それに加えて魔族を単独で撃退。ははっ、意味わかんねぇ……」


 側近の何人かがざわめいた。

 魔族の話は事前に聞いていたんだろう。でも、魔物百体というのは知らなかったらしい。ちなみに私も驚いた。まさかそこまで狩っていたとは思わなかったからだ。

 ……うん、思い返せばそれくらいは倒していたのかな? あの時は向こうから勝手に来てくれるだけだったから、ただ無心で剣を振っていた。道理で換金の時、冒険者ギルドの受付さんが言葉を失くすほど驚いていたわけだ。


「でも、ちょうどいい稼ぎになったよ。これで美味しいものを沢山食べるんだぁ」


 想像するだけで幸せな気分になった。

 沢山買って、沢山食べる。満足するまでいっぱい食べる。

 私が自分で働いて稼いだ私のお金だ。好きなことに使っていいんだと思うと、嬉しくて無意識に顔がにやけてしまう。


「……そうか、それはよかったな。と、話が逸れた。それで報酬の件だが、何が欲しい?」


「何が欲しいって……何でもいいの?」


「何でも、は流石に無理だな。王国が持つ金全てとか、機密事項の開示とか、こっちが不利になる報酬は許可出来ない」


 限度はあるってことか。でも、それは流石に欲しいとは思わない。金はいくらあってもいい物だけど、国家が抱えるほどの金額を持っていたら、面倒なことになりそうだ。

 国家機密は言わずもがな。そもそもそんな情報には興味がない。


「……剣」


「あ? 剣?」


「うん、剣が欲しい。今持っているよりもずっといい物が欲しい。長持ちしそうなやつ」


「わかった。……おい、遺跡で発見した()()あっただろ。持って来い」


「え、ですが……いいのですか?」


「構わない。カガミなら使いこなせるだろ」


 何やら不穏な空気が流れた。側近が部屋を出て行き、数分して戻ってきた。その時私は、室内の気温が一気に下がったような感覚に陥った。


 その腕に抱えられているのは、一振りの剣だ。


 鞘に収まっているのに、その剣から感じられる異様な力に私は、ゴクリと生唾を吞み込んだ。悪寒がする。あれは普通の人が持っていたらダメなやつだと、私の中で警鐘が鳴る。

 でも、どこか魅力的にも感じる。不思議な剣だ。


 割れ物を扱うように剣を手渡される。その瞬間、剣は生きているかのように私の手の中で鼓動した。

 驚いて剣を凝視するけど、剣は何も反応がなかった。よくよく思えば、剣が動くなんてあり得ない。だから私は気のせいだったということにした。


 ──それにしても、重い。

 スキルで強化されている私でも、片手で長時間持つのは疲れるほどの重量だ。

 これを扱いこなせるかと聞かれたら、私は難しいと答えるだろう。きっと今よりも強くならなければ、これを自由に振ることすら困難だ。


「こいつは以前、太古の遺跡から発見された物だ」


「……凄い力を感じる。とても、嫌な感じ……これは何なの?」


「こいつの名は、アトラク・メレヴァ。かつて災厄と呼ばれた魔王メレヴァの魂が封印されている──魔剣だ」


「──陛下!」


 エリスが机を叩いて立ち上がり、怒鳴る。そして、主であるガイおじさんを睨みつけた。

 本気で怒っている。焦っている。必死に考えようとして、それでも怒りの感情が先に来ている。そんな鬼気迫る表情をしていた。

 彼女をここまで追い詰めるほどの何かが、あの剣にあるということだろうか?


 魔王の魂が封印されているとか言っていたけど、問題はそれだけじゃない気がする。

 それをガイおじさんもエリスも……その表情から見て側近全員が知っているようだ。


「ガイおじさん、もう一度聞くよ。それは、どんなものなの?」


「……こいつには魔王の魂が封印されているって言っただろ? つまりそういうことだ」


「ごめん、全くわからない」


 今ので全てがわかった人がいるのなら、手を挙げて教えて欲しい。

 私は全然わからなかった。そりゃあそうだ。私はエスパーの人でも、心理を読み取るスキルを持っている訳でもないのだから。


「これは破滅の魔剣だ。使用者は一時的に魔王メレヴァの力を得られるが、使えば使うだけ心はメレヴァに侵食される。そして完全に侵食されれば最後、魔王との融合が始まり、使用者は自我を失って魔王メレヴァとなるのだ。……と言われているが、試しに剣豪に使わせたら、ものの数分で発狂してしまった。今は剣を振るとこすらままならず、彼はただの廃人となった」


「え、やばいやつじゃん」


 エリスの解説に、素でツッコミを入れてしまった。

 力を引き出せば引き出すほど魔王の魂に侵食されて、最後は私が魔王になる? しかも自我は崩壊って……確かにそれは魔剣だ。破滅の魔剣というあだ名は正しい。

 見ただけでは嫌な感じのする剣だなぁ程度だったけど、それを聞いてしまったら持っているだけでも怖い。


「ああ、だからこの剣はダメなんだ。陛下、これはどういうことなのですか? マレリアを救った褒美に、破滅させてやろうとでも言うのですか? ……返答次第では、出るとこ出ます」


 そう言いながら、すでに腰に差してある剣に手を添えているエリス。

 側近は暴走気味のエリスを止めようと動き出すけど、彼女は威圧だけで全員を黙らせた。

 ただ一人、ガイおじさんだけは表情を崩さないでいる。


「待て待て。出すな出すな、怖いから。破滅するって言っても、あれはあの剣豪(馬鹿)が調子に乗って第二段階まで使ったからだろ? 第一段階までなら、ただ力を貸してくれるだけだから安全だ。それはお前も体験したからわかっている筈だろう?」


「それは……そうですが……ですが、まだカガミは力の使い方を知らない一般人です。それに、まだ知識も浅い。その状態でこの剣を扱うのは危険です。もし、力に溺れてあの者のようになれば──」


「だったら、お前が監視しろ。それくらいの覚悟は出来ているんだろう?」


「ぐっ……それは、勿論です。カガミを守ると言ったのは、私なのですから。ですが、私の目に届かない時もあるでしょう」


「それもそうだな。その時に力に溺れたら、カガミは間違いなく魔王の囁きに負けてしまうだろう。……だったら、まだ侵食がない今のうちに、力の使い方を覚えればいい」


「何をお考えですか?」


「ほら、うちにはそういう知識を深めるのに最適な場所があるだろう?」


「──まさか」


「そう、そのまさかだ。カガミを、王立レヴィナント学園に入学させる」


「──ブフォ!」


 優雅に飲んでいた紅茶を吹き出した。

 何か難しいことを言い合っているなぁ……と他人事で聞いていたら、とんでもないことを言われた。


 ガイおじさんは親指を立て、いい笑顔を向けてくる。


「ってことで、俺の名で入学申請しておいた。知識を学ぶついでに、お前は常識を学んでこい。来月から頑張れよ!」


「はぁああああああああ!?」


 私の絶叫が、部屋中に響き渡った。

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