第21話 王様の武器
城内には意外と簡単に入ることが出来た。
厳しそうな門番が居たけど、エリスの顔が知れているからなのか、何回か話すだけですぐに通してもらえた。
城の前に辿り着くとそこには案内役の人と何人かのメイドさん達がお出迎えしてくれた。
誰もが美人さんで、興奮した私はしばらくの間惚けてしまった。
エリスが何回か名前を呼んでくれたおかげで、何とか現実の戻ってくることが出来たけれど、それでも大勢のメイドさんが並んで、私達をお出迎えしてくれている光景は圧巻だった。多分、何度見ても慣れないと思う。
流石は王都の中心部。住む世界が違うと実感してしまうほどの規模を見せつけられた気分で、私はエリスにしがみついたまま萎縮してしまった。
ただの移動だけでも、前にいたマレリアの街を端から端まで堪能出来てしまうのではないかと思うほど広く、一人で探索をしようものなら絶対に迷ってしまうだろう。
こうして案内されている間に、何回か人とすれ違った。
誰もがこの城で働いている使用人さんだ。
こんな田舎者丸出しの私を見ても、立ち止まって丁寧にお辞儀をしてくれる。
その度に緊張してエリスに抱きつき、何度もエリスのことを絞め殺しそうになってしまったけど、こればかりは仕方ないと許して欲しい。
現実世界で例えるなら、一度も自宅から出たことのない人が、大繁盛のデパートに行ったようなものだ。
そんなところに一人で居られるか? いや、居られる訳がない。
……そこで唯一信頼できる友達が居たとする。
その人に私はどうするか? しがみつくに決まっているでしょう。
だから、これは仕方ないことなんだ。
後からエリスから聞いた話によると、その光景を案内役の人は微笑ましく見ていたらしく、本当に恥ずかしかったらしい。別に抱きつかれて絞め殺されそうになったことは怒っていなかったのだとか。
──何だ、ただの恥ずかしがり屋さんか。
そう言ったら脳天にチョップを喰らった。本気で痛かった。
そんな事件がありながら、私達は客室へと案内された。
使用人は「陛下の準備が整うまで、ここでお待ちください」と言って出て行ってしまった。
残されたのは私とエリスのみだ。扉の前には何かあった時のために護衛が二人待機しているらしいけど、馬鹿みたいに広い空間に二人だけというのは緊張する。
「そろそろ落ち着け、謁見の前に疲れてしまうぞ?」
「だ、だって、こんな豪華で広い場所は初めてなんだもん。……むしろ、どうしてエリスはそんなに平然としていられるの? 実は田舎者というのは話を合わせるための嘘で、ちゃんとしたお嬢様とかなの?」
「どうしてそうなる……ただ単に慣れだ。私も働き始めた時は緊張し、何度も道に迷った。……懐かしいな」
紅茶を飲みながら、どこか遠い目をして窓の奥に広がる景色を眺めるエリス。窓から差す日の光がいい感じに彼女に当たり、妙に映える光景になっていた。
「そんなおばさんみたいな雰囲気で昔を思い出さないでよ」
「……失礼な。私はまだ21だ。言うならお姉さんだろう」
「自分でそれを言うの?」
「…………うるさい……」
「ああ、拗ねないでエリス! エリスはカッコいいよ! 頼れるお姉さんっていつも思っているよ! 大大大好きだよぉ!」
「──こ、こらっ、いきなり抱き着くな! わかった、わかったから離れろ! ……ったく、お前は本当に危険な奴だな」
「危険じゃないよ。こんなにか弱い女の子が危険な訳ないじゃん」
「か弱い女の子は、単独で魔族を撃退しない」
「……ごもっともな意見です」
私はエリスから離れ、待っている時間暇なので客室の中を探索する。どんなに居ても飽きない程、この部屋には色々な物が置かれていた。
ここは王様に用があって来た人のほとんどが通される場所らしくて、少し過剰に豪華に見せているんだとエリスは言った。そうしてこの国はこんなに繁栄しているのだと主張するのだとか。
……要は見栄っ張りだ。
でも、これをしなきゃ他国の人に下に思われてしまうだろうから、仕方のないことなんだろうな。
私達冒険者は力で勝負するのに対して、王族は策や権力で勝負する。
言ってしまえば、この客室は王様の武器の一つだ。
だから、装飾品の位置や部屋の雰囲気。全てにおいてこだわりを見せているんだろう。
「へぇ……凄いんだね……」
こんな政治で戦う世界は、私には似合わない。そう思った私は、他人事のように装飾品の物色を始める。
「あ、ちなみに今カガミが持っているその壺。それ一つで豪邸を建てられるそうだぞ」
…………私は黙って壺を元の場所に戻した。
うっかり壊してしまったら、何年掛かっても弁償できる気がしない。
もう何もかもが高級品に見えてきた。
触るのも指紋を残すのも怖くなって、エリスの隣におとなしく座った。
そして、程よく緊張も解けてきた頃、誰かが扉をノックして入って来た。
エリスはその人物を見て、綺麗な姿勢で敬礼をする。
さっき案内してくれた使用人さんと同じ…………ではなさそうだ。もっと偉い人のような雰囲気がビシバシと肌に伝わってきた。
ちょび髭が特徴的な男性だ。
「……いやはや、随分とお待たせしてしまったようで申し訳ない」
「いえ、どうかお気になさらず。陛下は忙しい身であるのは重々周知です。私共が文句を言える立場ではありません」
「そうですか。そう言ってもらえると助かります。……それで、その子が例の?」
「はい、この者が件の魔族を撃退した者です。……ほら、挨拶しろ」
「は、はいっ。えっと、初めまして、カガミです……」
「初めまして、カガミ殿。こうして出会えたことを嬉しく思いますよ。私はマディアス。マディアス・オードウェンです」
「…………マディアス殿は陛下の側近の一人だ。間違っても失礼なことはしないようにな」
小声でエリスが教えてくれた。
……王様の側近。ってことは秘書みたいなものだ。
いきなり凄い人が出てきて驚いた。どうして案内役の人じゃなくてマディアスさんが来たのかな?
「どうして、私が来たのか。そう言いたそうな顔をしていますね?」
「うぐっ……」
速攻で図星を突かれた。
予想をしていなかった事態に、私は言葉が詰まる。
「……マディアス殿、あまりカガミをいじめないでくれませんか?」
「おっと、すいません」
「い、いえ……気にしないで、ください」
本当はめちゃくちゃ焦ったけどね!
なんだこの人。ちょっと顔を見ただけで人の考えていることがわかるとか、やばい人だ。……王様の側近って皆こうなの? だとしたら、王様ってどんな人なんだろう。きっと誰よりも気高い威厳を持っていて、見る人全員を魅了するような凄い人なんだろうな。
と、私の中で王様のハードルがぐんぐんと上がっていく。
「それで、私自らここに来た理由でしたね? ……実は、私の管理下にある領地にマレリアも含まれているのです。あそこは他国との貿易が最も盛んで、もし魔族によって堕とされていたら、この国にも私にも大打撃を与えられていたところでした。なので、マレリアを救ってくれた小さな英雄に感謝をしたい気持ちが抑えられず、陛下に案内役を申し出たのですよ。…………カガミ殿、本当にありがとうございます」
「え、えぇ……!?」
マディアスさんが深々と頭を下げた。
これこそ予想していなかったことだ。何が起こったか理解できなかった私とエリスは、一拍遅れて慌ただしくなる。
「え、えっと……頭を上げてください!」
「そうです! 私達以外誰も見ていないからって、マディアス殿がそこまですることは……!」
「です! そんなことをされたらこっちが困ります! お願いします。頭を上げてくださいぃ!」
「──ふっ、そこまで言われるとは。本当に面白い子ですね。…………陛下が言っていた通りだ」
最後の方は何を言っていたのか聞き取れなかったけど、笑っていることから私達の対応に機嫌を損ねた訳ではないようだ。
……はぁ、生きた心地がしなかった。それはエリスも同じだったんだろう。というか私より焦っていただろうな。その証拠に彼女の額には汗がびっしょりと付いていた。
「では、陛下の元まで案内しましょう。ついて来てください」
エリスと顔を見合わせ、マディアスさんの後ろを付いていく。勿論、私はエリスの腕に掴まって歩く。さっきのことで解けかかっていた緊張が、再び襲ってきた。
──もうやだ。帰りたい。
そんな気持ちを抑えて、私は広い廊下をゆっくりと歩く。
いよいよ王様との対面だ。
今までの話を纏めると、王様は凄い人で、配下や民からの信頼も厚い。
そして私の想像する王様像から、きっと威厳のある顔つきをしている人なんだろうな。
はぁ……考えれば考えるほど緊張してきた。




