第20話 プレゼントと欲しいもの
試作品の感想を言ったら、ロウリーさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
どうやらもう少し改良を重ねて、もっといい味を出せるように計画しているらしい。
これでも十分美味しいのに、もっと上を目指すんだと私は驚いた。
……やっぱり、この世界の人は色んなことにストイックなんだなぁ、と確信した瞬間だった。
その後は三人で色々と話した。
ロウリーさんが元冒険者だったこと。喫茶店を開いた経緯。それであのジュースを思いついたこと。
ガイおじさんの酒が進んでウザ絡みしてくるようになって、ロウリーさんにチョップを喰らわされていたこと。毎日忙しい仕事の愚痴。最近娘がもう少しで始まる学校の用意で忙しく、自分に構ってくれないというどうでもいいこと。他にも話題は沢山あった。
どれも面白い話で、私は二人と話している間は何度も笑った。
それに釣られて二人も笑う。店には私達以外誰もいなくて寂しいけど、それでも十分楽しい時間を過ごせた。
「と、ヤベェ。そろそろ時間だ」
ふと店に飾られている時計を見たガイおじさんは、慌てたように立ち上がった。
そして、私も同じように慌てた。
エリスとの約束の時間まで、後五分しかなかった。話が弾みすぎて、時間のことを完全に忘れていた。
「おや、二人して大変ですね……」
「今日は会わなきゃならない奴らがいるんだよ。……あーあ、めんどくせ」
「そう言わないでちゃんとしてください。そんな姿を見られては、ガッカリさせてしまうかもしれませんよ?」
「いやぁ、もう手遅れだろ。……ったく、料金は、これで足りるな?」
「また来ます……」
「ええ、お待ちしています。カガミさんになら特別に割引してあげますよ」
横でズルいぞと抗議されていたけど、ロウリーさんは機嫌がよさそうにグラスの水滴を拭いている。
完全に何処吹く風だ。
もう何を言っても無駄だと悟ったのか、ガイおじさんはガルルと獣のように唸り、その後に深い溜め息を吐いた。
「……これはこいつを気に入ったって顔だな。よかったなカガミ」
「え? ええと、嬉しいです……」
「だが、気をつけた方がいいぞ? こういう輩は、最初は優しくして完全に信用したところに喰らいつくからな」
「……それ、あなたが言いますか? あなただって気に入っているくせに」
「うっせ、俺はいいんだよ俺は。……っと、そうだ。カガミは道に迷っていたんだってな。待ち合わせしているって場所は何処だ? 俺がそこまで連れて行ってやるよ。どうせ、同じ目的地だろうからな」
「いいの? えっと……王城の門前だったかな?」
「ああ、やっぱり同じところだ。俺の勘って本当に当たるな。さすが俺」
「馬鹿なこと言ってないで、早く連れて行ってあげてください。遅れたら大変でしょう?」
「……そうだな。よし、さっさと行くか」
「お気をつけて。カガミさん、また会えることを楽しみにしていますよ」
「はいっ、ロウリーさん。ありがとうございました!」
「行ってらっしゃい。大変なこともあるでしょうが、頑張ってくださいね」
こうして私達はロウリーさんに見送られながら、彼のお店を後にした。
ガイおじさんはちゃんと道を覚えていて、迷路のような路地裏を迷いなく歩いた。
私はその後ろをついて行く。
「……なぁ」
「ん? どうしたの?」
「いや、お前は突然プレゼントをやるって言われたら、何が欲しいと思う?」
「えっ……?」
予想していない急な質問に、私は固まってしまう。
ガイおじさんはそれを見て苦笑する。
「言ったろ? 俺にもお前くらいの娘がいるってな。そいつがもうすぐこの国で一番有名な学校に通うんだ。その入学祝いに何かを渡してやりたいんだよ。……あそこは寮生活だからな。出来れば長持ちする物が嬉しいのか? 同年代のお前の意見が欲しいんだ」
「……うーん、どうだろう? 私だったら、今欲しいものは剣って言うかな」
「剣か? 今持っている奴じゃダメなのか?」
「うん……実はこれ拾い物なんだ。結構錆び付いちゃっているし、お金も沢山あるからもっといい剣が欲しいなって思っているんだ。でも、ガイおじさんの娘さんに贈る物でしょ? 流石に剣は欲しがらないよね……」
「……ああ、そうだな。あの子はどっちかって言うと、魔法の方が得意だな。剣は……あまり使っているところを見ない」
「だったら、なんでもいいんじゃないかな? おじさんがそれだけ悩んで贈った物なら、その娘さんも嬉しいと思うはずだよ。それでも悩むんだったら、無難に髪飾りとかのアクセサリーものじゃない?」
「そうか…………ううむ、アクセサリーか。あいつに似合うのはどれなんだろうな。……いきなりすまんな。意見感謝する」
「いい意見が言えたかはわからないけど、少しでも力になったなら嬉しいよ」
まさか突然そんなことを言われるとは思っていなかったけど、やっぱりこの人は娘想いなんだなと安心した。
やっぱり、いいなぁと思ってしまう。
「そろそろ着くぞ。王城の前だ」
そんなことを思っている内に、どうやら目的地が近くなってきたらしい。
細い道を曲がると、途端に人々の声が聞こえてきた。裏路地を抜ける。そこには見たことがないほど沢山の人がいた。圧巻の光景に、私はその場で立ち尽くしてしまった。
「ははっ、凄いだろう?」
「……うん、こんな人の数、初めて見た」
「ここは王城が一番近くで見える場所だからな。……まぁ、王城に入る通路はここくらいにしかないから当然か。王城に用がある奴や、ただの観光で王城を一目見ようとする奴が毎日沢山来るんだ」
「へぇ、そんなに人気がある場所なんだ。今の王様は凄い人なんだね!」
「おう、その通り凄い人だ。尊敬してもいいぜ?」
「ぷっ、あははっ、なんでガイおじさんが誇らしそうに言うのさ。でも、そんな人と会うのが楽しみだよ」
「ああ、俺も楽しみだ」
「──え、今なんて……?」
「じゃあな。連れとはぐれんなよ」
手を振ってガイおじさんはその場から離れた。
すいすいと人の間を通り抜けて、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
不思議な人だったなぁ。でも、いい人だった。ロウリーさんの店に行けば、また会えるかな?
「おーい、カガミー!」
「あ、エリスだ。こっちだよー!」
手を挙げてピョンピョンしていると、人混みを掻き分けてエリスが現れた。
相変わらず純白の鎧は目立つな。騎士ってのもあるのか、行き交う人からの注目も凄かった。しかも彼女はカッコいいから同じ女性の人からの羨望の眼差しが厚い。
「……っと、すまん。怪我はなかったか? そうか、よかった。ではな」
おー、やってるやってる。
そういえば、エリスと最初に出会った時もこんな感じだったなぁと少し前のことを思い出す。
お魚の店を出た時にぶつかって、あれに近い言葉を言われた。私は綺麗な人だったなぁとしか思わなかったけど、人によっては惚れてもおかしくない出会いだ。
……ほら、実際にぶつかってしまった女性がキラキラした目をしている。
「ふぅ……相変わらずここは人が凄いな。……全く、中々カガミの姿が見つからないから心配になったぞ。どこに行っていたんだ?」
「あ、えっと……面白い喫茶店に行ってたよ。場所は覚えたから、後でエリスも一緒に行こ?」
「……喫茶店か。あのオシャレな雰囲気が似合わず、私はあまり行くことがなかったな。だが、カガミと一緒ならば楽しそうだ。後で絶対に行こう」
「約束ね!」
「ああ、約束だ」
指切りげんまんをして、喫茶店に行く約束をする。
楽しみが一つ増えた。今すぐ行きたいけど、流石に我慢だ。
「……よし、そろそろ行こうか」
「うんっ!」




