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七話『見てはいけないものってあるのよ』

 あたしは、それが何なのか知っていたから袋の中身は見なかった。


(錬金術師ねぇ……)


 冬虫夏草、そう言う系統の薬草が袋の中には詰まってるそうな。ちなみに、この世界の錬金術師は薬師と科学者を足して二で割ったような職業らしく、お届け先の店を構える主人はどちらかというと薬師よりとか。


(マッドな人じゃないと良いわね)


 光神の教えがまんべんなく行き渡ってるこの国では、良かれと思って勧めたと言う大義名分で新薬の実験台とかにされそうな気がしてならない。


「はぁ、こんな所で気を揉んでても仕方ないわ」


 仕事である以上荷物は届ける必要がある。あたしは、深く考えるのをやめにして前方へと目をやった。


「あれね」


 かろうじて見えた看板に「アッバス薬剤店」の文字。目立つ場所に看板が出てるのは、客商売なのだからだろうが、お使いを頼まれた身にはありがたい。


(さっさと済ませてしまいましょ)


 こんな所で躓く訳にはいかないのだ。これを切欠に、ギルドで依頼を受ける生活に慣れ、資金を貯めてこの国を出る。


(正体がばれて火あぶりとかまっぴら御免よ)


 暗黒神を崇める国へ行くかはともかく、この国に居続けるのは危険すぎる。ので、あたしの第一目標は生活基盤の確保だが、お金が貯まったら他国へ引っ越すつもりだ。


(出来ればアレク達に恩返ししてからが良いけれど)


 恩返しと言っても何が出来るだろうか。考えてみても、食事を奢るとか何かプレゼントするみたいなものしか出てこない。直接あたしの資質を使って恩返しと言う訳にはいろんな意味でいかないのだから。


(って……あぁ、また考え事してる)


 まずは仕事を済ませると決めておいてこれなのだから我ながら度し難い。


「仕事、仕事」


 あたしは自分に言い聞かせるように呟くと、半分くらいにまで減ったお届け先までの距離を更に縮める為、足を速めた。


「ふぅ」


 こういう時、誰かにぶつかって新たな出会いがなんてお約束も発動せず、ついたお店の外観は思ったよりも綺麗で。


(そう言えば、店主ってどんな人なのかしら?)


 依頼書には名前しか載って居らず、店の名と同じアッバスであるところからするとたぶん男性なのだろうが、科学者ポジションと言うだけで変人なのではと思ってしまうのはあたしの偏見だろうか。


「外観にこれだけ気を配ってるのだから、きっとまともな人よね」


 ともあれ、あたしは自分を納得させるかのように独り言を口にすると、店のドアに手をかけて。


「御免下さーい。ギルドで配達の依頼を受」


 呼びかけながらくぐった戸口の先、全身古傷だらけのマッチョがポージングしている姿を目撃し、そのまま踵を返すとドアを閉めた。


(……きっと防犯用の幻覚発生装置に引っかかったのよね)


 そうに違いない。カウンターの向こうにいたのは、錬金術師と言うより歴戦の傭兵とかそう言う言葉の方が似合いそうな大男だったのだ。


(そう、きっとそうよ。用件を言い終えず勝手にドアを開けたのがいけなかったのよ)


 あたしは、深呼吸して気を取り直すと。


「御免下さーい。ギルドで配達の依頼を受けた者ですがー」


 ドアを開けずに外から呼びかけた。


(これなら、大丈夫なはず)


 力強く頷いて、ドアノブに手を伸ばし。


「えっ」


 ノブを掴もうとした手が何も掴めずに止まる。


「うむッ、待っておったッ!」


 気づけば、開いていたドアと、その向こうに立つマッチョ。あのままだと戸口の上部分に頭をぶつけそうだとか割とどうでも良いことを考えてしまったのは、あたしが微妙に現実逃避していたからだと思う。


「我が名はアッバス。配達人よ、歓迎しようッ」


 そして、実際歓迎のつもりなのか、見せつけるようにポージング。せくはらとかわいせつぶつちんれつざいはこのせかいにそんざいしますか?


「ふふふ……うふふふ」


「む?」


 あまりにもあれな店主にあたしの意識は、何だか行ってはいけない場所に飛びかけたが、これがあたしとアッバスさんの出会いだった。


「ふむ、戸口で話すのも何であろう。まずは入るがいいッ」


「あー、はい」


 素直に従ってついていったのも、正気でなかったからじゃないだろうか。


「なるほど、確かに注文の品であるな」


 テーブルの上に並んだ『薬草』の姿を認識出来なかったことは、不幸中の幸いというか怪我の功名だと思う。


「依頼書を頂こうッ」


 鷹揚に頷いたアッバスさんにあたしは依頼書を差し出し、アッバスさんが何故かポージングしながら履行のサインを書き込む。


「ご苦労様であったッ。ここで知り合ったのも何かの縁、薬が必要なら尋ねてくるが良いッ、サービス価格で提供しようッ」


「……はい、ありがとうございます?」


 わるいひとではないのだとおもう。だが、さいしょのいらいにんはとんでもないひとでした。


(あたし、この都市でやっていけるのかしら?)


 一軒目で、これだ。10kmは先まで見通せそうなぐらい遠い目で、あたしは流れて行く白い雲を見た。あたしの異世界生活はまだまだ始まって間もない。


「ギルドに戻ろ」


 かすれた声にため息を続け、歩き出すあたしの足取りは、精神的疲労からか、力なかった。


ちなみにアッバスさんのキャラは6イメージぐらい考えてました。

彼はマッドではないので、マシな方だったりします。


次点は、あの格好でおねぇ系だったり。


それはさておき、続きます。

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