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BLADEFALL ― 刃が落ちる、その前に ―  作者: 逆凪


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10/13

第10話『すれ違い』

毎週月、金曜日の20時投稿予定です。

「また見たって話があるぞ」


その一言に、デュオは足を止めた。声をかけてきた兵士へ向き直ると、相手は大した事件でもなさそうな顔をしている。


「何を?」


「竜人。たぶん、この前のと同じ奴じゃないかって」


「被害は?」


「ない。遠くから姿を見たってだけだ。しばらくその辺にいたらしいけど、気づいた時にはいなくなってたってさ」


崖道の一件からこっち、竜人については随分追いかけた。それでも、危険ではないとも、ただ人間を襲うだけの魔物だとも決めきれないままだ。


「どの辺?」


場所を聞いたデュオは、眉を寄せた。町の外れ、林が続く辺り。その頃なら、アルトも近くにいたはずだ。


「……またか」


「何が?」


「いや、こっちの話」


兵士へ礼を言い、デュオはその場を離れた。


そもそも、自分が様子を見ることになったのは竜人ではなくアルトの方だ。途中から気になるものが増えて、随分と横へ逸れてしまった。なら、まず本人へ聞けばいい。


町外れへ向かうと、アルトはそれほど探さずに見つかった。林から町へ戻る道を一人で歩いている。


「おーい、アルト」


声をかけると、アルトがこちらを向いた。その視線が一度だけデュオの顔を通り越し、離れた木立へ流れる。


「何かいるのか?」


デュオも振り返ってみたが、道の端に草が伸び、その向こうに木々が並んでいるだけだった。人影らしいものも見えない。


「いや」


アルトはそれだけ言って、デュオへ視線を戻す。


「まあいいや。ちょうど聞きたいことあったんだよ」


「うん」


「お前、さっきまでこの辺にいたよな?」


「いたよ」


「竜人、見なかったか?」


「いたよ」


デュオは一拍遅れて瞬いた。


「……いた?」


「うん」


「いや、ちょっと待て。いたって、あの竜人が?」


アルトが頷く。あまりに普通の返事だったので、聞いた方が間違えたような気分になる。


「どこに?」


アルトは顔を動かし、さっき見ていた木立へ視線を向けた。


「あっち」


デュオも同じ方を見るが、やはり何もいない。


「いつ?」


「さっき」


「さっきって、どれくらい?」


アルトは少し間を置いた。


「デュオが来た時」


「……俺が来た時?」


「うん」


デュオはもう一度振り返った。さっき通ってきた道が伸び、木々の間にも目を凝らしてみたが、やはり何も見えない。


「お前、だからさっきそっち見てたのか?」


「いたから」


「いたから、じゃねぇよ」


思わず額へ手を当てる。紙を何枚も並べ、人に何度も話を聞いていた相手が、ついさっきまで自分の近くにいたらしい。


「なんで先に言わねぇんだよ」


「何もしてなかったから」


「何も?」


「うん」


デュオは木立からアルトへ視線を戻した。


「じゃあ、何してた?」


「見てた」


「何を?」


アルトが一度、自分の方を指す。


「こっち」


「……お前を?」


「たぶん」


「たぶんって」


「聞いてないから」


デュオは小さく息を吐いた。


「どれくらい見てた?」


「分からない。気づいた時にはいた」


「近づいてきたとか、なんかされたとかは?」


「何も」


「で、今は?」


「帰った」


「帰った?」


「飛んでった」


竜人相手にずいぶん気軽な言い方をする。


アルトにとっては本当にそれだけなのだろう。いた。見ていた。何もしてこなかった。そして飛んでいった。そこから先の意味を聞いても、やはり何も出てこない。


デュオは腕を組んだ。何を調べても、見えてくるのは誰かが見た一部分ばかりだった。そして今度は、竜人を見たという場所にアルトがいる。


偶然かもしれないし、竜人がアルトを狙っているとも言えない。ただ、こいつの近くにいれば、また姿を見る機会くらいはありそうだった。


「……まあ、いいか」


「何?」


「竜人だけ追いかけんのは、ひとまずやめる」


アルトがデュオを見る。


「やめるの?」


「別に放っとくって意味じゃねぇよ。追っかけても、今んとこ分からんしな」


デュオは頭を掻いた。


「しばらく、お前に付き合うわ。その辺に竜人も出るなら、その方が早そうだ」


「そう?」


「たぶんな」


アルトは特に困った様子もなく、「うん」とだけ返した。


多少は嫌がってもよさそうなものだが、これまで一緒に歩いても、アルトはデュオがいること自体を大して気にしていなかった。ついていき、手を出し、話を聞く。それがいつの間にか普通になりつつある。


「じゃ、今日は戻るわ。またな」


「うん」


デュオは来た道へ向き直った。


数歩進んだところで何となく振り返ると、アルトはまだそこにいた。ただしこちらではなく、先ほどまで竜人がいたという木立を見ている。


「……何見てんの?」


アルトはゆっくりデュオへ顔を戻した。


「もういないよ」


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