エピソード3:王国の影と深緑の誓い(後編)
王国の華やかな表通りの真下、歴史から忘れ去られた巨大な地下水路。五人の冒険者たちが、ついに魔薬組織の心臓部へと迫ります。
エピソード3:王国の影と深緑の誓い(後編)
1. 忘却の遺構へ
学聖街のカフェでの作戦会議を終え、一行は王立騎士団を訪れていた。大学院の女性学者が魔薬の製造に必要な環境を挙げ、一神教の司祭が大聖堂に保管されている古い記録を紐解き、条件に合う場所を検討した結界、旧市街の地下にある古代魔導文明の遺構の地下水路が、魔薬の製造場所であると結論を出した。王立騎士団の管轄となっている為、入るための許可と内部の情報を得るために来たのであった。
王立騎士団には子供が誤って、旧市街の地下にある古代魔導文明の遺構に迷い込んでしまった可能性がある為、捜索の許可が欲しい事を告げると
「古代魔導文明の遺構……清浄な水が無限に湧き出る、地図にない地下空間がある。かなり広いから気を付けて行け」
情報を提供してくれたのはたのは、担当している気の良さそうな王立騎士団の騎士の一人だった。
一行は街中で準備を整え、旧市街の隅にある重厚な鉄扉の前に来ていた。担当している気の良さそうな王立騎士団の騎士から借り受けた鍵を使い、扉を開けた。
五人は隊列を組み、暗闇の奥底へと足を踏み入れる。 先頭に職人組合の伝令員、次に火山島の戦士、砂漠半島の巫女、大学院の女性学者、そして、しんがりに一神教の司祭。
砂漠半島の巫女の占星術[灯火]と大学院の女性学者の錬金術[発光]が、湿った石壁を照らし出す。職人組合の伝令員が微かな足跡と巧妙な罠を見逃さず、一行を迷いなく導いていく。
2. 屍の番犬
「……止まってください。嫌な気配がします」
一神教の司祭が降霊術[霊感]で周囲を探る。暗がりの天井に、三体の屍人人形――昆虫の殻を繋ぎ合わせた異形の[ガーゴイル]が張り付いていた。
「上だ、やるぞ。魔法は温存だ!」
火山島の戦士の号令で、五人は瞬時に配置に就く。
前衛に火山島の戦士。中衛に職人組合の伝令員と一神教の司祭。後衛に砂漠半島の巫女と大学院の女性学者。
職人組合の伝令員が刺刀と小盾を構えて一体を、一神教の司祭が長杖で二体目を引き付ける。その隙に、火山島の戦士が三体目へと突撃した。
流れるような袈裟切りの連撃が殻を砕き、一体を瞬殺。間髪入れず職人組合の伝令員が抑える個体の背後から鋭い刺突を見舞い、止めをに任せて一神教の司祭の元へ。挟撃により、最後の一体も物言わぬ残骸へと戻した。
「死霊術師……やはり、この奥に黒幕がいる」
3. 魔薬の巣窟
さらに進むと、職人組合の伝令員が静かに手を挙げた。彼は単独で闇に消え、数分後、険しい表情で戻ってきた。
「見つけた。大規模な魔薬の製造場だ。……見張りも、それから『妙な人影』もある」
一行は音を立て無い様に静かに近づいていった。暗闇の先から複数人の人間が慌ただしく動いている物音が聞こえて来る。足を止め、耳を澄ませていると、男の声で
「急げ。奴らが近づいて来る前に器材をまとめて、撤収するぞ」
と声を張り上げ指示している声が聞こえた。一行は通路を少し戻り、どうするか、話し合った。話し合いの結界、強行制圧を決意し、一気に現場へなだれ込んだ。
「主の名において――[閃光]!」
一神教の司祭の降霊術が炸裂し、組織の末端たちの視界を奪う。
「眠りなさい――[眠りの霧]!」
大学院の女性学者の錬金術が広間を満たし、抵抗する間もなく密売人たちが眠りに落ちていく。
砂漠半島の巫女が占星術の[光明]を放ち、広間を白日の下に晒した。
そこに立っていたのは二つの影だった。巨大な屍人人形の、陶器に獣毛や植物の繊維を練り込んで造られた[ゴーレム]。そしてもう一つが――情報を提供してくれた、あの人の良さそうな王立騎士団の騎士だった。
「……貴様が、首謀者だったのか。何故こんな事をしている」
「クク、騎士の給金では死霊術の研究費が足りなくてな。この魔薬で稼いだ資金は、偉大なる死霊術の礎となるのだ!」
4. 決戦、そして断罪
騎士――死霊術師が吠え、[ゴーレム]が動き出す。
「無駄です! [結界]!」
一神教の司祭の降霊術が[ゴーレム]の動きを縛り、そこへ大学院の女性学者の錬金術の[魔力飛翔体]が突き刺さる。「ゴーレム」の右腕が半壊した瞬間、火山島の戦士が地を蹴った。
居合:真向切り
一閃。天から地へ振り下ろされた白刃が、ゴーレムを文字通り真っ二つに叩き斬った。
「おのれ……ならば道連れだ!」
死霊術師が火を放ち、混乱に乗じて逃亡を図る。
「逃がさないわ。[水幕]!」
砂漠半島の巫女が即座に炎を消し止め、職人組合の伝令員が退路を断つ。
追い詰められた死霊術師が、ヤケクソ気味に剣を振り回して突っ込んできた。
火山島の戦士は静かに腰を落とし、呼吸を整える。
居合:水平胴切り
抜刀と共に放たれた横一文字の斬撃。胴を切り裂き衝撃で気絶させた。
「チェックメイトだ。……王国の法で裁いてもらう」
5. 新たな伝説の始まり
数日後。事件は解決し、王国の広場にある冒険者の酒場は祝杯をあげる人々で活気に満ちていた。窓から差し込む陽光が、明るい店内を照らしている。
「なあ、これを受け取ってくれ」
職人組合の伝令員が、布に包まれた一振りの刀を差し出した。
「……! これは、叔父の……」
「ギルドの情報網を甘く見るなよ。魔薬の流通ルートを洗っていたら、思わぬところで見つかってな」
感無量の面持ちで刀を握りしめる火山島の戦士に、仲間たちが問いかける。
「これで目的は果たしたわね。……すぐに、火山島へ帰ってしまうの?」
は、窓の外に広がる王国の街並みを見つめた。
「……いや。この刀は、信頼できる者に託して島へ送ります。私はこの地でやりたい事が出来ました」
彼はゆっくりと仲間たちを見渡し、力強く宣言した。
「私は、ここで冒険者を目指します。……皆はこれからどうする」
一瞬の静寂の後、四人が顔を見合わせて笑った。
「私はもちろん残るわ。前に言ったけど、もう少し世界を見てみたい。これからもよろしくね」
砂漠半島の巫女は笑顔で答えた。(貴方の隣でね)
「俺も加わってもいいぜ」
「自分もつきあわせてください」
職人組合の伝令員と一神教の司祭も賛同した。
「私も手伝ってもいいわ。ただし、条件があるわ。あなたがパーティーのリーダーになること」
大学院の女性学者の言葉に、砂漠半島の巫女、職人組合の伝令員、一神教の司祭が深く頷く。
「異邦の戦士をリーダーに据えるパーティーか。……悪くない」
こうして、火山島の戦士を筆頭とする、王国史上類を見ない風変わりな冒険者が誕生した。彼らの名は、やがて、本島全土に轟くことになる。
エピソード3:了
以下
設定資料
武器
刀剣
直刀[レイピア]細身の刀身で反りの無い両刃で片手持ち。西方五国の一般的な刀剣。主に刺突に使う。王国式([スタンダード]直立姿勢)、侯国式([クラウチング]前傾姿勢)、公国式([アップライト]後重心姿勢)の三つのスタイルがある。
曲刀[シャムシール]細身の刀身で大きな反りを持ち、両刃、片手持ち。東部の砂漠半島の刀剣。刺突には使わず斬撃に使う。剣の舞「アルダ](剣を使った舞踏)を使う暗殺者[アサシン]が存在する。
湾刀[カタナ]直刀と曲刀の中間。細身の刀身で反りが有るが、浅い。片刃で両手、片手の兼用。特徴として、斬撃を主体に刺突にも使う事が出来、素早く抜刀し、そのまま切り付ける術(居合[イアイ])がある。火山島の戦士階級が帯刀する刀剣。
刀剣、槍、斧、弓矢、弩を携帯所持は許可証が必要。
短刀
刺刀[ダガー]西方五国で使われている、戦闘用の両刃の直刀の短刀。
懐刀[ジャンビーヤ]東部の砂漠半島で使われている、両刃で曲刀の短刀。
腰刀[アイクチ]火山島の短刀。片刃の直刀。火山島の戦士階級の者は左腰に湾刀と腰刀の二本を差す。
棒
棍棒[クラブ]一般的な木製の棒。長さは刀剣サイズ。
長杖[スタッフ]木製の長い杖。両手で使う。
短杖[ワンド]木製の短い杖。片手で使う。
飛び道具
投石紐[スリングショット]投石の際に使用する革製の紐。
魔法の補助具
占星術の触媒(行灯、水筒、横笛、植物の種子)、錬金術の発動体、降霊術の聖印など。無くても術は使えるが使用すると術の効果が劇的に上がる。
登場人物
冒険者の一党
火山島の戦士[サムライ]。初登場時(第三章)
出身:火山島
性別:男性
生まれ:自由騎士
能力:膂力B、体力B、身体操作B、感覚B、知能B、集中力A
技能:剣士2、学士1
特殊戦闘技能:居合(モデルは古流剣術の浅山一傳流の抜刀術)の真向面切り(浅山一傳流の抜刀術の上立割)と真向小手切り(浅山一傳流の抜刀術の上立割の小切り)と水平胴切り(浅山一傳流の抜刀術の一ノ胴)と逆真向又切り(浅山一傳流の抜刀術の下立割)と逆真向小手切り(浅山一傳流の抜刀術の揚袈裟)
体術(モデルは八極拳)頂肘、体当り(八極拳の貼山こう)、頭突き、足蹴り(八極拳の斧刃脚)、寸勁
符術:施錠・開錠、発光、魔力付与
装備:湾刀、腰刀、御符、投石紐、笠、額当て、襟巻、道中合羽、長着、胸当て、手甲、兵児帯、毛皮腰巻、たっつけ袴、脚絆、皮足袋、雪駄、帯刀許可証。
火山島の若き戦士。とある事情から本島に渡り冒険者となる。中肉中背で外見は整っている。特殊戦闘技能である、火山島伝来の居合(の一部)と大陸伝来の体術(の一部)を習得している。性格は、控えめで、真面目。
砂漠半島の巫女[カヒナ]。初登場時(第三章)
出身:砂漠の半島
性別:女性
生まれ:巫覡
能力:膂力B、体力B、身体操作B、感覚A、知能B、集中力B
技能:占星術師2、決闘者1
占星術:初級全般
装備:砂漠の民の民族衣装、外套(フード付き)、懐刀、占星術の触媒、横笛(風)、植物の種子(土)、水筒(水)、行灯(火)
砂漠半島の若き巫女。巡礼と呼ばれるカレーズの保守点検の旅の最中に火山島の戦士と出会う。巡礼の終了以降、火山島の戦士と共に冒険者を目指す。美貌の持ち主で、瘦躯で褐色の肌をしており、妖精の瞳[グラムサイト]という緑色の瞳をしている。性格は冷静沈着で聡明。
職人組合の伝令員[ギルドのスカウト]。(第三章)
出身:西方五国(幼少期は定住せず、西方五国を巡業していた)
性別:男性
生まれ:旅人
能力:膂力B、体力B、身体操作A、感覚B、知能B、集中力B
技能:密偵2、剣士1、吟遊詩人1
呪歌曲:恋歌[チャーム]
装備:衣服、刺刀(3本)、小盾、投石紐、盗賊の七つ道具
ギルドのスカウト。旅芸人の一家で育つが、現在は王国で職人組合に所属し、伝令員して活動している。長身瘦躯の美男子。ギルドのトラブル対応の為、その時王国に来ていた、サムライとジタンヌを勧誘する。一神教の司祭と大学院の女性学者は旧知の間柄。社交的で義理堅い性格。
一神教の司祭[プリースト]。(第三章)
出身:侯国
性別:男性
生まれ:狩人
能力:膂力A、体力A、身体操作C、感覚C、知能B、集中力B
技能:霊能者2、山守1、剣士1
降霊術:初級全般
装備:司祭服、長杖、棍棒、投石紐、聖印(十字架)
一神教の司祭。侯国出身で狩人の家系であったが信仰に篤い家庭であり、本人も信仰に目覚めていた為、皇国で修業し聖職者になった。現在は王国の聖堂に勤めている。巨躯の持ち主だが争いごとは好まず温厚な性格と見た目。パーティーメンバー唯一の既婚者(相手は女性司祭。聖職者同士の婚姻は認められている)
女性学者[ウィッチ]。(第三章)
出身:公国
性別:女性
生まれ:学者
能力:膂力B、体力B、身体操作B、感覚B、知能A、集中力B
技能:錬金術師3、決闘者1
錬金術:中級
装備:学生服、短杖(発動体)、指輪(発動体)、刺刀、本(雑記帳)、筆記具
賢者の学院所属の女性学者。公国の宮廷錬金術師を輩出している家柄で、若いながら本人も優秀な錬金術師。研究の為、公国から帝国そして王国にやって来た。フィールドワークの為に冒険者として活動している。瘦躯で赤髪、美麗な顔立ちをしている。知的で好奇心旺盛な性格をしている。




