エピソード2:黄金の海、碧玉の瞳(後編)
砂漠の半島を吹き抜ける熱風の中、二人の孤独な旅路が深く交わっていく。
エピソード2:黄金の海、碧玉の瞳(後編)
1. 水脈の記憶と異郷の物語
「これが『カレーズ』か。砂漠の地下に、これほど冷たく豊かな水が流れているとは」
地下水路の点検口へ降りた火山島の戦士は、暗闇の中で流れる水の音に耳を澄ませた。地上は命を拒絶するような灼熱だが、ここには静謐な生があった。
巡礼の旅は数日に及んだ。移動の最中、二人は互いの故郷について語り合った。
「私の島では、冬になると空から白い羽のような『雪』が降ります。すべてが白銀に包まれ、しん、と静まり返るのです」
「……雪。話には聞いていましたが、想像もつきません。砂漠では、白といえば骨か、乾いた塩の色ですから」
火山島の戦士は火山島に伝わる「剣術」を、砂漠半島の巫女は星々の動きから万物の流転を読み解く「占星術」を説いた。異なる文化、異なる技。しかし、過酷な環境で生き抜くための「知恵」という点では共通していた。
盗まれた刀の行方は依然として杳として知れなかったが、二人の距離は、砂丘を越えるたびに確実に縮まっていった。
2. 砂嵐の予兆
最後の巡礼ポイントを終え、一行は小さな緑地集落の宿に辿り着いた。
そこは、二人の旅の分岐点となるはずの場所だった。
「明日、私は刀の行方を追ってさらに東へ。巫女殿は、叔父上の元へ帰られるのですね。本当にお送りしなくて大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。一族の遊牧地は人里離れた場所にありますし、一族の秘密の地ですから、他の方をお連れするわけにはいきませんので。叔母の出産も気になります。……短い間でしたが、貴方のような誠実な戦士と歩めたこと、誇りに思います」
彼女は遊牧民の一族で現在、一族の秘密の遊牧地に拠点を構えている。人里離れた土地なので野盗に襲われる危険性は低かった。巡礼の最終地がここなのも、遊牧地への安全な帰還を念頭に置いたものだった。
別れを惜しむような静かな夕食の最中、砂漠半島の巫女がふと顔を上げた。その碧玉の瞳が、夜の闇の向こう側を捉える。
「……来るわ。熱い風の塊が。主人、すぐに扉を閉ざして。家畜を屋内へ! 大砂嵐が来る!」
彼女の予見は的中した。
直後、大地を揺らすような轟音が響き、集落は巨大な砂の壁に飲み込まれた。丸一日、宿は砂に閉じ込められ、火山島の戦士と砂漠半島の巫女は荒れ狂う嵐の音を聞きながら、夜を明かした。
3. 出現した古代の墳墓
翌朝。嵐が過ぎ去ったあとの世界は、地図が書き換えられたかのように変貌していた。
出発の準備を整える二人の元へ、宿の主人が血相を変えて駆け込んできた。
「戦士様、巫女様! 嵐で砂が飛ばされ、集落の近くに『古い遺跡』が姿を現しました! あれは……恐らく古代魔導文明時代の砂漠半島の墳墓だ!」
主人の指差す先には、砂丘の中から突き出した、階段状の巨大な三角形の石造建築があった。
放っておけば、中に潜む「何か」が集落を脅かすかもしれない。二人は顔を見合わせ、無言で頷いた。これが最後の共同作業になるかもしれないという、思いを抱えながら。
近くに見えていたが、遺跡までは思ったよりも距離があった。漸く、入り口が見える所まで着く事が出来た。遺跡に近付きながら様子を見ると、墳墓の入り口には、二体の屍人人形――人の遺骨や動物の骨を元に造られる、[スケルトン]が、骨で出来た棍棒を手に歩哨のように立っていた。
「巫女殿、援護を!」
「了解。無茶はしないで」
火山島の戦士が地を蹴った。抜刀し、放たれた鋭い袈裟切りが、一体目の骨の関節を叩き斬る。砂漠半島の巫女は懐刀を抜き、二体目を引き付けた。彼女は占星術を温存しつつ、最小限の動きで攻撃を捌く。そこへ火山島の戦士が回り込み、横手から正確な「突き」を放った。骨の中心を貫かれた[スケルトン]は、音を立てて崩れ落ちた。
4. 守護者との決戦
「発光」(ルミネセンス)の符術と「灯火」(トーチ)の占星術が、カビ臭い通路を照らし出す。入り口から中に入った二人は、慎重に進んでいた。
真っ直ぐな一本道の突き当たりには、広大な玄室が広がっていた。そこには黄金の副葬品と共に、枯草と皮で造られたアンデッド――[マミー]が鎮座していた。
二人が踏み込んだ瞬間、[マミー]の眼窩に不気味な光が宿った。
それが傍らの曲刀[シャムシール]を手に取ろうとした瞬間、火山島の戦士は符を投げ捨て、一気に距離を詰める。
「はあっ!」
鋭い袈裟切り。しかし、[マミー]は人外の反応速度で曲刀を抜き、これを受け止めた。火花が散る。
砂漠半島の巫女が即座に占星術を[光明]に切り替え、暗闇を白日の下に晒した。
「戦士殿、右よ!」
砂漠半島の巫女の指示を受け、火山島の戦士が死角からの追撃をかわす。一進一退の攻防。
[マミー]の剛力に押され、火山島の戦士がわずかに態勢を崩した。
『マズイ!』心の中で叫ぶが、態勢を立て直すことは出来なかった。
腐敗した刀身が彼の喉元に迫る。
「火球!」
砂漠半島の巫女の手から放たれた炎が、[マミー]の胸元で炸裂した。
[マミー]が燃え上がり動きを止めた。そのわずかな「隙」を、は見逃さなかった。
彼は刀を鞘に収め、右足を大きく踏み込む。
居合:逆真向切り
左手で鞘を押し出し、右手が柄を捉える。
鞘引きと共に、刀身が放たれた。[マミー]は対応しようとするが火山島の戦士の方が一手早かった。
刃を上に向けた銀光が、真下から真上へと、[マミー]の股間から顎先までを一気に駆け上がる。
「――断!」
斬り上げた勢いのまま頭上で刀を返し、垂直に真っ向から斬り下ろす。
布と枯草が舞い、守護者の身体は音もなく左右に分かたれた。
火山島の戦士は静かに血振りを行い、納刀した。残心。広間に静寂が戻る。
5. 新たな旅路の予感
集落に戻り、主人の感謝を受け取った二人。黄金の埋葬品には一切手を触れなかった火山島の戦士の潔さに、主人は深く感じ入っていた。
約束の別れの時。
「……巫女殿。貴方のおかげで、この地の本当の姿を知ることができました。感謝します」
火山島の戦士が別れの言葉を告げようとしたとき、砂漠半島の巫女がそれを遮るように微笑んだ。
「叔父には、伝言を頼みました。……火山島の戦士殿、貴方の旅はまだ続くのでしょう?」
「ええ。刀を探し、本島の中央、王国の方へ向かうつもりです」
「砂漠半島の巫女は、恩を忘れません。それに……私も、もう少し世界を見てみたい。貴方の隣で」
火山島の戦士は驚きに目を見開き、やがて困ったように、けれど嬉しそうに口角を上げた。
「……私の人の良さが、伝染したようですね」
「ふふ、どうかしら」
二人の影が、果てしなく続く街道へと伸びていく。
砂漠を越え、次なる舞台は騎士と一神教の西方五国の一つ、「王国」へ。
物語は加速し、二人の運命はさらに大きな渦へと巻き込まれていく。
エピソード2:後編 了。エピソード3に続く。
以下
設定資料
魔法[ルーン]と擬似魔法[アルカナ]
魔法。呪文[スペル]と呪印[ムドラー]で行使する。現在は占星術、錬金術、降霊術の三つの魔法(初級、中級、上級が存在する)と,ルネサンスの際に発見、構築された擬似魔法[アルカナ](魔法に比べ効果や汎用性が低いが習得は容易)の呪歌術[チャント]、呪符術[タロット]、禁呪[ネクロマンシー]の三つが伝わっている。いずれも使用すると疲労(初級は小、中級は中、上級は大)する。
魔法
占星術[アストロ]
占星術。精霊に呼びかけ力を借り、自然現象(地水火風光闇)を意図的に具現化し、操作する術。自身の周囲に元素が無ければ、精霊に呼びかけるが出来ず、術が使えないが、触媒[ゲート](例えば水筒。水の精霊に呼びかけ水の占星術が使える等)があれば、自身の周囲に元素が無くても術が使える。術者は占星術師[アストロガー]
初級
元素感知[センスエレメント] 精神を集中し、精霊に働きかけ元素の位置を特定する。ダウジングのように地下水脈や熱源、空気の流れなど直接視認出来ない場合も見つけ出すことが出来る。
灯火[トーチ]指先に小石サイズの炎を灯す事が出来る。そのまま移動する事が出来る。
焚火[バーン]可燃物がない状態で拳サイズの火を手のひらの上に熾す事が出来る。そのまま一定の場所に設置維持することが出来る。
真水[ピュリフィケーション] 水を真水に変える事が出来る。範囲は自身から半径1メートル程度。
湧水[スプリング]自身の近くに直径1メートル、深さ50センチ程度の池を作る事が出来る。一瞬では完成しない。
風話[ウィンドボイス]目視出来る範囲内で離れた相手と通常の声量で会話する事が出来る。
無音[サイレン]周囲の音を任意で消すことが出来る。範囲は周囲10メートル前後。
造成[デベロップメント]周囲1メートル程度の範囲で地面の土を任意の形に変える事が出来る。一瞬では完成しない。
土固[セメント] 周囲1メートル程度の範囲で地面の土を固める事が出来る。
火球[ファイヤーボール]人の頭部サイズの火の玉を作り出して、対象に飛ばし炎上させる。火球が届く範囲は50メートル程。火球の数を増やす程、疲労が大きくなる。
水幕[ウォータースクリーン]対象の前面に水の幕を展開し様々な自然現象からみを守る。対象の数を増やす程、疲労が大きくなる。
砂煙[サンドダスト]自身の周囲50メールほどの範囲内で任意の場所に縦横10メートル位の砂煙を巻き上げる。
拡声[ラウド]自身の発する声や音を拡大する事が出来る。
光明[ライティング]周囲を明るく照らす。範囲は建物の一部屋程度。場所は固定。
日陰[シャドウ]自身の周囲に日陰を作り出す。範囲は建物の一部屋程度。そのまま移動する事が出来る。
錬金術[アルケミー]
錬金術。魔力を操り万物を錬成(変換)する。自然物を意図的に一瞬で別の物質に変化融合し、新たな現象を生み出す。術の発動には基本的には発動体[デバイス](複雑な魔法陣[マジックサークル]が刻まれている。大抵は杖か指輪)が必要(発動体が無い場合は術の成功率が下がる)。術者は錬金術師[アルケミスト]
初級
放電[スパーク] 火花を出し、可燃物を発火させる。
凍結[フローズン] 冷気を放出し、時間をかけて液体を凍結させる。
施錠・開錠[ロック・アンロック] 鍵を使わずに錠前を施錠・開錠出来る。
発光[ルミネセンス]物体を発光させる。明るさは占星術の灯火と同程度。
魔力付与[マナエンチャント] 魔力を変換せず、純エネルギーの状態で武器に付与する。一時的に武器の威力が増す。対象の数を増やす程、疲労が大きくなる。
魔力飛翔体[マナミサイル]魔力を変換せず、純エネルギーの状態で対象に飛ばし、対象に物理的な打撃を与える。対象の数を増やす程、疲労が大きくなる。
蜘蛛の糸[スパイダーウェイブ]魔力を粘着の網に変換し対象を絡めとる。対象は行動の阻害を受ける。対象は一度に一人。
眠りの霧[スリープミスト]睡眠を誘発する霧を自身の周囲30メートル以内に発生させる。通常の手段で直ぐに覚醒させることが出来る。効果は術者が任意に決めることが出来る。
抗魔[カウンターマナ]対象の魔力を活性化させ魔力による悪影響に対する抵抗力を高める。対象の数を増やす程、疲労が大きくなる。
魔力感知[センスマナ]自身の周囲の魔力の濃度(対象者や対象物の魔力の強弱、対象者が魔力の影響を受けているか、対象物が魔導器か判定が出来る)を感じ取れるようになる。
降霊術[ミディアム]
降霊術。霊子での奇跡をもたらす。世界に遍く存在する霊子[神々の霊体、神霊]に祈願し、物理現象を超えた超常現象を顕現させることができる。聖印[シンボルマーク]があれば神の意思をより強く感じることが出来る。術者は霊能者[メディウム]
初級
誓願[ボウ]神に誓い立てる。聞き入れられると降霊術が行使可能になる。
再生[キュア]対象者の細胞を活性化させ、肉体の一部の再生を行う。傷は癒す事は出来るが失われた血液は元に戻すことは出来ない。対象は一度に一人。
活入[トランス] 対象者の精神を活性化させる。精神の耗弱を回復させる事が出来る。昏睡状態からの覚醒は出来ない。対象は一度に一人。
平静[サニティ]混乱状態の対象者を落ち着かせる事が出来る。対象は一度に一人。
滅菌[ステリライゼーション]対象の細菌の増殖を任意に抑え、減らす事が出来る。対象者の病気の治癒や対象物の汚染を取り除く事が出来る。対象は一度に一人。
中和[ニュートライズ]対象者の体内の毒物などの有害物質を無害な物質に変える事が出来る。対象は一度に一人。
結界[ターンアンデッド]心霊(屍人人形も含めて)に対して、自身の周囲10メートル以内に特定の効果を発揮する事が出来る。効果は術の達成度により変わる。達成度小、心霊(屍人人形も含めて)の動きが鈍くなる。達成度中、心霊(屍人人形も含めて)の動きが止まる、術の効果の外に心霊(屍人人形も含めて)がいる場合は中に入れなくなる。達成度大、心霊(屍人人形も含めて)は崩れ去る。
祝福[ブレス]対象者に一時的に神の加護を授けて貰うことが出来る。
閃光[フラッシュ]一瞬だけ強烈な光を放つ事が出来る。生物には目潰し効果を発揮する事が出来、心霊(屍人人形も含めて)にはダメージを与えることが出来る。
霊感[センスアストラル] 自身の周囲の心霊の存在の有無を確認することが出来る。
擬似魔法
呪歌曲[チャント]
呪歌、魔曲。占星術から派生した術。歌や楽器を使った旋律で精霊に働きかける。利点の一つが占星術には無い効果を生み出す歌や曲がある。効果は音楽が届く範囲で、範囲内に無差別に現れる(指定や限定は出来ない、即効性が無く、効果が発揮するのに時間が掛かることが欠点)。一部の吟遊詩人[バード]が使う。
子守唄[ララバイ]聞く者を眠気に誘う。
鎮魂歌[レクイエム]心霊の敵意を削ぐ。
恋歌[チャーム] 聞く者の気持ちを友好的な気持ちを抱かせる。
凱歌[モラル]聞く者の気持ちを高める。
哀歌[ノスタルジー]聞く者の気持ちを和らげる。
呪符術[タロット]
符術。錬金術から派生した術。主に木札(木製のカード)や巻物(材質は羊皮紙[スクロール])、御符(布地の符[タリスマン])に記された魔法陣[マジックサークル]を使い、物質を瞬時に変換する術。魔法陣に術式が刻印されている為、錬成の種類ごとに木札や巻物、御符が一枚ずつ必要で、術の修得も同様(熟達度が名人の者でも行使可能な術が錬金術の初級まで)。一部の学士[ワイズ]が使う。
禁呪術[ネクロマンシー]
死霊術。古代魔導文明末期から、戦乱期初期に降霊術から派生し、神霊ではなく、心霊(人間や動植物の霊魂[アストラル]。人間の場合は幽霊[ゴースト]とも言う。)を有機物(生命活動から生まれ、生命活動を終えた物質)に憑依させ、使役する術。死霊術によって製造され、個体の総称は屍人形兵[アンデッド]と呼ばれ、人型をしており、戦乱期に戦争に使われたが現在は、大憲章で製造、使用が禁止され、死霊術は禁呪とされている。術者は死霊術師[ネクロマンサー]。




