エピソード31:沈黙の脱出、偽りの残響
エピソード31:沈黙の脱出、偽りの残響
1. 迫りくる銀の足音
回廊に響く金属音は次第に大きくなり、角を曲がれば騎士たちの姿が露わになる距離まで迫っていた。
「……正面突破は愚策です。彼らは神の名の下に死をも恐れません」
一神教の司祭が、握りしめた長杖を微かに震わせる。
砂漠半島の巫女、廊下の突き当たりに向けて占星術を放った。
「拡声。……少しの間だけ、別の『不審者』を追いかけてもらいましょう」
廊下の曲がり角の先に、走り去る不審者の足音が響いた。騎士たちの視線が、一斉にその足音へと引き寄せられた。
2. 影を渡る
「今のうちに!建物の 出口へ!」
職人組合の伝令員が、音もなく出口へ駆け出す。砂漠半島の巫女新たな占星術を唱えた。砂漠半島の巫女が維持する無音の術が、一行の必死の移動を完璧な無音の世界へと封じ込めた。
火山島の戦士が最後尾で周囲を警戒する。彼の感覚は、陽動に惑わされない一人の老騎士の存在を察知していたが、その騎士が怪訝そうに後方を仰いだ瞬間に、火山島の戦士は影の中に完全に姿を消した。
3. 聖域の壁を越えて
典礼院の外壁付近。高さ三メートルを超える石壁が立ち塞がるが、大学院の女性学者が素早く指先を動かし、落ち着いて全員の足元に魔力を込めた。
「浮遊。……重力に逆らうのは少し疲れるけれど、素早く、音もなく、外壁を乗り越えるにはこれが早いわ」
ふわりと浮き上がった一行は、音もなく重厚な外壁に上った。
「今日は大盤振る舞いね、着地の音を消すにはこれが一番よ」
錬金術[落下制御]。一行は重厚な外壁に上から、落下速度を落し、音もなくフワリと聖都の裏路地へと着地した。
4. 暴かれた「仲介」の全貌
隠れ家に辿り着いた一行は、奪取した「黒い帳簿」をテーブルに広げる。
そこには、事務総長代行が関与した取引のすべてが、神聖な書式で記されていた。
取引品目: 禁忌の魔薬。
物流ルート: 典礼院の「聖遺物搬入用荷物」。検印は事務総長代行の署名。
受け取り手: 王立騎士団の騎士(かつて「売り手」として捕まった者)。
「この帳簿があれば、事務総長代を糾弾できます。ですが……」
一神教の司祭の顔に、苦渋の色が浮かぶ。
「証拠を提示する相手を間違えれば、この記録は消されてしまうかもしれません。……信じたくは有りませんが、聖堂騎士団の中にも、事務総長代行の影響下にある者がいるはずです」
【エピソード31:完】




