エピソード18:偽りの恩人、交易の風
(諸侯国編:スタート)
侯国編:黄金の鎖と自由の境界
~エピソード18:偽りの恩人、交易の風~
1. 押収された「黄金の証」
帝都の「黒鷲の館」で制圧を終えた一行は、騎士団に引き渡す前のわずかな時間で、没落貴族が最後まで守ろうとした小型の金庫をこじ開けていた。
「……製造法はわかった。でも、この設備一式を揃えるのに必要な金は、没落した家系が持てる額じゃないわ」
大学院の女性学者が、金庫の中から一通の書簡と、見たこともない奇妙な刻印が押された「為替」を取り出した。
「それは、帝国の硬貨ではありませんね」
一神教の司祭が眉をひそめる。為替に刻まれていたのは、波打つ海と絡み合う蔦の紋章――帝国とも国境を接し、独立独歩の気風を誇る商業国家、諸侯国の有力商会の証だった。
2. 黒幕は「国境の向こう」に
「なるほどな。没落貴族はただの『職人』に過ぎなかったわけだ」
職人組合の伝令員が、為替の裏に記された多額の入金記録を指でなぞる。
「資金を提供し、魔薬の完成を急がせていた真のパトロンは、この侯国の人間だ。帝国で魔薬を流行らせて秩序を乱し、その混乱に乗じて何かを売り捌こうとしているのか、あるいは……」
「……いずれにせよ、ここで手を止めるわけにはいきません」
火山島の戦士が、封印を解かれた[湾刀]を静かに帯び直す。
「毒を撒く者の背後に、その毒を売って私腹を肥やす者がいる。その鎖を断たねば、また別の『亡霊』が現れるだけです」
3. 鉄の秩序から、風の平原へ
一行は帝国の国境を越えるため、一路南へと向かった。
帝都の重苦しい石造りの威容が遠ざかり、街道の景色は次第に開放的な、しかしどこか落ち着かない活気を帯びてくる。侯国は、皇帝の法ではなく「契約と銀貨」がすべてを支配する土地だ。
「精霊たちの声が、さっきから騒がしいです。欲望と、潮の香りが混ざり合っています……」
砂漠半島の巫女が、風にベールをなびかせながら、国境の門の向こうに広がる景色を見つめる。
4. 侯国の門
数日の旅の果て、一行は侯国最大の玄関口である交易都市に到着した。
帝都のような整然とした美しさはない。代わりに、色とりどりのレンガ造りの建物がひしめき合い、世界中から集まった商船の帆が港を埋め尽くしている。
「ようこそ、自由と商魂の国へ。……さて、あの為替を発行した『黄金の蔦商会』を探すとしましょうか」
職人組合の伝令員が、賑やかな喧騒の中に身を投じる。
魔薬の「作り手」を追った帝国編は終わり、ここからはその「出資者」を追う、より狡猾で複雑な戦いが始まろうとしていた。
【エピソード18:完】




