エピソード9:冒険者の酒場:賑やかな休息と、次なる一歩
エピソード9:冒険者の酒場:賑やかな休息と、次なる一歩
〜剣を磨き、杯を交わす日常〜
1. 昨日の「義」は今日の赤字?
王都の隅に構える「冒険者の酒場」。朝の光が窓から差し込み、まだ客のまばらな店内に、大学院の女性学者の鋭い声が響きました。
「……いい、リーダー? 今回の護衛依頼で得たのは、古いメダルと、老人の感謝の言葉だけ。一方で、伝令さんが裏稼業のツテに支払った情報料、そして全員の宿代……。あの古いメダルに価値が無かったら、完全に赤字だったわよ」
彼女は帳簿を叩きながら、火山島の戦士を睨みつけます。火山島の戦士は、頭を項垂れたまま「すみません……」と謝るしかありません。
「でも先生、あの老殿の涙を見ましたか。あれは金貨では買えない価値があったと思います」
「その『価値』で今夜のシチューが買えるなら苦労しないわ!」
「まあまあ、二人とも」一神教の司祭が大きな鍋を持って厨房から現れました。「ギルドから、前回の薬草採取の追加報酬が届いていますよ。新薬の効果が劇的だったそうで、上乗せされた分で今週の食費は賄えます」
大学院の女性学者は鼻を鳴らしてそっぽを向きましたが、その手はちゃっかりと、次に買うべき研究資材のリストを書き始めていました。
2. 装備メンテナンスの風景
酒場の片隅では、職人組合の伝令員が愛用の刺刀を丁寧に研いでいました。その横で、砂漠半島の巫女が碧玉の瞳で、職人組合の伝令員が拾ってきた怪しげなガラクタを鑑定しています。
「これは……砂漠の古代都市で使われていた、魔力封じの合わせ鏡の破片ね。護身用にはなるけれど、少し呪いが混じっているわ」
「うわっ、マジかよ。危うく高く売りつけるところだったぜ……。サンキュ、巫女さん。あんたの目には敵わねえな」
職人組合の伝令員は苦笑いしながら、鏡を隅に追いやります。
「なあ、リーダー。次はもう少し『実利』のある話を持ってくるぜ。あんたの『義理』に付き合うのも悪かねえが、俺の胃袋はもう少し肉を求めてるんだ」
「……すみません。次こそは、腕の振るい甲斐があり、かつ報奨も確かな依頼を選びます」
火山島の戦士が真面目な顔で頷くと、酒場にいた他の冒険者たちからも笑いが漏れました。この数回のエピソードを経て、彼らは酒場の「名物パーティー」として認識され始めていたのです。
「ハハハ、アンタはホント、面白いな。それとリーダー、火山島から荷物と手紙がギルド経由で届いているぜ」
職人組合の伝令員から手紙と細長い木の箱を渡された。手紙の方から確認すると、火山島の叔父からの返信であった。結局取り戻した刀はギルドに頼んで火山島に届けて貰った。その際に自分の近況を手紙に書き一緒に送って貰った。叔父からの返信は感謝とお礼の品を一緒に送ったという内容であった。手紙を読み進めていくうちに火山島の戦士は大変喜んだ。前回の冒険で愛用の湾刀を破損させてしまい、新たな湾刀を捜していた。叔父が送って来てくれたのは一振りの湾刀であった。取り戻した湾刀の影打ち(刀は一度に数振り、作成しその内で最も良い物を真打ち、それ以外を影打ちとされる)であり、名刀と呼ぶに値する素晴らしい湾刀であった。
3. 胃袋を掴む「聖職者」
お昼時になり、酒場の主人が一神教の司祭の作ったシチューを客たちに運び始めました。
「おい、この司祭様のシチューは絶品だな! 王都の高級店よりずっと温まるぜ」
「慈愛の心が隠し味ですから」
一神教の司祭は穏やかに微笑みながら、自分たちのテーブルにも大皿を運びます。
大学院の女性学者は不満げな顔を崩さないまま、一口食べて「……まあ、栄養効率は良いわね」と呟きました。それは彼女なりの最大級の賛辞でした。
「皆、聞いてくれ」
火山島の戦士が木杯を掲げました。
「我らは出自も、目的も、信じるものも異なります。だけど、この数多の困難を共に越える事が出来ました。私は、皆さんという『仲間』を得たことを、生涯の誇りと思います」
「……急に何よ、暑苦しいわね」
大学院の女性学者が顔を赤くしてスープに顔を埋めます。
「へへっ、リーダーがそう言うなら、次は死ぬほど稼がせてもらうぜ?」
職人組合の伝令員がグラスを合わせます。
4. 掲示板に並ぶ、新たな運命
食後、一行は酒場の中心にある「依頼掲示板」の前に立ちました。
そこには、ただのコソ泥退治から、国を揺るがすような怪事まで、無数の羊皮紙が並んでいます。
「火山島の戦士」だった男は、今や迷うことなく、仲間たちの顔を見渡しました。
「さて……次はどの『義』を成し遂げに行くか?」
五人の影が、掲示板に伸びる。
彼らの日常は、常に次なる非日常への準備期間であり、その絆は、どんな伝説の武器よりも鋭く、彼らの前途を照らしているのでした。
エピソード:了




