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美容系アイドルは、甘い吐息で私を溺愛する♡ 推しの秘密は蜜の味〈dulcisシリーズ×アラタ編〉  作者: はなたろう
Episode2 推しの過去

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18/20

#6 ブルーのドレス

ホテルの会場は、まだ開始前なのに目眩がするほどの熱気と光に包まれていた。


天井から降り注ぐシャンデリアの光。磨き抜かれたグラス。香水とコスメが混ざり合う甘い香り。


そこに集まるのは、美容業界、芸能界、ファッション界――華やかな世界の中心にいる人間たちばかりだった。



「あそこにいるの、パリコレモデルもやったレイラだよ」



あちこちにテレビで見るような有名人がいて、どうしても浮足立ってしまう私。



「すごい人だね、克哉」


「こら、子どもじゃないんだから、ジロジロ見るなよ」



今夜の克哉は、普段の白衣姿とはまるで違っていた。


上品なスーツを完璧に着こなしている。すれ違う女性たちがちらちらと克哉を振り返っていた。


けれど本人は、そんな視線などまるで気にも留めていない。



「ねぇ、私だけ変じゃないかな?」


「変だと?」



ふと不安になって尋ねる。


克哉が選んだ淡いブルーのドレス。

シルク生地が光を柔らかく反射し、歩くたび水面みたいに揺れる。とても素敵なドレスだけど……。



「背中が開きすぎて、やっぱり落ち着かないよ」


「何を言っているんだ。愛香のその美しい素肌を、見せつけてやればいい」


「もうっ」



克哉が手配したプロのヘアメイクさんにされるがままやって来たけれど、やっぱり気後れしてしまう。



「ハッキリ言って、この会場の誰より愛香が美人だ」


「ちょ、ちょっと、声が大きい!」



さらりと言い切る克哉に、私は思わず顔を覆った。

だめだ、聞く人を間違えた。



「あの、すみません……」



背後から、しっとりと艶のある声が掛けられた。

身体のラインを強調するタイトな黒いドレスを着た女性が、ニコリとほほ笑んだ。



「Désir Clinic〈デジールクリニック〉の院長、美野克哉さん……ですよね」



腰まで届く長い黒髪に、赤い果実みたいな鮮やかな唇。大人の女性だった。



「……そうですが」


「ご挨拶させてください。私、初瀬果恋(はつせかれん)と申します」



差し出された名刺に視線を落とす。



『GROSS〈グロス〉編集部』



20代から30代女性に人気の美容・ファッション誌だ。私も時々読んでいる。



「お目にかかれて光栄です。以前から先生のクリニックの評判は伺っておりました」



果恋は、熱を帯びた瞳で克哉を見つめた。



「先生のような美貌と技術を兼ね備えた方が、今回のアラタさんとのコラボに携わっているなんて、本当に素敵ですわ」


「それはどうも」


「もしよろしければ、最新の美容医療について詳しくお話を伺いたいです。仕事でも……プライベートでも」


「うちには僕より優秀な名医がいますから、伝えておきます」



克哉は手慣れた様子で、至極冷ややかに、かつ大人の余裕でさらりとかわした。


だけど、果恋は臆せずに微笑みながら続けた。



「それと、今回の美容液について、ぜひ独占取材をお願いしたいんです」


「検討はさせていただきます。ただ、夏場はクリニックも繁忙期なので」



そこで不意に、克哉が私へ視線を向けた。



「愛香。今後のスケジュール、どうかな?」


「え、ええと……院長指名の予約も増えてますし、取材依頼もかなり入ってます」



果恋の視線が、私のドレス姿をゆっくりと辿る。

まるで値踏みするみたいな視線に、少しだけ背筋が伸びた。



「……あなたは?」


「うちのスタッフで、僕の秘書をしてくれています」


「素敵な方ね、とってもかわいい。お人形さんみたい」



そう言って果恋は、大人の余裕を感じさせる笑みを浮かべた。けれどその綺麗な瞳の奥は、一切笑っていない。



「ええ、僕もそう思います」


「……」



果恋の眉がほんの一瞬だけピクリと動いた。


けれど果恋はすぐにビジネスの顔に戻り、淡々と話を続ける。



「美野院長と、アラタさんの対談企画ができれば、そう思っております」


「では先にMICOプロダクションにご相談ください。僕の一存では決められませんので」



これ以上会話を引き延ばすつもりはないと告げるように、克哉の声音が一段と冷たくなる。


あからさまに話を切り上げようとする態度を察したのか、果恋はそれ以上食い下がらなかった。



「そうですね。dulcis〈ドゥルキス〉のマネージャーさんも来ていますから、ご挨拶してきます」



果恋が示した視線の先。


そこには、ピシッとしたパンツスーツ姿女性が立っていのた。



――あの人が、葉山さんかな。


アラタが時々話している敏腕マネージャー。

アラタが芸能界に入った、10代の頃からの知り合いらしい。



「それでは、失礼します」



果恋が黒いドレスの裾を揺らしながら去っていく。

その背中を見送りながら、私は小さく息を吐いた。



「キレイな人だったね」


「そうか?」


「克哉って、本当に女性に興味が無いのね」


「そんなことはない。美しいと感じるものや惹かれるものに、男も女も関係はないさ」



克哉は私を見つめ、何でもないことのように言い放った。



「セックスとは別次元の話だ」


「だ、だから、声が大きい! 誰が聞いてるか分からないでしょ!」



焦る私を見て、克哉がくすくすと楽しそうに喉を鳴らす。



『――それでは、大変お待たせいたしました! dulcis〈ドゥルキス〉のアラタさんの登場です!』



華やかなアナウンスが会場に響き渡り、ステージの上が一際明るくなった。

同時に、無数のフラッシュが激しく焚かれる。



そこに姿を現したのは、完璧な美貌を誇る、私の大好きな推しであり――私を狂おしく抱きしめる恋人だった。





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