#3 熱い指先
地下駐車場からアラタの車へ滑り込み、そのまま都心の高級タワーマンションへ向かう。
深夜の街を流れるネオンが窓ガラスへ滲み、静かな車内にエンジン音だけが心地よく響いていた。
「疲れてないの?」
助手席からそっと声をかける。
「炎天下でMV撮影して、そのあと克哉と美容液の打ち合わせして……。今日はずっと仕事だったでしょ?」
「まぁ、疲れてないって言ったら嘘になるけど」
アラタは片手でハンドルを回しながら、小さく肩を竦めた。
その横顔は相変わらず綺麗で、長時間働いていたとは思えないほど隙がない。
赤信号で車が止まる。
その瞬間。
アラタが私の手を引き寄せ、指先へ軽く口づけた。
「愛香は、俺だけのセラピストだよな?」
熱のこもった低い声。
胸の奥がじんわり甘く熱を帯びる。
「俺の疲れを、癒してくれるだろ?」
「……っ!」
さらに、指の間へぺろりと舌先が這う。
「ちょ、アラタ!」
「……おっと。信号変わったな」
何事もなかったみたいに車を発進させるアラタに、私は顔を真っ赤にした。
「もう!」
楽しそうに喉を鳴らす笑い声が、静かな車内へ響く。
いつもだって、アラタは余裕たっぷりだ。
アラタと出会い付き合い始めて数か月。
だけど、私は、dulcis〈ドゥルキス〉のがデビューした3年前から、ずっとファンだった。
推しだった人が突然目の前に現れて、どうしてか恋人になってしまった。
だから今でも、視線、仕草、言葉ひとつに、どうしようもなくドキドキしているのに。
「着いたよ」
マンションへ到着すると、アラタは周囲を素早く見渡した。
芸能人である以上、たとえ自宅マンションでも気を抜けない。人気者って大変だと思う。
誰もいないことを確認すると、私の肩を抱き寄せ、そのまま上層階専用エレベーターへ乗り込んだ。
部屋へ入った瞬間、静かに鍵が閉まる。
「ただいま、愛香」
「おかえり、アラタ」
振り返るより早く、後ろから強く抱きしめられた。
ふわりと香る、アラタ愛用のシトラス系の香水。
アラタはそのまま私の肩へ額を預け、小さく息を吐いた。
「……あー、生き返る」
「克哉に言われたこと、忘れてない?」
「ん? なんだっけ」
「家に帰ったら、手洗いうがい忘れないようにって」
「あー、そうだったな」
アラタがくすっと笑う。
「医者っていうより、完全に母親だよな」
「ふふ、確かに」
廊下を歩きながら、ふたりで笑いあう。
「ちょっと、洗いにくいよ」
洗面台の前。
後ろから抱きしめられたままでは、まともに手も洗えない。
「離れたくないから」
頭上から落ちてくる甘えた声。
dulcis〈ドゥルキス〉最年長でリーダー。
冷静でクールな完璧主義者――そんな印象を持たれている。
だけど、本当のアラタは違う。
それも、つい最近知ったこと。
ふたりっきりになると、驚くほど甘くて独占欲が強い。
「愛香に触るの、一週間ぶりだな……」
掠れた声が耳元へ落ちる。
「さっきも触ったよ? 診療室で」
「そうだっけ」
言いながら、耳たぶをかぷっと甘噛みされた。
「っ、や……アラタ……」
くすぐったさに肩を揺らすと、アラタが小さく笑った。
「その声、ぞくっとする」
低く囁きながら、私の身体をくるりと抱き寄せる。
視線がぶつかった瞬間、もう逃げられないと思った。
重なる唇。
すぐに深く、熱っぽいキスに変わった。
「……ん、っ……」
何度も角度を変えながら唇が重なっていく。
ようやく解放された頃には、息が上がっていた。
「はぁ……ん」
「足りない」
至近距離で見つめてくる瞳が熱い。
もう、そんな目で見ないでよ。私の方こそ止まらなくなってしまいそう。
「ね、先にシャワー浴びようよ……」
「……それもいいな」
アラタの指先が、私のブラウスのボタンへ触れる。
「ちょっと、自分で脱げるのに……」
「だめ、俺がやる」
独占欲を隠さない声音。
肩から滑り落ちたブラウスを受け止めながら、アラタは満足そうに目を細めた。
そのまま腰を引き寄せられ、バスルームへ連れていかれる。
細かい泡が出るシャワー。その音が響く中、私はアラタの濡れた髪へ指を通した。
「髪、洗ってあげるね」
「……ん」
素直に目を閉じるアラタは、ちょっとかわいい。
泡立てたシャンプーで優しく頭皮を揉みほぐしていくと、アラタは気持ちよさそうに息を吐いた。
「気持ちいい」
「癒されるでしょ?」
「これだけじゃ足りないけどな」
「あんっ……!」
不意に敏感なところに指が触れた。
「次は俺が洗ってやるよ」
濡れた髪をかき上げながら、アラタが不敵な笑顔をつくる。
「愛香のここも、ちゃんと綺麗にしてあげるよ」
「や、ちょっと、アラタ……!」
熱い吐息とシャワーの音。
「……さっき、克哉が言ったこと覚えてる?」
「っん、あ……え?」
「朝まで寝かさない――って」
思い出した瞬間、顔が熱くなる。
アラタの指先が、私の奥をやさしくなぞる。
「ベッド、行こうか――」
甘く囁かれ、私は小さく頷いた。
「……うん」




