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美容系アイドルは、甘い吐息で私を溺愛する♡ 推しの秘密は蜜の味〈dulcisシリーズ×アラタ編〉  作者: はなたろう
Episode2 推しの過去

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#2 愛香の肌にふれるものすべて管理したい

「うん、前回より馴染みがいいな」



美容液を指先で確かめると、アラタは満足そうに目を細めた。



院長室のテーブルには、OEMメーカーから届いた最終サンプルの美容液ボトルが並んでいる。


透明感のあるガラスボトルに、まだ仮のラベルだけが貼られていた。



数ヶ月に及ぶ共同開発も、いよいよ最終段階。



dulcis〈ドゥルキス〉のアラタが手掛ける美容液――。



その情報は、正式発表前だというのに、すでに美容業界やSNSで大きな話題になっていた。



トップアイドルが本気でプロデュースする美容液。

しかも、注目の美容クリニック『Désir Clinic』監修。



期待値は異常なほど高い。



2週間後に控えたレセプションパーティーで、ついにこの美容液がお披露目される予定だった。



「たとえば、これを愛香が毎日使うとしたら――?」



真剣な眼差しのまま、アラタが私の手を取る。


長い指先がそっと私の手の甲を支え、その上へ美容液を1滴落とした。



ひんやりとした感触。


トロリとしているのに重くない。

肌へ乗せた瞬間、すうっと溶け込むように馴染んでいく。



「……気持ちいい」



思わず声が漏れる。


べたつかないのに、しっとりと潤っていく感覚が心地いい。



「だろ?」



アラタがどこか誇らしげに笑った。



「何回も調整したからな。保湿力は欲しい。でも重たいのは嫌だった」


「香りもいいね。華やかだけど、きつくない」



ふわりと漂う上品な香り。

甘すぎず、けれど女性らしい余韻が残る。



「香りが強すぎると、普段使いしにくい。でも印象には残したい。……かなりギリギリまで調整した」


「アラタのこだわりに応えるの、大変だったな」



克哉が呆れたようにカルテを閉じた。



「たとえ美容液の1滴でも、愛香の肌に触れるものは、俺が認めたものでないと嫌なんだよ」



さらりと告げられたアラタの言葉に、胸が熱くなる。



「な、なにそれ……」


「いや、まったく同感だ」



克哉まで平然と頷いた。



「愛香の肌は昔から敏感だからな。刺激が強いものは論外だ」



顔を見合わせたふたりが、同時に眉をひそめた。



「俺の愛香だろ」


「僕の愛香だな」



私は呆れ半分でため息をついた。



タイプは違えど、徹底した完璧主義者。

その部分だけは、本当によく似ていた。



「百合にも感謝しないとな」



克哉が資料を整理しながら呟く。



「彼女の協力がなければ、海外ルートの原料調達は間に合わなかった」


「あー、姉さんか」



アラタがソファへ深く身体を預けた。


百合さんは、このクリニックの医師でアラタお姉さん。

姉弟揃って美へのこだわりが強い。


恋多き百合さんは、今は恋人とバカンス中だ。



「帰国したら、絶対高いもの要求されるな」


「当然だろう。今回かなり無茶言ったからな」


「でも妥協はしたくなかった」



アラタの横顔は、驚くほど真剣だった。


その熱量が伝ってくるから、周囲の人間も自然と巻き込まれていくのかもしれない。



「――よし。今日はここまでだな」



時計はすでに23時を回っていた。



静まり返った院長室。

窓の外には、深夜の都会の夜景が広がっている。



「ボトルとパッケージも、最上級のものを用意するから、楽しみにしてて」



ネクタイを緩めながら、アラタが私を見る。



「毎日使うたび、気分が上がるようなデザインにしたんだ」


「うん、楽しみ」



そう答えると、アラタは満足そうに目を細めた。



そのまま当然みたいに私へ手を伸ばし、指先を絡め取る。



「さぁ、帰ろう」


「待て」



即座に克哉の声が飛ぶ。



「愛香は疲れてる。アラタのところへ行ったら、どうせ朝まで寝かさないだろ」


「人聞き悪いな」


「違うと言いきれるのか?」



さっきまであんなに真剣だったのに、こういう時だけ本当に子どもっぽい。



「愛香」



アラタが私の肩を引き寄せる。



「どっちと帰る?」



低く甘い声。


けれど、その目は冗談じゃない。

本気で答えを待っている。



克哉も腕を組んだまま、静かに私を見ていた。



「……私は」



少し迷ってから、アラタを見上げる。



「アラタと帰る」



その瞬間。


アラタの目が、わかりやすく嬉しそうに細められた。



「ほらな」



勝ち誇ったみたいに笑いながら、私の腰を引き寄せる。



「おい、待て。連れて行くなら条件がある」



なおも引き留めようとする克哉が、厳しい顔で指を1本立てた。



「帰ったら、抱き合う前にうがい手洗いを忘れるな。湯船に入って、それから――」


「はいはい、克哉ママ」



アラタが面倒くさそうに片手を振る。



「説教長い」


「誰のせいだと思ってる」


「大丈夫だって。ちゃんと大事にするから」



さらりと告げながら、アラタが私の肩を抱き寄せる。



その言葉に、胸の奥がくすぐったく熱くなった。



「さ、行こう」


「おい、人の話を最後まで――」



克哉の抗議を背中で聞き流しながら、アラタは私の手を引いて院長室を後にした。





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