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「戻ったでー」


 そこへ、ナオとシェラが町の見物から戻ってきた。各々、両手に土産袋を二つ三つ。買い捲りだな。


「おう、意外と遅かったな」

「まあなー。思ってたより見るとこあっておもろかったで」


 暇つぶしのつもりが、エルフ独特の「樹上集落」とか、それに付随するテーマパーク的な場所を見て回っていたと。木の上から地上に降りるギミックが遊園地のアトラクションみたいで楽しかったらしい。


「何、足にロープつけて高い枝から飛び降りるとか?」

「何アホなこと言うとんの。そんな危ないことするわけないやろ、処刑やないねんで」


 ナオは「そんなん遊びちゃうわ!」と言いたげだが。

 地球ではそんな危ないこと、遊びでやる奴けっこういましたけど……元は勇気を示す成人の儀式だけどね。


「こう、ロープに滑車がついとってな。その下に椅子みたいなんがついとって、地上の家に一気にガ――――っと滑り降りていくんよ。結構な高さと距離あるやつもあってなー。ちょっと背筋ぞわついたけど、やってみるとこれがなかなかおもろいねんで! あのシュ――――って空中滑っていく感覚がな!」


 ああ、森のアスレチックとかにありそうなやつな。

 ジシィ・マーダではホウキの遊覧飛行拒否ってたのに、木の上ぐらいならいけるんか。

 まあそういう横方向のスピードアクション系好きそうだもんな、ナオは。話してるときの顔が熱く語る奴のそれだ。


「で、そっちはどんな具合?」


 シェラが訊ねると、マシュさんがメモの束を見せる。


「……こらまたごっつい量書いたな……」


 文字や図がびっしり書き込まれた紙を何枚かめくって、ナオが「うへぇ」って顔になる。


「魔法ってそんなにポンポンアイディア出るもんなん?」

「いやー、あれがやりたいこれがやりたいってのを魔法で再現しようとしてるだけだからな。

 そういう不都合っていうか不便を解消する方法を考えると思えば、いくらでも出てくるってもんよ」


 マシュさん曰く、過去、そういうのを解消しようとしたブライト・ワルダーがいて、遠距離通信用のマジックアイテム――「ケータイ」のようなカードアイテムを創った人物がいるらしい。

 素材がお高いこともあって、王侯貴族や豪商ぐらいしか手は出ないが、ギルド支部間の連絡にも使われるアイテムらしい。十数か所ぐらいの登録先と遠距離でも音声通話ができるので、ギルド内とか商人のネットワークで情報を共有するには必須のアイテムだという。軍用にも別途、トランシーバのようなカードもあるそうだ。そういえばシェラちんが昔、仕事で使ってたとか言ってたな。


 この世界は思ったより地球の文明を取り入れているようだが、しかしブライト・ワルダーが魔法で生活利便性をこの程度しか追求していかなかったのはいただけない。

 まあ彼らにしてみれば、「門」が壊されたり人鬼大戦があったりと、落ち着いて生活に必要な魔法や魔導具を開発するどころではなかったのかもしれない。

 だがケータイみたいなものを再現していたとは侮れない。情報の伝達速度は文明の発展に大きく関わる。特に魔法関係は、ギルドがあっという間に広められるのも、「魔導ケータイ」(仮)があるからだろう。

 「空飛ぶホウキ」だってそうだ。あの速度で、実物を輸送できる輸送機器としては、この世界では最速だ。実際はもっと速度が出ると、遊覧飛行のパイロットのお兄ちゃんが言っていた。地上輸送の十倍は速いんだと。

 輸送や情報伝達については、まだ一般に拡大するほどではないが、それでも馬車のサスペンションとか、一般に出回った技術もあるのだから、全く何も影響がなかったわけでもない。

 とはいえど、細かいところの不便をぐっと改善するようなものがいくつもある、というわけでもない。


 だから、新魔法を創るにしても、やはり「不便を解消する」方向へもって行くのが、一番世間受けしやすいと思うのだ。


 もちろん、世間で受け入れられるだけでは、創る側としては面白くない。

 最初は「やりたいこと」中心で「世間受け」を多少創り、慣れてきたら世間受けしそうで売れそうなのをやるとか、そういう順番でもいいだろう。

 ……まあつまりは、「自分がこっちで生活するにあたって、これがあった方がいいよね?」とか「魔法があるんだからこういうのやれるよね?」みたいなものを、この際ここで実現してしまおうと、そういうことだ。

 ブレスト半日でこれぐらいのアイディアが出てくるのだ、一週間ぐらい集中的にアイディアを出して、その中で優先度をつけて実現していく――そういう形でやるのが一番よかろうな気がする。


「というわけでな、お前らもなんかこーゆーのが魔法でできたらええなーみたなのがあったら、アイディア出してくれ。もしかしたら実現できるかもしれんから」

「うーん、そう言われてもな……ちょい考えさせてや」

「ボクらが考えると、どうしてもバトル方向へ行きがちだからねえ。そういうのでもいいならないこともないけど」


 確かにナオやシェラでは、役割上そちらに思考が傾くのもしょうがないが、今ここで欲しいのは「普段の生活」で欲しいやつだ。もちろん冒険者が旅先仕事先で使えるのであればなお良い。

 理想を言えば、ベストセラーになる百均アイテムみたいな魔法だ。手軽に使えて、こうかはばつぐんだ!みたいなの。

 まーでもそんなのは実際創って、使われないと判らんもんだが……そういやこういう魔法って、消費者モニターみたいなことしないからなあ。ニーズを汲み取る、なんてことやってないだろうな。

 アンケートとって、そこからウケそうな機能を抽出、魔法に落としこむ。リリース前には、機能の消費者チェックもしてもらって、ユーザビリティを高めるとか……うーん、そうなるとそこそこ組織的に開発していかないとキツいなー。

 それにもし、組織的にそういう開発やるチームがあったら、そっちに情報が流れた時点で開発速度で負けることになる。


 この世界には著作権云々てものがないから、以前ある魔法のパクリでも、ギルドがOKって言えば登録はされる。ただしギルドでは「オリジナル開発者」と「パクリ」とでは、評価が大きく違う。具体的には支払われるロイヤリティ料率がえらく違うのだそうで……なので、先に作って登録した方が偉い、というのはある。先に完成させても登録が後だとパクリ扱いされるのも、地球の特許申請と似たところはある。まあ、先に完成させたかどうかなんて、本人がそう言えばそうなんだろうって世界だから、早く登録したもん勝ち!ってのは現実に合っているといえば合っているのだろう。


 そりゃあ一般魔法の当たり外れが大きいわけだ……こないだ一般魔法のリスト見たときに気付いたが、「こんなの何に使うんだ」ってのがちょこちょこ目立った。機能的に重複してるのとか。

 そういうのって、見るからに売れなさそうだし、実際どのくらい売れてるもんか窓口でちらっと聞いたところ、「売れてる魔法は月に百本以上売れますけど、売れないのは年に一本二本、とかそのくらいですね」という返答。目安としては、総数五百本以上、発売後一年経過しても月に十本以上コンスタントに売れれば「優良人気魔法」なんだそうだ。だが、そんな優良魔法は全体の一割もないという。まあまあ評価された魔法を合わせても、全体の半分程度だそうだ。

 出来の悪い有料アプリみたいなもんか……そら売れんわな。後出しで高機能を売りにしてウケるものもないではないけど、そういう魔法は大抵オリジナルのアイディアがいいから高機能版も支持されるんで、最初がダメな魔法は、改良版が当たることはほとんどないとか。

 もちろん、そういう大ヒットが一本あれば一生暮らせる、みたいな上手い話はそうそうないが、〈灯火〉とか〈洗浄〉はそのレベルで、開発者が死ぬまでに得た利益は、大都市を擁する地方領主の資産レベルだそうで……うん、ちょっとよくわからんけど、相当儲けたことだけは判る。


 魔法の著作権は、完成してから権利者が死ぬか、権利放棄するまでは権利者のもので、権利者が死ぬか放棄されたらギルド管理魔法になる。そしてギルドの職人がちょいちょい改良を施していくんだそうだ。

 実際、〈灯火〉にせよ〈洗浄〉にせよ、開発者の死後も三十回以上改良版がリリースされていて、相当にブラッシュアップされている。だからこそロングセラーになりえたのだと。


 ……理想を言えば、そういう長く使われる魔法が開発できればいいのだが、一般魔法にせよレベル魔法にせよ、今まで五百年ぐらい積み重なってきたアイディアを何千人、下手したら何万人という魔導士が考えてきたわけだから、文字通り革新的!というレベルの魔法を生み出すのはかなり難易度が高い。

 だからそこは、俺の記憶にある知識や技術を魔法で実現したら生活向上しなくね? というのを考案していかなければならない。

 そういうものでなければ目新しさも感じられないし、その他大勢の中に埋もれてしまいかねない。

 俺が死んだ後に再評価、とかされても別に嬉しくないしな。死後の名誉より現世利益だよ。



事前に、すでに登録された魔法でないかどうか確認はしておくのが、魔法開発の常識です(´・ω・`)

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