魔導車は可能か
「そういえば、回転魔法ってないんですかね」
しばし後、夕食の場で、マシュさんに訊ねてみる。
「……うーん、回転ねえ……対象を回転させる魔法ならあったと思うけど」
いや、そーゆーのでなくて、「回転軸」を作り出すような……まあ対象を回転させるでのも、使えるのならいいですけど。
要は「魔導車」を造りたいんですよ。そーゆーのなさそうですから。
こないだの盗賊ミッションで、〈エアロスリップ〉っていう摩擦低減の魔法があったけど、あれを車軸にもかけてたんで、もしかしたら誰かベアリング魔法みたいなのとか、モーター魔法みたいなのを考えていないかとか思ったんですが。
いやそりゃあね、物理的に性能のいい馬車とかありますから、それ使うたらええんちゃう?って言われたらそれまでですけど、魔法で完全に全部造れたら、高速移動とか輸送でそれなりに用途もあるだろうと。
「そういうのだと、力法の範囲かな。私の知る範囲では、戦闘用で、トゲの生えたセラミック弾を回転させて撃ち出す、っていうのがあったけど……車軸みたいなものを回転させるものではなかったな」
……なんでこの世界の連中は「悪・即・斬」みたいな戦闘魔法ばっか考えるんですかね。
魔法ってもっとこう、生活を豊かにするために使ったら良かでしょが。人と魔物が争う暗黒時代でもないでしょうに。
いやまあ、一般魔法があれだけあるからそっちも考えてはいるんだろうけど、ちょーっと機能的に微妙っていうのが多くてねえ。もっと大規模な複合一般魔法みたいにすれば、電子レンジとかでも作れそうな気がするんだけど。マグネトロンを魔法で実現するのってできるんかな……それ以前にそこに通す電気をなんとかせんと。〈雷弾〉系列から電気取れんかな。もしくは直接マイクロウェーブ放出とか……どうやるんだっけ。高電圧をどうにかこうにか変換するとマイクロウェーブが出る? ぐらいしか知らんな……現代知識が大雑把で役に立たねぇー。こういうのは原理まで知らんとあかんわいな。
……となると、魔導車みたいなのも開発されてないか?
あーそうか、実際稼動させるとバカみたいに魔力食って実用性がないとか……ありうるな。
でも軸回転だけなら、モーターとして色々応用できそうやん?
馬車みたいなのに、車軸に回転魔法かけて動かす、ぐらいなら魔力もそんなにかからんだろうし。
馬やらネズミやらいなくても走る車! いいねー、科学と魔法の融合っぽい。物語が始まっちゃうね。パワーアシストレベルでもいいかも。
しかしそうなると、魔導具開発の方面になるんじゃねーかな?
魔導具開発って、そんな簡単にできるもんだろうか……。
「魔導具っていうのは、魔法の制御式を物体に書き込んで一定の効果を出せるようにしたものをいうんだよ。
魔導士なら誰でも造ることは可能だけど、そこはそれ、アイテムマイスターは魔導士が適当に作るモノよりも効率的でスタイリッシュなモノを製造できるっていう点で優れているから、アイテムマイスター足りえるんだよ」
確かに、魔法ったって全員がなんでもかんでもできるわけじゃーないからな。得手不得手があるから個性も出るし、得意分野で輝くこともできるわけで。
「うーん、うちらにゃよーわからん世界やな……」
ナオは俺が何でそんなに魔導に入れ込んでいるのか理解できない様子。
そんな脳筋じゃ、これからの世の中他人に騙されて利用されるだけの愚かな子になるよ!
「騙してくる奴なんかブン殴っといたらええやん」
……あのねえ、それじゃすでに騙された後だろ?
騙されないように賢く生きようとは思わんのですかね?
「しゃーから信用できる相手以外はとりあえず殴るんよ」
……この脳筋娘はッ!
拳以外に語る術はないんかい!
人間なら言葉で語ろうよ……ケモノじゃないんだから。
「しゃーかて、人間は言葉で騙るやん? 拳と痛みは嘘吐かんで」
……コイツ、無駄な屁理屈ばっか覚えおって……。
ほんとこの娘は世間で上手くやっていけるか心配だよ。
まあいい、俺が騙されなきゃいいんだから。
その点、シェラちんは世渡りは上手そうだよね。裏側を知ってるだけに。
「いやあ、ボクだって詐欺師見分けられるわけじゃないし……それに騙すような奴には、お返しするから」
……しれっとコワいこと言うなコイツ!
なんかシェラちん騙したら、翌日には川とか山中に見知らぬ死体が……ぞわっ。
まあコイツはほっといても大丈夫か……大丈夫じゃねえな。
詐欺師まがいの連中が世の中闊歩してるんだ、死体がいくつ増えてもおかしくねー。
詐欺師さんの安全のために俺がなんとかしないと。
……なんで俺が詐欺師の心配してやらんといかんのだ。ケモノか魚のエサになっとけ。
翌日。
「すまないケン君、回転軸魔法、あった」
……エッェ――――ッ!?
朝食後、「ちょっと魔導士ギルドへ行って来る」と出ていたマシュさんが、帰ってくるなり頭を下げたのだ。
「私自身、記憶が曖昧だったんで、ちょっと調べてみたんだ。なんか引っかかるものがあったのでね。
そしたら登録済みだったよ。きっとケン君のような発想で創った人物がいたんだろう」
……ちくそう、いいアイディアだと思ったのに!
「……で、その魔法って、どんな性能でした?」
一応中身は聞いておかないとな。
「ケン君確か、それで車を造りたいって言ってたよね。
それができるぐらいの性能はあったよ。
馬車の車輪の軸にかけて、それが最大で半日持たせられる。加速・減速思いのままで、御者席・搭乗席どこからでも操作できるよう、魔力の操作パネルが出てくる。
同時に軸受けにベアリング+サスペンション機能が作用して、車輪にまで保護障壁を展開、衝撃と摩擦による磨耗も防ぐという、かなり高性能な魔法だった。
あれを誰か使えたら、こないだの盗賊団の行軍、すごく楽になっただろうにねえ……」
……うっく。俺のやりたいこと大体実現されてた……。
……いや待て。
「その魔法って、どこで使われてるんです?」
そんな魔法、使われてるの見たことないんすけど?
「ライ・マーストの王都やアークゥエスミィの首都みたいな大都市で、高級車に使われているそうだよ。
最初は馬車単独で動くからすごく気味悪がられたらしいけど、今はその乗り心地から、王侯貴族やお金持ちの商人がこぞって使いたがっているようだね……この魔法自体がギルドで高く値付けされてて、簡単には普及しないようにされてるみたいでね」
「ほへ? そりゃまたなんで」
……確か、魔法の製作者は販売価格にも決定権があったはず。勝手にギルドで値付けできるようなものではなかったが?
そんなに開発に苦労したのか? そりゃまあ苦労はしただろうけど、そこまでケチるほど人生賭けてたのかね。
ブライト・ワルダー=地球人、で大体合ってますが、詳細は後のエピソードで(´・ω・`)
ちなみに〈魔導車〉の魔法はものすごい魔力食いで、専用のタンク役がいないと使い物になりません。
お貴族様レベルの財力があって、それなりの魔力を持った専属魔導士を雇えるぐらいでないとダメです。
なので、価格云々だけが理由ではなく、使いこなせる人物が少ないという現実もあります。
ただ、開発当初は航続距離は三十~四十キロでしたが、現在では改良されて、小型の馬車ぐらいなら最大百五十キロぐらい走るようになりました。
価格も三百万ゴネルぐらいなので、豪商であれば持っていておかしくない魔法になっています。




