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アイディア出し


「とりあえずは、《シールド》の応用から考えていこうか。いろいろ応用法を考えて行けば、自然と行き着くような気がするんだよね」


 そうですな……こないだの続きということで、ブレーンストーミングしてみますか。

 二人でテーブルを挟み、お茶を脇に置いて、メモ紙を前にアイディア出しの雑談を始める。

 まあ基本、俺が質問してマシュさんが答える、そういった形式でいいらしい。

 どうせ俺は魔法素人、解らないことや可能性についていろいろ聞いて行けば、それがおのずと答えになるのではないかと、そういうことらしいので。


「えーと、じゃあ色々と最初に確認していくところからやりましょう」

「うん、何でもいいよ」

「《シールド》って、基本は魔法防御だそうですけど、物理防御もありますよね」

「うん、あるね。魔法防御だけじゃやっぱり使いどころが限られるから、物理防御を後付けでベーシック・スペルに追加してあるそうだよ」

「あ、じゃあベーシック・スペルでの物理防御ってのは最初はなかったんですか?」

「そうだね。物理防御は多少レベルが上がると付与されるオプション機能になってる。だけど双方最初からあった方がいいからね」

「……するってーと、ゴブリンキングはベーシック・スペルだけでも多少魔法レベルが上がってたってことになりますね」

「そういうことになるね。《シールドバッシュ》を使ったっていうことは、物理防御ができるレベルにあったっていうこと。そもそも単純な防御じゃなくて、攻撃にも応用していたわけだから、オプション機能を解放していたことになる。そこそこ魔法レベルは上げたのか、それとも最初からあったのかは解らないけどね」

「ああいった知性爆発で手に入れた魔法って、最低レベルよりも高くなるんですかね。やっぱり人間より急激に強くなるからですか?」

「……うーん、BCがどのように魔法レベル判断をしているかは完全に公表されているわけじゃないけど、総魔力量や知性のレベルを自動的に判断して、使えるオプションを解放しているというのが一番有力な説だね」

「だとしたら、知性とか知識、魔力の全てが揃って初めてハイレベルオプションって解放されるってことですか?」

「そういうことになるね。でも知識量は関係ないよ。ものすごい知識を溜め込んだそれなりに頭のいい魔法学院の生徒はいたけど、それだけじゃ最低レベルしか使えなかった。多分魔力量の方が重要なんだと思う」

「でも、やっぱり知性が伴わないと魔法自体が使えないと」

「だね。魔法というものを理解できなければ、BCをもっていたところで使いこなすことはできないからね。まぁ魔獣といわれる奴らの中には、本能的に使える奴らもいるけど、そういった魔獣は知性も動物としては高い方だからね」

「なるほど……で、物理性能のことなんですけど」

「物理性能ねえ……《シールドバッシュ》に使えるぐらいだから、強度はそれなりにある。動かすこともできるし、魔力が維持できれば持続時間も保持できるね」

「それがどれくらいのものかが、漠然としたところなんですよねー。物理性能が明確になれば、それに合った使い方が考案しやすいと思うんです。

 具体的に、どれくらいの時間持つのか、どれくらいの重さを支えられるのか、どれくらいの大きさにできるか、それにどれぐらいの魔力が必要なのか、等々を完全に客観数値化できないものかと」

「……なるほどねえ。魔力量の数値化かあ」

「もしそれができれば、魔導士の個々の評価が非常に明快になると思いませんか? 魔導士ギルドだって、例えば知識で評価した場合と実戦経験と成果で評価するのと同レベルで評価はしてないとは思うんですが、結果として同じようになってしまったとして、さあ緊急事態です、同じレベルの評価の方々なら対処できますよね?とか言われましても、それで同じ成果が出せるとは思えないでしょう?」

「確かにそうだけど……その魔力指標を具体的に定めるための基準が必要になるよね」

「そこんところは、ギルドと応相談でもいいんです。何で評価するかによって変わりますから。

 ただ、何の能力で評価するにしても、絶対基準があって、それと比較する方が客観的評価ができますから」

「うん、そうだな……まあ基準を決めるという案はギルドに進言しておこう。必要な測定器は、ショップ・バラールにでも頼むことになると思うけど」

「そういうのがあると、新魔法の威力とか強度とか耐久性とかの客観測定もできるようになると思うんですよねー。すると具体的に魔法の性能評価ができるわけで。

 大体の魔法が『使う魔力によって変わります』だけじゃあ、実際に使い慣れるまでどんな性能か判らないし、購入してはみたものの、これは使えねー!なんて後で解ったら、使う側としては損にしかなりませんし」

「まあ、それを使いこなすのも魔導士の能力、というのが今までのギルドの方針だからね……でも、これからの時代はそういうのも必要になるだろうね」

「だから、先に俺らでそういう基準を制定してしまおうかと。すぐにできるものではないでしょうけど」

「ふむ……悪くないね、その案」

「今はまだ制度として定着してないから大したことないように思えますけど、国家が基準を決めることってあるでしょう? 例えば酒や油、穀物用の計量枡。あれは一応国の計量基準で規定されたものを使ってますよね? あれも税金が誤魔化されるのを防ぐためでもあるんですが、国が基準決定権を持っているってことでもあるんです。

 その際には、国が基準を変えれば、国民みんながそれに従わなくちゃいけなくなります。

 なので、基準のないところに自主基準を作って、その制定に関する実質権限を握ってしまえば、それに関わる権利は自動的についてくるって寸法です」


 前世でも、色々な基準で世界は動いていた。日本でもJISだのJASだのあったし、欧米もANSIだのW3Cだの、自主基準を標準化しようといろいろ綱引きしてた。石油は樽で取引されていたのが「バレル」って単位になったし、ポンドやらガロンやらヤードていう単位も、実生活で使われた容器が基準になっているから、メートル法で換算すると端数単位になる。

 それでも生き残って使われるのは、「先に決まって長く使われているから」である。


「基準で権利か……そういう考えはなかったな……」

「もちろん、最終的にはギルドがその実権を握るようになるでしょうが、世の中にはデファクト・スタンダードというものもあるんですよ!」

「でふぁくとすたんだーど?」

「業界標準というやつです。あ、ブライト・ワルダーの言葉ですよこれ。

 例えば、ギルドには新魔法を創るにあたって、審査・承認・配布のためのルールがあるわけですが、実質それはギルドのある国全てで適用されていますよね」

「そうだね。新魔法の制作基準は、全てギルドが決めているね」

「それがデファクト・スタンダードというものです。

 国の中では、魔法の使用や研究に対して色々独自の基準を設けているところもあるでしょう?

 でもほとんどの魔導士は、ギルドの方針に従っている。国の基準よりも、魔導士のやり方を熟知した業界の基準です。

 国も、その業界に関して、ギルド以上に知っているわけではありませんから、自動的にギルドの基準に沿ったものにするしかないわけです。よほど特殊な事情でもない限りはそうなります。

 つまり、業界標準が実質上、国の標準と同様に扱われてしまう、これがデファクト・スタンダードです。

 業界が十分に力を持っていると、業界が基準を変えることで、国もそれに従わざるを得ない、それくらいの影響力を持つということにもなるんです。だから国家でもギルドの意向は無視できない。

 ギルドのお偉いさんはそこいらへんを十分解っているはずです」

「な、なるほどね……」

「つまり、俺らがここでギルド内で新しい規格標準を提唱して、それが採用されることになれば、例えばその基準魔力規格の名前が『マシュミーヤ基準』なんて名前になってギルドに残ったりすることもありえるわけです。

 そういった基準策定に関われば、以後も自分のやりやすいように基準を決めたりすることもできたりするんですよ! 他者の決定した基準だと、使いづらい場合に勝手に変更するわけにいきませんけど、自分の決定が基準になるなら好き勝手やれますし」

「そ、その名前はともかくとして……新しい基準を考えるのは確かにいい考えではあるね」

「新魔法の性能基準を決めるために必要なことだと思いますんで」

「……思ったより大事になってきた……」

「ま、それはそれとして、《シールド》のパラメータについて聞きたいんですが」

「あ、うん――」


 ――気がつけば、外は暗くなりかかっていた。


「いやあ……この時間だけでこれだけの案が出たけど、想像以上だったねえ」


 と、マシュさんは手元のメモ束を整える。あれやこれやと何十枚分、アイディアを書き込んだかわからない。

 うーん、ホワイトボードが欲しいのう。書いたのがすぐ印刷できるやつ……ってそれはここじゃ無理か。


「ホワイトボード? ああ、そういえばジシィ・マーダの首都でも扱ってたかな……」


 ……え?


「多分、アークゥエスミィの首都とか、ライ・マースト王都でも扱ってるんじゃないかな。モノ自体はレアだからお高くはなるとは思うけど」


 ……あるんかい!

 ってか、ここ地球と以前繋がってたんだっけ。それならそういうモノがギルド経由で流れてくるのは十分あるな……。


「魔法でホワイトボード再現とかできれば楽なんでしょうけど。書いたものを紙に縮小コピーして残すとこまで含めて」

「……君はまた無茶を言うねえ……でも、それができれば、専用ペンや紙の消費も減らせるから、懐には優しいよね。魔法研究している魔導士には受けそうだ。あと、ギルドの事務系にも」


 と、マシュさんは新しいメモに「ホワイトボード魔法」のことを書き込んでいく。


「これ、冒険者ギルドとかの掲示にも使えますよねー。書いてー消してーを楽に繰り返すことできますから。いちいち紙に書いて張り出さなくても、そこにちょちょいっと書き込むだけでいいわけですし。簡易連絡板みたいなものとしても使えますよ。ここに連絡事項書いておくから!って、別行動してるパーティメンバーに向けて、とか」

「……うん、いいねそれ。出来たら売り込もう」


 むかーし駅にあった伝言板のパクリだけどな。XYZで伝言だすとスイーパーに連絡が行ったりしたやつ。今の地球でならSNSにでも暗号上げるとこだけど、こっちならこの方がいいだろう。

 うん、アイディアだけならいくらでも広がりんぐだな。

 まあ今日だけでも十以上の具体的魔法のアイディアが出たわけだが、まずどこから手をつけるかだな。

 明日以降も同じようにいくつ出てくるかわからんから、適当なところで実際の開発に取り掛からんとなー。



公的に策定された基準は「デジュールスタンダード」と言うそうです(´・ω・`)

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