エルフの王国
新章(´・ω・`)
ハイ、こちらレポーターのケンです。
今、私は「エルフの王国」へ来ていますー。
見てください、周りを見回しても、エルフ、エルフ、エロフ! ウホッ! 耳トンガリだらけですよ?
どっちを向いてもエルフ、どっちを向いても異世界!
……レポーターごっこはさておき。
ここはアークゥエスミィ連合王国の北東部に位置する、エルフ王国と人間の王国が接する国境付近。そのエルフ側の町である。
エルフ王国は、正式な国名を「シルヴェン・シュフトルザュヤ・デァフ・スフィキンレン」とかいうのだが……それもエルフ語では正しい発音ではなく、人間には正しく発音できない言語なので察して欲しい。
人間の国からは「シルヴェン・シュフトルザゥヤ王国」、通称「シルヴェン王国」と呼ばれている。種族名的には、シルヴェンとかシルヴェインとか。
……ちなみに「エルフ」という呼称は、人間たちがいつしかそう呼ぶようになったので、「まあそれでもよい」と王国で正式に決定された「人間風の種族名称」だそうである……なんでも「人間がつけた名称にしては響きが良い」から、だという理由でだ。エルフってアホなんちゃうん? エロゲでも作っといたらええねん。
シルヴェン王国から南東に隣接するのが人間の国、「シルネッガー王国」。かつてはエルフたちと敵対してきた歴史があるそうだが、五代前の王が代替わりした際に休戦条約を締結し、三代前が終戦・和平条約を締結。同時にアークゥエスミィ連合王国の一つとなった。
和平条約を締結したシルネッガー七世ルバール王は「文民王」として名高く、エルフたちとの通商で国を富ませ、エルフたちにも利益を与えることでその立場をより強固にしていった手腕が評価されている。
そんな両国なので、シルヴェン王国国境の町・サイネヤールュも、今は人とエルフが入り混じる、和やかで穏やかな雰囲気の町である。
「久しぶりだけど、変わってないなぁ」
マシュさんが、町の中央通りを見渡して呟く。
今ここには、マシュさんと俺、ナオ、シェラの四人。
ビュスナとリリエラさんは、しばらく気功師の村に滞在するという。
ナオとシェラも、少し町を観光したら、西のパン・セリンへ向かうことにしているそうだ。
気功師の村では一泊しただけで、俺たちはすぐにマシュさんの故郷へ向かった。村はほんとにド田舎の農村で、宿も何もなかったので、村長宅に泊めてもらった。
……ただ、「気」が満ち満ちているので、一泊した翌日は体調がすこぶる良くなった。
これで温泉でもあれば、いい湯治場になるんだがなー。湯治じゃねーけど。
――ビュスナの両親は、結論から言えば行方知れず。
追われ追われてどこかへ逃げたのだろうと思われるが、この村がなくなったものと思ってどこかへ旅立ったのか、逃げ延びた先で落ち着いたのか、それは解らない。
ただ、ビュスナが村に来たことは、もしいつか両親が村に来ることがあれば判るので、今会えなくても安心はしてもらえるだろう――ということで、その件は一段落。
それで、ビュスナの一件は片付いたと思いきや。
「お前も村の出身だ、才能は受け継いでいるはず。少しここで気功術を学んでいくといい」
と、ベレー・レイヴァーが勧めたので、ビュスナはそれを受けてしばらく修行することにしたそうだ。
少なくとも2・3ヶ月はそれに集中していくそうなので、俺が魔法開発するぐらいの時間はとれそうだ。
……魔法の他にイヤな力つけそうだな。コワいコワい。
俺も修行サボったら奴にナニされるか……対抗する力は身につけないと。
気配消して逃げられるようにしよう。シェラの弟の件でえっらい目にも遭ったしな。
ナオの家はパン・セリンの中部よりやや南西側の元開拓村だった町で、ここからだと馬車でもさらに二週間ぐらいかかるらしい。
まーあぶく銭も入ったことだし、旅費はたんまりあるから、土産やら足代で困ることはなかろう。
ナオは地元に冒険者ギルド(あっちでは護衛官ギルド)のお偉いさんの知り合いがいるというので、そこでもう一度稽古をつけてもらうそうだ。
シェラはシェラでパン・セリンでも色々やることがあるとか言ってたので、まあヒマではないんだろう。何をするのやら。
二人はしばしここで観光休暇を楽しみ、それから出発するとか言ってた。
ヒマそうだったら手伝わせよう。
それはそれとして、俺は魔法開発を始めるべく、マシュさんの研究所にお邪魔している。
木造漆喰三階建ての「マシュミーヤ魔導研究所」は、教室も兼ねているため、一階は座学講義室、二階が図書室と研究室、三階はマシュさん個人の書斎になっている。裏手には魔導実験場もある。
研究所とは別に、すぐ隣に居住用の家もある。自分用に3LDK+内弟子を住まわせるためにキッチン・バス・トイレ共同のアパート形式で、六部屋がある。
それとは別に、マシュさん自身の実家は、研究所から少し離れたところにあった。地主?と思ったが、エルフならそれくらいあちこちに家持っているのが普通らしい……全員地主か! くそうブルジョワめ……痔主になってしまえ!
……少し斜めに延びた、樹齢二千年以上という大木の根元から、螺旋状に絡みつくように建造された木造家屋は、エルフ式の集合住宅なのだそうだ。それが木の上のほうまで螺旋階段で繋がって、太い枝を土台にいくつも家が乗せられている。
なんかログハウス大好きなキャンパー集団みたいに見えなくもないが……木の幹の周囲が木造家屋だらけでカオスな状態に見えるのは気のせいか……それにあの足場が異様に支柱不足な感じなのが、非常に不安でたまらない。魔法的に強化されてるから大丈夫、とは聞いているが……生前にテレビで見た、中国奥地のガケの脇に造られたおっそろしく足場が不安な山道みたいでぞわぞわする。できれば登りたくはないでげす。
「みんな、大木の傍でないと気が休まらないって主張してね……家が建てられるレベルの大木は、大体こんな感じなんだよ」
聞けば、この「エルフの町」というのは「人間との交流の場」であって、生活の場ではないんだそうだ。
気分的には、「人間風の別荘に泊まって仕事をしている」感覚なのだそうで。俺の感覚だと……オフィス街かな? それとも観光用に造られた町とか? 「未開の部族」風のアトラクションやってる方々みたいだな。
完全に町住まいのエルフは、人間の生活に慣れ親しんだごく少数だけで、九割以上はやはりこうした「大樹の家」を持っている。
マシュさんもそういった一人なのか……と思いきや。
「私は別に町住まいでもいいんだよ。冒険者暮らしもそこそこ長いし。だけどこの家はうちの親が建てたものでね」
……エルフの習慣では、子供が独立するために、親子がこういった「木の上の家」を一軒、協力して建てるものらしい。もちろん親子だけではおぼつかない部分もあるので、親戚や近隣の知り合いが手伝って、一年ぐらいかけて家を建てる。
あれだ、田舎の萱葺き屋根の家を集落全員で修復してるアレに近い感じかな。
マシュさんはといえば、それで家を建ててはもらったものの、独立した後はそこには大して住まずに、冒険者になるためにアークゥエスミィ首都の冒険者学校に入ったそうだ。で、ここの家は知り合いに貸している。
アークゥエスミィの冒険者学校は結構歴史があるが、マシュさんが入った当時はまだ出来て間もない頃で、パン・セリンの元護衛官の教官と共に実戦で「習うより慣れろ」的な授業を繰り返して一人前になったそうだ。
……ビュスナやナオなら喜びそうだが、俺はイキナリ実戦とか御免被りたいわー。俺、準備はしっかりする派だからな。
で、マシュさんは冒険やら魔法研究やら稼いだ金で私塾兼研究所を別途建て、そこを拠点として塾生を教えたり、研究したり、時に冒険者として遠出したりの生活だったので、人間風の生活で別に困ることも何もないらしい。
……とはいえ、故郷に帰ってきたわけなので、親や知り合いのところに顔を見せたりはするのだが、そこに長居するつもりはないので、里帰りしても研究所の方にいることが多い。
だがせっかく建ててもらった家なので、売り払うわけにもいかず、家を建てている間の仮住まいとして利用したい仲間に貸し出しているのである。結構借り手はいるようで、二十年先まで予約が入っているとか……気が早くて長いな!
で、俺はどうするかといえば。
「私の研究所の家に来ればいい。部屋は空いているし、住むのに不自由はないと思うよ」
……ということで、マシュさんの家に滞在させてもらうことに。塾生の部屋の一つを借り受ける。開店休業中なので、今は誰もいない。管理人が時々見に来るだけらしい。ナオとシェラも一部屋ずつ借りたそうだ。
宿代は払うと言ったのだが、「新しい魔法が一つでも開発できればそれでいいよ」とマシュさんは言ってくれた。
むむ、これはちょっと知恵ヒネらねばな……久しぶりにじっくり頭使うか。




