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幕間 闇美食の町4


「本物の闇美食を扱う店――紹介してもらえないかな」


 店主の眼が険しくなる。

 三人の従業員も動きを止め、シェラに視線を集める。


「……お前さん、少しは味が解るようだから忠告しておいてやる。

 ……『あっち』には関わるな。戻れなくなるぞ」

「知ってる。そういう人を見たからね」


 シェラは、「そういう世界」を見てきているから、美食の世界の裏側も知っているのだろう。


「だったら尚更だ。俺のこの店なんぞ、奴らに言わせりゃあ、お遊びか子供料理の範疇だそうだからな」


 ……この味で、お遊びレベルなのか。


「俺の店が、元祖・闇美食っていうのは誇張じゃない。

 一般に使われない素材も使って、最高に旨い料理をどうやって極めるか――それを始めたのは俺だ。

 だが、後からこの道に入った連中には、俺よりイカれた連中がいた」


 ――店主の話によれば、店主は「旨いモノならなんでも料理する」とはいっても、「手に入るなら」という条件付きだ。

 だから、滅多に手に入らないようなものは扱わない。そんな素材では、試作品も作れないからだ。


 だがそこへ、金に物を言わせて希少素材を集めまくり、この店主を超える「闇の美味」を創り上げた料理人が現れた。

 それが、今の「本当の闇美食」を仕切っている人物だという。

 バックには、希少素材を大量に買い集めるぐらいの財力のあるパトロンもいる――それがここの領主、グリド・ヴィショッカだ。


「悪いけど、こっちも仕事でね。どうしてもってお方がいるんだ。

 この店ぐらいなら、多分食べ慣れてるって人からでね」


 シェラの言葉に、店主は眼を伏せ――


「相手は誰だ」

「道楽侯サルカバナスの紹介でね。寄子のマトゥーア伯」

「……あいつらか」


 ……どうやら、シェラの出した貴族の名前に、心当たりがあるらしい。

 まあ俺らの依頼主なんだけど。実際仕事取ってきたのはシェラちんだけどね。


「道楽侯でもこの町は数えるぐらいしか来たことないはずだがな。ウチにも来たことはあるが――」

「どうしても忘れられないんだってさ。普通の食事が全部、味のない何かの固まりを食ってる気分になるって。ここの食事で、やっと普通って思えるぐらいでね。

 それで、食道楽仲間のマトゥーア伯も是非一度、ってなってね」

「……場所は教える。あとは自分で交渉しろ」

「助かるよ」


 ……シェラの出した名前は、お貴族様の美食界では相当な有名人らしい。

 ○原○山クラス? あいつは表の美食しか知らんか。ナントカ学園みたいな料理学校の経営者とか?

 でなきゃあ、○トゥ〇フ料理したい、とか言う狂気の向こう側にいるような奴じゃないと対応できないんじゃ……。


 シェラは店主から何やらメモを受け取り、情報料&料理のお代としてグリネルの札束を置いて、「行くよ」と俺らを促す。


 ……結局俺らは、闇美食の一端を知っただけでノックアウトされたようなものだ。

 怖ぇな闇美食。

 あの店でいいからもう一回食いてぇ……。


「ダメだよ。あのレベルでも、間を置かず何回も行くと、二度と普通の食事が食べられなくなるから。

 そうなったら、人間おしまいだよ。並んでる連中なんかそうなってるんだから。そのためにここに引っ越してきた奴だっているんだし。

 ああいうのは、一生に一回行けばそれでいいんだよ」


 一生に一回って……せめて二回にしてくれ。


「そうなるからだよ。

 本当なら一回目も止めた方がよかったんだけど、ケンが余計なこと言うから……」


 すまんかった。

 夢でも見たと思っておくか……。

 それよりこの二人大丈夫か? ビュスナとナオが、さっきから無言で惚けとるが。


「あ、ああ……いや、なんやもう、今までうち、何食うて生きとったんやろなーと思うとな……」

「……あたし、これからはもう少し、真面目に食べることにする」


 お前ら何を決意しとんの。

 そんなに価値観変わったか? 確かに君ら、食い物に頓着しない面々だけどさ。女子力低いし。

 いやまあ、本物の美食の恐ろしさは解ったけど。

 あれならマンガみたいなリアクションしたくなるのも解るわ。ナオがいちいち「なんやてー!」て叫ぶようになるかもしれん。旨すぎて服が弾けるかもしれんし。異形の食材キメラみたいなのに変身したくなるのも解る。俺のチート能力も「旨いもん食ったら周囲の服がはだける能力」だったら……神に頼んで変えてもらいたい。

 グルメ系マンガのあれがオーバーな表現じゃないことが確認できただけでも、相当な収穫といえなくもない……か?

 これは……地球人向けの限定グルメツアー組んだら……儲かるなこれは。


「そういう商売は後でね。

 とりあえず、ここ、当たるよ」


 お、おう……シェラちんが出した名前って、そんなグルメ貴族なわけ?


「有名な道楽貴族と、その仲間だからね。実際会ったこともあるよ。昔の仕事で、そのときの雇い主についていってだけど」


 ……キミ、ほんといろんな仕事してるね。感心するわ。


「あちこちの貴族について、政敵の顔を覚えて始末するのも仕事だったからね。

 特に美食関係のネタは、どんな貴族だって食いつくから……食事だけにね」


 誰うま。そしてコワいわ。

 貴族なんか毒入りパーティで自分らだけで殺しあっといたらええねん。


「実際あったよ、そういう毒殺パーティ。重鎮含めて、当主が五人ぐらい毒殺された事件が」


 ……あるんかい!

 怖いよ貴族、怖い。マジで。


「まーボクらには関係ない世界だよ。

 ホラ行くよ」


 確かに関わりとうはない。

 君子危うきに近寄らず、況んや庶民においてをや。おおこわいこわい。


 ……もしかしたら、美味だけど毒、なんて料理もあったりするのかね?

 キノコって、毒ある方が旨いとか聞いたことあるし。毒自体がうまみ成分でもあるとかなんとか……。


「それなら無味無臭の毒使えばいいんじゃない?」


 ですよねー。

 だいたい味付けに使ったら、誰が味見すんのって話だし。


「皇帝やら国王やら高位貴族の毒味役なら、毒の味も解るらしいよ? ボクはそこまで解らないけど」


 ……「解らないけど、効かない」、だよね。

 あんたも大概やで。村雨兄弟かよ。


 そういえばミューラザッド君はどうしてるかね……どっかでくたばってくれてるといいんだけど。

 無理? デスヨネー。復讐に燃えてるらしいからな。

 ……あいつにここの料理食わせて洗脳できんかな。


「料理ってそういうもんじゃないけど……できないことはなさそうだね」

「いや出来る、出来るて」

「十分出来るわね」


 ……キミら相当やられたね?

 俺もやられたけどさ。

 食の多様性ってより、奥深さにうちのめされたって感じで。

 ああいかんいかん、それこそが闇美食の罠だって言われたばっかじゃねーか。


 美食は罪、美食は罪、贅沢は敵、贅沢は素敵……罪でもいいからもう一回……いかんいかん。


 こりゃあしばらく、ワイルドな食事だけの野外生活でもした方がいいかもな……。



旨いものを食うと口からビームが出る魔法が……ありません(´・ω・`)

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