幕間 闇美食の町3
腹が減る(´・ω・`)
「というわけで、そういう危険なブツを取り扱ってないかどうかを調べればいいんだけど――」
「それってどないしたら判んねん」
「まずは闇美食へ近づく必要があるな」
「えぇー……何食わされるかわからんやん」
俺も得体の知れないもん食わされるのは勘弁だな。特に虫系はアカン。ダメ。ゼッタイ。
アカンもなにも、グロ系やキワモノはアカン。俺はそこまでこの世界の食事に絶望はしてへんのんや。神の舌も持ってないし。
どんだけ旨くても、見た目がグロだったら……何のために料理の盛り付けが考えられてるか、闇美食の連中は知っとるのかいホンマ!
「とにかく、そこいらへんに気をつけながら町もう一度回ってみようよ。
ちょっと裏道行けばいろいろ見つかりそうだし」
「さすがにそう簡単に見つかるとは思えんのだが……」
……だが、俺の予想に反して。
「ここそうじゃない?」
「…………」
シェラの指さす先には、「元祖・闇美食の店」とかいう幟を立てた、真っ黒なおどろおどろしい店があった。
いや、正確には、黒に赤のファイヤーパターン。珍走がバイクのタンクに描くやつだ。ガソリンタンクにファイヤーパターンてアブナイわ。
なんつーか、炭焼き料理ならありかな、と思えるようなデザインセンス。
しかも、外に並んでる奴もいるし……並んでる奴は普通っぽいけど。
「普通に並んどるな」
「……しかも一本裏道に入っただけで見つかるとか……」
「いや、こういうのはな、闇とかいってても結局は一般人が受け入れられるレベルの食い物なんだよ。
でなきゃあこんな目立つ店のわけがないだろ」
と、俺が見解を述べると。
「ちょっと兄さん、その言葉は聞き捨てならんね」
……店の待ち行列の整理をしていた、真っ黒な制服の男が、こちらにゆらりと寄ってきた。
ちょっと痩せ気味ではあるが、眼光鋭い、背の高い男。一見すると、ラーメン屋なんかによくある黒シャツに黒ズボンに前掛けの、どこにでもいそうな店員だが――。
「ウチはそこいらの店とは違うんだ。一般人受けする料理? そんなこと言われちゃあ黙っていられんな」
と、くってかかってきた。
店員の背後からは、「そうだそうだ!」「この店のレベル甘くみるんじゃねえ!」とか、客の煽るような声が挙がる。おいやめろ。
「あー、いやその、決して店のレベルが低いとか、そういうことを」
「そうじゃねえよ。俺らが一般受けするような、どこにでもあるような料理を出してるて思われるのが気に食わねえってんだ。
そんな風に思われたまま帰すわけにゃあいかねえんだよ」
……マズい。
料理が、じゃない。いや、料理もかもしれんが、この状況。
「罰ゲーム」に追い込まれているような状況は確実だ。
「お代はいらねえ。
その代わり、うちの店で一番の料理を食っていってもらう。
その認識を改めてもらうぞ」
……いや待って待って。
俺別にそんなつもりやないねん!
「店の真ん前でそこまで言われちゃあ、俺だって黙っていられん。
こいつはプライドの問題だ。お前には必ず旨いと言わせてからでなきゃあ帰すわけにはいかん」
「……そうだね、ここはおとなしく味わっておいでよ」
シェラの奴、見捨てやがった!
「……せやな、食いもせんと批判したらあかんわ」
ナオ! お前さっきと言ってることちげーだろ!
「料理人のプライドっていわれたら、断ったら余計にプライド踏みにじるでしょ。そこは受けて立ってあげなさいよ」
ツン子てめー! 自分が被害に遭いたくないからって俺を売るのか!
三人とも目を逸らすな!
「ちょうどいい。それならお仲間にも味わって判断してもらおうか、俺の最高の闇料理を!」
店員の言葉に、三人の表情が固まった。
ふはははは、俺を売ろうとするからだ!
逃がさへんでぇ~!
……俺は、美食をナメていた。
確かに、材料は得体の知れない魔物の一部だったり、毒々しい色の草やらキノコやら得体の知れない蟲だったりする。
カウンターに並んでいる素材は――かつて、田舎の工場に出張で行ったときに、現地の工場長に連れられて行ったことのあるゲテモノ料理屋でもみたことのあるようは、魔物の***やら何やらを酒に漬けた瓶が並んでいる。
……見るからに食欲を失わせるラインナップを並べるのが、こういうゲテモノ料理の店なのだ。
さて、他の客にも退路を塞がれ、監視され――カウンター席に並ばされて見守られる中で、店主の料理が始まる。
うう、イヤだなあ……口は災いの元。これから口の中に災いが戻ってくる……うう。
まずはこいつだ、と、その中から得体の知れない小動物が漬けられた酒を、ショットグラスに一杯ずつ出される。
「……へぇ、もしかしてキノコモグリハナモグラかな?」
シェラの言葉に、店主が反応する。
「……お前さんは少しは解ってるようだな」
「以前一度だけね」
と、シェラは目の前の酒を、香りを確かめてから、くいっと呷る。
「……うん、いいねこれ」
そう呟いて、シェラは隣に並ぶ俺らにも、眼で「同じように」と促す。
……まずは、俺がいかなきゃならんのか。
俺は眼を閉じて、一気にグラスを呷る。
これくらいでビビッてたら、このあと乗り切れんのだ!
……と思っていたら。
「……ほぉ……」
なんというか、動物なんか漬けてたら、ハブ酒みたいなナマグサ酒かと思っていたが。
強いには強い。喉を焼くような感覚が、その強さを示しているが――微かな甘さと、ハーブ酒のような、爽やかな香りが鼻に抜けていく。後味が喉にも心地よい――なんだこれ!
「キノコモグリハナモグラは、キノコや薬草を食べるモグラでね。だから生臭さもないし、食べた薬草の薬効もある希少動物なんだよ」
「よく知ってるな」
「教えてもらったのを覚えてただけだよ」
……シェラの解説に、店主の機嫌がよくなっている。ように見える。
隣のビュスナ、ナオも躊躇いつつも酒を口にして――「え?」という顔になる。
その反応を見て、店主が次に前菜を出す。
「フェアリーリングとアダマントキソ草のクラペッタソース和えだ」
……その後、何を出されたのか、俺はロクに覚えてなかった。
だが、「天にも昇る心地」というのは、こういうのを言うのだろう。
その証拠に目の前の皿は、出された後、気が付くと空になっている。
「え? 俺食ったっけ?」と思うが、なんか「食った満足感」だけは残っている。
腹も膨れているから、食ってはいるのだが……何がどんな味だったのか、記憶が半分飛んでいるみたいに、朧気にしか思い出せない。
食後の味の印象が強烈すぎるせいだ――と気付いたのは、かなり後になってから理解したぐらいだ。
「どうだ兄さん。
これでウチの力量は解ってもらえただろう?」
……ああ、軽く大衆料理のような店と同列に見たことは詫びよう。全力で詫びる。
この店は超一流だ。いや、一流以上の零流でもいい。それは俺の舌が保証する。
「食え」と言われなくても、俺から食いに来る。
「解ってくれりゃあいい」
店主は、口に僅かな笑みを浮かべただけで、食器を片づける。ギャラリーからも拍手が沸いた。
陰気そうな見た目と違い、店主の腕は確かなものだった。
俺たちがここまで食事で骨抜きにされたのだ、認めないわけがないだろう。
「……ところで店主さん、一つ聞きたいんだけど」
……俺たちが惚けているの違い、シェラだけは正気というか、一人「仕事」をしていた。
「本物の闇美食を扱う店――紹介してもらえないかな」
ほんと紹介してほしい(´・ω・`)




