幕間 闇美食の町2
「よっしゃほんなら、まずは腹ごしらえからしよか」
「そうだね、本格的な観光はそれからでいいし」
「宿はどうするんだ」
「そんなん適当に取れるって聞いたで。客の絶対数が少ないから、宿はどこでも空いてるてな」
「よしじゃあ腹満たしてからほかの欲も満たすとするか」
「おっとケンさん、あんたニラまれてるから自重せんとアカンでー」
ナオがニヤニヤしながら、俺を睨むもう一人の女子メンバーを指さす。
「……別にこいつが何しようとあたしの知ったことじゃないけど、パーティの評判落とすようなことはして欲しくないだけよ」
「あーハイハイわかったわかった。うちが監視しとくさかい、安心しぃや。
それとも、あんたべったりひっついとったら、こいつも悪さでけへんで?」
おおっとナオさんや、そいつぁ俺も勘弁ですぜ?
女連れでお姉ちゃん遊びするとか、何の罰ゲームやねんと。
「あたしはこいつの母親じゃないから」
おいおい、俺は母親の付き添いが必要な歳じゃあないぜベイベ?
むしろ俺がお前が無軌道に走り回るのを止めてくれって言われてるぐらいだ。聞いてるかい?
「まあまあ、とりあえず各自今日は分かれて情報収集ってことでどう? 何ならボクとケン、ナオとビュスナ組に分かれてさ」
「おー、そんでええんちゃう? ほしたら今日はメシ食うたら二手に分かれて、また後で合流ってことにせぇへん?」
「そうだねー、情報収集にしても、男女別で行けるところも違うし、それもいいんじゃない?」
「ビュスナもそれでええよな?」
ナオさん、俺には聞かんのですかね……って何ですかシェラちん?
「いいから黙っておきなよ」
……むう、シェラちんがこういう短いアドバイス寄越す時は、黙って従うのが吉と。
「……わかった。それでいい」
ビュスナが不承不承といった顔だが了承したので、今日はそれで行動することに。
「ほしたら――あれ。あの広場の噴水んところで、夕方また落ち合おうや」
ナオが指差した大通りの先に、噴水が見える。そこまでの両側に、宿らしき表示が何件か見える。
「その前に、まずは腹を満たさんとな」
とりあえず入った店は、価格がリーズナブルな割には、非常に美味な店だった。思わずシェフ兼店主に礼を言った。
だが店主曰く、「うちはこの程度の値段しかつけられない、二流の店なんだよ、ここではね」と言っていたが……いやいや、他の町なら一日でトップシェフですやん。そんなレベルだ。
だが、よく見れば店内の客は、俺らの他に一組だけ……ここではそんな腕だから、ここで「一流の値段をつけられる店」になりたいんだそうだ。
うむ、向上心のある職人はいいね!
「せやったら、一流の店やったらどんだけ旨いんやろな……」
「……すでに胃袋から欲が湧き出てきとるがな」
「さすが欲望の町だねぇ……食だけでも他の町とはレベルが違うね」
食後、噴水広場にて、俺たちは改めて、依頼内容を思い出す。
「闇美食の実態を調査し、できれば手掛かりを掴んでこい」――この「闇美食」とかいう中二ワードが、どうにも引っかかる。
「闇て言うからには、表では食べへんようなもん食うとんのやろな」
「シェラ、お前なら何思いつく?」
「そうだねぇ……聞いたことあるのは、人の脳味噌に人肉、魔獣の内臓、毒のある生き物とか……」
「ゲテモノばっかりね……」
「人の美食ってのは、行き着くとゲテモノになるらしいからな。人の食わないモノに行くから。
俺が聞いたのは、人の脳食うときに、生かしたままテーブルの真ん中に首だけ出して、頭の骨を切り取って脳を出して、それをスプーンでさっくりすくいながら味わうとかいう……」
「うぇッ……えっぐいなあもう」
「そこで脳を食われている奴の反応までも楽しみながら食うのが最高だとか。脳は直接痛み感じないらしいから、食われてても痛くはないんだって」
「やめぇやもー」
「それはボクも知ってる。最初は猿でやってたんだけど、人でやるからこそ本物の美食だとかなんとか」
「やめい言うとるやろ。ホンマ金持ちっちゅーのは度しがたいなー」
「まぁそういうのとは別方向もあってね」
「別方向?」
「……バケモノ食い、っていうのがあってね。要は、有名だけどなかなか狩られることがない珍しい魔獣とか怪物を食おうって会があって」
「そんなのもあるんだ……」
「まぁリザードマンとか獣人とか、ゴブリンあたりなんか初心者レベルでさ。
中にはユニコーンとか、ケットシーとか、それ妖精なんだけど食えるの?ってレベルのものまで食おうとしたり。ドラゴンなんて食べようと思っても食べられるもんでもないし。アンデッドなんか食べようと思うモノじゃないし。実体ないのにどやって食べるんだろうね」
「……ホンマに食えるんか? つーか捕まらへんやろ」
「わかんないから食べてみようとしてるんじゃない?」
……アタマオカシイ。
地球にもゲテモノ食いならすげーハイレベルなのがあるみたいだからな……考えたくないけど。
いやまあね、美食の世界には「グロいものほど旨い」「臭いものは癖になる」とかいう経験則があるとか聞くけどさあ……。
もしめっちゃクサいものとかグロいものとか出てきて、「旨いから食ってみ?」っていわれたらどうする?
「あたしはパス。近寄るのもゴメンだわ」
「ウチも食いたないな……」
「そういうモノだから、食べてみる価値があるんだってさ。闇美食ってぐらいだから、それくらいありだよ、あり」
「ないわー」
「そうね、ないわ」
「あれへんな」
「まぁ普通そう思うよね」
俺らの全否定に対しても、シェラは苦笑のみ。
「まぁ人間以外の食事でも、単純にありえないもの食べてる場合もあるしねー。
エルフだって、美味虫って言われる珍しい虫を珍味だって喜んで食べたりするよ」
「……マジかい」
「マシュミーヤさんに聞いたから間違いないね。リリエラさんも『あれだけはないわー』って言ってたけど。マシュミーヤさんは『すごく美味しいのに……』って残念そうに言ってたぐらいだよ。食べた人間は全員絶賛してファンになってるんだけど、そこまでのハードルがねえ。特に見た目が」
「そらまぁな……相方が虫旨そうに食うとったら引くわなー」
「獣人だって、種族によっては『血塗れの生肉最高!』って種族もいて、生きた獲物にその場でかぶりついて食べるのが最高の美食っていうのもあるんだよ。特定の動物の、それもどれくらいの年齢のやつの血でなくちゃダメだとか、血の味にもこだわりがあったりねー」
「……それはゲテモノっちゅーよりただのグロやん」
「獣の習性もあるから、人間としたら相容れないとこもあるけど、それは種族の差だと思うしかないね。
吸血鬼だって、もしかしたら他の生物なんてみんな『食事が詰まったモノ』としか見てないのかもよ?」
「……吸血鬼の美食いうてもなー、どこそこ地方に住んでる人間の血は旨いとか、そーゆーブランドでもあるとか?」
「イヤだなそんな吸血鬼ブランド。その地方に『この町の住人は吸血鬼に狙われやすいので注意!』とか言われてもな。看板に《吸血鬼注意!》って書いとかんと」
「嬉しゅうない知名度やな。吸血鬼おって血ィ吸われるって判ってて住む奴おらんやろ」
「もしかしたら、蚊とかヒルとかにも、そういった好みがあって襲う相手選んでるのかもしれないし」
「……蟲のくせにグルメとか。ないわー」
「うん、ないね」
「ないわね」
「……まあそんなアホがそこいらにいるわきゃないよな」
「だけど闇美食ならありえるんだよね。そういう可能性がある、ならやってみて食ってみよう!っていうのがあいつらのやり方でさ」
「……ほんまアタマオカシイな」
「だな」
「あたしもそう思う」
「そんなだったら、そのうち、食べるためだからって怪物の飼育とか始めかねないよね」
……やっと依頼とつながった。
要は闇美食って、そういう危険な材料を持ち込むからダメ、ってことか。
「だね。毒虫やら毒草やらを栽培して食ってみるとか普通にやってるから。
それで自分たちがくたばるだけなら好きにすればいいんだけど、例えば毒虫を町中で大量飼育してて、それが逃げ出したりしたら……」
これがほんとの「壺毒のグルメ」か?
すでに町全体が欲望の毒の壷と化してるけど。
「さらにそれが危険な大型の人食い蟲やらアンデッドだったら、もうメチャクチャヤバいよね」
「うへぇ……考えたくねぇな」
「そういう可能性があるかないか、それが目的な訳だよ」
納得いった。
やべえな闇美食。ちょっと食ってみたいと思った俺が浅薄なり。
「蟲毒のグルメ」でやろうかと思ったけどそっちはうまいネタが思いつきませんでした(食い物ネタだけに)(´・ω・`)
いずれやるかもしれませんw




