幕間 闇美食の町1
本編とは特に関係ない話です(´・ω・`)
ライ・マースト辺境の一角にあるその町は、とある貴族の統治下にあった。
その町は「快楽の町」と呼ばれ――世界中の、ありとあらゆる快楽を貪ることができるという、貴族にとっては一生に一度は行ってみたい町、と言われていた。
だが、その町を実質仕切っているのは、ある商人、そして魔導士であった。
金さえ持っていれば、誰でもこの町で快楽を貪ることができる――「グリド・タウン」は、世界の快楽を全て味わうことのできるが、そこで快楽を貪り尽くした挙げ句、死に至る者も少なくない。
そのため、グリド・タウンは「破滅と最期の町」とも言われる。
……そんな町に、似つかわしくない一行が現れた。
見た目は15・6の、成人直後ぐらいの若者四人組。
どう見ても、快楽に溺れた金持ちのボンボン嬢ちゃん、という取り合わせではない。
そういったお金持ちなら、必ずお付きの者が側に控えている。彼ら四人だけ、という時点で、そういった身分ではないことが判る。
何よりもその持ち物――「武装」で、彼らは「冒険者」と呼ばれる人種だと見てとれた。
「ほぇー、ここがグリド・タウンかいな。思ったよりずっとふつーやな」
「久しぶりだなぁ……三年ぶりかな?」
「知っているのか、シェラ」
「仕事だけどね。とある貴族の奥様を堕とすっていう仕事で」
「なにそれくわしく」
「前に話したよね?」
「……ああ、あのDT――」
「……そろそろ入るわよ」
見た目は、どこにでもある城塞都市のような高い城壁に囲まれた町の、閉ざされた大門の横、小さな通用門の前で、四人の冒険者が城壁を見上げてあれやこれや話していた。
〈巨人殺し〉――「キング・キラー」「オーガ・キラー」の称号を持つ魔法戦士ケン、「攻撃が最大の防御」である猪突猛進の超攻撃的魔導士ビュスナ、拳と巨乳の破壊力で男を全滅させる魔法拳士ナオ、中性的な妖しさと暗殺技術で狙った獲物は37564、元暗殺者のスカウト「男の娘」シェラ。この四人組パーティの名である。
そこそこ名前が知られるようになった彼らに、一つの依頼が冒険者ギルドから持ち込まれた――それが、この町での「調査」である。
ちなみに、俺がケンだ。
強い奴に会いに来たわけじゃないぜ、今回は旨いものを食いに来た。
「いいこと、経費は後で請求できるといっても、限度ってものがあるからね。目的があることを忘れずに」
「わーっとるがな、中で稼いだらええのんやろ」
「だいじょーぶだって、ボク経験者だから」
「まーそんなぱーっと使うような金満家生活なんかしたことねー貧乏性だから、いくら使ったか計算しちまうからなー」
「……ほんと大丈夫かしら」
「そういうお前はどうなんだ。いきなりなんかにドハマリして所持金全部スッたなんてことないだろうな?」
「あんたじゃあるまいし、あるわけないでしょ」
「親父殿はむしろお前の経済観念を疑問視して、俺に監視しといてくれって頼んできたけどな?」
「……あんたには関係ないでしょ」
「まーまー、とにかく入らんことには始まらへんで」
一行は、ぞろぞろと通用門へ向かう。
本来なら俺たちはマシュさん・リリエラさんと、西のアークゥエスミィ連合王国へ向かっている途中なので、時間のかかる依頼は受けないつもりであったが、マシュさんが数日、魔導士ギルドで用事があって出発が遅れるというので、その間の「暇つぶし」になるなら、とこの仕事を受けたのだ。
まあ本当なら、ライ・マースト王都でのんびり観光でもしていたはずだったのだ。仕事なんて冗談じゃない……と思ったが、仕事の内容が内容、場所が場所なので、短期なら、という条件で受けたのだ。
冒険者ギルドも「一週間」と期間を区切っているのでちょうどいい、と思ったのだが、一週間と区切る意味を聞いてみたところ、「それ以上は時間をかけられない」という返答だった。仕事依頼上の都合なんだろう。
事前に、この町の情報は聞いている。
情報通り、町に出入りする人間は少ない。四人の他には、物資を搬入する商人の荷車が三台、そして先に受付をしている貴族の一行らしき数人。それだけである。
これくらいの町なら、もっと人がいても良さそうなものであるが――。
「ああ、この町は一度入るとなかなか人も出ていかないからな。商人も朝方入って翌日以降出るから、時間帯もまちまちで、出入りは常に混雑しているってわけでもない。
なにせ、ここではここでしか作れないものも多いから、どうしても外から買わないと間に合わない物資や食料を除いては、全部町の中で賄えるようにしてるんだ」
門番の言葉に、俺はなるほどと思う。
この町は、街道から外れた場所にある。通常の流通経路から外れると、途端に人の出入りは少なくなる。町の人間が外に行って帰ってくるのが中心になるから、出入りでも朝出て夜戻る、といったベッドタウン的な町になる。辺境ではベッドタウンどころか、出稼ぎで人が出て行ってしまうことも多いから、より過疎化しやすい。
ところがこの町は、町自体が富を吸い尽くす魔性の町。住人は町から出ることなく儲けられ、入ってくる客は貴族やら金持ち商人ばかりで、客単価が異常に高い。
それで町の中でほとんどの物が賄えるとあれば、外に出る必要もあまりない。
なので、町から外に出るのは、商人が何か町の外に買い出しに行くぐらいなのだろう。今来ている商人も、昨日以前に他の町へ行って今日帰ってきたってところか。
「それで、君らは観光かい?」
門番が待ってる俺たちに、気さくに聞いてくる。あまり人が出入りしないので暇らしい。
「せやで。うちら冒険者やねんけどな、こないだの仕事で一山ドカンと当ててなー。
そんで、こんだけあるんやったら、噂のグリド・タウン行けるやん!って思てな」
「まぁこいつらがそこまで言うから、俺も行ってみるのもいいかと思ってな」
「そーそー、ここの食事は世界一ィィ!って聞いてるから是非ともねー」
「そうか、なら是非楽しんでいってくれ。
ああ、それとこの町では、町の専用通貨に両替してもらうことになってるんだが、いいかな」
「専用通貨?」
「ああ、この町の通貨グリネルだ。この町には、人間の欲を刺激するモノで溢れている。それで借金をしてまで金を使い込む奴らばかりでね、周辺の貴族から警戒されてしまってな。国からも何らかの対策を取れって言われてな。
それで、ここに入る人間は、別途許可がない限りは、持ってるゴネルを町の通貨に両替して、その範囲内で楽しんでもらうってことにして、借金まみれで破産するのを防ごうって寸法だ」
「はー、なるほどな……で、両替のレートはどうなんだ」
「ああ、レートは一対一のそのまま交換だ。手数料は一回につき10ゴネル。何万何億ゴネル交換しても10ゴネルだ。まあさすがに何億ゴネルも交換した奴は貴族でもいないけどな」
「安いな。普通なら一割ぐらい取られてむ不思議じゃない」
「その分、中で使ってもらえるからな。ここで稼ぐ必要はないしな。
ああ、余ったグリネルは同じく、出るときに10ゴネルの手数料でゴネルに交換できるからな、気兼ねなく両替して使ってくれ」
俺たちの番になったので、入町手続きを行う。
入町税はなし。ただし、グリネルへの交換は義務。町中でゴネルを使うには、許可証が必要。許可証は町長の権限なので、一見一般の客はグリネルしか使えない。
……驚いたことに、グリネルは「紙幣」だった。もちろん1・10グリネル硬貨はあるが、百グリネル以上は紙幣である。使いやすさと、専用通貨グリネルを準備する手間を考慮して、紙幣にしたそうだ。
ゴネルコインは最大一万ゴネルまであるが、一万ゴネルコインなんて滅多に見ない。大体は千ゴネルまでだ。偽造の観点からゴネル紙幣は出回っていないが、グリネルはこの町だけの通貨なので、紙幣の方が軽くて持ちやすい。十万グリネル紙幣まであるので、大金を持ち歩いても懐は(物理的に)軽い。
「ほならとりあえず四十万換えとこか」
「お、なかなか豪気だな。冒険者でそれだけ換金する奴はそうはいないぞ」
「はっはっは、儲けたからには使わんとな」
四十万ゴネル、日本円換算なら四百万から五百万ぐらい。だが物価を考えたら、実質その倍ぐらいにはなる。一人当たり二百万円ぐらい持っている感覚だ。この町の物価も平均よりやや高めではあるが、レベルも高いので不満に思うような客はいない。それに観光地価格なんてそんなものだ。
まあ俺たちの交換額も冒険者が数日滞在するにしては多すぎる額といえるが――貴族や豪商なら、この十倍百倍と持っていることもあるという。あるとこにはあるんだな……と思っても、それと競う気はない。
あくまでも、これは「仕事」なのだ。
遊びではない。
そう、仕事なのだ。
旨いもの食うのも、ギャンブルするのも、ちょっとえっちいお姉ちゃんの店に行くのも、みぃんな仕事だ。
仕事はできるうちにやるしかない!
「……あんたほんとに目的忘れてないわよね?」
覚えてる覚えてる。
町の仕切りしてる魔導士のことだろ?
町に溶け込まなきゃ、情報は得られんからな。まずは客らしくぱーっと行ったらなアカンでしかし!
こんな町で豪遊してみたい(´・ω・`)




