幕間 闇美食の町5
そんなことを考えていたら、目的地に到着。
見た目、ごく普通の――貴族っぽい屋敷。下級貴族ぐらいかな。
一般人としてみれば豪邸だけど、貴族の屋敷としては大きさとか風格とか、とにかく飾り気が少ない。もっとハデハデしく、至る所に彫刻だの原色の飾りだのをつけてだね……そういうのはいいから? へいへい。
「で? ここが例の?」
「そう。闇美食倶楽部」
……「闇美食倶楽部」ってあんた……(笑)。
……うっく、アカン、笑いはこらえとかないと……ナニ、「この闇料理を作ったのは誰だあっ!」とか怒鳴り込んでくんの?www
それとも若手に奇妙な道具や技使う料理人がいるとか? 闇食医とかいんの?www
どこのグルメバトル漫画や! すごいぞ、料理で世界制覇企む悪の秘密結社は本当にあったんだ!www
アカン……ツッコミどころが多すぎる!www
せめて名前だけでも変えてくれ……こらえるのが苦しいんや!wwwwww
「ケン?」
「どないしたん? 腹でも下したんか?」
「いや……違う、大丈夫、ちょっとな……」
――なんとか吹き出すのは耐えたが、この名前は破壊力が強烈すぎる……だめだこのそしき、はやくなんとかしないと! ハライテーwww草がwww笑いの草が生えてくるwwwwww
……俺が苦しんでるのを放置して、残りの三人は対策会議。
「で? 乗り込むん?」
「いきなり乗り込んだって門前払いだよ。下手したら何か口に放り込まれて、呆けたところをボクらが食材にされかねないし」
「コワいこと言いなや……ってマジありえるからな」
「だからってどうするのよ」
「とりあえず場所は解ったから、一度戻って対策考える。向こうは多分、正面から力ずくで入っても何とでもできるって思ってるだろうからね」
……いや、多分「思ってる」んじゃなくて、「なんとでもできる」って「確信してる」と思うぞ。
それくらい闇美食ってのは怖い。
「本当にあった怖い美食」だ。ほん怖美食倶楽部ができる。名前そっちに変える?w
俺たちが食材にされるんじゃ、「注文の多い闇美食料理店」になっちまうけど。
「……よー考えたら、厄介な連中やな……食い物扱うとるだけやのに、迂闊に近づけへんし」
「……闇美食に耐性なかったら、食欲に抵抗できないかも……」
「腹いっぱい食べてから行くとか?」
「さっきの店で?」
「それはダメ。その日は何もできなくなりそう」
「……せやな……あの店以上て、どんなやねん……」
「その日どころか、後々までずっと影響でるわ」
「かといって、今更ここで普通の飯屋行く気せぇへんしな……」
「…………そうね」
……普段俺が、記憶の中から地球風に近づけたメシ作るから、ただでさえこっちの一般人より舌肥えてるってのに、それを簡単に超える本物のプロの料理なんか食ってたら、確実にダメになるわ。
……そう考えると、この町自体がすっげー危険だ。そりゃあ一度入ったら堕落もするわ。食い物だけでこれだけなんだ、それ以上の堕落要素満載で、一度ハマったらそりゃあ抜け出せるとは思えない。
美食道楽の大貴族でもない限り、こんなとこ近寄ったらダメだ。貴族でもアカン。
特に駆け出し冒険者がこんなとこ来るもんじゃない。ダメ。ゼッタイ。
「なんかウチらこんなんばっかやな……」
「……ああ、ガチバトルならともかく、それ以外が難敵多すぎるよな」
「戦うだけが冒険者じゃないよ? まあでも、こういうのは奇譚拾遺使とかがやる仕事だもんね」
奇譚拾遺使、もしくは御伽衆などと呼ばれる人物――つまり「王侯貴族直轄のスパイ」の分野か。
表向きは、王侯貴族の無聊を慰めるための異国の珍しい話を収集する下っ端役人や旅の吟遊詩人、その実態は諸外国の内情を探るスパイ。
そういう存在は、こういった「奇妙な事件」を専門とする。胡散くさい伝承伝説にも通じていて、「裏世界の歩き方」のプロだ。
シェラも確か、一時期はこんな仕事もやったことがあったとか。
「まぁボクがやったのは、現地居住の拾遺使との連絡だったけどね。そのとき色々話を聞いたぐらいで」
「草」との連絡役か……ほんと何でもやってるな。
「何でもはやってないよ。命令されてやったことあるだけ」
……ほんと、なんでキミはこんなとこで冒険者なんかやってんのかね。
「それをケンが言うかな。
《ギガントバスタ》に入ってからは、奇譚拾遺使の話より面白いことが続いてるからね。だからだよ」
……そうか、面白いか。
そう言われるのは悪くないな。
その夜。
俺たちが、「闇美食倶楽部」の近くで宿をとり、対策を考えていると、なにやら外が騒がしい。
「何だ?」
「……闇美食倶楽部じゃない?」
「まあ確かにあり得るけど……表に出るような騒ぎなんて、縁なさそうじゃない?」
「……何やろ、ほんのりええ匂いすんねんけど……」
「……言われてみれば。何かなこれ」
「……ますます闇美食倶楽部じゃないか?」
「ちょっと見てくる」
シェラが(俺たちの部屋のある三階の)窓から飛び出し、屋根伝いに闇美食倶楽部の方向へポンポンと跳んでいく。
すると、ナオが察知した匂いが、急に強くなってきた。
「あ、これハッキリ解るわ……なんやめっちゃええ匂いやな……腹へるわー」
「確かに……しかしなんの匂いだこれ?」
「わかンないわね……嗅いだことない匂いだけど、何かな……」
残った俺たちの記憶にない、香しい匂い。ものすごく腹が減る。下の道でも、住人が総出で匂いの出所を探している。
だがこの町なら、俺たちの知らない料理の香りならいくらでもありそうだ。表通りの堂々と営業してる店ですらアレだ。
多分、そういった「未知の香り」の類だろうとは思っていた、が。
「……ちょ、待て、これ――」
俺の「気配感知」が、「危険」を告げた。
「うわ、これ……アンデッドやろ」
「う……結構な数じゃない?」
ナオとビュスナも気付いた。
それほどまでに濃密な、アンデッドの「死の気配」。
だが同時に、先ほどまでの芳香も強烈になってくる。
プラスとマイナスが入り混じった、近づきたいのに近づきたくない、そういった背反する欲と本能がせめぎあうような――
「何や、これ……気配と匂いが同時に強うなっとる……」
「……アンデッドが何か、匂い発するようなもの持ってるとか?」
「いや――違う。あれだ」
俺が指差す先――宿の前の道に、ゾンビの群れがいた。
〈灯火〉を住人が点灯したので見えるが、ゾンビの数は十や二十ではないことが解る。
こんなものがここいらうろついてるってことは……「化け物食い」はまず確定だろう。
だが――闇美食倶楽部がやらかしたのは、それだけではなかった。




