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気功師の村


 十日ほど経って、ライ・マースト王都を出発。

 いよいよ、マシュさんの故郷である、アークゥエスミィ連合王国へ入る。

 とはいっても、ライ・マースト王都から西の国境まで何日かかかるけど。


 ――アークゥエスミィ連合王国は、「森と水の観光立国」でもある。

 北部の三割は森林で、そこに「エルフの王国」があり、その森、ルージュニングファイア森林を通るいくつもの河川によって土地が潤い、その河川が集まって、国土南部に「ディオスランド湖」という、これまた国土の二割を占める巨大な湖へと至る。

 この湖は漁場であり、水運経路であり、観光地でもある。南部の主要都市から北部の王国へ至るには、湖を縦断するのが最短経路になる。そのため、湖の横断・縦断航路では、大量の旅客や貨物を積載できる大型船が常に行き来している。

 だが、残念なことに、今回はその湖の横断も縦断もする必要がない。目的地が湖の北東側にあり、ライ・マーストから直接最短距離を移動して行くから、湖方面に遠回りして通過する必要がないのである。


 まず最初に向かうのは、「気功師の村」。周辺では「レイヴァー村」と呼ばれていたらしいが。

 アークゥエスミィ中部東の国境を少し進んだところにあるその小さな村は、どうやらビュスナの生まれた村だという……とはいっても、ビュスナが生まれた頃は、村はライ・マーストにあったのだが。

 ビュスナ自身は、幼少期に村が突然「燃やされた」ショックもあったのか、その村での生活はほとんど覚えていないという。今では村自体も全く新しい場所に移ってしまったこともあり、過去の村の記憶も当てにならない。

 当時の住人も散り散りになってしまったりで、今も顔見知りがいるかどうかも解らないし、行ってどうなるものか――と一度だけビュスナは口にしてはいたが、それでも自分が生まれた雰囲気ぐらいは知れるであろうし、それにビュスナの「本当の両親」がそこにいるかもしれない、いなくても手がかりぐらいはあるかもしれないと思えばこそ、行ってみる気になったんじゃないだろうか。

 それでもし、両親と死に別れたことが解ったとしても――それならそれで、今まで通り「ヴァロースの娘」でいればいいだけの話だ。

 今まで生きてきた人生の区切りとして、自分の過去と向き合う。それだけでも、村に行くだけの価値はあるのだろう。

 ――生まれた世界を離れた俺には、もうできないことだ。

 改めて思えば、勢いでこちらの世界に来たものの、ふと思うことはある。「向こうの世界の家族や友人たちに、何も言えなかった」と。

 だが、ビュスナには、それができるかもしれない。

 なら、それはするべきだと思う。

 それを終わらせて、新しいスタートを切るべき時になった、ということだ。


 ライ・マースト中部西の国境まで三日。首都から北西の山中へ向かう。

 平和な魔法王国のこと、道中の治安も良好で、よほど深い森や山岳地でもなければ怪物も盗賊も出てこない。王国南側七割ほどは完全な治安開拓居住地であり、その範囲内にいる限りにおいては、地球で旅をするのとさして変わりはない――もちろん、日本のような安全とまではいかないが、それでも子供が一人で町と町の間を、昼間行き来するぐらいはできる程度には安全である。

 国境も、一応街道に入国出入り口みたいなのはあるが――ライ・マーストとアークゥエスミィの間には「国民交流協定」があって、双方の国民、および魔導士ギルド・運輸ギルド・冒険者ギルド・商業ギルドのどれかの身分証があれば、入国税が免除される。そのため、俺たちも身分証を見せて簡単な審査をするだけで、簡単に国境を越えられた。

 そこから、気功師の村までは一日と少しで到着する。

 国境近くの町で一晩泊まり、翌日、山間にある村へ向かう。

 ……日暮れが近づき、空が暗くなりかけた頃――国境の山の麓にある、小さな村に到着した。


 「気功師の村」というだけあって、その場所は「力強い気」で溢れていた。

 村に近づくに連れ、人の生きている「気」が、そんじょそこらの町よりもずっと大きく感じられてきた。

 数自体は少ない……五十人もいない。だが、一人一人の気の大きさが段違い。一人が十人分以上はあるんじゃないかと思うぐらい、強い。

 ……まあ「気功師」なんてやってるぐらいだ、そのくらい気が大きく強くて当たり前なんだろう。

 

「――ようこそ、気功師の村へ」


 村に入ろうとしたところで、俺たちは突然声をかけられた。

 ……そこには誰もいなかったはずなのに、いきなり声をかけられ、思わず変な声が出そうになった。


「驚くことではありませんよ。私はここで皆さんを待っていただけです――そちらのお若い方々は気付かなかったようですが、気功師でもなければ解らないよう待っていましたので」


 ……村人らしい若い男だったが、完全に「いないもの」だった。

 それも、俺たちのことは、国境を越えたあたりから解っていたらしい。ここに向かっていることも。

 どうやらビビったのは、〈ギガントバスタ〉の面々だけだったようで、マシュさんやリリエラさんは「どうかした?」って顔をしている……いやそんなね、自然に気配消されてたらねえ……。

 気功術を一応体得している俺も、村の出身であるビュスナも気付かないんだから、なんじゃここはっていう……こんなんがデフォだとしたら、ライ・マースト軍が危機感を抱くのもわからんではないな、とちょっと思った。

 にしても、わざわざ「気功師」とそれ以外を分けるようなやり方で待っていたって、どういうことだ?


「そちらの方は……いつぞやのラの方ですね。お仲間にご用ですか」


 村人がリリエラさんを見るが、リリエラさんは手を小さく振り、


「あーいえ、あたしよりも……」

「俺が話そう」


 さらにもう一人、村の集落の方からやってきたのは――覚えのある「気」。


「俺がここへ行ってみろと言ったのだからな」


 ベレー・レイヴァー・アークランガス。


 ……先回りして待ってたのか? 完璧に気配なかったけど……。

 律儀なのか、それとも……実はやることなくて暇なのかな?


 まあいいや、話持ってきた本人がいるんだ、お任せで。



次回からはちょっと幕間話に入ります(´・ω・`)


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