空飛ぶホウキ
……乗りました。乗れました。
魔導士ギルドへ行ったら、「首都上空周遊観光」とかいうコースが掲示板にあったんデスYO!
しかも、どこぞのオカネモチが予約していたのが急遽キャンセルになっていたので、即金で料金前払いして押さえました! こういうのは運命、タイミングなのです! 機会を逃してはなりません!
時間は三十分ほど、料金はパイロットの解説付きで八千ゴネル。なるほど、そこそこにはお高い。それでも常に二ヶ月ぐらい先まで予約で埋まっているそうですが。
……実は、「魔導士ギルドのメンバーであれば優先予約枠がありますので、お取りしますが」と、受付嬢に言われたのだ。
まずはマシュさんに拝み倒してメンバー権を行使してもらおうと思ったのだが、「この際だからギルド入ったら?」と言われたので……そういえば俺、冒険者ギルドは入ったけど魔導士ギルドはメンバーじゃねーわ。BCもらったからそれでいいかと思ってたしな。
というわけで、その場でギルドへ加入。年会費三百ゴネルと初期登録料二百ゴネルの、計五百ゴネルもお支払い。
魔導士ギルドでは、メンバー証明書として「メンバーズアイテム」を購入することになっている……くそう、利権か!
初期登録料がそれ。ペンダントみたいなセラミックのタグか腕輪が標準アイテムだが、追加料金を払うと指輪だったりタトゥー形式で体に彫り込んでくれたりもする。タトゥー形式は魔法拳士がよくやるタイプだとか。ただしタトゥー方式だと、バージョンアップしたいときに不便なんだとか。アイテムバージョンアップすんの? DLCみたいに新機能拡張にはアイテム何個必要です、そんでアイテム一個いくら、とかないよな? ソウイウキタナイ商売イクナイヨ!
メンバーズアイテムには、登録名とメンバー番号、登録ギルド名、登録日の四つしか書いてない。その他の情報は、魔導士ギルドの「データベース」に入るので、どこのギルドへ行っても同じ情報が得られる、ということだ。それに一応、お値段に応じた「ブースト機能」とか「魔法登録機能」とか、いろいろ便利な機能がついてるそうで……あー、よくある「魔法の杖」みたいなもんなのか? まぁこっちのは「発動補助体」と言うのだそうだが。そういうモノならバージョンアップもありかー……ってやっぱりDLC方式か!
こうやって少しずつ搾り取るのが組織のやり方……汚い! さすが巨大組織汚い! 参考にさせてもらうわ! 将来俺もこうやって庶民から既得権益で搾り取った甘い汁吸いたい! チューチューイェイ!
……とりあえず今はギルドに汁吸わせてやることにしました。普通の腕輪タイプにしときます。プラス五百ゴネル也。払えない額じゃないところがイヤらしい……なるほど、こうやってちょこちょこ吸い取るんだな。こういうやり口ってどこにもあるんだな……参考にするわホント。
そしてどんな原理かは知らないが、「魔導ネットワーク」が魔導士ギルドにはあって、それで全登録魔導士の情報は一元管理されている。各魔導士ギルド支部から、メンバーズアイテムに設定されたユーザー権限に応じたアクセス権が設定され、その情報ネットワークにアクセスできるようになっている……いやもう完全に企業内ネットやないですか。
観光の準備ができるまで、受付のお姉ちゃんに、魔導ネットワークについて色々聞いてみた。
……どうやら、このネットワーク整備は、ブライト・ワルダーの手によるものだそうだ。
今でこそ運用はギルドが主体で行っているが、その発想と基本設計、構築はブライト・ワルダーの「ネットワーク屋」がやったのだと。ギルドは魔導技術で協力していると。
……ええ……ますます地球っぽいんと違う?
こりゃーちょっと、ブライト・ワルダーの子孫とかいう連中に話聞いてみないと……俺がここに転生したのも、もしかしたら理由あって、とかその関係で、という可能性も出てきたしな。
そんなのはともかく、ホウキで空中観光するです!
……なぜか、他の方々は「遠慮する」とのことで、誰も同行しようとしなかった。もう一枠あるのに……誰か知らんオカネモチがそっちは買ったらしい。
そりゃまあ、空に対して幼少期から刷り込まれた「畏怖」っていうか「恐怖」みたいなもんがあるとは聞いてるけど、そこまでコワいもんかねぇ……飛びたくない人に強要はしないけどさ。俺だって幼少期から「空は神様の領域だから、迂闊に踏み込むと天の怒りに触れて黒焦げにされちゃうんだぞ」なんて親父から聞かされてきたけど、今にして思えばあの雲に近づきすぎなきゃええんやで?って論理的に反論できる。大人に理を諭す子供……もしあの時に記憶戻ってたらやらかしたかもな。
解説付き、という話だったが、どうやるんだろう――と思ったら、透明バイザー付きの軽いフルフェイスヘルメットを渡された。〇RAIとか〇HOEIとかどっか書いてない? これにヘッドセットが組み込まれてて、パイロットと話せるのだ。外のスイッチでマイク・スピーカーを操作できるようになってる。
ふんふん、ボリュームとスイッチが一体化してるタイプか……っておい!
「OFF」とか、英語で書いとるやんけ!
……こりゃあ、ブライト・ワルダー=地球人で確定だな……いや待てよ、もしかしたら平行世界の地球人かもしれんぞ? 時間線が違う別世界とか、それぐらいかもしれんけど。少なくとも、俺のいた時代にはこんな異世界への扉が開いたとかいう情報は、一般には流れていなかった。あの頃より未来の地球か? それとも一般に知られていない極秘交流? それで何十万もこっち来ないよな……うーんこのキレの悪い感じ。やっぱり俺らのいた世界とは別の平行世界の地球とつながったんかな。
なんか、この世界が微妙に地球っぽい文明が混じってるのは、そのせいだったか……俺としては馴染みやすくていいけどさ。
うん、この「空飛ぶホウキ」も合点がいく。むしろ西洋文明だしなこれ。でもこういうの作るのは日本人やりそう……これで絨毯も空飛んでたら、もう確定だけどな。そこまでいったら「完全に一致」だ。
いやもう、現時点でも「ほぼ完全に一致」だけどさ……うん、まあそれはおいおい確認していこう。「門」のこととか。もしかしたら、転生したけど向こう戻ることできるかもしれんし。神の力とか関係なくな。
でも今は空の観光旅行ヒャッハー!ですぜ!
ところで、どうやってこれ空飛ぶんですかね、とパイロットのお兄ちゃんに聞いてみたところ。
『ああ、これはホウキの下に風魔法の魔法陣がありましてね。エア・スラスター方式といいまして――』
ハリアーか! と思ったのはまあいいとして。
そらーそうか、発想が地球人だ……ちなみに「重力遮断」みたいな超越技術的魔法はまだないそうだ。なのでこういった浮上方式か。そして高速飛行時には、前に風防〈シールド〉、左右に〈シールド〉応用の「安定翼」が展開されるんだと。そして低速でも姿勢が安定するので、ホバリングも可能……ほんまハリアーやな。
で、肝心の「魔法使いあるある」があったのかといえば……。
ありませんでした。
ホウキに「サドル」がついてました。二人乗り用のバイクっぽいやつ。ホウキ用に小型化カスタマイズされてたけど。
ちなみにハンドルもペダルもあります。そこらは折りたたんで、「ホウキ置き場」みたいなところに立てかけておけるそうです。スタンドもついてました。
……うん、まあ普通に考えたらそうよね。ホウキ自体が重力制御で浮いてたら、乗員もただ乗ってる、なんてこたーないだろうし。エア・スラスターだからこその装備。
むしろ形状の発想は自転車とかスクーターに近い。性能はバイクってより、文字通りの「プライベートジェット」だけど。昔「空飛ぶ車」が未来の乗り物として子供向けのSF絵本に描かれたりしてたけど、あんなのよりずっとスリムで携帯性にも優れて、なんつーか「超科学の魔法のホウキ」って言われても納得ですわ。
超科学の魔法って何や。自分で言ってて訳わからんね。
『はい、では出発いたしまーす。おつかまりくださーい』
パイロットのお兄ちゃんの着ているベストの背中にグリップがついているので、それを握る。もちろんシートベルトは装備。足元にはサブフットペダル。これなかったら落ちるかも知れんので確実に、とパイロットのお兄ちゃんにも確認してもらった。折りたたみの小さい背もたれもあるので、後ろにすっ飛ばされたりはしない……だろう。多分。昔は落下事故とかあって、改良されたんだそうで。
ホウキの斜め下にむけて、魔法陣が四つ稼動し、エアを噴射。ふわり、とエレベーター上昇にも似た感覚が生じる。




