「大鬼殺し」の帰還
マシナに帰るまでも大変だったが……帰ってからも大変だった。
出迎えたビュスナにいきなりひっぱたかれ、その後抱きつかれて泣かれた。てかなんで殴られたし。
少しは疲労困憊の俺をいたわってくれよ、「板割って」な威力の平手打ちじゃなくてさ。
ナオもシェラも目で「しょうがないよ」って言うし……ヴァロースさんもジェシカさんも生暖かい目しないで! みんな見てるから!
てかツン子! 調子狂うから泣くのやめてくれっ……!
……俺の姿が消えてから、町では残った冒険者と治安兵をかき集めて、山狩りをするつもりだった、とヴァロースさんから聞かされた。
そりゃまあそうだろう、とりあえず今まで死傷者は出ていなかったオーガ騒動だったが、遂に犠牲者がでた! オーガ許すまじ! って町の人もいきり立っちゃって……うん、そりゃまあしょうがないですね。誰だってそーなる、俺だってそーなる。
空気の人も「俺がついていながら……」と後悔頻りだったそうで、先頭に立って追跡を買って出ていたそうだ。
で、俺が町に帰りついたのが、正にその山狩り部隊が出陣しようとしてたところで……ハイ、当然大騒ぎになりました。
俺、もう死んだもんだと思われてたみたいで、「ケンの弔い合戦だ!」みたいな雰囲気だったところへ帰ってきたもんだからね……えーとトム・ソーヤだっけ、自分の葬式に帰ってくる、みたいなのあったよね? あんな感じ。いや別に俺悪くないけどね? 悪戯で狙ってたわけでもないし。
しかも、帰還した俺は「オーガ始末した」と言い放ち、証拠の「オーガの角」も見せたので……もう別の意味で町は大騒ぎになった。
山狩り出陣式が、俺の帰還とオーガ退治を祝う宴会になり、オーガがいなくなったことに対する安堵も相まって、宴会は翌日の深夜まで続いた。俺はさすがに宴会の最初だけで寝落ちしたので、次に復活したのは翌日の昼頃。
だがそこから「どうやってオーガを倒した」だの、「オーガに捕まってどうやって生きて帰った」だの、根掘り葉掘り聞かれる祭りになったので――言い訳というか、架空の討伐ストーリーを考えるのに必死だった。
とりあえず、オーガに捕まって、岩山の巣に連れて行かれたとこまでは意識失ってたことにして……で、不意打ちで魔法も限界まで使って倒した、と言っておいた。剣はそのときに折られたのでなくした、として、オーガの死体は……獣が寄って来たので俺は証拠の角を取ったところで逃げた、と。帰ってくるのに時間がかかったのは、オーガの巣が山奥にあったから――ということにしておいた。実際塒にしてたし。
そのテキトーな話に、町の人間は大騒ぎし、一喜一憂し、それを肴に酒をかっくらった。一週間ぐらい、町はなんかお祭り状態。
オーガが出たときの盛り上がりなんて目じゃないほどの浮かれようだった。
そりゃまあ、危険が迫ってるときの緊張より、危険が去った祝いの宴会の方が盛り上がるわな。
……なぜか俺の帰った日は、「オーガ・キラーの日」としてマシナの祭りの日と決められた。領主様や町長からしてノリノリだったらしい。
なんでや! 恥ずかしいやろ! と親父にグチったところ。
「いやあ、この町にはそういう話題になる日がなかったんでなあ。
大人たちからしてみりゃあ祭りの口実にもなるし、収穫祭以外で堂々と酒が飲める日ができたってことだな」
ええ……大人たちェ……。
「大人だって楽しみは欲しいんだよ。家族のために働く毎日ってのも悪くはねえけど、たまにはこうしてハメ外して騒ぎたくなるんだよ。
これが外からの冒険者だったらここまではいかんだろうが、お前はまがりなりにも町の出身者だからな、祝いの日にするのにはうってつけだからな。
お前だって、こんな大物倒して証拠品持ってきてるんだ。ゴブリンキングも倒したんだろ? 冒険者だったらもっと自慢していいんだぞ」
……元冒険者の親父としては、息子がこれだけの有名人になったら、そらもー天狗やピノキオさん顔負けのハナタカでっしゃろけど。町から「オーガの脅威を打ち消した」って、報奨金まで出たし、領主様とも初めて謁見したし。報奨金は……家に入れた。なんか自分で使うのは申し訳ない。
親父だけでなく、兄貴も兄貴嫁も弟も妹も、もう「伝説の勇者」みたいな感じで俺を見るんだよ。母ちゃんだけは「心配かけないでくれ」的な感じだったけど……悪いとは思ってるが、冒険者ってのはこういう因果な稼業なのよ。
あの持ってきた「オーガの角」も、宿とか役所とか酒場に寄付して飾っておいてもらってるけど……グルーガの角以外のね。証拠品だから、三個は冒険者ギルドへ提出用、一個は俺の記念品、一個はビュスナのおっ母さんの酒場に、残りは町へ。一番大きい一個は、領主様が自宅へ飾るらしい。
明日ククリグへ出発して、それで事情を話して……うーむ、グルーガの一件はラスさんにだけでいいか。迂闊に誰かに話せる内容でもないしなー。
数日後。
「やあ、大鬼殺し君、おかえり」
ぐっはッ!
……ククリグ冒険者ギルドへ戻った早々、マシュさんの一言でいきなり俺のメンタルポイントが大ダメージを受けた。ハートブレイクショットで精神的に瀕死だ。
「なんでそれを!」
「冒険者の情報網を甘く見ちゃあいけないよ。このあたりでは珍しいはぐれオーガに、それを単独で退けたニューフェイス、しかもそれがあのキング・キラーとあっては、噂にならない方がおかしいんじゃないかな」
……そういやこの世界はそういう世界だった……元日本人の俺としては、「オレがオレが」よりも、多数の中の一人として全体に貢献する、っていう思想が染み付いてて、「デーハーに目立ったもん勝ちやでぇ~!」みたいなこっちのノリにはちょっとついていけないのに……なんでこう、周囲が騒ぎ立てるのかと。別に報酬が出たわけでもないのに……。
「ギルドとしては、優秀な新人が出てくれるとね、所属ギルドのアピールになるんだよ。だから、言われなくても誰がどんな仕事を完遂したか、っていうのはリストになっていて、誰でも見ることができる。
その中でも特に著名な活躍をしたパーティや個人は、ほら」
……とマシュさんの指差した先には。
「……あいつ、オーガ・キラーじゃねえのか?」
「え、ガキじゃねぇかよ!」
「だけど、あいつこないだゴブリンキングも倒したっていうぜ」
「ほう……そいつぁ面白い」
ざわ……ざわ……ギルドニュース掲示板の前に、人だかりが出来ていて……こっちに視線が。
ああああ、しかもなんか噂ばっかりが先行してるぞ!
これで本当のことなんか話したら……コワい! 後がコワい!
「まぁともかく、ギルマスに報告しておいでよ」
……マシュさんに促され、メンタルに厳しいダメージを負いながら、すでにヨレヨレな俺はギルマス部屋へ。
「お待ちしていましたよ、オーガ・キラー君」
……ラスさんの迎えの言葉に、思わず失意体前屈でその場に崩れ落ちる。
やめて! もう俺のメンタルポイントはゼロよ!
「……それはもう勘弁してください……」
ラスさんの笑顔が、失笑気味なのは気のせいじゃなかろう。
「お前も大概、噂にゃあ事欠かねえなぁ。ま、オーガ相手に生き残ってんだから運はいいんだろうさ」
ローディさんまで呵呵大笑……やめてんか。メンタルマイナスやねん。これ以上イジられたらアンデッドになってまうねん……死んだら祟るでしかし!
「とにかく、詳細を聞きましょうか」
……証拠品として持ってきた「オーガの角」を出すと、ローディさんがそれを検分して。
「……間違いねぇな。相当に手練のオーガとみた。年輪が細けぇからな」
ラスさんも同じく検分して、頷く。
「間違いないですね……残念ながら、依頼は二週間ほど前に取り消されたので報酬はありませんけど、それでも討伐実績には追加されますから、ギルド内評価は上がりますよ。
まあでも、この角の買取という名目で、ギルドから報奨金を出しましょう」
おお、それならまあ……ただ精神的に酷い目に遭っただけで終わらずに済んだわー。
まあ領主様から特別祝勝金もらいましたしね。
「……それでですね……ちょっと、オーガに関して、ここだけの話がありまして」
「ここだけの話?」
気は進まないが、これは言っておかなくちゃならない。
鬼殺しどころか、自分のメンタルも死地に追い込む、セルフメンタルキラー・ケンです orz




