また会う日まで
それで、これからどうするね? すぐ国へ帰るのか?
『そうだな……今夜中に、町の近辺からは離れようと思う』
そうか……もう少し、お前とは話をしておきたかったがな。
『うむ、我もだが……我らはヒトの世界とは相容れぬからな。少なくとも、今は』
……今は、か。
そうだな、ハイ・オーガが国の主流になれば、時代も変わるだろうが……それまではまだ時間がかかろうな。
『……一つ、頼みがある』
何ぞ? 多少のことなら応じるぞ。
『……我も、ヒトと接触できたこと、情報交換ができたことを、国へ報告せねばならん。そのための証拠品が必要なのだ。そのような品を何か、譲ってはもらえぬか』
なるほど、証拠品か……するってぇと……何がいいか……。
俺は今持ってる装備をいろいろと見てみるが、あまり小さすぎるモノではなくしかねんし……となると、コレか。
俺は、腰につけたセラミックの剣を、鞘ごと差し出す。
『これを、か?』
これならよかろう。汚れてもいないし、頑丈だからな。
俺の親父からだから――「家に代々伝わる剣」って言っていいのか?
そういうことにしておこう。
『……かたじけない。丁重に扱おう』
あ、ちょっと待て。
俺は〈灯火〉の下、剣を取り出し――〈グラインド・ソード〉の先端で、「名」を刻む――「KEN」と。
魔強化セラミックだけど、〈絶対領域〉さんにかかれば楽勝でんな。
『……有難く受け取らせてもらおう』
すると、グルーガは――額横から角を一本、バキンと折って、俺に差し出した。
デル・オーガの角とはまた違う、三十センチを超える立派な角。
『我らは、真の友誼の証として、角を交換する。お前の剣と交換だ』
……有難く受け取ろう。
ハイ・オーガの角、か……こんなもの、滅多に手に入るものじゃないしな。
『――一つ、教えておこう』
?
『我らは、ここから南西の方向へ向かう』
南西?
『その方向に、海の横、ヒトが入れぬ高山地帯がある』
海の脇、人がはいらない高山……もしかして、ユプニック高原のことか?
『ヒトがどう呼ぶかは知らぬが、その地に我らの国への移送経路がある。
だが、ヒトがそれを利用することは出来ぬ。彼の地に出入りできるのは、我らハイ・オーガでも限られた者であるのでな』
……それは言っちゃいけないんじゃなかったか?
『よい。お前にはそれを知らせておきたい』
そりゃまたどうして?
『……いずれ、お前が、もしくはお前の係累が、我らの国を訪れることがあれば、必要となろう。その角は、その時の鍵として使うことができよう』
……この角が……ねえ。
『もっとも、何の準備もなく我が国に来ても、そこで食われるだけだろうがな』
……おい。
『だから、事前の接触と交渉が必要なのだ。そのための鍵だと思うがよい。
それがあれば、我が招いたことの証左となろう。
それを示せば、ハイ・オーガが交渉を受ける理由となる』
……将来の鍵、か。
『それがいつのことになるかは判らぬが――未来の可能性を作るのも、我の使命であるからな。
それともう一つ――我らも将来は、ヒトと交わることができるやもしれん』
ヒトと交わる?
『ヒトとの交流ができるようになる、という意味だ。その可能性がでてきたということだ。
まあこれにはしばし時間もかかろうがな。お前が生きている間に、実現できれば良いのだがな』
なんつーか……気の長い話だな。五十年計画か? 百年?
だが、オーガともいずれ友好的になれるなら――そうだな、生きている間に、もう一度会えるといいな。
『そうだな。また相見える日を、楽しみにしておこう』
……グルーガの、僅かな光に浮かんだその顔が――少し、「笑った」ように、俺には見えた。
『……では、そろそろ行くとしよう。夜の間に、出来る限りヒトの町から離れたい』
グルーガは、縛り上げたデル・オーガを右肩に担ぎ上げる。
『ケン・ファラザードよ、お前の名は忘れぬ。もしまた、会うことがあれば――その日まで、壮健であれよ』
……ああ、お前もな、グルーガ。
『また会おう』
グルーガの体から、俺の手が離れる。
ズン、とグルーガが一歩踏み出す。
その歩みの震動が、一歩一歩、後ろ姿と共に、徐々に小さくなっていく。
――その震動が感じられなくなり、闇の中に消えていく姿の気配が感じられなくなるまで、俺はグルーガを見送った。
ほんの短い時間の遭遇であったが……でも、俺の持っている皮袋には、デル・オーガの角、そして……「グルーガの角」が確かに残されていた。
オーガとの接触、そして対話、それは紛れもなく事実である。
しかも、人とオーガとの未来みたいなもの、まで託されてしまった。
だが……それをどうするかは、俺の手には余る。
そういう大きい話は、冒険者ギルド……でも持て余すな。国……でも、一国でどうこうできる話じゃない。
こういうのって、人類全体の話だしな。
グルーガはあくまで「未来への種」みたいなもんだと言ってたし……そういうのは、一介の冒険者じゃなくて、もっとお偉いさんが考えることだ。
俺は、冒険者として生きてくことを考えりゃいいさ。
……とりあえず俺も帰ろう。
今夜はもう疲れたよ、パトラッシュ……。
……おーい!
俺はどうやって帰りゃいいんだYO! 放置プレイか!
あの「グルーガ・ジャンプ」ですっ飛んできたあの距離……どんだけ移動したんだおい!
……歩いて帰るのかー。
ここから……あの町まで……まじかー。
ないわー。
……マシナの町に帰り着いたのは、翌日の夕方だった。
途中、獣に襲われたり、崖下に落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。
……元気じゃねーよ! もう疲労困憊だよ!
ほとんど寝ずに森の中、丸一日歩いて帰ったんだよ!
崖から落ちて痛かったし!
グルーガ! 今度会ったらこの件、じっくり問い詰めるからな!
てれれれってってってー♪
『アイテム:ハイ・オーガの角を手に入れた!』
『※ミッション:はぐれオーガ掃討&ハイ・オーガとのファースト・コンタクトを完了しました』




