伝説のオーガと共闘? 3
……
…………
『――起きろ、ケン』
気がつけば、半ば放心状態になっていた俺だったが……よく落ちなかったもんだ。だが肘と肩がめっさ痛い……完全にフックして引っ掛けていなかったら、絶対獣のエサ確定だったわ……死因:落下事故って、どんな冒険者やねん。いややでそんな死に様……スカイダイバーや登山家ちゃうねんで……大体それ、「冒険家」の死に様であって、冒険者ちゃうやろ……。
『奴の狩場が近い。気配を探れ』
気配って……俺、今精神的に瀕死なんだけど?
『あの程度で瀕死とか言うのか?』
……あの程度、ってなあオイ!
人間はお前らよりずっと脆弱なんだよ!
お前ら基準ですっ飛んでいくんじゃねーよ!
『……うむ、忘れておった。お前たちは我らよりずっと弱い生き物であったな』
そーだよ!
少し、回復する時間を寄越せ……ハアハア。
『……そのような脆弱な生き物が、よく我らが同胞をあれだけ殺せたものだな』
知らねーYO! 第一俺はあの大戦に参加してねーんだよ!
『そうなのか……今までのヒトも、大戦のバケモノがどうこうとか喚いておったようだが』
いや、あの大戦参加した奴の大半はもう死んでるから……若い奴らは、親や祖父母である大戦参加者の話や記録文書読んで、知識として知ってるだけだからな?
……そりゃあ、人間界ではオーガっていったら、人間の天敵みたいなもんだからな……ほとんどの人間がタイマンで戦えるわけねーだろ。タイマンしても勝てる人間なんて、ごく少数の特殊な奴だけだ。
あ、タイマンてのは一対一の戦いのことな。
『ふむ……そのような話を聞くのは初めてだな』
……お前さあ、今まで人間とまともに話したことないのか?
『あるわけがなかろう。こうしてお前と話すのが初めてだ』
マジか……今まで出会った人間、全部モグモグゴクンしたからじゃないよね?
『情報を得る相手を食ってしまっては情報どころではないだろう。先ほども言ったはずだが』
……てことは、コンタクト自体出来てなかったと?
『……その通りだ』
……まあ普通に考えたらそうだわな。
何で俺、オーガとこんな話ししてんだろ……。
『お前が話に応じてくれたからであろう?』
いや、そうなんだけどさ……普通の人間だったら、オーガに遭遇=死、って観念するべさ。
大戦で戦ってきた以外でも、人間の世界でのオーガの扱いって、そんな感じだからな。
てか俺だって「話が通じる相手」って、今さっき初めて知ったんだよ。
『……現に恐ろしきは無知なるか、であるか』
せやな。ここにもう一人ぐらい加わってくれれば、お前とのコンタクト話ももう少し真実味があっていいんだけどな……俺一人が言ったところで、誰が信じてくれるのやら。「人を食った話」って笑われるのがオチだな。
『ヒトとはそこまで疑り深いものなのか』
疑り深いてかさー、人類の天敵と思ってる相手と話すっていう、そこにまず考えがいかねーんだよ。
「話が通じる」とすら思ってないんだから。
まあお前と俺となら、二度目以降もいけるけどさ……他の奴と同じように話せるとは思わん方がいいぞ?
だってお前、何年人の地に潜伏してたんだ? その間、ずっとコンタクト失敗してたんだろ?
『ぐぬ……それはそうだが……』
まず、意思疎通の手立てがなあ……接触しても、その見た目がまずよろしくない。人間から見たら、恐怖しか感じないもん。子供が見たら泣いてチビる。大人でも倒れる。冒険者でも逃げる。
それくらい、オーガってのは人間受けが悪い。
『……いや、解ってはいる。解ってはいたが……改めて言われるとな』
……いやまあ、こうして話してみれば話せないことはないって解るけどさあ。
「見た目」ってのは大事だと思うよ?
『……うむ……我も国元では『ちょっと強さが感じられない』などと、牝どもに言われたことはあるが……確かに素早さには自信はあるが、力では少々劣るとは自覚しておるが……だがハイ・オーガは、魔法でその欠点を補って余りあるほど強いのだから、あの牝どもは見る目がなかっただけかもしれんな』
その体格と機動力でか……オーガのモテ基準とは。
オーガの「モテ雄」ってのがどんなのか、想像つかんな……つか、牝オーガのイメージが掴めん……セクシー・デスゴリラ……うーんこの。そういやイケメンゴリラなんてのがいたな……。
『その話は後だ。今は先に、あのデル・オーガを捕らえるぞ』
……へいへい。そういやそうだった。気配気配……と。
……いた。あの岩山の中腹あたり、洞窟あるみたいだな。そこに潜んでいる。
『相解った。では捕獲といこう』
……ところで、俺は何したらええのんな。
『できれば、奴の足止めをしてくれ。直接やり合えばなんとかなるが、とにかく逃げ足が驚異的に速い。逃げにかかったら、なんとかして、僅かな時間でいい、奴を止めてもらいたい』
逃げ足速いって……あんたより?
なんつー身体能力や……人間が勝てる相手じゃねーよな、常考。
止めるったって……まあ方法はないでもないけど……多少ケガさせてもいいよね?
『構わぬ。少々の傷なら我が治す』
わかった。多分あいつ、洞窟から飛び出してくるよな?
『そうなるだろうな。まあ、逃がさず確保できればそれに越したことはないが……腕の一本ぐらいなら、落としても直後ならくっつけられる』
なるほど、キレイに切り落とすならあり、と。
『できるならそのような欠損負傷は避けてくれるとなお良い。やむを得ぬ状況でなければな』
……わかったわかった。できるだけ五体満足でケガもさせない方向で、だな。
難しい注文してくれるなあ……。
むしろ、全力で殺すつもりでかかれ!って言われた方がずっと楽だわ。
解ってる、できるだけ殺さないように、だろ。
『――では、行くぞ!』
うわまてまてまたすっ飛ぶのか!
……と思ったら、ふわりと、まるで月面散歩のような軽やかさで、グルーガは宙に舞う。
お、おう、こんな静かに跳ぶこともできるのか……オーガの身体能力すげぇな。
『ここからは静粛に行かねば、また取り逃がすでな』
そうだな……せっかくここまで接近したんだから、逃がす手はないな。
――そのまま、跳躍・着地の度に多少反動はあるものの、最初の移動に比べたら、ものすごい静かなジャンプで、グルーガは目的の洞窟前に着地。
俺は先ほどの消耗を引きずらず、地上に再び降り立つ。今回のは、むしろ「世界最悪のジェットコースター」から観覧車に乗り換えたぐらいだ。
揺れない地上っていいよねー。まだ感覚は上下運動してるけど。
『……向こうから出てくる気はない、か』
確かに、奥には巨大な生物――オーガらしき気配が一つある。
静かだが――外に「何か来た」ことには気付いたのか、動こうとはしない。
……よし、それじゃあちょっとばかし突いてみるか。
『何をする気だ?』
俺も一応、最小限の魔法ぐらいは使えるんでね。
奴がこれで出てくる気になるかもしれん。
『……よかろう。やってみろ』
そんじゃ、一発やってみるか。




