伝説のオーガと共闘? 2
『よし――ところでお前は、並のヒトよりも速く走ることはできるか』
……あー、俺はまだそういう技術持ってないから無理。
『では仕方ない、我の背に乗るがよい』
……ハイー?
『我の背に乗って、どこかに掴まれ。我が運ぶ』
……オーガさんの背中には、ナニやらオーガ式バックパックが背負われてますが……これのどこかに掴まっていけと。そうおっしゃいますか。
『致し方あるまい。お前にそれ以上の速さで走る術があるなら良いが、そうではないのだろう? 我が運んだ方が速い』
……ワカリマシタワカリマシタ。ちょっと背中向けて。掴まったら腕叩くから、それで出発で。
『うむ。《接触対話》は継続しておるから、我の身体にどこか触れておれば、お前の意思は通じるぞ』
了解。
手を離し、ハイ・オーガが背を向ける。
……何の革だろうか、人間の持っているバックパックと形状や機能性はさして変わらないように見える。この大きさの革ってぇと……ブラッドマンモスあたりか?
だが、やはりサイズがメチャデカい。なんせ俺がすっぽり入るサイズだし。
しかしそこここに、何かをぶら下げるためであろう、撚り合わせて輪になった皮ひもがいくつもくくりつけてある。地球なら金属リングやプラのストラップだろうが、ここではこういう丈夫な革ヒモの輪だ。
そしてそこに、食料になる肉とか獣とかくくりつけていたんだろう、なんか血とかケモノ臭がものすごい。全体に血と脂が染み込んでるし……とはいえ、今更「帰るー!」などとは言えない状況だ。
その革ヒモの一つに足をかけてよじ登り、上の二つで身体をホールドする場所を確保、これなら多少振り回されても大丈夫そうだが――そうやって身体の安定を確認した後、オーガの肩を強めにペシペシと叩く。
『では行くぞ』
待った、ちょっと待った。
『何だ?』
そういやあんたの名前聞いてない。
『……そういえばそうだ。我はグルーガッドムニド・ヴァルーザンガ・ジグ・オルガネラである』
……長いよ!
『うむ、確かに……我と近しき者は、我をグルーガと呼ぶ。お前もそう呼ぶがよい』
グルーガ、ね。OK。
『おーけー、とはなんだ?』
ああ、いや……承知と同じ意味。俺の故郷の言葉。
『そうか……ヒトの言葉は時折訳せぬことがあるでな』
……ところで、この〈接触対話〉って、どうやって意思疎通してるんですかね?
『詳しいことは知らぬが、頭の中で言語を考える前の思考を伝送するのだそうだ。思考形態が似通っていれば、それを相手が勝手に言語化して理解する……というものらしい。
ではお前の名も言え』
あ、はい……ケン・ファラザード。ケン、と呼んでくれ。
『ケン、だな。よし、では行くぞ、ケン』
ぐぉん、と身体が一気に持ち上がる――グルーガが立ち上がったのだ。
うっわ高っ! これがオーガの視線か!
『しっかり掴まれ。振り落とされるでないぞ』
ぐん、と視線が沈み――重力が一瞬、五倍ぐらいに増した。
暴風が上から吹き降ろし――俺は思いっきり革につかまり、目を閉じる。
風は一秒ほどで収まり、重力も軽くなる。
そこで薄目を開けると。
「お、おお……」
――空を、飛んでいた。
森の上、十メートルはある木々の、さらに上。森を斜めにだが、俯瞰できる高さに、俺はいた。
水平の視線の先には、北の山――一際地平線から盛り上がった「黒い影」が見える。あとは――遠くに多少凹凸の黒い影、つまり山の稜線が見える。三十分もしたら、完全に境界も見えなくなるだろう。
空以外はすっかり周囲は暗くなり、斜め後方にマシナだろう、町の明かりが見える。
それ以外は、ほとんど薄い闇に閉ざされつつあり、空も徐々に地上と溶け合うように黒く染まっていく。
……そんな幻想的な光景も、わずか数秒で、「急降下」という現実に打ち砕かれた。「幻想は打ち砕かれるためにある」――それが今日、俺が得た「冒険者の格言」だ。生きて帰ったら、絶対広める。いや、「幻想は右手以外でも打ち砕かれる」の方がいいかってそんなこたぁあああああ!
「……のぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!!」
上に引っ張られる、という逆重力の中、俺の叫びを無視して、足元に強烈な衝撃。慣性の法則に従い、俺は再び強烈な重量攻撃に晒される。引き剥がされそうになる腕を必死で臭い革ヒモに絡みつかせ、衝撃に耐える。
なんだこの瀕死の罰ゲーム!! 冒険者のやることじゃねーべさぁ!! いやある意味「冒険」だけどぉー!!
……また来る「上下バンジージャンプ」の衝撃に備えていると、今度は――
衝撃が「前から」きた――急加速だコレ!! しかも右に左に強烈に振られる!! ヒ――――!!!!
……前世で、友人の知り合い、という峠の走り屋の助手席に、一度だけ乗せてもらったことがある。群馬の、崖の横をうねうね曲がる、その方面では有名な峠道。車は確か、WRXとかいうラリーで有名な旧式車だったが……「酷かった」ことだけは覚えている。
車とは、前か後ろ、ハンドルで曲げても、雪道スリップみたいにちょい斜めに進むぐらいのものだと思っていたが……あの峠では、「横に滑っていく」のだ。ありえねー。しかも、助手席の俺が一番前になったりする。運転手が俺の後ろにいる。運転してない俺が、真っ先に崖のガードレールに、トンデモスピードで一気に迫っていくのだ。しかもそのままガードレールギリギリを「滑っていく」――何の冗談だこれはぁあああ!!
……とかいう、おもらし寸前の体験を思い出したのだが、今のこれは、その比じゃあない。
なんせ、車はほぼ水平、道路の上でしか動かない。しかもハガキ4枚分程度とはいえ、接地している。
だけどこいつ(オーガ)は、水平だけでなく、上下にも斜めにも、三次元でランダムにぶっ跳んでいくのだ。下が原生林とか岩場の空中という、放り出されたら完全にアウトな場所を、自分の腕力で身体をキープしながら、しがみついていなければならない。
昔、ゲーセンにも360度グルグル回転する体感シューティングとかあったが、あれだって方向が変わるだけで、戦闘機みたいにバーナー噴かしてGショック!みたいなのではない。戦闘機乗ったことないけど。
……てか何の罰ゲームだこれえぇぇぇぇぁぁぁぁあぁアッ――――……!!!!
…………
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