ある日、森の中、鬼さんに……
……………………
…………
『……』
……?
『……気がついたか、ヒトよ』
……なんだ……誰、だ……?
『ヒトよ、お前と話がしてみたかった。気がついたのなら、考えて応えてみよ』
……考えて、応える?
『……ヒトよ、まずは己の状態を把握せよ』
俺は、頭がはっきりしていないのに気付き――周囲を確認する。
……しなきゃよかった。
目の前にいるのは――「巨大な鬼の顔」。
アレだ、えっらいリアルな「なまはげ」っていうのが一番しっくりくる――そういう、巨大な鬼顔。
しかも俺、なんか「ものっそいでっかい手」で、死なない程度の力で握られて拘束されてるんですけど……。
『理解したか、ヒトよ』
……えっと。
これってどういう状況だ?
……うん、人って、あまりに理解不能な状況に追い込まれると、逆に理解できなくて冷静になるっていうね。
別名、「絶望的状況」。
いつこれが俺にガブリンチョってくるかもしれんと思うと……あ、終わった。オワタ。オタワ。それカナダね。
『冷静に判断できるのなら良いことだ、ヒトよ』
……あれ? なんか目の前の「鬼の顔」が、話しかけているような気がするんだけど……?
大小の牙が生えた口が、目の前で動いて喋っているんだけど……息が血生臭ひー。
えーとね、こんな鬼のようなオーラ出す人には約一名心当たりはあるけど……違うよね、これ。あの方、デカイ面はするけど、物理的にじゃないしね……。
『気がする、ではない。我が語りかけておる』
……あ、ハイ、間違ってないんですね……。
「鬼のような」ではなく、「鬼」そのもの。
『まずは言っておく、我はヒトを食らうつもりはない。話が出来そうなヒトを探しておったのだ』
はあ……話ですか?
『そうだ。ヒトよ、我は対話を求めている』
……対話? って? 話がしたいと? 死体の話ではなく?
……どういった話で? 人を食ったような話は勘弁ですよ? 表現的なやつでなくて、マジで食う食わないのそういうやつ。
『最初に言わねばならなかったが、我はヒトを食らうためにここにいるのではない。それだけは理解しておけ』
……人……は食わないんですね? 俺も?
『うむ。お前も含め、ヒトは食わぬ。食うならもっと良い食い物が数多くいるのでな』
……えっと……じゃあ食うこともある、と?
『……いや、話し相手を食ってしまってはいかんのではないか?』
……なんだろう、相手はなんか必死に「食わないアピール」をしているんだけど……それが却って不安になる。
『……不安に思うのは致し方ないが、解った、ヒトは食わぬと断言しよう。
もう少し付け足すなら、ヒトは食える肉が少なく、小骨が多い。あまり食った気にならんのでな。それならもっと大きな、肉の多い獣が多数いる。同じ手間なら、簡単に捕まえて十分食える、森の獣の方がずっと良いのだ』
……うん、ウマいマズいアピールよりも、「食わない」と言ってくれただけでいいんですけど……。
『……食わぬ。食ってしまっては話にならぬからな』
……解った。対話がしたいというなら、受け入れよう。
だけど、この身体を押さえている手をなんとかしてくれませんかね。
『ん、おお、すまぬな。今までヒトを、食うか殺す以外で扱ったことがないものでな。迂闊に殺さぬよう扱うのは慣れぬのだ』
…………食わないけど殺す、とかいうのもナシだよね?
『食わぬし、殺しもせぬ。対話がしたいだけだ。対話が終われば解放する。食わぬし、殺しもせぬ。むしろ、帰ってもらって、我らとの橋渡しをしてもらいたいのだ』
……ホントウニ?
『今までこうやって接触したヒトは、皆恐れ慄いて暴れ、逃げてしまったのでな。最初は誤って腕を折ってしまったりもしたが……我らオーガの王と神に誓って、ヒトをこの地で殺したり食らったりはしていない』
……わかった。一応信じることにする。
だから離して。
そして改めて……やっぱ「オーガ」だよ……うわぁ……。
『わかった』
俺を拘束していた「巨大な手」が、俺を地上へ下した――なんか巨大ロボットに握られた人質の気分が解ったぜ。こんなところでそんな気分を味わうとは思わなかったが……。
……で、オーガさん。俺と何を話したいのかね?
……すると、オーガがぶっとい指を、俺に差し出してきた。
これに触れろと? なんかどっかの映画で見たような光景ですね。
もう指っつーか、俺の腕ぐらいあるんですけど……しょうがないから指先を握ると。
『うむ、ヒトよ、我はこうしてヒトに触れていないと意思疎通ができぬのだ』
あ、触れると頭の中で話せるとか、そういうスキル?
『いや、ヒトのいう魔法というものだ。《接触対話》という。我らはヒトの言葉を正しく発音できぬでな』
へぇ、オーガも魔法使えるんや……初めて知った。
『そのあたりも含めて、我はヒトと話がしたかったのだ。ええと、情報交換というやつだ』
……なるほど。情報交換ね。
んで、アナタはどういったことが知りたいので?
『我は今まで、ヒトの地で、同胞を探して旅をしておった。ヒトに見つからぬよう旅をするのはなかなかに厳しかったぞ』
旅? なんでまた。しかも見つからんように、とか?
『我の目的は、ヒトの地に潜んだままの同胞を連れ戻す、もしくは始末することだ』
……ハイ?
『※ミッション:はぐれオーガ掃討 → はぐれオーガ掃討&オーガとのファースト・コンタクト へと変更されました』




