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百均勇者。 -百均スキルで異世界チートは難しい気がする-  作者: 木持河類
第三章 伝説のオーガとバトル?
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マシナの町 その2


 ――その日はそれくらいで、町へ戻る。

 相変わらず森は静かで、それでいて不穏な空気を漂わせている。

 それでもオーガには遭遇することなく、俺達は町へ戻った。

 少し薄暗くなり始めた頃、俺達はビュスナが待っているはずの酒場へ。

 ――ビュスナの姿はなく、ジェシカさんだけが酔客の相手をしていた。

 ジェシカさんは俺達の姿を見ると、隣の住居兼治療院の方を指差したので、そちらに行ってみる。


「おお、来たか」


 ヴァロースさんが治療院で一人待っていた。

 ビュスナは部屋にいるというので、家に上がらせてもらう。

 ……昔は、時々ビュスナに引っ張られて、ここに来たことがあったが、俺たちが成長したせいか、記憶にある風景より少し小さく感じる。

 二階にあるビュスナの部屋のドアをノックすると。


「開いてる」


 と答えがあったため、恐る恐る開けてみる。

 ……ベッドに半分転がったまま、ビュスナは天井を見上げていた。

 女の部屋だというのに、殺風景というか、無骨というか。本棚と机はあるが、棚には魔法参考書ばっか並んでるし、机の上にも魔法関係の勉強道具ばっかりで……装飾というか、女ッ気が全くない。魔導研究室にでも来た気分だ。


「話はしたのか」


 一応訊いてみる。

 返事はない……が、その様子では、事情は全部聞いたのだろう。


「……お前ン家の事情だからな、正直俺らにはどうにもできんが――」

「例の村訪ねて西行くんやったら、付き合うたるで。ついでにうちの実家も寄るっちゅー条件付やけどな」


 とナオが俺の台詞に付け加える。


「今日のところはちっと考えろ。俺らも本格的な行動は明日からにするから」


 それだけ言って、俺らはビュスナの部屋を後にする。

 今日は何を言っても頭に入らないだろうし。




 その夜。

 俺ら三人は、自発的に夜の見回りを買って出た。

 さすがに森には入らないが、町の周囲を見回るだけならよかろうと、ヴァロースさんが町の治安部に口利きしてくれたのだ。

 町にいる冒険者たちも、基本夜行性のオーガに対応して、朝になったら寝て、夕方ごろ起き出して夜に活動するのが多いので、治安部と連携しながら町の周囲を警戒しているという。


「……気配、あるか?」


 ナオが訊いてくるが、俺は首を振るだけ。

 森の近い北側の柵の外を見回って、襲撃に備えるのが俺らの役目だが、町の周辺では森の中の気配までは読み辛い。


「ちょっと森の近くまで足伸ばしてみぃひんか」


 ナオが森を指差すが。

 ……森までは目測で一キロもないが、月明かり・星明りという言葉すらないこの世界、夜で町や村の明かりから離れた場所は、完全な闇だ。今ここ、柵から百メートルぐらいなら町の明かり(篝火を焚いている)もあるので、辛うじて互いの姿も足元も視認できるが、これ以上離れるとちょっと厳しい。

 そんな中、明かりを持って奴らのテリトリーをうろつくのは、はっきりいってリスクでしかない。


「気配ならここででも感知できる。こんな闇の中、わざわざ奴らの有利なフィールドへ近づくなんぞ、死にに行くのと同じだぞ」


「そーゆーこった、お嬢ちゃん」


 ――突然割り込んできた声に、俺らは振り返る。

 そこには、一人のスカウト(もしくは盗賊)らしき人物がいた――俺が気配を感じ取れなかった?

 「らしき」というのは、軽装であること、そしてこの気配の消し方から、であるが。

 これで「本業は魔導士」とか言われたらどうしようかと。

 ――ナオとシェラが、その人物に対して構えて警戒するが。


「おいおい、俺は味方だぜ? 拳向けるならオーガにしなよ」


 と、片手を上げる。顔は暗くてよく判らないが、声からしていい年をしたおっさん冒険者だろうか。


「ところで今お前さんら、俺の気配が判ったかい?

 判らなかったんなら、オーガの相手なんざ無理だぜ。奴らはこれくらい、気配を消して近寄る。

 そして、いきなり横を無防備に歩いている獣や人間を不意に捕まえて――」


 横向きのシルエットが、手を口元へ持って行き、何かを齧るような動きを見せる。


「昼間でも、森の中ならそういうリスクがある。

 お前さんら、昼間森の駐留所へ来ただろ? 昼間でも不用意に森に入るのはよすんだな。

 森の入り口付近ならともかく、途中の道でいきなり脇から手が出てきて、握り潰されねえとも限らんからな」


 ……どうやら、あの昼間の駐留所にいた冒険者の一人らしい。記憶にはないが、あのときも気配を抑えていたのだろう。


「俺らの仕事は、お前らみたいな自信過剰なガキをオーガのエサにしないことも含まれてンだよ。

 実力の程が解ったら、おとなしく帰って寝てな。さすがに大鬼だって、単独でこの規模の街中までは入っちゃあ来ねえからな」


 言うと共に、その姿と気配が薄くなって消えた――これは……幻覚系の魔法も使っていたのか?


「……なンだよ、あいつ……」


 こんなところに、あんな化物みたいな奴がいる?

 それとも、一人前の冒険者というのは、ああいうレベルの人間がゴロゴロいるのか?


「……ちょっとこれはマズかったかな――ボクら、本物をナメすぎてたのかもしれないね」


 シェラが、腰のショートソードから手を離して呟く。


「オーガがさっきのあれ以上に気配消せたら、ボクらじゃ正直、手に負えない」


 ……俺らの中じゃ、一番冷静に戦力分析できるシェラがそこまで言うのだ。

 確かに、俺の気功術も、本気で気配消す技術にどこまで対応できるかというと――正直、あそこまで効果がないとは思わなかった。いや、むしろ自分の気配感知に自信を持ちすぎていた、ということになる。

 ……ていうか、俺の気功術自体も、よく考えてみれば正しく修行したのなんて短い期間でしかない。年単位の修行して、この能力を得ていたらもっと警戒していたか、もしくは感知できたのかもしれないが……現実、あのレベルの冒険者を認識できなかったのだから、何を今更言っても言い訳にもならない。さっきのあのおっさんが敵だったら、俺らはモブのごとく、不意に首が地面に転がる役だったかもしれないのだ。

 ――ナオだけは、言葉こそ発していなかったが、悔しさも実力さも噛み締めているのは判る。

 上には上がいる――それを心底思い知らされた夜だった。


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