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百均勇者。 -百均スキルで異世界チートは難しい気がする-  作者: 木持河類
第三章 伝説のオーガとバトル?
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マシナの町 その1


 ウノマシナの森。

 マシナの町の北から北西に広がり、その向こうの山脈まで続く、かなり広大な森である。

 マシナから北には、畑や軍の巡回偵察用の拠点があるだけで、人の住む村や町がない。街道も北東から南西方向、そして南に通っているだけ。北側には狩人が使う細い道があるのみで、俺の一家が狩りに行く時にもずっと使っていた。

 実際、このウノマシナの森は、軍によってゴブリンのような危険生物がほとんど駆除されて、狩場としては非常に優秀である。

 そんな森に、オーガのような一級危険生物が出たこと自体が非常に珍しいのだが――「オーガ狩り」に近隣の冒険者がわらわら集まり、今すでに八パーティ、三十八人がマシナに投宿している。俺らを加えれば四十二人。

 これだけが一斉にかかれば、さすがのオーガも倒せる……と思いたいが、集まっている連中がどれくらいのものかが判らんので、何とも言えない。「口だけ番長」揃いだったら、その人数でも全滅……とまではいかないまでも、半分ぐらいは死ぬ可能性がある。


 ――という情報をくれたのは、他ならぬヴァロースの親父様である。

 元冒険者の大先輩として、現役新米の俺たちは、挨拶がてらアドバイスをもらいに行ったところ。


「オーガの強さは反則級だな。

 魔導士からすると、生来の魔法に対抗するだけの身体があるから、これほどずるい相手はないな。魔法は通常の半分も効かないと思っていい。《シールド》もなしに威力半減とか、全力でかからないとこちらがやられる。

 ジェシカと私も行ければいいのだが、ジェシカは膝を痛めたのが引退の理由だからな……森に入ってオーガを相手にするには少々辛い。私も町の防衛を町長から依頼されているのでな」


 現役から離れたとはいえ元は一流冒険者(白金級)、町の保険として頼られているってことか。

 そして、オーガ攻略については。


「まず足を止める。これに尽きるな。

 オーガは、ゴブリン並の機動力がある。あの巨体でだ。

 自分の身長以上のジャンプ力もあるし、足元に冒険者が群がってきたらジャンプして踏み潰す、なんて芸当も普通にやってのける。しかも奴の足の裏は皮が特別分厚く頑丈で、剣や槍を踏んでも簡単には刺さらないほどだ。

 だから、まず足を止めること。特に踵、爪先、膝を狙うといい。機動力を封じたら、次は肘か指、もしくは目だ。目を狙う時は魔法が有効だ。《光弾》ならピンポイントでも狙える。そうやって腕、足を潰して、最後に頭をやる。

 要は『自分が小人にやられたら攻撃力を削がれてイヤな攻撃』をすることだ。

 だが近づきすぎるな。近づけば、腕でちょっと振り払われただけで、人間など簡単に吹っ飛ぶ。全力で叩き潰されたら、そこで終わると思え。奴が武器を持っていたら、距離を保って攻撃するよう心がけろ」


 ……親父様、ものっそい脅しかけてませんか?

 いやまあ解りますよ、一人娘がオーガなんぞと殺り合おうってんですから……ねえ? 下手したら殺されますもんねえ。

 ですから、マジ危険だと思ったら、俺も全力で始末しますし。

 ええもう、隠してなんていられませんよ、全力でズキューンしまっせ?

 でも最初から全力で始末したりすると、ナオの奴がねえ……ビュスナもそれは解ってることだし。

 他の連中に倒されたら、まあそれはそれでしゃーなしですけど、俺らは最低限のサポート&切り札に徹しますよ。


 さて、これだけの危険生物を相手にするとなると、状況の情報収集も必要だ。

 といっても、情報が集約されている場所はどこか?

 大きな町なら冒険者ギルドがあるのだが、生憎ここにはそれがない。あればここで俺も冒険者登録してる。

 ……というわけで、こういう場合は酒場に行くのが定石だと思うのだが。


「おンや、帰ってきたと思ったら……こんなとこに顔出すなんて珍しいじゃないのさ」


 ……酒場といったら、ヴァロース治療院の隣、ビュスナのおっ母さんがやってる酒場、「荒野の跳ね馬」亭。隣の宿「宝箱の鍵」亭と組んでやってるから、酒場とはいっても食堂も兼ねている。

 最初は宿を隣にしようとしたのだが、ツン子さんが「あっちの宿がいいわよ」って「ユニコーンの乗り手」の方へ案内したのだ。ちっとは親の仕事支援したれよ。

 元冒険者のジェシカさんがやっているだけあって、冒険者の姿もある。テーブルに四人、五人の二パーティ、カウンターに二人。いずれも町に着いたばかりなのか、オーガの話などしながら、メシと酒で腹を満たしている。ウェイトレスとしてオバちゃん一人と若い町娘が二人、料理やジョッキを持ってテーブルとカウンターを行き来している。

 そこに入ってきた俺らの姿を目ざとく見つけたジェシカさんが、笑みを見せる。

 四十代半ばのはずのジェシカさんだが、見た目は三十代ぐらいに見える。濃い目の熟女スキーでなくても十分イケるんじゃないかと思うほどに若々しい。戦士現役時代から比べると筋肉も落ちたが、寧ろいい具合に女らしい感じになってるから……おっと、俺は人妻や熟女は守備範囲じゃないんだぜ。評価はするけどな。

 ……アレだ、ジェシカさんって気功師の村の出だから、そのおかげで肉体が若く保たれるんだろうか。波紋が疾走したりする一族と同じか?


「お久しぶりです」


 俺はジェシカさんに頭を下げてみせるが、ビュスナはあまり来たくなかった様子で、渋い顔をしている。

 ……理由は知っている。ジェシカさんはビュスナを鍛えて、肉弾派戦士にしたかったらしいが、本人は魔導士の道を選んだのだ。だからあまり顔を合わせたくないのだ。

 他人からみたら些細な理由なのだが、ジェシカさんは意外とビュスナに甘く、その甘さがビュスナにはちょっとイヤだったらしい。それで厳しくしてくれる親父様について魔導士になったのだ。

 甘い母親より厳しい父親の方を選ぶというのも、なんかこの負けず嫌いな性格としては合っているとも思うのだが、ただ性格的には肉弾派戦士を選ぶのが正解だったと思うんだよな……まあそれはそれで、魔導士としても優秀なのだから、才能的には合っていたんだろう。


「悪いねえ、うちの娘っこの面倒見てもらってて。まあ元気でやってるようで何よりだよ」


 ナオとシェラをジェシカさんに紹介して、渋い表情のビュスナとともに、俺らはカウンターの端に陣取る。


「里帰りしたってのにこんな状況だからね。この町の近くまでオーガが出るなんてねえ」

「そういえば、ゴブリンが出たのも何年ぐらい前でしたっけねえ。俺ら、チビの頃でしたけど」

「そうさねえ、確か……九年前だね。それ以降、怪物らしい怪物の噂も聞いてないし――ま、そのあたりはあんたの方が詳しいだろ」


 そりゃそうだ、俺なんかしょっちゅう森に入って狩りやってたんだし、それで怪物の類には遭遇したことがない……一番の怪物は「覚醒」したときのヌシだったな。だけどあれも所詮イノシシの一種だし。

 とりあえず、食うものを頼みつつ、オーガの噂についていろいろ聞いてみる。


「最初に目撃されたのが、二ヶ月ぐらい前だね。暗くなりかけて森から戻ろうとした狩人が、地響きとシルエットで見たのが最初だ。

 その後、食い散らかされ獣の体の一部や巨大な足跡、そして獲物を取られた狩人(ゴロンゾ)の話まで出てきて、遂にはっきりその姿も目撃されるに至って確定したのが、十日ぐらい前の話だね」


 それで町長が即座に、冒険者ギルドへ討伐依頼を出した、というわけである。

 その頃、俺たちは――一仕事終えて、軍が到着するのを待っていた頃か。

 もし一回帰ろうと思わなかったら、ここがこんなんなってるとは判らんかったかもな。


 ……で、ビュスナさんや。

 あんた、黙ってないでさ、お袋さんに近況ぐらい話したらどうかね?


「……せや、ケン、あんた森には詳しいんやろ? ちょい、入り口あたりまで案内してくれんか」


 ナオがそう声を上げ、目配せしてくる。


「そのあとでいいから、町の回り、ちょっとぐるっと案内してくれる? 町に被害出そうなところならある程度わかるし」


 シェラも便乗してきた。

 これは……乗るしかない、このビッグウェーブに!

 食い物も一通り片付いたことだし、俺達は席を立つ。

 当然ビュスナも立とうとするが。


「お前はここで待ってろ」


 俺はビュスナを止めておく。


「なんでよ」

「少し話していけ。これまでのこととか」

「……そんなのあとでいいよ」

「あるだろ、話しておくこと」


 ビュスナは眉間に少し皺を寄せたが、席を立つのを諦めた。


「ベレー・レイヴァー――知ってますよね?」


 俺がそう言うと、ジェシカさんが驚いた貌になる。


「あいつに会ったのかい……どこまで聞いたんだい?」

「それはその娘っ子から聞いてください。一回りしたらまた来ます」


 それだけ言い残し、俺たちは席を立つ。


「……ま、少しは話できるとええけどな」


 ナオは、なんとなくあの二人の間の空気を読んだらしい。


「そうだな……むしろ親父様の方が話しやすいのかもしれんが」


 話が終わった後も、あの父娘漫才がもう一度見られれば、と俺は思わずにはいられなかった。



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