オーガ
新章でござる(´・ω・`)
史上最強のオーガの親子喧嘩、決着!
……とかいう話ではありませんw
「人食鬼」。
その名称から容易に想像できるが、巨大な肉食の怪物である。「地上最強の生物」とかではない。「ほぼ地上最強の人型怪物」、といったところか。
この世界で「鬼」というのは、「人型の怪物」を意味するらしい。吸血鬼とか、食屍鬼とか、小鬼とか、豚鬼(オーク/ボールグ)とか、いろいろいる。決して、背中に鬼を背負うような、めちゃ強い人間のことではない――が、時に「人を超えた強さを持つ者」を、「拳鬼」とか「魔導鬼」とかいう称号で呼ぶことはこっちでもある。
ただし、「巨人」というのはまた違う。巨人となると、「神」を指すことになる。
オーガは、そんな「鬼」の中では最も巨大な化物で、地球なら「大鬼」とか「大猿鬼」とか言ってもいいような怪物だ。
身長は人間の倍から三倍程度、4~5メートルぐらい。巨大な顔には多数の角が生えている。一本か二本、特徴的な大きな角があり、それ以外は顔の周囲に何本も、ヒゲや髪みたいに生える。肌の色は茶色から灰色に近い黒、足は短く、手が太く長い――体型はゴリラに近い。鬼というより「大猿」と称した方が、体型的にはしっくりくる。大猿サ○ヤ人ほどデカくはないが。
知能はゴブリン兵と同じ程度、つまり小学生レベル。魔法も使えないし、群れても知性爆発は起こさないらしいが、知能の高いオーガ種がいることは確認されている。
そもそもが、西方域で確認されているオーガでも、十体前後の群れしか確認されていない――通常ならば。
単独で行動することは稀で、この近辺ではほとんど見かけない。西方、特に森林地域に分布する怪物なので、主に最西方のパン・セリンか、そのすぐ東のアークゥエスミィぐらいでしか遭遇しない。
が、ごくまれに、このあたりで遭遇するやつがいる。
……ずっと昔、八十年ほども前になるが、「西方人鬼大戦」とかいう、大きな「人とオーガの戦争」があったらしい。
西方の大山脈の向こうにあったという「オーガの帝国」――そこから、数百万のオーガが人類世界へ侵攻をかけたが、迎撃した人類はなんとか勝利を収め、オーガは人類の版図からほぼ駆逐された。
……はずであったが、その際に人類居住圏に逃げ散らばったオーガが残っていて、それがこのあたりまで逃げ延び、生き延びて、今も旅人を食らったりしている。寿命も人間よりやや長めで百三十年前後あるので、人鬼大戦の生き残りがまだうろついているのだ。
それがいわゆる「はぐれオーガ」だ。
はぐれオーガは、大抵単独で、森や山を通ってかなり広範囲に逃げているため、完全に駆逐するのは難しい。それに、人を食わなければ生きていけないわけでもなく、野生動物を食らっていれば生きていけるので、人に知られずに生き延びているケースも多い。そういう点では、オーガの知性は小学生レベルではなく、もう少し高く修正すべきではないかと、魔導士ギルドの調査部門では声が上がっている。
オーガの特筆すべき点は、そのパワー。持っている武器は、そこいらに生えてる木から枝を払っただけの、「丸太そのもの」のような棍棒が多いが――それを片手で振り回すのだ。その一撃が命中すれば、人間なら簡単につぶれて即死する。
それと、見た目以上に敏捷でもあり、森の中では木から木へ飛び移ったり、木の上に潜んで上から襲い掛かるような芸当もやってのける。その巨体で、気配の消し方は熟練の盗賊以上という、脅威の存在でもある。
別名、「忍び寄る森の殺戮者」。
この体格とパワーでそれをやられたら、普通の人間などひとたまりもない。森の中で不意打ちを食らえば、十人単位の熟練冒険者パーティといえ、容易に全滅させられる。しかも天然に強靭であり、個体差はあれど魔法耐性もある。
そのためオーガは、キングが率いるゴブリン軍団以上の「第一級指定災害生物」であり、発見したら即役所への届出も必要となる。
駆除には複数の冒険者パーティ、もしくは正規軍の派兵が必要だからだ。
……とはいえ、はぐれオーガは「基本放置」で対応する場合も多い。
住民に被害が発生する件数自体は多くはないし、家畜や野獣が被害に遭う方が圧倒的に多いからだ。
また、「オーガの仕業」と発覚せずに「野獣にやられた」と誤認したまま終わってしまう場合も多く、はぐれオーガという存在も、実は一般にはあまり浸透していない。
人鬼大戦からも相当な年月が過ぎていて、多くのはぐれオーガも寿命が尽きる時期、とみられている。
このまま対応しなくても、あと十年二十年もすれば、全てのはぐれオーガが死に絶える、とみており、人的被害がない場合は正規軍も「わざわざ対応しない」というケースも多いらしい。
さすがに町や村が襲撃され、被害がでるようなら話は別だが――俺が知っている限り、マシナでもその周辺でも、オーガの噂も昔話も、一度も聞いたことがない。
今となってはドラゴンぐらいのレアモンスター扱いだ。
その滅多に出ない怪物の話で、町は持ちきりであった。
……当然、うちの親父や兄貴もだ。
いやまあ、俺が一年もせずに十万ゴネル稼いで持ってきたって方が実家的にはより大きな話題にはなったが、それ以外では普段、そんなに事件もない田舎町。オーガ出現は町全体にとっての「大事件」、「大災害」である。
もちろん、領主様的にも大事件だけど。
そのお陰で、普段は通り過ぎるか、害獣駆除ぐらいでしか来ない冒険者が何組も町に滞在し、町の宿も酒場も一層盛況だ。酒場は冒険者の話を聞きに来る連中で盛り上がってるし、町も妙に活気付いている。雑貨屋が武器や鎧やらを大量に仕入れて武器屋みたいにもなってるし、町の人間までもが何かの備えで武器を買っていく姿がちょくちょく見られる。
もっとも、治安兵にとってみたら厄介なことこの上ない。オーガなんて話にしか聞いたことのない兵士ばかりで、当然戦ったことなどあるわけがない。普段は泥棒を捕まえるとか、時々酔っ払いのケンカ仲裁とか、害獣退治とか、せいぜいゴブリン退治とか、それくらいしかしたことがない兵士ばかりなのだ。
それでも一応は、森に面した部分を見回る時はビクビクしながらも、町の周囲を厳重に見回ってはいる。
さらに被害が出るようなら正規軍が派遣されて駆除に入る、とかいう話になった。目撃地域は巡回もするらしい。
それまでは厳重警戒で、集まってきた冒険者も上手く使え、と領主様からのお達し。
で、イマココ。
「オーガを狩りに行くって……無茶言うなよ」
ナオがとんでもないことを言い出した。
「手伝ってくれとは言わへんで。うち一人でもやる」
ナオは拳を固めた手甲の状態を確認しながら、無表情に応える。
あかん、これは激昂を通り越してる……。
「一層無茶だろうが……ゴブリンの時にも思い知っただろ? 俺らはゴブリンキング一体にも手こずった。オーガはそのゴブリンキングも一捻りで倒すような怪物中の怪物だっていうじゃないかよ。
お前一人で行って勝てる相手じゃないことぐらい解るだろ」
俺の言葉に、ナオは一瞬だけ動きを止めて反応した――が。
「そんでもやるで。うちはな、オーガを皆殺しにせなあかんのや。そのためにもっと強うならなあかん」
……あー、また厄介な話が出てきた。聞く耳も持ってねえし。
これ、また俺が関わって痛い目みるパターンだ……きっとそうだよ!
「……何があったかぐらいは、話しなさいよ」
ビュスナにそう言われると――ナオは不承不承、(俺への罰ゲームの宣告を)ぽつぽつと話し始めた。




