捕獲完了
「ケン坊がついていながら……気配逃したらダメじゃない」
と、ラスさんのケガを見てリリエラさんから叱られた。すんません。
でもそう言われましても……あの人ら、シャレにならんほど気配消すの上手いんですから。
「そりゃまあそうだけど――でもラスに傷負わせたのはダメだよ? ギルドのお偉いさんなんだから。気配察知して守るのがケン坊の役目っしょ?」
……それはハイ、重々承知しております。申し訳ございません。
「――しかし、やはりケン君も魔法が使えた方がいいな。特に防御に関しては、もっと考えないといけないね。ベーシック・スペルぐらいは使えるようにしておいた方がいい」
マシュさんの仰る、そのとおりにございます。さっきホントそう思いました。俺が〈シールド〉使えたら咄嗟に防御できたはずだと。
やっぱり魔法、必要ですよねぇ……魔法学院編、マジで始めないといかんか。
「でもねぇー、冒険者としてパーティ組んでいるのにぃ、今から魔法学院通いはねぇ……」
と、リリエラさんがいつもの口調に戻ってツッコむ。
えー、せっかくだから行ってみたいのに……でも最低でも一年ぐらい行くんだっけ。確か魔導士コースのカリキュラムとしては二年単位でやるらしいけど、飛び級ってか試験さえ通ればどんどん先に進めるって聞いたよ。
「だからぁー。マシュミーヤ先生がBCだけでもあげといたらいいんじゃない?」
……あんですって?
……あ、そういやマシュさんて、私塾開く資格あるんだっけ。BCの伝授もできると。
「うむ……しかしどうだろうな、魔法の根本的な知識に乏しいまま、与えてもいいものかどうか」
あーいえ、多分半分ぐらいは判ってると思います……問題は制御式とか、魔法の教養的な方なんで、新しい魔法習得とか新魔法開発とかでなくて、ベーシック・スペルを活用するだけならそんなにかからないかと。アレですよ、ゴブリンキング理論。多分俺、ゴブキンさんよりマシだと思います。「僕がベーシック・スペルを一番上手く使えるんだ!」とか慢心はしませんから。
「まーまーいいじゃない。魔法の基礎鍛錬を何もしていない生徒が、BCを与えられて果たして魔法を上手く使えるのかどうか? そーゆー実験だと思えば。一本実験レポート出せるんじゃない?」
「……なるほど、そういう口実でもいいか」
……あのーもしもし? 人を実験対象扱いするのはいかがなものかと思いますけど?
「あ、それとねぇー、BCの伝授ってタダじゃないのよー。一応伝授料は払ってあげないとぉー。コピープロテクト解除コード。ものっすごい高かったみたいだから」
あー、そうらしいですね。プロテクトコードはめっさ高いとか……それに私塾経営って簡単じゃないらしいですし……ぼったくり経営が当たり前、とか聞いたことあります。
いいですよ、五十万ぐらいまでなら支払います。それくらいの価値ありますし。
「私は別に私塾経営で生活しているわけじゃないから、料金は特にとらなくてもいいのだが……まあそれは後で考えよう」
そうですねー、今は目の前のコレ、完全に片付けないと。
……てなことを話していると、洞窟の掃討も終わったらしく、突入メンバーがゾロゾロと戻ってきた。何人か、生かして捕獲したようで、縛られた盗賊が、胴体輪切りにされた血塗れエリアの脇に転がされる……ビビってるビビってる。
「――外もいろいろあったようだな」
と、ベレー・レイヴァー。この人は余裕のよっちゃんかましてるねえ……無傷だし、疲れた様子もないし。
「ビュスナはどうした」
倒れて寝ているビュスナを見て、ベレーが訊ねてくる……ので、〈光弾〉食らって倒れた経緯を話した。
「……それくらいで集中を乱してしまうとはな。まだまだだな」
呟くベレーの表情は複雑なものがある……「未熟者」と「仕方ない」の入り混じったやつ。
ベレーは、ビュスナの横に跪き、火傷の残る顔に手を置く――その手が、眩いばかりの光を放つ。
「よく見ておくといいよ」
リリエラさんが、後ろで囁く。
ベレー・レイヴァーの、本気の気功術。
――「閃光」が、ベレー・レイヴァーを中心に放射されたように見えた。
その「閃光」が、直後には一点へ集中する。
ベレー・レイヴァーの手元へ集約された光が、さらに周囲の「気」を引き寄せ、集めていく。
……数秒で、ビュスナの傷は綺麗に消え、表情に残っていた苦痛も消え去っていた。
ついでに、とばかりに隣のナオの脇腹と腕の傷にも手を当て――十数秒で、その傷を消し去る。
「気功師っていうのは、ああいうのが本来の姿なのよ」
……リリエラさんの言葉と、目の前の結果に、俺も言葉もなかった。
ああも簡単に、魔法も使わず傷を治せるものなのか。単なる「治癒力の活性化」だけであれほどの効果が出せるものなのか? って、俺自身、ナイフで刺されて実体験したじゃないの。
「……それで、そこに転がっているのは誰だ」
ベレーが、脇に拘束されて転がっている予備団長を見下ろして聞いてくる。
「予備団長、だそうです。真の団長はどこへ行ったのやら……」
「最初からいなかったのかも知れんな」
ベレーはそう応えた。
「最初からいない?」
「《闇の荒野》は広域手配盗賊団だ。それを一人で統御するのは、よほど軍のような、訓練された組織でなければ難しい。だから地域ごとに分割された数十人程度の盗賊団として配置し、それぞれをそれなりに指揮能力の高い予備団長とやらに一任して、国からの追っ手がかかればしばらく隠れてやり過ごす。
そういう中小の盗賊団を広域に配置している、より裏に隠れた大きな組織がある――頭目一人で広域盗賊に指示を出すより、そう考えた方が腑に落ちる、ということだ」
「ああ――つまりヴァーサールがやってたようなことですね」
シェラがさらっと言ってのけると、ヴァーサール傭兵たちの鋭い視線が集まる――が、それだけで彼らは何も言わない。
「別にヴァーサールが盗賊団を送り込んでいるとは言いませんけど……バックについてるなら、国家、もしくはそれに準ずる組織力が必要じゃないかって、そういう意見ですよ」
シェラは平然とそう言い放つ――が、こいつ大した度胸してんな……ああ、ライ・マーストやデジコマンズの連中がいる前だから、わざと言ってんのか? 「ヴァーサールの連中が来てるのはアリバイ作りかもよ」って。
「……それはこいつに問い質すまでだ。中にいた連中もほぼ捕縛、もしくは始末した。盗品らしい金やモノも貯め込んであるが、それはこちらで回収し、ジシィ・マーダへ引き渡す。
お前たちも然るべき処分を覚悟しておくんだな」
ベレーの宣告に、予備団長も黙って俯くしかなかった。
『※ミッション:盗賊団殲滅を完了しました』




