〈天死の輪〉
「ナオ!?」
矢を抜いたナオが、その場に崩れるように倒れる。
「大丈夫、やて……奴らを、始末する、間ぐらい……余裕で待つ、わ……」
その姿を見ているビュスナの表情が、妙に歪んでいく。
――〈シールド〉が、消える。
「ビュスナ!!」
シェラの声に、ビュスナが我に返る――
同時に、そこへ〈光弾〉が複数、叩き込まれた。
『甘いねぇ……どうして俺らが全員、アジトの中にいるって思った?』
ビュスナが数発の〈光弾〉の直撃で、その場に倒れる。
ラスさんの〈シールド〉も、同時に消えている。毒で魔法が維持できていない。
再び、「光の帯」が俺たちに向けられる。
『あーあ、これじゃまた仲間集めからやり直さなきゃならねぇじゃねぇか……だが、お前らも生かしちゃおかねえ。あの世で俺の仲間に詫びとけ』
が。
突然、光の帯が一つ消える。
「ふごっ!」
――負傷していたヴァーサールの傭兵が、盗賊団の背後から「不意打ち」で襲撃。
一人を殴り飛ばし、さらに二人を打ち倒す。
『くっそ、ヴァーサールの傭兵なんか雇いやがって、めんどくせえ!』
頭目らしいやつの声は聞こえるが、気配が探れない――くっそ、どこだ畜生!
もう一人倒したところで、ヴァーサール傭兵も矢を数本受け、動けなくなる。
『もういい、とっとと始末――のぅわッ!?』
ギィン!と、硬いものが叩きつけ合う音。
『おまえっ、ミューラザッド――じゃねえな! 誰だ!』
シェラが頭目の相手をしているのか?
『ちッ、この――やっちまえ! 皆殺しだ!』
頭目がシェラの攻撃を受けながら命令する。
くそっ、あと六人――一人ずつ始末してたら間に合わねえ!
こんなとき、こんなときに一斉に始末する何か――そうだ、忘れてんじゃねえ俺!
盗賊団は一定の距離をとって離れているが、頭目以外は少し前に出ている。そしてほぼ横並び。
ヴァーサール傭兵は倒れて臥せっている――なら!
――俺の手が水平に振られた、その直後。
「光の射線」が、乱れた。
矢は飛んできた――が、俺たちの手前に刺さったり、洞窟の上に刺さったり。
だが、頭目を除く五人の気配は、ほぼ消えていた。
そして、木が何本か倒れる音。
「シェラ!」
「こっちは大丈夫!」
時折響く音と返答が、シェラの健在を示している。
「ラスさん!」
「大丈夫……です。なんとか」
――自力で毒は抜いたらしい。続いて矢傷の治療を行う。さすがギルマスだ。
「こっちを頼みます」
「解りました。メリッサさんでしたね、毒は私が抜きます。傷の治療は任せますよ」
「は、はい――」
サガグループの女子魔導士に指示して、ラスさんは矢を受けた二人から毒を抜き、治療を任せる。
続いてナオも無事、解毒。傷は血止めだけで、本格治療は後回し。
そしてビュスナ――も、顔に火傷ができて失神はしたが、なんとか大丈夫のようだ。軽く治療し、意識の回復を待つ。
それを見届けて、俺は奮戦中のシェラの援護に向かう。
今度は〈DBグローブ〉で、気配を隠しきれない頭目を狙い――
『うがっ――』
「ナイス」
シェラが、頭目の右膝と右肘を切り裂き、チェックメイト。強えー。そして頭目弱えー。
「くっそ、あのガキ……てめえらのスパイか」
シェラに取り押さえられた頭目が呻く。
「違うよ。あれはボクの弟でね、別命で動いてはいたけど、ボクとは無関係。ボクはボク、ミューラはミューラで全く別の目的があったのが、たまたまここで遭遇しただけだから」
「……ったく、あんなのと関わるんじゃなかったぜ」
ぶつくさ呟く頭目を拘束し、倒れているヴァーサールの傭兵を引きずり、ラスさんの元へ。矢を三本受けていたが全部腕で受けている。毒さえ抜けばどうとでもなるようだ。
そして、頭目の男。
「……残念だが、俺は団長じゃねえ。予備団長だ」
――〈闇の荒野〉は、どうやら色々と複雑な組織らしい。
予備団長とは、団長がいなくても「盗賊団の行動指針」に則り指揮するための人物だそうだ。
団長は現在、どこにいるか解らないとか――予備団長も、本人には一度しか会ったことがなく、それ以後は手紙で指示を受けているだけで、団長の素顔も知らないという。
……この盗賊団、俺が見てもただの盗賊団じゃないのは解る。野盗なんかやっているのは、傭兵くずれや戦争敗残兵が中心になっていることが多い。だがこの近くではここ数十年戦争はないし、戦える腕があれば冒険者稼業でもやれば稼ぎ口には困らない。
ゆえに盗賊は、冒険者っていう職業にも適応できなかった「落ちこぼれの乱暴者」の末路。人数が多少多くても、「強い奴が偉い」だけの烏合の衆である。
なのに、この盗賊団は「妙に組織として統率が取れすぎている」のだ。
まあそれはおいおい、背景も含めて解明されることだろうさ。
「ケン君、シェラザッド君、少し周囲の警戒をしてもらえますか。もう他に外にはいないと思いますが――」
回復してきたラスさんの指示で、俺とシェラは洞窟周囲をぐるっと見てくる。
……俺もちょっとセンサー感度最大で周囲を探ってみるが、敵どころか動物すらも周囲にはいない。俺が全力バキューンした連中は半分死亡……まあこれはしょうがない。あの予備団長とかいう奴を捕らえただけでもよしとすべきか。
「……ところでさあ、これは何かな」
――最後に始末した六人のところへ来て、シェラがさすがに言わずにはいられなかったようだ。
五人は、胸のあたりの高さで腕ごと胴体真っ二つ。しかも、周辺の木も同じ高さで綺麗に刈り取られている。
周囲には血の臭いが……さすがにこの臭いはなあ。
……だが、思ったほど俺も動揺していないのは判った。
地面に伏した六つの血塗れ死体を眺めても、血の臭いに顔を顰めただけで、「人間を殺した」ことに対しての後悔というか、禁忌を破ってしまったといった感覚は、思った以上になかった。
「こんなものか」――思ったのは、その程度であった。
所詮殺した相手も、人殺しだろうがなんだろうがやってのける強盗団みたいなもの、ならこちらが始末したところで同じこと。そこに遠慮も容赦も必要ない。
「殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけ」――ってことだ。
「……公開した技に、こんなのなかったよね?」
シェラはそう問うが、馬鹿正直に答えるとドツボにハマりそうなので。
「……男には百の秘密があるのだ」
「ビュスナにもそれ言う?」
……それはやめて。禁句よ。MPなくなるからやめて。
「……一応な、完成した技以外は秘匿事項ってことで言わなかったんだよ」
「ふ――ん」
「信じてねえな……解ったから、黙ってろよ?」
俺はリング・スラッシャー改め〈天死の輪〉を展開。直径三メートルぐらいまで拡大した「見えない斬撃の輪」。一〇メートル×〇・一ミリの〈絶対領域〉をリング状にしたものだ。それ以上大きくすると、斬撃範囲が判らないから今のところやってない……が、もっと拡大はできる。これも「サンキュー、○リリン!」て礼を言うやつだ。
シェラが触ろうとしたので「触ると指落ちるからやめろ」と警告。木の枝で試させて、何の抵抗もなく次々輪切りになったのを見て「あ、これは触ったらダメなやつだ」と理解したようだ。
「……攻撃力ばっかりものすごい強化されていくねえ」
「あたしゃも少し防御がほしい」
「防御の方はどうなのさ」
「それがからっきしダメでして」
「偏ってるねえ……」
周囲の警戒から戻ってくると、リリエラさんとマシュさんが洞窟探査から戻ってきていた。
『※〈絶対領域〉応用技:〈エンジェル・ヘイロー〉を修得しました』




