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殲滅作戦開始


 そして、その日がきた。

 盗賊団、「闇の荒野(ダルク・テルプレンダ)」殲滅作戦。

 作戦名は「デジコマンズ行き、ライ・マースト発、ヴァーサール経由」。


「長いわ! 『デジラヴァ』でええわ! 長距離乗り合い馬車か! てか協力した連中並べただけやん!」


 ……って俺がボヤいて新人グループで笑ってたら、当日略されて「デジラヴァ行き」作戦になってた。誰や聞いとったんは。薄いエロマンガ先生のサークル列か。

 ……まあいいわ、これで何のことやら聞かれてもさっぱりワカランだろ。どっかの都市名だと思われるだけだ。

 当日も、「デジラヴァ行き、出るぞー」で団体発車したし。商売に出発したようにしか見えんな。


 俺らはこれからちょっと強行軍で、途中の町をすっとばし、今日中に森の端まで到達する。通常の倍のスピードだ。

 そのため、荷車には〈エアロスリップ〉という摩擦低減魔法をかけて馬車を走らせる。具体的には、荷車の車輪下に〈シールド〉を発生させて、車輪と地面の間を「滑らせて」運ぶ魔法。元々は「スリップブーツ」っていう魔法学院学生考案のアイテムだそうだが、それを独立魔法として成立させたのが〈エアロスリップ〉だ。

 以前マシュさんとあれこれ話していた〈シールド〉応用方法の一つで、これで車の車輪と地面との摩擦が氷の上程度に減少し、馬車を倍の速度で走らせても馬の負担は通常より軽くなる、という。

 つまりガ○ダムでいうところのマグネットコーティング……世代によってはわからんな。ハイドロプレーニング現象……濡れたテーブルの上を味噌汁が滑るミソスーププレーニング現象でも可。

 ただ、持続時間が三十分程度、それを何度かかけなければならないので、魔導士の負担がちょっと大きい。それにこっちの荷車って、普通サスペンションとかついてなくて、車軸を直に荷台の下に設置するタイプ。ちょっとの道路の凹凸でもめっさ揺れるっていうか、震動が下から直撃してくる……スプリングでない板バネサスペンションでも、一般の荷車につけるにはまだコストが高い。魔法で強化された強化木ではなおさらで、サスペンションみたいなものを実現するなら魔法でも使った方が手っ取り早いのである。

 〈エアロスリップ〉を車輪と車軸にそれぞれかけることで、荷台の衝撃をある程度激減させることはできる――が、この魔法は一般魔法ではないため、魔導士でないと使えない。

 とはいえ、今日は人通りの多い街道を行くだけで襲撃の心配もないので、魔導士はそれのみに専念。目的地に着く時間を優先する。

 ……魔導士一人が一台につき三十分の魔法を四回かけて、到着まで約五時間。

 それでも、デジコマンズの魔導士やマシュさんはまだ余裕があった。そこはさすがだ。

 ビュスナやサガんとこの魔導士女子はこの魔法を覚える時間がないので、今回は役立たず。俺やサガみたいに非魔法戦力は論外だし。

 なので、馬車が着いてからは料理番などの雑用でがんばらねばなるまい……まあ基本新人が中心になってやるのだが。


 大量の人員が動くとなると、それに合わせて食事などの物資も必要になる。荷馬車の三割はこういった補給物資だ。

 だがこっちの世界には「ストレージ」「アイテムボックス」みたいな、空間収納ができて質量も体積も完全無視、といった空間系魔法がない。

 いや、全くないわけではない……〈ゲート〉はこっちの魔法理論で開けるのだ。ただしものすごい巨大な魔力と天才的な空間物理学の知識があって、初めて可能になる。個人が気楽に実行して持ち運びできるようなものではない。

 そもそも、魔法っていう「謎力」だからってそこまで万能じゃないし、「技術」である以上、それを下支えする知識もエネルギーも必要になるのは当たり前だ。

 俺にしてみれば、地球のそういう高度物理学や高等数学なんてさっぱりなんだが、こっちにもそういうのを理論的に研究してしまう人間が少数だがいるのである。

 そういった人間が、地球の相対性理論の専門書なんかを貪るように読み漁り、次々と新しい理論を提唱している、とは聞いたことはあるが、それらを実践するために膨大すぎる魔力が必要なので、そうそう実験はできないらしい。空間を捻じ曲げて異世界への扉を開くとか、どういう魔法を使えばできるのか、俺には全く想像もつかない。せいぜいが「ブラックホールみたいに重力が超強力になると空間が歪む」ぐらいの大雑把な知識ぐらいしかない。「重力方程式を書け」とか言われても、辛うじて地球の重力加速度を覚えている程度で、それ以上は物理のお偉いさんに聞いて欲しい。


 ストレージ問題はさておき。

 今回は百五十人規模なので、馬車も十六台に分乗。これが反対側のククリグ方面からもう一隊やってきて、総勢三百名以上にもなる。こう大規模になると輜重兵站って大切ですよ。

 この規模で頭目みたいな重要人物を取り逃がしたとあっては、ギルドも面目が保てない。

 前回のゴブリン退治の倍、しかも他国の「お強いさん」も一緒になっての合同作戦とあっては、戦力を出した方も「それなりの結果」を出せないとなると、ちょっと対外的に情けない評価になりかねないので、少なくとも盗賊団の組織的壊滅レベルのダメージを与えなければ「合格ライン」には到達しない――ということらしい。

 つまり、全てのメンツを保つためにも、最低限の結果が出なくてはいけないのだ。

 その合格ラインというのが――盗賊団幹部クラスを一人以上捕縛して、残りは生死不問で、壊滅的打撃を与える。できれば頭目は、情報を得るために生かして捕らえたい。

 そのラインを達成するのは、個々の実力的には難しくはないが――急造チームで連携をとるのは難しい。

 だが、最低限の作戦協調はとらねばならない。個人が武勲を争っていては、思わぬ逆襲を受けてこちらが崩壊しかねない――もっとも、個人レベルでみれば生き延びるメンバーはいる。他国からの支援戦力は、ダメだと判ればとっとと安全圏へ撤退するだろう。無駄な犠牲は出さないよう命令は受けているはず。


 俺たち〈ギガントバスタ〉も、深みに入り込みすぎさえしなければ、逃げ延びることは難しくはない。シェラが一応、「逃げ道は考えておくから」と言ってはいたから、ただ突っ込むだけより生き延びる確率は高かろう。それに俺も最悪「鏖 殺(みなごろし)」という選択肢はある。ゴブリン戦で得た〈スクリューバレット〉があるだけで、少なくとも直接物理攻撃力だけは、あのベレー・レイヴァーにも勝るはず。

 俺のステータスは「殺られる前に鏖にするので攻撃力に全振りしました」状態と同等。攻撃は最大の防御、と主張する輩なら喜んで祀り上げてくれそうな配分。

 ……俺から言わせれば、「防御に全振りして全部防げるが攻撃は並」の方が圧倒的に安心無双できるんだが――と思うのだが、神がくれたのは「10平方センチの完全壁」。全ての攻撃をこれで自動防御できるのなら話は別だが、「思い通りに動かす」ことはできても、勝手には動いてくれない。攻撃全部防げるわけでもないし。

 他の三人も――シェラは多分大丈夫だろう。ビュスナとナオは――二人で組ませておけば、生き延びる確率は高い。

 マシュさん&リリエラさんコンビは――まだ隠してる実力もあることだし、状況がどうなっても生き延びるだろう。

 とりあえずは、〈ギガントバスタ〉として生き延びる。

 これが至上命題だ。




 二日目。

 今日から森へ入る――こちら側からの最初のキャンプ地、ビートン・キャンプはスルーして、グレスール・キャンプまで一気に進む。とにかく今回は時間勝負。盗賊団が撤退する前に、一気にアジトごと押さえるのが目的である。

 「急いでいる東方派遣部隊」を演出し、注目させるのも目的だが――最終的にかなり大規模なグループになる前に、一部は先行して森へ入り、大まかな敵の位置を探る。それは熟練のスカウトグループがやる。罠の探知・解除、敵さんの斥候排除も彼らの役目だ。

 盗賊団のアジトは、「だいたいこの辺り」というところまでは絞り込んでいる。なので、首都発グループはグレスール・キャンプへ到着する前に戦力を森へ放ち、馬車だけをキャンプへ送る。そして馬車だけがククリグ発グループと合流、後発隊がそこから追いつく。

 先発隊は、〈森の疾走者〉と周辺諸国の応援部隊、マシュ&リリエラ組。俺ら〈ギガントバスタ〉は、ラスさんらククリグ組と合流して、先発の状況を伝えてから追いかける。

 後発組は、先発組に遅れること一時間程度で森に入るが、先発組を側面から奇襲しようとしている盗賊団の連中がいたら牽制・処分する。

 時間差で森に入ることで、盗賊団の注意を分散させるのが目的ではあるが、その分先行する首都グループに負担はかかる。なので首都グループに、諸国応援部隊を配置したのだ。

 少なくともあのベレー・レイヴァーがいれば、戦力的には熟練パーティぐらいの働きはするだろうし。

 実はあの他国勢力との組み合わせの後、俺らと組むはずのベレー・レイヴァーが先発攻撃組に移った。ラスさんらがいろいろ交渉して、マシュ&リリエラペアをベレーと共に先に行かせたそうだ。


「実のところ、お前らの実力はできるだけ他国に知られないようにしておきたい、というのがラスの意向でな。マシュミーヤとリリエラは多少なりと知られているから、今更隠すようなものなら隠し通せるだろうから、って無理矢理にな」


 と、キャサウェイ氏。

 ……いや、そこまでせんでもいいと思うんですが……。


「いきなりおまえらを盗賊団殲滅の最前線に送るほうがどうかしてる。最低限、対人戦闘を数回はやった後でなければ、普通ああいう任務はやらせねーよ。今回はしょうがないがな」


 ラスさんの配慮は正直有難いです。いきなり「これから人狩りいこうぜ!」って言われても、正直……ねえ。モンハンならともかく、マンハンは……FPSもほとんどやったことないしな。


 ……で、〈ギガントバスタ〉の面々。

 シェラちんは落ち着いたもんだ……慣れてるからかね。

 ナオは――目を瞑って瞑想? いや、組んだ指先が時々そわそわしている……内心は緊張してんだろうな。

 ビュスナは……思ったより平静を保っている、ようには見える。出発前に色々変な話聞かされて、思うところもあるんだろう、出発してからまた口数が少なくなった。だが今は表面上、目の前の任務に集中しようとしている。

 そして俺はといえば――少なくとも、ゴブリン戦ほどには不安はなかった。前よりは「使えるスキル」が増えたからだし、一応先に対人戦で殺されそうになりながら、目の前の敵を直接倒している。

 「殺す」のとはちょっと違うが、それでも「戦力的に明らかに格上の相手と戦う経験」は、少しばかり俺に心の余裕をくれている。ミューラザッドとの一戦で、「気配感知による奇襲対策」を体得できたようなものだしな。

 強さは自信になり、人に余裕を与えるもの。空手やってた先輩が言ってた。自分が強くなった、と感じられるようになると、それが自信に繋がり、普段の態度にも自信が出るようになる、と。

 実際、いじめられっ子が格闘技やって強くなると、いじめっ子やらヤンキーやらに絡まれなくなる、といったケースは少なからずあるそうだ。「俺は強くなった、かかってこいよ」という自信が表面に出るようになると、それを察知できるイジメ側は、反撃を恐れると手を出さなくなる。まあいじめる側がもっと強かったりすると、さらにいじめられるだけだが、それを恐れて弱いままでいるなら、最初から強くなろうとは思わない。人は「弱いままでいたくない」から、強くなろうとするのだ。


 ……もっとも、この世界では強くなければ生きていけない。マジで。

 だから、誰しも強くあろうとして――それでも死ぬことはある。理不尽に。それが冒険者であれば尚更。

 そうならないためには、「理不尽な死から自分を守るだけの力」が必要なのだ。

 その「力」を、試される機会――「冒険者として生き延びる試験」がもうすぐ始まる。


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