人は見た目が二割か三割ぐらい
「私が魔導親衛隊に入って、国のために働くなら、国外へ逃げた気功師については関与しない、と魔導親衛隊の長と軍部から確約を取り付けた。もし約定を違えるなら、内側から軍を動かした者を討てばよい、とも言われている。
私は人質であると同時に、監視役でもある。気功師の村の者をこれ以上追い詰めないための、な」
ベレー・レイヴァーは、世間話でもするような口ぶりだが……それ、あんまり外に言ったらイカンやつじゃありませんかね?
いくら魔導兵千人を無力化する力があるとはいっても、ライ・マーストという大国を敵に回すのはさすがに厳しい。
そのバーターとして、ベレー・レイヴァーはライ・マーストに力を貸すことにした、と。
ライ・マーストという国が恐れる、気功師の力か……あれ、俺ってもしかしてヤバい力持ってるとか?
「気功師の中で一番恐れられたのは、ブルー・レイヴァーという男だ。あれ一人に、ライ・マースト軍が恐れを為した……というのが真相だな。
だが気功師の村は、治療術としての気功術を伝承してきたレイヴァー一族と、気功術の修行者が何十人かいるだけの、平和な村だった。
それをライ・マースト軍の一部の愚か者が、誤解を誤解のまま、国家の危機のように煽り立てた結果、無意味な出兵になった――という、非常に下らない原因でな。
ライ・マーストもまさか、個人のプライドが事の原因だと出兵記録に残すわけにもいかんのでな。気功師が国家に敵対する存在であるかのように見せかけ、公式記録には残さざるをえなくなった。
その結果、気功師は全て隣国のアークゥエスミィに逃げて、そこに新たな村を築いた。
ライ・マースト軍としては、隣国にまで派兵すれば外交問題にもなるし、そこまで大国が執念深く追えば他国からも『何をそんなに恐れているのか』と勘繰られる。
だからこの話は、軍部でも表沙汰にできない話でもある。私が親衛隊に入ることで手打ちにした、というわけだ。
今は気功師がライ・マーストにいたところで、迫害されるわけでも軍に追い掛け回されるわけでもない。事の原因となった愚か者は軍を除籍されたし、貴族の一員だったらしいが、一族からも追放されたとか聞いている。
ライ・マースト王家も、この件で『二度と気功師に関わることなかれ』と布告まで出している。
どうせ自分から喧伝しない限り、気功師だと見て一目で判別できるのは同じ気功師か、熟練魔導士ぐらいだ。魔導士には気功師に敵対する理由もないしな」
……つまり、今では気功師だからといって、差別や迫害されたりしないんですね。
元々、見た目で判断できるような能力じゃないし、黙ってりゃバレないんですけどね。
「……だから、俺が気功術使うって解ったわけですか」
俺がそう言ってみると、ベレー氏は。
「レイヴァーの一族に連なるビュスナが気功術を体得せず、君がそれを使えるのでな。妙だと思ったのだ」
「まあ……ビュスナはヴァロースさんが魔導士として育ててきましたからね」
「……気功師は一族として絶対の道ではない。別の道、特に魔導は相性がいい。現に、バラールという私の兄は魔導士として大成していることだしな」
……そういや、アイテムショップ・バラールって、魔導士ギルドに行けば必ず併設されてる、あの有名な魔導具店ですよね? そのオーナーって……超有名人で超オカネモチじゃないっすか。あんなセレブが兄上ですか……裏山椎茸!
「そうだな――気功師の村の防衛の際には、いくらかアイテムをせびりにいったがな」
そう言って、ベレー・レイヴァーは口元に笑みを見せる。
……その顔はどこか、「やんちゃなイタズラ坊主」といった雰囲気を湛えているように思えた。
人は見かけによらない、とは言うが……この人も、見た目ほどに恐ろしい人じゃないんだな、と改めて思った。
「ついでに一つ聞きたいことがあるんですが」
俺はリリエラさんの「ラ族」というやつについて、ちょっと訊ねてみた。
「……ラ族というのは、亜人の一種でな。見た目は人間と変わらぬが、天然の気功師、とでもいうべき一族だ。
先の気功師の村の襲撃事件も、そのラ族も関わっている」
……あれ、なんか話がいよいよ深い方へ踏み込んでくぞ。
「ラ族というのは、生まれながらに気功術を使うが、そのため水だけ飲めば周囲の気を取り入れるだけで生きていける一族だ。それで寿命も、五百年以上と長い。
その能力が原因で、『ヴァンパイア一族』などと言われていてな」
吸血鬼、つまりアンデッドの一族だと?
「習性は極めて似ているが、アンデッドのように太陽光を嫌ったりもしないし、血を吸ったりもしないのだが、普段山の中に隠れ里のような村に住んでいて、山の植物や動物の気を吸い取るだけでゆるゆると生きていける一族なのでな。知らない人間が見れば、食料も何もない村にこんなに人間が住んでいて、触れられただけで気が抜けていくような相手――吸血鬼みたいだ、と恐怖して勘違いする奴がいる。『山の中の吸血鬼村』などという怪談にもなっているぐらいだ。
そのラ族の村へ、山中で訓練していたライ・マースト軍の一隊が迷い込み、その兵士たちが数人、気を吸い取られて倒れたことから、その隊長――騒乱の原因となった貴族の子弟が、ラ族をヴァンパイアと決め付け、アンデッド掃討の名目で軍を動かした。
ラ族は村を他へ移すつもりで逃げたが、件のライ・マースト軍は追撃の手を緩めず、ラ族は交流のあった気功師の村に助けを求め、そのときにブルー・レイヴァーが、実質一人で追っ手のライ・マースト軍を無力化して、一度は追い払ったのだが……気功師はアンデッドの眷属ではないのか、という盛大な勘違いに至ったようでな。
その結果、村はライ・マーストから消されるに至ったわけだ」
……いやだねえ、思い込みで動いちゃう人間って。
でも、ラ族もそこで気を吸っちゃあいけなかったんじゃ……。
「ラ族が自然に周囲の生命体から気を吸い取るのは、息をするのと同じことだからな。生命力が一時的に濃くなれば、どうしてもそれを取り入れてしまう。
そもそも、そういうコントロールが上手くできないラ族が、あえて人里から離れて山の中に篭もっていたのだから、そこに迷い込んで暴発したライ・マースト軍にも責任の一端はある。ラ族は翌日には一度村を離れ、ライ・マースト軍の人間が目を覚まして村を離れた頃合を見計らって、また村に戻るつもりだったのだがな」
……やっぱり話し合いって大切ですよ。
そこで真実を話して理解を得ていれば、気功師の村の一件だって起こらなかったでしょうに。
「……今それを言ったところで始まるまい。
話したところで、得体の知れない存在に対して、人間は頑なになりがちだ。特に軍人ともなれば尚更な。
私がライ・マースト軍にいるのも、今後そういった行き違いを防ぐためでもあるんだ」
……そうですね、すみません。
人間、思い込みとか既成概念ってのはどうしてもありますからね……それを相互に理解せずに、友好関係なんてありえませんからね。
話し合いで解決するならすべきですよ、うん。ラブ&ピースで世界平和!
あ、話通じないバカチンはバキューンしますけどいいデスよね?
俺個人はとことん話し合いで、とまで寛容にゃなれんのです。
「……リリエラは、逃げてきたラ族を受け入れた、アークゥエスミィのラ族の村の一人でね」
マシュさんが、そこから言葉を継いだ。
「ラ族といっても、街中に住んでいるラ族もいる。人の多い街中にいる方が生命の吸収は効率がいいし、周囲の人間も気付きにくい。ましてや冒険者みたいな連中は血の気も多ければ、生命力も強い。冒険者ギルドに数分いれば、ラ族が一日に必要な気も得られる、とリリエラは言っていた。
町から町へ渡る冒険者なら、同じ町に住み続けてずっと若いままで年も取らずにいて不審がられることもない。それに気功術という特技を生かせば、冒険者稼業ほど楽な仕事はないしね。
同じ技術を持っている気功師の一族とラ族は、なかなかに長い交流の歴史があるんだそうだよ」
へぇ……意外なところで繋がりがでてくるなあ。
見た目人間だから、ラ族とか言われても全くわからんよなあ。
……人は見た目に拠らない。見た目だけで判断しない。
見た目で真っ先に判断されるセレブな世界もあるそうだけど、そんなの冒険者の俺にゃ関係ないし。
見てくれだけで判断すると痛い目見る、なんてのはほんと、どの世界でも変わらんなあ。
その夜。
晩飯の席が暗い……物理的な明るさじゃなくて、雰囲気が。
いつもなら食い物の論評やら次のミッションの件であーやこーやと言ってくるビュスナが、今日は黙ってもくもくと口を動かしているだけ……しかもその食もあまり進まない様子。
いつもなら賑やかし役のナオさんも、今日はなんだか雰囲気に圧されてか、口が重い。
「……ねえ、どしたのさ。重たいけど」
シェラちんが囁いてくる。
「いや、まあちょっと……家庭の問題が生じてな」
「家庭の問題、ねえ……」
シェラはどこまで知っているのか、それ以上は聞こうとはしなかった。
やだなあもう……重い話はシェラちんの弟君だけで十分だよ。
ナオはん、あんたはこういうのないですやろな?
……あー、なんか自分でフラグ立てたような気がしないでもないな……。
ナニ、俺だけなん? そういう後ろ暗い過去がない、キレイサッパリなご身分なのは。
「転生者」ってのは後ろ暗くはないですよ。「墓の中まで持っていくかもしれない秘密」ってだけで。
だが、明後日はもう出撃、総力戦だというのに、こんな雰囲気を引きずっていてはいかん。
「……なあ、ビュスナ」
俺から話を振ってみる――この件で何か言えるのは俺だけだから。
「……何」
ビュスナは、顔も上げずに答える。オーラが暗くて重い……ブラックホール背負う、ってやつだ。
「……この仕事終わったら、一度、マシナへ戻ってみるか」
「…………」
「……無理にとは言わんけど。まだ一年も経ってないしな」
「……考えとく」
「……ああ。ゆっくり考えろ」
その場はそれだけだった、が。
翌日には、ビュスナはいつものビュスナに戻っていた。
「ケン! あんた一応危険察知役なんだから、しくじったら後でお仕置きだからね!」
うぉい! しくじったら俺も死ぬかもしれへんのや! そこにお仕置きまで加わるんかい! 死者に鞭打つのイクナイ!
……だが、それでこそいつものこいつの言い分だ。
身勝手で、トンデモ思考で、負けず嫌いで――それでいて、非常に前向きな言い草。
おまえはそうでなくちゃーな。
でもお仕置きは勘弁な。
俺も死んでから更なるデスペナは遠慮したいので、気合入れて探すとしよう。
あと神様、もししくじって死んだら、次はこういうまな板ツン子の幼馴染じゃなくて、うちの兄者みたいにおとなしくてカワイイおっぱい娘を幼馴染&嫁候補にしてくださいおながいします。
『解せぬ』
誰だ今の。




