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森の中


 通常の倍以上の速度でぶっ飛ばして、ビートン・キャンプで昼頃休憩。

 軽い食事と小休止だけで、グレスール・キャンプへ出発。

 グレスール・キャンプまであと小一時間、といった場所で、「馬車が一台車輪が壊れた」という体で、一時停止。

 そこでスカウトが先にこっそり離脱。

 車輪を修理するので、その修理状況によっては今夜はここでキャンプするかも、という状態になって、メンバーも「自主的」に森へ入って薪集めなどすることにした――という設定を忠実に守りながら、先発隊の各々が動き始める。

 ――先発隊が全員森に入ったところで、隊長が「半数は急ぎの荷物があるから先に行け」と命令を出し、半数――つまりククリグ組との合流組が、少し先のグレスール・キャンプへと向かう。

 戦いはすでに始まっている――出発する際に、森の中にあった三つの気配が、一気になくなった。発見されて始末されたのだろう。

 俺たちも早いとこ合流して、支援に向かわないとな。


 一時間ほど馬車を普通に走らせると、グレスール・キャンプが見えてくる。

 グレスール・キャンプにはすでにククリグ組が待機している。

 〈森の疾走者〉の連絡係が、ラスさんらに状況報告。今のところ、順調に作戦遂行中である、と。

 ククリグ組も先に監視らしい一人を始末、一人を捕縛している。


「ローディ、では始めましょう」

「了解した。おい、野郎ども! 仕事だぞ!」


 ローディさんの声に従い、隊商のメンバーがぞろぞろと動き出す――すでに偽装の必要はなく、「冒険者」の貌で、作戦参加者全員が森に入っていく。


「ではケン君、シェラザッド君、先導を」


 ラスさんの言葉に頷き、俺が気配を探り、シェラ他のスカウトらが進路上の罠を探しながら進む。

 さすがにこのあたりにはないだろうが、森の中を進んでいけば、いずれ連中のテリトリーに入る。

 そこからは、本格的な「探り合い」になる。

 一応の注意を払いながら、獣道程度の細い安全圏を通って、俺らはひたすらに森の中を進む――すでに陽が陰り始め、周囲に薄暗さが増していく。月明かりも何もないうえ、森の中での行軍では敵に遭遇するまでは〈灯火〉の魔法も使えない。

 魔導士が〈暗視〉を全員にかけ、進路上の視界を確保しながら進む。暗さが増していくと、視界が「モノクロ」に変わっていく――のは、赤外線視力を付与しているってことなんだろう。

 シェラも暗がりで罠の確認をしながら進むので、徐々にペースが落ちてくる。

 こんなんで間に合うのか――と俺が思った瞬間。

 ――気配探知の端に、「人間」の気配が引っかかった。


「六〇〇ステルム(約五百メートル)ほど先に人の気配」


 ――俺が後ろに囁き、後続を止める。


「敵ですか」


 ラスさんが訊ねてくるが――こう遠いと、どちらとも言い難い。


「ギリギリなので、まだどちらとも……ですが、こんな場所に一人だけですので、敵の可能性が高いかと」

「――では、シェラザッド君以外のスカウトを先に行かせましょう。それで判ります」


 ラスさんが、若いが熟練のスカウトを二人、先行させるという。


「……もし敵だったら?」


 俺の問いに、ラスさんは。


「できれば、足止めしたいところですね」

「……生かして捕らえろと?」

「できれば。本体に連絡されると厄介です」

「わかりました」

「……やれますか?」

「逃がさないのは可能ですが、死んだらゴメンナサイ、ぐらいの確率ですがね。魔法使うよりは目立たずにいけますけど」

「任せます」


 オーライ。

 ――スカウトを二人、先行させると――潜んでいた気配が、急いで逃げ始めた。


「やべ、敵だ――」


 俺は気配を逃さないように、その敵に指先を向け――「バン」。

 「敵」がその場に倒れた。

 見えなくても、気配に向けて撃てば確実に当てられる。

 当てたのは、〈スクリューバレット〉レベル1。無回転打撃弾である。

 〈バッシュアタック〉をこれだけの距離で放つと、森の木を何本か吹き飛ばしてへし折る可能性がある。それでは自分たちの居場所を教えているも同様。今はできるだけ静かに進みたい。

 なのでここは、「一点突破力」の高い〈スクリューバレット〉の方がいい。

 追っていたスカウト二人が、倒れた盗賊をこちらに運んできた。

 左肩口を後ろから撃たれて、血が出ているが命に別状はない。ラスさんが血止めに〈治療〉をかけておく。だが完全には治さない。


「くそっ、なんなんだお前ら……」


 後ろ手に拘束された盗賊は、二十代半ばといったところか。汚い風体の男だが、装備はなかなかいいものを揃えている。鎧は動き重視の革鎧、武器は短剣、ショートソードの他、鉈を一本。魔法は使えないようだ。


「聞くことにだけ答えろ。でなければ殺す。答えれば命だけは助けてやる」

「くっ……」


 ローディさんの言葉に「殺せ!」と続けないところが盗賊だ。女騎士じゃないから、命は惜しいと見える。


「おまえらが《闇の荒野》だってことは判ってる。手勢は何人いる?」

「……五十八人だ」

「想定の範囲内か……魔導士は何人いる?」

「……六人」

「おまえらの頭目はアジトにいるか?」

「……いる」


 聞かれたことにだけ単純に答えているが、それ以外は一切答えない。「よく訓練された盗賊」なのだろう。


「お前らの背後にいるのは誰だ?」

「……そこまでは知らん。頭目にでも聞け」


 言外で「背後に誰かいる」ことは認めたようなものだ。どこかの命令で動いているらしいことは、ほぼ確定。

 他にいくつか尋問はしたが、それ以上の有用な情報は聞き出せなかった。


「よし、進むぞ」


 捕らえた盗賊は、装備を没収、上半身を拘束し、猿轡を噛ませて後ろの二人で引き立て、再び進み始める――ここから先は、盗賊がいたあたりを進む。シェラ曰く、そのルートの方が安全だから、だそうだ。


 盗賊がいたあたりは、おそらく巡回偵察路だと思われる。

 固定のアジトを持つ盗賊団は、必ず安全圏を設定し、その周囲を警戒する。なのでその周囲を探れば、偵察ルートが判る。そのルートなら、罠を仕掛けている確率は低くなり、仕掛けてあっても偵察ルートを正しく行けば引っかからないようにはなっている。そのために偵察ルート自体も判りにくくなってはいるのだが、一年以上このあたりで活動してきたこともあって、偵察に出ている下っ端の警戒感も薄くなっている。そういう下っ端は罠の設置などにも手を抜きたがる。

 実際、情報をペラペラ喋るような下っ端では、軍のような規律などあっても守るわけはないし、盗賊団の規律など冒険者に比べてもないに等しい。

 〈闇の荒野〉は有名な盗賊団だが、別に「鉄の規律」の下に統制されているわけでもないようだ。

 会社組織だって、必ずしも誰もが頑張って業績上げて会社をデカくしてやろう!とか出世してやる!とか思っているわけではない。日々の糧を得るための代価稼ぎ、と割り切って与えられた仕事をこなしているだけ、という社員だって少なくはない。高い組織意識を持たせるためには、専制国家の軍や暗殺組織のような、「裏切れば死を」ぐらいの脅しに近い規律が必要になる。もしくはどこかの独裁国家みたいに国民相互監視とかやればいい。日本にもその昔、「五人組」という相互監視&密告システムがあったそうだし。

 でなければ成果に対する「手厚い報酬」だが、盗賊団なら「上がり」が多ければ配分も多くなるものだが、それだけでは裏切りを防ぐことはできない。


 また、「裏切り者には死を」とまではいかないまでも、一度捕まったりすれば同じ盗賊団にはまず戻れない。捕まってもすぐ逃げ出した場合はともかく、逃げるのに時間がかかると「逆スパイ」の可能性を疑われるからだ。

 盗賊団はその性質上、軍よりスパイに対してものすごく厳しく警戒するそうだ。情報が漏れれば仕事が失敗するし、一網打尽にされる可能性もある。「仲間を売る」ような輩はどちらにせよ組織の一員足りえない。

 ……だが、軍であれば、「情報管理」まで含めて指揮官と下っ端でレベルが違う。上で持っている情報と現場指揮官、下っ端では情報が違うことなど当たり前にある。

 〈闇の荒野〉がどの程度の情報管理を行っているのかは判らないが、捕まえた下っ端と上の情報が同じ程度であれば、大した敵ではない。

 だが、もし上に「隠し情報」があるとなると――まだ警戒して当たる必要はある。

 ……などと事前に聞いた情報を反芻しながら、偵察路らしき獣道を進む。前より早く進んでいるような気がする。やはり罠が見つけやすいからか?

 すると――前方に、「強い気配」が現れた。

 いくつかの「強烈な生命力」――間違いない。


「少し先に、首都からの先発隊がいます」


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