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「レイヴァー」の話


 翌日。

 いつまでもげふんげふんしていても嫁が現れるわけでもないので。

 明後日の出発までに、こちらもできる限りの対策を講じなければいけない。

 まずはグループ分けである。

 戦闘力、索敵能力、罠対応力などを考慮して、熟練の方々が「こんなんでどうだ」と考えてくれた。

 俺らは一まとめで扱われるが、それは新人だからしょうがない。

 だが、必要な能力があると判断され、俺らは索敵・罠対応で中心的役割を果たすことになった。

 足りないのは経験と戦闘力――ということで、俺らは戦闘力に長けた熟練者につけられることとなった。

 ……その相手というのが。


「君たちと組むことになった、ベレー・レイヴァー・アークランガスだ。ライ・マースト王国軍魔導親衛隊から派遣された。今回はよろしく頼む」


 ……ものっそい強面で脳筋っぽい肉体なのに、非常に紳士的な対応のギャップで、ちょっとギャップ萌え……とはならんが、見方を改めたのは確かだ。

 マシュさん曰く、気功師に近い技術を持っているらしいが……確かに纏っている気の質は、力強いのに静かで、少々の打撃でも斬撃でも魔法でも揺らぎもしない、と確信できる。


「――少年、君は気功術を使うか」


 突然、ベレー・レイヴァーに話しかけられた。

 しかも気功術使えることまで見抜かれとる……ここは誤魔化してもしょうがないか。レベルが違いすぎるし。


「もう一人、リリエラって気功師がいるのは知ってますよね」

「ああ……あのラ族の女か。あいつに師事したのか」


 ……裸族? 「ラ族」か……そんな種族の人やったんや。


「……それから、ビュスナ、か」


 ……ハイ?

 ベレー・レイヴァーの口から、妙な名前が出たんだけど……知り合い? ですか?


「……十年ほど前か。たまたま同じ戦場で出会った冒険者に、この娘を託したのでな。

 こんなところで再会するとは思わなかったが」


 ……えええぇぇえ?

 ビュスナって、このキンニクんのお知り合い?

 ……あ、ちょっと待った。

 そういやビュスナのフルネーム……「ビュスナ・ヴァロース・レイヴァー」とか……まさか、ねえ……。


「……あたしは、あなたみたいな人は知らないわ」


 ビュスナは、訝しげな表情でそう応えたが。


「それはそうだろう。お前はあの時、負傷して眠っていた。四歳か五歳か、そのぐらいだな」


 ……えぇー、なにそれ……そんな出生の秘密みたいなこと、ここでバラす流れ?


「少年、訝しむのは解るが、ビュスナは私の娘というわけではない。

 私も同じ村の出身でな、そこにレイヴァー一族が暮らしていた。親族の一人、といった関係だな。

 私もビュスナもその一人だった、というだけだ。私は村を出ていることが多かったし、特に親しい訳でもなかったしな」


 と、ベレー氏が注釈。

 ……あ、さいですか。でも人の心勝手に読まんといてください。なんかコワいんで。


「村はとある戦乱でなくなったが、住人は散り散りになりながらも生き延びた。

 その際、負傷者は近隣の安全な村に逃がしたのだが、その娘が最後になって、私がなんとか連れ出した。

 そして近くの村に避難しているであろうレイヴァーの一族に預けてくれ、と、ジェシカという女戦士、そしてヴァロースという魔導士に託した。

 私はその後、村を襲撃してきた敵と戦いながら脱出したが、追っ手がなかなかしつこくてな。

 託した二人を逃がしたところまでは確認したが、その後どうなったか、知ることができなかったのでな」


 ……てぇことは何、ビュスナのこの性格って、おっかさん譲りじゃないってこと?

 ヴァロースの親父様を見る限り、完全に「ウチの我侭娘」みたいに見えたが……まあ実の娘みたいに育ててきたからってことなのか。しっかりした絆作ってたんだな、親父様……。


「……元気でやっていたならそれでいい。ただ、村の人間もほぼ全員生きて逃げたが、その後はどうなったか、私も知らんのでな。新しい村の大雑把な場所ぐらいは判るが――」

「あたしには関係ない話です」


 ビュスナは静かに、表情を変えずにそう答えた――だが、その気配には「困惑」が含まれている。


「そうか……ならば、これだけは渡しておこう。おまえの今の親――ヴァロースとジェシカに渡しておいてくれ」


 ベレー・レイヴァーがズボンのポケットから取り出した、一通の封書。

 ……数秒の間を置いて、ビュスナはおずおずと手紙を手にした。


「……細かい話があるなら、仕事を終えた後に聞こう。とりあえずは、目の前の依頼をこなすとしよう」


 ……その後、ヴァーサールやデジコマンズの方々も併せて、殲滅戦の手筈の打ち合わせがなされたが、いつもならやる気に満ち満ちて落ちつかないビュスナが、今日ばかりは静かに、手元の手紙をずっと見つめていた。

 ……これが終わったら、あいつを連れて一度里帰りしとこうかな……。




「彼女はどうしたのかな。ずっと静かだけど」


 マシュさんが、打ち合わせ後に俺にこそっとビュスナのことを聞いてきた。


「あー、いや、実はですね……」


 打ち合わせ前に、ベレー・レイヴァーに言われたことで、何かずっと考え込んでいる――と。


「……それは、ライ・マーストの気功師の村殲滅戦のことだろうな」


 ……マシュさんの口から、なんか聞き逃せない言葉が出てきたよ。


「十年ほど前のことで、詳しいことまでは聞いてないが――ライ・マーストが、国内辺境にあった気功師の村に、自軍を差し向けたことがあった。表向きは小規模な魔獣討伐軍だったが、魔導親衛隊含む精鋭を差し向けたらしい」


 ……ちょっと待った。


「……あのー、ちょっと色々とおかしな点があるんですが」

「何が?」


 いえ、今の話だけで……ライ・マーストの魔導親衛隊が、気功師の村を襲撃した、と。

 それで、気功師の村は消滅したと。ただ村人は逃げて散り散りに。

 ベレー・レイヴァーは、そのとき村人を逃がすために、最後まで戦った――そう言ってましたが。

 それってどういうことなんですかね?

 村を襲撃した敵に、今まさに、当時敵だったベレー・レイヴァー本人が加わってるってことになりますが?


「……それを話す前に、経緯だけは聞いておくといい」


 とマシュさんは言うので、先に経緯を聞いておくことにする。


「ライ・マーストが気功師の村に派兵したのは、気功師という存在が王国魔導士に対して非常に危険な存在になりうる、という危機感からだった、と聞いている。

 ライ・マーストは、当時の軍の精鋭・千人規模を、住人数十人の村に差し向けた。

 ベレー・レイヴァーは、当時から武術家としても高名でね。彼以外にも、村の出身者では、魔導用具を扱うアイテムショップ・バラールのオーナー、バラール・レイヴァーがいるけど、彼は魔導士ギルドの一員で、すでに村を出て魔導士として身を立てた立場から、その件には関わらずにいた。もっとも、バラール・レイヴァーは魔導士ギルドの重鎮でもあるから、彼に手を出せば魔導士ギルドも敵に回すから、いかにライ・マーストとて手は出せなかっただろうけどね。

 ……たかだか辺境の、ごく少数の特殊技能者の村を、ライ・マーストという巨大国家が全力で潰そうとした本当の理由は解らない。

 だけど、結局千人規模の軍を動かしたにも関わらず、村の住人は誰一人、始末することは出来なかったらしい。対して、ライ・マースト軍も誰一人死者は出さなかったものの、村を潰す以上のことはできなかった。

 ライ・マースト軍を動かしたのは軍の重鎮でもある貴族だったらしいけど、彼は逃げた村人を徹底的に追跡して、一人残らず始末することを軍部に強く要求したそうだけど、気功師と直接相対した現場の魔導兵たちが、『あいつらを殺すのは無理だ』と口を揃えて追撃を拒否した――とも言われているね」


 ……なんですかその超オッソロシイ壊滅戦と、その結末。

 差し向けた方も差し向けた方だけど、数十倍の正規兵を殺さずに完全無力化して逃げおおせる気功師の村の連中とか……それって、「殺る気になれば殺れたけど殺らなかった」ってことですよね?


「――私は追っ手は全て始末するつもりだったのだがな」


 ――うぅわッ!

 二人でコソコソ立ち話していたつもりだったが――いきなり話に割り込んできたのは、その話の当事者、ベレー・レイヴァーさんじゃあーりませんか。

 心臓に悪いから、気配消して突然割り込んでこないでくれませんかね……ドキドキ。


 そんな俺の心情を知らずか知って無視してか、ベレー氏は言葉を継ぐ。


「その話は大筋では合っているがな……実際のところ、私は死なない程度に相手を打ち倒した。他を逃がすために、百人以上は動けない程度に痛めつけておいた。まあ、中には数人、死にそうな感じになったのもいたが……そういう連中は、死なない程度に回復はしておいたがな。結果として死人が出てないのだから、死んではいないのだろう。

 それで、私がその魔導親衛隊にいるのは、逃げた村の人間を追わせないための交渉の結果だ」


 ……交渉?


昔話は短い方がいいんですが……もう少しだけ続く(´・ω・`)

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