パーティメンバー会議
ギルマス部屋での会議後。
〈ギガントバスタ〉もメンバー会議を行うこととなった。
「……ホントにあんたは毎度毎度……」
ビュスナさん、あんたがその台詞を私めに言いよりますかな?
俺はあんたに何度それを言ったことか、覚えてませんかね? 親父様も大概、言い飽きておったようですがね?
目ェ逸らすな。お前に言うとんのじゃ。
「まあまあ……で、そっちは片付いたん?」
ナオが膨れっ面のビュスナを宥めながら問うてくる。
「とりあえずはな……それで、本題はこっからだ」
先ほどの会議での話――はとりあえず、この二人にはしておく許可はもらった。
その概要を二人に話し、「ここからは盗賊相手のガチバトルになる」と言ってみたところ。
「ええやないの。先のゴブリン戦ではあんまええとこなかったしな」
おい、変なフラグ立てんなよ?
あっちの世界には「フラグ神」ってのがいたみたいだけど、絶対こっちにもいるからな?
「盗賊相手ね、いいわ、やるわよ……手加減しなくていいのよね?」
「できるもんならね」
と、シェラ。
「でも――ゴブリン殺すのと、人を殺すのはまた別だよ。それは覚悟しておいてよ」
シェラが淡々と吐き出す言葉は、冷徹でもあり、重くもあった。
――元の世界でも、「この野郎ぶっ殺してやりてえ!」って思ったことは数知れない。
だが、一度足りと実行したことはない。
日本人だから、法的社会的に終わるから、といった理由だけではない――「同じレベルの知性を持った同属」を殺すというのは、あの世界の人間には限りなく高いハードルがある。
例えゲームの中で殺しまくっていても、実際現実に目の前の人間と殺し合え、と言われたら――どうだろうか?
そういうフィクション作品も多数ある。いくつか読んで、登場人物が葛藤している場面が生々しく描かれている、と思ったものもある。
だが――それはあくまで「創作上の話」であり、リアルに人を自分の手で殺したことがある奴なんて、この世界だってそう多くはない。「人の死」にだって、医者でもなければそうそう立ち会えるもんでもない。大半の人間は、殺す殺されるとは野生動物や怪物相手の話。人間相手ではない。
だが、今度は「そういう相手」なのだ。
しかも相手は、俺たちと違って人を殺すことに躊躇がない。「殺し慣れている」相手。
俺たちの中でそれをやったことがあるのは、シェラだけ。
ナオは、直接殴って倒すことはできても、殺すところまではいってない。
ビュスナも魔法で遠距離の相手を「黙らせる」ことはできても、「殺す覚悟」で撃ち込むことができるかどうか。
――かくいう俺も、敵だから、とはいえ、その日たまたま出会った盗賊をその場で殺せるかといえば、そんな自信があるわけはない。
冒険者をやっていく上での「二つの難関」、というやつを、ローディさんに聞いたことがある。
一つは「生き残る」。五年生存率が五割を切るという冒険者稼業では、これが最も難しいのだが、今のところそれはなんとかなっている。これからもなんとかしていきたいところだ。
もう一つは――「人を殺す」こと。
今回の依頼のように、敵は魔物や害獣だけとは限らない。犯罪者――「人」が相手になることもある。
それで「イザというときに人は殺せない」ようでは、冒険者としてやっていくのは難しい。
明確な敵として、盗賊団のような存在なら、それは依頼を避けることはできる。「人は相手にしない」主義の冒険者は多数いる。
だが、「同じ冒険者が敵になることもある」のだ。
新しくパーティメンバーになった、別パーティと合同で依頼を受けた、ダンジョンでたまたま出会って行動を共にした、依頼で競合した――冒険者が受ける仕事では、様々な競合相手ができる。例え屠る相手が怪物であっても、その後の宝物の分配で揉めた、報酬の取り分で揉めた、仲間が負傷したり死んだことで揉めた、組んだ相手の義理を欠いた行動で揉めた……色々な原因で「仲間同士の殺し合い」になってしまうこともあるのだ。
そういったケースはレアだとしても、野営中に盗賊団に襲われたりすることもある。怪物からの護衛のはずが、盗賊が襲ってくることもある。不測の事態で、どこかの治安軍、私兵と戦うことになったりもする。
中には、他の冒険者を出し抜いてお宝を奪い取る――そういった強盗のような冒険者パーティも存在するという。そういう連中はギルドの「バッドリスト」に掲載され、冒険者ギルドでは「賞金首」として扱われる。
この世界にも人同士の争いの種は、無限に転がっているのだ。
もし怪物が世の中からいなくなれば、人は人同士で争うようになる。怪物がいなかった地球ではそうだった。
人が二人いれば諍いが起こる――そんな言葉もあるぐらいだ。それは怪物がいてもいなくても変わらないのだろう。
完全に平和な世界ならともかく、冒険者なんてやっていれば、「他人と争う」ことなんて不可避だ。
それを避けて通れないというなら――「覚悟」するしかない。
戦術の確認。
「基本は遠距離からの狙撃。シェラは先行偵察を頼むことになるが――ナオはビュスナの護衛だな」
「なんでやのん。うちかて戦えるで、直接人ブン殴るんはうちの仕事やで」
と、ナオは不満を口にするが。
「お前、人を殴り殺したこと、あるのか?」
そう俺が問うと、ナオは――黙る。
「例えばだ、目の前に自分より弱い相手がいる、盗賊だ。こいつも死にたくないから、武器持ってお前を殺そうとしてくる。だけどお前より弱い。簡単に武器を弾き、殴り倒してそいつは地面に転がる。
少なくともそいつは動けない程度に痛めつけておかなきゃならない。武器を持てないように腕を折っておく、逃げられないように足を折っておく――結果として、じゃなくてそれくらいのことが当たり前にできないと、先陣切って突っ込んでいくのは難しいんじゃないのか」
ナオは険しい顔のまま答えない。
解ってはいるはずだ。頭の中では。
だが、それを指摘されて、実際にやれるかどうか――そこはどこかで越えなければならないが、今これから越える、となると、それで最前線に出て戦うのは厳しい。
それでナオが死んでしまっては、元も子もない。
「ゴブリンなら思い切り殴り飛ばしても、それで殺してもどうということはないだろう。
だけど、もしそうやって無力化しようとした相手が、『助けてくれ、抵抗しないから殴るのはやめてくれぇ』なんて泣きながら懇願してきたら、どうする? 腕の一本ぐらいならへし折っても、お前のことだ、手を止めてそこで終わりにしようとするんじゃないのか。
だが、試合やケンカならそこで相手の負けだが、相手が盗賊なら――そこで隠し持っていたナイフで、手を止めたお前の脇腹に」
俺は手先で、何かを刺すように突いてみせる。
「それが毒が塗られた短剣だったりしたらどうする? 俺たちが近くにいればまだいい、単独で先行して、もし暗がりでそんな状況になったら――」
「ケン」
――シェラが、俺の肩に手を置いていた。
「ナオもそこまで言えば解るよ。
だけどボクからも一つ。
ナオ、君は確かに強いと思う。正面で戦えば、試合でならボクにも勝てるぐらいの力はあるよ。
でも、君は実戦では、ボクに勝てない」
ナオが険しい視線を、上目遣いにシェラに向ける。
「ボクは君とは、直接正面から戦わない。ボクが戦うなら、君が寝ているとき、トイレにいったとき、仲間と酒を飲みながら食事中――君が油断したときを狙って殺すからね。
人との殺し合い、盗賊のやり口っていうのは、そういうものなんだよ」
ナオが歯噛みしているのが解る。
そりゃあそうだ、ナオは多分、人間相手は正面からのファイト、仲間同士の試合しかやったことがない。シェラみたいな「暗殺稼業」の考え方なんて、思いつきもしなかっただろう。
「そして君はまだ、冒険者の中では弱い方だ。ボクやケン、ビュスナだってそう。今言ったボクのやり方で、簡単に死ぬ程度の、ね。
それが解らないと――本当に死ぬよ。
そうならないために、ケンはそこを考えていてくれてる。それは覚えておいてほしい」
……ほんまこいつカッコええな!
もう「男の娘」でもいいかって気になるわ!
「……ああもう! わかったわ!」
ナオが大きく身体を逸らし――胸を震わせ、眉間の皺を吹き飛ばし、元の陽気な顔を見せる。
「うちはそういう細かいのは向かん。せやからそこはケン、シェラ、あんたらに頼むで」
「お、おう……」
「うちは必要なとこで、襲ってきたのを全力でブン殴る。ビュスナに近づく知らん奴がおったら殴り飛ばす。そんで動けん程度にしばき倒す。そんでええんやな?」
「お、おう、そんな役目だ」
「わかった。ほんなら、こいつのことはうちが全力で守ったるわ」
「ちょ、何勝手に決めてんのよ!」
ビュスナが異論を唱えようとするが。
「何いうとんの。あんた魔力切れたらただのお荷物やんか。遠くから魔力配分考えながら的確にビシバシ狙撃したらなあかんのやで。ゴブリンのときみたいに、手当たり次第ボンボン撃って、いざ肝心なときに魔力ありませんゴメンナサイ、じゃあかんのやで」
ビュスナの顔が「ぐぬぬ」状態だ。ナオにまで言われては反論のしようがない。
そんな具合にこの自動射撃マッシーンを制御してくれると助かるね。
「ま、それじゃ作戦方針はケンに任せるから。本体との打ち合わせも頼むよ」
シェラは全部俺に丸投げしようとするが。
何言ってんだ、お前も出るんだよ。
だからその「えっ」って顔すんな。
この二人、戦術思考放棄型脳筋兵器なんだから役に立たないんだよ。手伝え。
てれれれってってってー♪
『スキル:リーダー→レベル1を取得した!(えぇ……)』




