ベレー・レイヴァー・アークランガス
盗賊団殲滅作戦については、色々と細かい打ち合わせが続けられた。
結局、出発準備だけで一週間を要し、その間に各国の魔導兵団がジシィ・マーダギルドへやってきたので、俺も顔合わせに加わる。立場的にはキャサウェイさんのチームの一員、ということでねじ込んだらしい。
「おまえら若手も、どんな連中が来るか知っておかないと、現場で突然鉢合わせしてブン殴られたりしてもかなわんしな。それに、他の国の軍事的中枢がどんなレベルかも知ることができるだろうからな。
本気の程は――作戦が始まったら見られるだろうが、お前なら気配でどれくらいかある程度推測できるだろう」
と、キャサウェイさんは言ったが、だったらもう一人二人連れてきてもよかろうもん……。
「デジコマンズ帝国魔導兵団団長、ベルガー・ワイディアルだ。今回は要請を受け入れてくれたことを感謝する」
魔導兵団の団長らしく、魔導士っぽい出で立ちでギルド本部へ現れたベルガー団長は、落ち着いた口調でそう述べた。
ブラウンの髪に鳶色の目、やや細面の、四十代ぐらいに見える、背の高い人物。ただ目元が穏やかなので、さほど厳しい印象は持たないが、帝国魔導兵団団長などやっているのだから、見た目どおりではないのだろう。
白のローブっぽい服に帝国紋章の飾りつきマントとか、魔導士の礼装っぽいのは、これから国王に謁見するためらしい。なのでここでは簡単な挨拶だけで場を辞し、本格的な打ち合わせは明日になるそうだ。
次にやってきたのは、ヴァーサール第三魔導傭兵団団長、コルテッサ・マルグラウィスタ。魔法拳士だという。
確かに、逆三角の筋肉に覆われた肉体は、まさに拳士のそれ。金髪に薄い茶色の瞳、生成りの袖なし服に軽装革鎧、手には凝った細工や補強の施された革篭手。身長は俺よりやや大きいぐらいか。
……身に纏うオーラが、その実力を示している。強い。鍛えた肉体に相応しい強さが、気に表れている。それを本人も隠そうとはしていない。「見れば解る」というやつだ。
「今回は我々も傭兵として参加する。何なりと言ってくれ」
……ヴァーサールは今回、「自費」で傭兵を派遣しているような形なのだそうだ。なので一応、雇用主はジシィ・マーダ政府であり、指揮官はジシィ・マーダギルドになるらしい。
――そして最後に。
「ライ・マースト王国、第九魔導兵団、ベレー・レイヴァー・アークランガスだ。今回はよろしく頼む」
……「剛毅」という言葉を体現したかのような、鍛え上げられた肉体。
魔法拳士なのでそれは解るが、雰囲気だけで「殴られたら死ぬ」と思えるような「剛の気」。
禿頭なのか剃っているのか、スキンヘッドの下は、意外と落ち着いた雰囲気の細い目と、やや低めの鼻筋、厚めの唇。顔だけ見れば、怖さを感じるような人物ではない。
だが、俺より頭一つ分は高い身長と、表には出ていないが、纏っている「気配」が、前の二人とは桁が違った。
前の二人は、俺でも不意打ちならなんとかなりそうな、そんな人物だったが――このベレー・レイヴァーとかいう魔法拳士には絶対に通用しない、と確信できた。
――そのとき、一瞬だが、その気配が「俺に向けられた」。
頭に手が置かれていた。
――そう感じた。
だが、実際には、彼は動いていない。
「気」だけで、俺にそう感じさせた――のだ。
汗が、顔を流れ落ちる――「バケモノ」というのは、こういう相手を言うのだろう。
ゴブリンキングと相対したときにも、似たような感覚があった。
「圧倒的強者」の纏う気――それを初めて、俺は知った。ゴブリンキングですら、この人物の前なら一撃で屠られる。そう確信できた。
……ベレー・レイヴァーが部屋を出て、気配が薄くなり、初めて俺は脱力した。
体中に、汗が噴き出していた。
「……どうだった、三人に逢ってみて」
ギルマスのラディスさんが俺に訊ねてくる。
「俺の見立てでは、三人目のベレー・レイヴァー……あれが一番のバケモノだと思ったが」
「……その通りですね」
俺はそれだけ、やっと呟いた。
額の汗を拭い、大きく深呼吸して――少し落ち着く。
「前の二人は、確かに強い相手ではあるけれど、不意打ちでなら勝てないことはない――と思いました。
ですが、ベレー・レイヴァー……あれは無理です。
こっちが何かを仕掛ける前に、一瞬でこっちが死にます」
「そこまでか――まあ、あれは俺でも勝てるとは思わんがな。リリエラがな、昨日『一人、とんでもないのが来る』って言っていたから、どんなのが来るかと思ったが……こりゃあ予想以上だ」
ラディスさんも苦笑するしかないようだ。リリエラさんまで到着前からそんなこと言ってたのか……。
「――やっこさん、ライ・マースト魔導親衛隊の第九魔導兵団と言ったよな。
あれは国王直属の独立部隊でな、表に出ない裏仕事専門の精鋭っていう話だ。
つまりは暗殺だの国王からの勅命だの、厄介極まりない命令を遂行する連中だな。
魔法王国の中にあって、選りすぐりのエリート集団の中で魔法拳士が存在する――それだけでも魔導エリートにとっちゃあ面白くない話だろうが、それを力で捻じ伏せるだけの実力があるってことだろう」
……世の中、バケモノが多すぎる。
俺の百均チート程度じゃかなわなかったよ……。
「あんな奴を寄越すってことは、ライ・マーストはうちみたいな田舎ギルドにも目を光らせているって証拠だ。そこは評価されている、と喜ぶべきとこなんだろうが……」
喜ぶべきか、畏れるべきか……それが問題だ。
「ま、これでどういう奴が来ているかは解ったと思うが――できれば目をつけられないようにな」
無茶言うてくれますねギルマス殿。
死んだらどうするんですか、危ない相手とは関わり合いにならないのが一番ですよ!
怖いのに目をつけられたら逃げる! 逃げるんだよォー! ミューラザッドの一件で学習したんでね!
……でもマジでコワいのに目ェつけられたら……多分逃げられないんですけどねー。
「触らぬ神に祟りなし」も学習しましたんでね!
触りませんよ。こっちからは。




