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ギルドの事情


「まあそれはそれとしてだな……今回の仕事の後半、ちょっとやり方を変える必要が出てきた」


 キャサウェイさんが言うには、ミューラザッドはこちらが標的としていた盗賊団「闇の荒野(ダルク・テルプレンダ)」の一員として行動していたようで、それが捕まったと知れたため、相手方もしばらく活動を抑制するか、でなければ活動場所を変える可能性が出てきた。

 ある程度以上の規模の盗賊団は、その土地の軍や治安兵に目をつけられると、よほどその土地で大きな目的がない限り、活動エリアを変える。そうやって数ヶ月程度で活動エリアを変えて、治安当局の目をくらますのが、組織的盗賊団のやり方だ。

 そういう盗賊団は、何箇所かアジトを持っていて、転々としていることが多い。もし現在の街道沿いでの活動を止めるなら、俺たちの仕事は何事もなく帰るだけになり、それで終わる。それでしばらくは盗賊団の話も出なくなるだろう。

 だがそれでは、根本的な解決にはならない。何か月後か何年後かは判らないが、また同じ場所で盗賊団が活動することになる。

 なので、ここからは「盗賊団を積極的に狩る」方向でいくのだそうだ。

 特に「闇の荒野」は、各国から広域指名手配を受けている悪質な盗賊団で、放置しておけば被害を拡大させるだけなので、この際潰してしまえ、という判断が国からも降りたのである。それでなくても今回の依頼には、アジトを見つける、できれば情報収集でメンバーを捕らえるってのが要求されていて、どうもそれも「潰すため」の下準備としての情報収集であったらしい。

 そのため、同じく動いている別パーティ全員に声をかけ、一斉に山狩りに入ることにするそうだ。

 首都でも、今後また長期に同じ被害を出さないためにも、ここで狩っておくという意見には貴族連も賛同し、治安部隊から冒険者ギルド登録の冒険者にも声をかけ、包囲戦で盗賊団壊滅を目指すという。

 今回主要街道だけでも動かす人数は三百人規模。先のゴブリン退治の四倍にもなる「治安動員」だ。こういう「ガサ」が周辺国でも一斉に入るという、正に「殲滅作戦」だ。

 名目上は、東方域での大規模討伐のため。先のゴブリンキング発生の噂を利用するんだそうな。首都からも冒険者を派遣、治安軍も治安活動名目で六十名が出動する。

 だが、討伐遠征の途中で山に入り、一気に盗賊団をアジトごと殲滅することになっている。盗賊団も軍が動けばおとなしくはなるだろうが、まさか自分たちを狙っての行軍とは思ってはいない――情報が漏れる前に、一気に潰す必要がある。

 なので、森の中ほどのグレスール・キャンプで、先行させた東からの冒険者や治安兵らと合流、そのまま山狩りに入る。

 スカウト中心に、野外活動に強いパーティを先行させ、盗賊団の見張りを先に始末。見張り交代で気付かれる前に、一気にアジトを急襲し、出来る限り幹部は捕らえる。


「そこで、ギルドでは外部からの助っ人を加えることになった」


 と、ギルマスが少々苦い表情で述べた。


「助っ人?」

「まあ……本当はそこまでしたくはなかったらしいがな。こっちのギルドだけで片付けられない、と対外的に表明してしまうようなものだからな。ギルドの評判にも関わるから、外部勢力は加えたくなかったが――」


 ギルマスがそれでも助っ人を容認したのは、表向き「相手方からの依頼」という形だったからだ。

 それも、西の魔法王国ライ・マースト王国の魔導親衛隊やら、傭兵王国・ヴァーサール新王国の魔導傭兵団とか、デジコマンズ帝国の帝国魔導兵とかだという。少数精鋭だが、正規魔導兵といえば、各国軍ではエリート中のエリート、最強部隊である。


「普段なら、ヴァーサールやデジコマンズは外交的には敵国なんだがな……それだけ大事か」


 と、キャサウェイさんが呟く。

 そうだな、ハリウッド映画でも、宇宙人の襲来には米軍もロシア軍も中国人民軍も自衛隊も協力して立ち向かうもんな。

 今回はそれだけの敵、ということで各国とも一致しているということ。


「あの盗賊団な、西はアークゥエスミィ連合王国、東はデジコマンズ帝国までかなり広範囲に荒らし回るんで、どこの国でも手を焼いていた連中でな。今回は、奴らの件で各国の利害が一致したってことだが――それを、ウチの国でやろうってことになったのがどうにも気に入らんのだ」

「……というと?」

「各国が奴らの殲滅に協力するのはいいが、どこも自分とこの国に他国の勢力を極力入れたくなかったんだ。だから、こう言っちゃなんだが、国力的に劣勢なウチの国でそれをやらされることになったようだ」


 ギルマスはその経緯を、国王(&ジシィ・マーダ議会)から直々に依頼されたそうだ。そのため、今回の依頼に際して国境付近では周辺国の治安兵がパトロール強化して、国外脱出を防止してたらしい。

 だから今回の依頼も、実は各国連携で行われる「国際犯罪者集団の掃討」っていう、かなり重要な、国際関係も巻き込んだ任務だったのだが。

 いや、そんなこと今言われてもねぇ……俺らの責任が重くなるやん?


「実際なぁ……うちだってやりたくはないんだ。うちのギルドメンバーの能力を他国のスパイに公開するようなもんだからな」


 ……はい?


「つまりだな――」


 キャサウェイさんが言うには……冒険者ギルドの発祥は西の国の「護衛官ギルド」であり、今も各国横断のつながりがあるとはいっても、現在は国の中ではともかく、他国のギルドとは情報交換こそあれ実質経営上は「別組織」であり、その内情はそれぞれの「ギルド機密」に相当するものだという。所属しているホームメンバーの実力はギルドの実力であり、そこでの待遇にも直結する。

 そこで、金のある国のギルドだと、他国の実力派メンバーやパーティを招聘し(ひきぬい)て、自分のギルドの格上げを図ったりしている。

 つまりは、冒険者ギルドというのは有能な冒険者を集めてナンボ、というものらしい。優秀な登録メンバーや有名パーティ・クランが多ければ、それだけこなせる仕事の質も上がるし、当然儲けにも繋がる。

 新人もそれを見て、有力なギルドへ集まるので、噂レベルでも景気のいいギルドは羨望の的になる。

 それが冒険者ギルドの「格」というものなのだと。


 ……ああ、だから俺もやけにアゲられてると、そういうこと?


 繁栄している「格上」ギルドなら、それだけ仕事も多いし所属冒険者の待遇も上がる――そうやって、より待遇のいいギルドを探して渡る冒険者も少なくはないそうだ。

 ……なんか、札束で優秀な選手を集めてたどっかの球団みたいだな。

 とはいえ、冒険者だって何の保障もない世界で生きていくには、金が頼りだからな……腕があれば金はついてくるが、同じ仕事でも報酬や待遇がいいところの方がいいに決まってる。


「ええとつまり……ジシィ・マーダギルドが、他国のギルドの『狩場』にされてしまうのではないか、と?」


 ギルマスの苦りきった表情が全てを物語っている。

 他の待遇のいいギルドに優秀なメンバーを引き抜かれたら、メンツが立たない。特にラスさんところは、都市国家地域からの東方域冒険者ギルドの、最初の一箇所。首都は二つ目で、今では首都の方が本部になったが、この二つはラスさんたちのパーティが一から興したギルド。首都のギルマスもその当時の立ち上げメンバーの一人だ。

 待遇は決して悪くはない。サポート体制で言えば、下手に実力主義なギルドよりはサポートが充実している分、冒険者始めるにはこちらの方が他よりいいとも言える。

 とはいえ、力や金や名声をより求める強者には、少々物足りないこともあるかもしれない――街道の途中にあるという立地からして、護衛やゴブリンのような害獣掃討など、仕事には事欠かないが、そればかりでは退屈で、もっと他の土地で別の派手な仕事をやってランクアップしてみたいと思うメンバーもいる――なんて、ラスさんも言っていたしな。


「……しかも、それを承知でこちらも全力を尽くさねばならん。

 他国から派遣されてくる面々は、こちらの冒険者の品定めができる目を持っているぐらいの優秀な奴が来るだろうが、そいつらが果たして真面目に任務に取り組んでくれるかどうかも怪しい。全く協力しなければそれはそれで問題にできるが、あまり積極的な協力は望めない、というのが実情だ。最低限やることはやるが、頭数合わせ程度だろう。

 だから、事実上国内のギルドメンバー中心で片をつけなけりゃならんのだ」


 ……そりゃまあご愁傷様です。俺もご愁傷様だ。またか。

 冒険者ギルドったって、色々あるんだな……って、各国の一流どころに俺らの品定めされるってことじゃん。

 そんなげんなり状態の俺に、さらにマシュさんの追い討ちの言葉が。


「そんな品評会の場に、君みたいな隠し玉だらけの大型新人を晒したくない――というのもあるんだよ」


 ……えー……だったら外してくれませんかねえ。せめて「その他大勢」の一人ぐらいに。


「いやいや、今更君たちに外れてもらっても困るんだよねえ。特に君の――」


 言おうとして、マシュさんはシェラを見て口をつぐむが。


「あ、こいつは俺の能力知ってますんで」

「……そうか。なら、君の能力は盗賊団対策には是非必要だというのが、我々の認識だ。固有能力を持ち、初歩とはいえ気功術で気配感知もできる。シェラザッド君も、出自を考えれば盗賊相手には必須の人材だ。

 そんな君達を外すという選択肢は、うちのギルドにはないんだ」


 ……はあ。アキラメロンなわけですね。


「……とはいえ、ケン君のその能力は、見ただけではどんなものかも判別はできないだろう。魔法なら相手も推測はできようが、そうではない能力では、結果だけしか見えない。そこからその能力の本質を知られることはまずない、と思っていい。ここぞ、という時だけ効果的に使う分には『何の魔法だ?』ぐらいにしか思われないだろうからね」


 まあ――確かに、説明されなきゃこれがどういう能力かなんてワカランわな。

 俺だってまだどこまで使えるのか、完全に理解してるわけじゃないし。

 とはいえ……やだなあ、責任重大じゃん。

 俺はもっと「冒険者は~気楽な稼業ときたもんだっ♪」で良かったのに……。

 ……なんだよシェラ。「諦めなよ」じゃねーよ。お前もだぞ。わかってんのか?

 「えっ」って顔してんじゃねーよ。

 本当なら俺がその顔してるはずだったんだからな。


『※ミッション:盗賊団偵察→盗賊団殲滅に変わります』


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