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騙したなァァァァァァ!!


「くっそ、ここか――」


 幅は二メートルほど、両側と奥が漆喰三階建ての家で囲まれた場所。両側に木製の扉はあるが、どちらも開かない。いや、下手に屋内に入ったら追い込まれる――戻ろうとすると、目の前にセラミックの投げナイフが三本投げつけられ、行く手を塞ぐ。

 ミューラザッドは上――俺が見える屋根の上にいる。だがこちらからは見えない。

 だが気配で場所は完全に把握している。その場所からの攻撃を避ければ――と考えた瞬間、屋根の上からミューラザッドが飛び降りた。壁を蹴り、ジグザグに降りながらナイフを投げてくる。

 ――その「射線」が、光の筋のように、こちらに伸びてくる。

 これ、は――魔法、ではない。

 「意識」――いや、「狙う」という意識に乗って飛ばされる「気」。


「気配読みに熟達するとね、相手の攻撃が見えるのよ。光の帯みたいな気が先に飛んできて、一瞬遅れてそこへ攻撃がくるのが見えるようになるの。

 そんで、もっと熟練すると、相手の一瞬先の姿までシルエットで見えるようになったりするんだよ」


 リリエラさんが、そう言っていたのを思い出した――「気の先読み」。ナオも言ってたな、「光の帯が伸びてくる」って。

 気配として感じるだけでなく、実際に「見える」――となれば。

 その「先気」を避ければ。

 キキン、と連続した甲高い音が、石の床で跳ねる。


「!」


 ミューラザッドの気配が変わる――「驚愕」。

 この狭い路地で追い詰められて、なおこの動きができたことが信じられない、といった気。

 ミューラザッドが地面に降り立つ、その瞬間。

 その小さな体が、不自然に「跳ね上がった」。

 腹に「見えないアッパーを食らった」ように「へ」の字に曲がって宙に浮いたミューラザッドが、今度は背中に「何か」を打ち込まれたように逆に反って、地面に叩きつけられた。

 身体の前面を床石にめりこませ、石畳が砕けるほどの衝撃に、ミューラザッドは一瞬手足だけをビクン、と跳ねたが――それだけで、動かなくなった。


「……お前が確実に俺の前に出てくる場所なら、こういう手が使える」


 ミューラザッドを追い詰めるために、自分が追い詰められる場所へ誘導「されてやる」。

 確実に仕留めるために、俺が逃げられない場所へ追い込むだろうことは判っていた。

 だが、素直に後ろから剣を持って迫ってくるわけはない――俺の見えない位置から狙わないと、「見えない魔法攻撃が来る」ことも知っている。だから、「自信のあるスピードを生かして一気に始末しようとしてくる」――そこまでは予測できた。

 その予想を大きく外れることはなく、ミューラザッドは俺の前に出てきてくれた。そして、スピードを生かして俺に対峙してくれた。気配を読まれても、この距離ならスピードで勝てる――そう踏んだことだろう。

 それは間違いではない。俺クラスの冒険者なら、すぐに始末できただろう。


 俺に気功術の先読みと〈絶対領域〉がなかったら、だが。


 ミューラザッドの姿が見えて、「気配」が感じられれば――「その場所」を狙えばいい。気配さえ掴んでいれば、外すことはない。

 〈絶対領域〉での、下からの「DBグローブ」のカウンターアタック――ミューラザッドは、それが「どういうものか」を判ってなかった。知られる前に、片をつけるしかない。

 多分、「俺から直線状に伸びてくる何か」だと、ミューラザッドは認識していたはず。こいつの前では「そう使った」から。

 だから、「スピードで直線攻撃を躱すことができれば、避けられる」と「思い込んでくれた」――

 その盲点を、「下から突いた」。しかも、落下速度に対するカウンターで。

 攻撃魔法では、「術者から」変換された現象が飛んでくる。それと同じだと思っていると、「術者以外」から飛んでくる攻撃に対応できない。俺がゴブリンキングにやられた戦法だ。

 複数対複数の乱戦では、どこから攻撃が飛んでくるかも解らない。戦国時代には「流れ矢で死んだ」なんて死に様がよくあったが、そういうことだ。現代戦なら流れ弾。狙っていない攻撃だと尚更備えようがない。

 だが、一対一なら、相手の動きを見て注意していれば、「そこから何かが来る」と条件を限定できる――と思い込んでくれればしめたもの。

 そこで、下から一撃、そして上から再度、クロスカウンターアタック。DBグローブは、まさに「自在砲丸」の名称に相応しい使い方をするために開発したんだからな。

 殺したかもしれない――いや、これだけなら死にはしない。多分死なないと思う。死なないんじゃないかな。まちょと覚悟はしておこう。

 実際、まだ生きている――「気」がかなり弱くなっている。気絶しているようだ。気配を殺してるわけではない。だけど死にそうなほどに弱ってはいない。ふう、これなら上々の結果だ。

 意識があれば、死んだふりをしながらも気配が弱くともはっきり出る。気を読めば、「気配殺して死んだふり」も一発で判る。今のように「ぼんやりうっすら」した気配なら、完全な気絶だ。

 ……さて、どうしたもんか。

 こいつのことだ、両手足を縛って猿轡噛ませて、さらに全身ぐるぐるに拘束でもしないと安心できない。

 下手に担いでも、気がついた時点で刺されそうだし。

 こういうとき、ケータイがあると誰か呼べるんだが……ん?

 そうだ、ケータイはないが、これなら――




 ……十分ほど待っていると、思ったとおり、マシュさんとリリエラさんが現場に到着した。


「どうしたんだ――って、誰だい、これ……」


 マシュさんが、地面にめり込んで倒れている「少年」と、少し離れて座りこんでいた俺とを見比べて、困惑しながら訊ねてくる。


「ええと……どこから話したもんですかね……」


 とりあえず、ミューラザッドを拘束して、ギルドへ引っ立ててもらわないと。


「とんでもない殺気が大きく立ち上ったものだから、何かと思ったわよ」


 ギルドからミューラザッドと戦った現場までは、約五百メートルほど。

 「ありえない危機的な気配」を大きく発生させれば、ギルドにいるリリエラさんかマシュさんが「気付く」と思ったが――気付いてくれて助かった。

 そして「ド○ゴンボール」読んでおいてよかった。サンキュー、ク○リン!


「それにしても――」


 ギルドへミューラザッド輸送後の、事情聴取。

 ギルマス部屋には、俺、マシュさんにリリエラさん、〈森の疾走者〉からキャサウェイさん、そして王都ギルドマスターのラディス氏、サブマスターのボボルガー氏まで集まっている。

 そして、「双子の兄」であるシェラも……。

 ……ずっと「つるぺた少女」だと思ってたのに……「ボクっ娘」じゃなくて「男の娘」だったなんて……騙したなァァァァァァ! よくも騙したなァァァァァァ!!


「いや、だからボク、女だなんて一言も言ってないし……」


 ……ソウイヤソウデスネ……俺が勝手に思い込んでただけだったか……ボクっ娘じゃなくて、普通の「男の娘」だったか。

 いやね、ククリグにいたときは個人部屋だったから気にしなかったし、この仕事に入ってから、シェラちんはビュスナとナオと一緒に扱ってたんだけど、あの二人も何も言わなかったし……だから女子だと思い込んでたんだけど……本人もそれでスルーしてたし。どうやって誤魔化してたのか気になるわ。

 しかも、別に「男の娘」ってわけでもないし……証拠にチ○コ見せてくれたけど、いや見せてくれんでもええねんで……そんなん見せられても俺どうしたらええのよ。火星人なのは判った……いや俺のは見せないよ? なんでって、なんで見せる必要があんねや。意味わからんし。俺は男である証明する必要ないよね? 見せないよ、見せないからな。いやちゃんと一皮ムケたいい男だし!

 それとも何かな、シェラ君はホモ……違う? 相手は女子がいい? ああそう、ならそこは安心しとこう。

 ……え、何、DTじゃないの? マダムキラー? 仕事で? オカネモチの有閑マダムに「食われてあげた」って……そこで色々教えられた? へ、へー……あとでその話詳しく。参考にするわ。


「……状況は大体解った。それで、あの小僧をどうするか、だが」


 ギルマスのラディスさんが、こめかみを押さえながら俺とシェラを見てそう言うが。

 いや、俺も困ってんのよ……さすがにほら、「同僚の弟」なわけやん? 「殺されそうになったからぬっ殺しといて」って、そんなわけにも……いかんやん? 結果として殺されずには済んだわけだし。

 いや、また襲われるのは勘弁だけど。あいつめっちゃコワイし。マジで。


「盗賊団の一員らしいから、情報を吐かせるために生かしておく必要はあるが……引き出せる情報を全部引き出した後は、犯罪者として処断することになるな」


 犯罪者としての罰は、おそらく数年の労役を課されることになる、とのこと。だが、暗殺者としてのスキルが高すぎるので、下手に普通の罪人に混ぜると、そこで何をしでかすかわからないので、〈強制(ギアス)〉がかけられて、暗殺者としての能力を封じることになる。そりゃまあそうだろう。ギアスって、目を見て「ジシィ・マーダ王が命ずる、暗殺者としての能力を使うな!」みたいなの? 違うと。うん、言ってみただけ。

 「死刑」にはしないのか、と問うてみたところ――死刑にするには、今までの経緯(強制的に暗殺者として教育されてきた)を鑑みるに、本人の意思ではない、というところから、そこまではしない、ということになっているそうな。ただし、許容できる程度に能力は制限する必要はある、と。そういう能力がない場合は、多少の刑罰のみで解放されることになるが、さすがに無罪放免、というわけにはいかないそうだ。


 いや、あいつマジアブナいんですから……この世界で初めて「明確に狙われて殺されそうになった」んスからね。ゴブリンより性質悪いっすよ。長年の洗脳もあるし、あれ放置するのほんとやめて下さいね。

 とりあえずミューラザッドは、今は「物理拘束」がかけられているだけだが、尋問が終わり次第〈強制〉を魔導士ギルドでかけてもらう、ということで、治安部預りになった。


何泣いてんだコイツ(´・ω・`)


てれれれってってってー♪


『スキル:気功術→レベル3に上がった!』



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