空気嫁と気配嫁
翌日。
……朝からめっちゃダルい……。
なんかね、力が出ないんだわ……ち〇こ勃たないし……風邪でもこれは勃つのに……若さが足りない……。
「あははーゴメンゴメンー、気を締めとくの忘れてたわー」
「なんか病人みたいな青い顔してるよ?」とシェラに言われ、とりあえずなんとか出発準備だけして部屋から出てきたところ、リリエラさんがそれを見て笑いながらそう言った。
それでリリエラさんに背中を軽く叩かれると――なんかだるさが消えて、気力が回復してきた。ち〇こは勃たさないけど。
「いやー昨日気の解放したっしょ? 解放しっぱなしだったから気が抜けっぱなしになってたのねー」
……それってもしかして、放置してたら死ぬようなヤバいやつで?
水道から水出しっぱみたいに気軽に言わんといてくれませんかね。水道代払えば済む話ちゃいますねんで。
「いやあーあの程度なら死ぬようなことはないけどー、慣れるまで一ヶ月ぐらいは気力が出ないのが続くだけだよー」
……完全にアカンヤツやないか!!
仕事どころじゃねーわ!
「……お前はまた締めを忘れたのか」
マシュさんが、呆れた顔でリリエラさんの頭を無造作に掴む。
「あ、いや忘れてたっていうかいたたたたた」
「解放したまま放置すればどうなるか、お前が一番よく知ってるはずだろう。なのに忘れた、で済ませるのか」
「いやだから今治したたたたたたたたってばばばばいたいたいたいたごめごめごめ」
……マシュさんのこの反応、放置されてたらマジで俺ヤバかったんだな……。
てかマシュさん、魔導士なのにこの握力なんですか怖っ。指でコイン簡単に捻じ曲げたり、重ねたトランプ引きちぎったりしませんよね? 腕とか頭パーンとか破裂したりしませんよね?
しばし「握られた」あとで、リリエラさんが頭を押さえながら俺に「昨日は気を締めないで帰りましたゴメンナサイ」って改めて謝ってきた。やっぱり忘れてたんかい……まあ元戻ったからいいけど。
「ケン君はもう今まで以上に気配の感知ができるようになっているはずだよ。けれど、昨日のような自分が拡大するような感覚ではなく、周囲の気配を察知する程度だけどね。
だがそれでも、毎日少しでも気配を感じ取る訓練をしていけば、おのずとその能力は身について高まっていく。いずれは獣のように、眠っていても気配を感じ取れるようになれるし、相手の強さを測ることもできるようになるし、昨日のように周囲に感覚を拡大して感じ取ることもできるようになるだろう」
マシュさんの説明聞いて「動物回帰?」とか一瞬思ったよ。ケモノ化したりしないよね? ゾアントロピスト? 俺ケモナーじゃないんだけど。
まあ家飼いの犬猫でも、寝ててもちょっとした物音や気配で起きるもんな……ただ「超神経過敏になるだけ」じゃないよね?
――そのやりとりの途中、早速背後から「いやぁーな視線」を感じた……これ、ツン子さんのですよね?
なんで俺を睨んでるんですかね? 言いたいことあるならはっきり言うてくれませんかね? 胃が痛くなるんですが!
あんたのそれ、もはや「邪眼」じゃありませんかね? それあなたの開発した固有魔法ですか!? 俺で実験するの止めて欲しいんですけど! 呪われる呪われる!!
……ちょお待て、感覚鋭くなるって、あのツン子さんの気配がビンビンに感じられるってことですか?
精神衛生上よろしくないなぁ……これってオフにできないんですかね? このスキル使う/使わないみたいに。
そしたらシェラが俺の肩に手を置いて。
「そんなことじゃモテないよ。もう少し女子の気持ちを読めるようにならないと。気配じゃなくてね」
したり顔で言われたけど……いやいや、歳上にメッチャモテとるよ! OPPYサイコーっすよ!
「それはモテ遊ばれてるだけだからね。小動物と同じ」
は? ナニ言いよりますかこやつ。裏山僻み村の住人には関係ねーでゲスよへっへっへ。
それとも何スか、シェラちんジェラシー的なやつとか? 違うと。さいですか……まあいいでしょう。シェラちん「平たい胸族」だもんな。OPPYが裏山椎茸ですかな? それも違うと。
なんか呆れた風のシェラを引きつれ、昨日と同じ荷車へ。
……しかし気功術の基礎を会得したとはいえ、「やな気配を一層感じやすくなった」だけじゃあストレス増えるだけだよ。
ここはあえて気配を感じないように……あ、そうやって気配消すのか。ニンニン。
気配消せれば、シェラみたいなサイレント・アタックとか出来そうやん?
ましてや離れて狙撃とかできれば……無敵やん?
……だが狙撃となると、遠方なんか自分の視力頼りだからなあ。スコープとかあるわけでなし。
あいや待て待て、「スコープ魔法」ってないんかな? 擬似的にレンズ作って遠方が見えるようにするやつ。感覚だけだと実際の目標と物理的ズレが生じるしなー。
水とか空気とか、透明な流体をレンズ状に固定して重ねていけば、かなり倍率高いスコープにできそうだべ? 確か流法とかいうのが、流体を扱う系統だったな……なかったら最悪、やっぱり自分で創るしかねえな。
うん、いずれ俺の冒険譚の「魔法学院編」やるとしよう。この世界で魔法使えんのはかなりの損失だ。
それにこういう世界なら「魔法学院編」なんてやって当たり前だしな! タイトルをつけるなら……「魔法学院の劣等生」! ……はダメだな。劣等生でもないし。
ここは流行の「のんびり日常系魔法学院記」を希望します。異世界のんびり魔導士みたいなの。それとももっと今時のオンノベっぽく長い説明風タイトルにしないとダメなんだろうか。「異世界に転生したのでチートスキルでざまぁ&無双してみたらハーレムでうんぬん」みたいな? ありがちな要素を全部突っ込めばいいってもんでもないな……もーちょいヒネったタイトルセンスが必要か……むむむ。
ではここは簡潔に「〈絶対領域〉の勇者」……アカン、どう考えてもニーソとスカートの間に執着する変態紳士しかイメージされぬ!
俺には文学センスがないのか……まあいい、冒険者に文才はいらん。奇譚拾遺使じゃないんだし。
そして今日も出発。今日の目的地は、ナントカいう村。忘れた。森への出入り口になっている場所で、だいたいの旅人がそこで一泊する場所らしい。
到着は午後の予定。着いたら、市の具合を見て商売もするかもしれない、とのこと。
「……ケンさあ、昨日と気配変わったよね」
荷馬車の後ろで揺られながら、シェラが横で、ショートソードの手入れをしながら呟く。
気配? そりゃまあ気功術を初歩ながら覚えたけんね。エロスな気配は逃さないぜ! それ以外も一応な。
「ボクもスカウトだからね、気配感知とか覚えるんだけど……それとはなんか根本的に違うよね、気功術のそれって」
「そういうもんか? 同じことやってるなら、お前のそれも気功術的な技術なんじゃねーの?」
「ボクのは多少、経験値によるものもあるからね。魔導士なら確実に気功術は多少やってるから同じとは言えるけど、スカウトのそれは、息遣いとかわずかな音とか周囲の異変とか、肉体感覚的な気配感知だから、気じゃないんだよね。猟師がエモノ見つけるのと似てるんだよ」
へー、スカウトのも猟師と同じ系統の気配感知なんだ。まあ言われてみりゃそうだな……野外活動のプロでもあるなら、猟師と共通するものがあって当然だわな。
「多分、気功師が本気で気配消して隠れたら、スカウトじゃ探し出せないと思うよ。『木化け』でも、猟師の腕次第では見つけられないことあるからねー。そこらへんまでいけば、気功師と同レベルになるのかな」
おお、そういや親父が言ってたわ、「木になりきって気配を周囲と同化させろ」って。「消す」んじゃなくて、自然と一体化しちまえば、動物にだって警戒されなくなるからだそうだが、親父も時々それで見失うことあったからな。そういや東北のマタギにも「木化け」って技術があるっていうしな。プロ猟師すげー。
……そうか、自然と一体化ね。単に消せばいいというものではなくて、「世界に紛れ込んでしまえばいい」ってことだ。
木を隠すなら森の中、木の葉の中に木の葉を隠す、自分が隠れるなら人の中。街に紛れてしまえば解らなくなる。そういう「隠れ方」もあるってこったね。なんか忍の極意書みたいなのに書いてありそうだな。ええとなんだっけ、番宣集会とかいう……違うな多分。そんなテレビっぽいやつじゃない。
……そんなことを考えながら進んでいくと、「何か」が意識の端に引っかかった。
その方向に目を向けると――荷物を載せた馬に乗った男が一人、逆方向からすれ違ったのが見えた。
「……あれ、多分盗賊団の偵察だね」
シェラが気付かないふりをして囁いた。
やっぱりか……シェラは気配より挙動からそう判断したんだろう。そして「視線向けると向こうにも気付かれるから、基本気付かないふりでね」とも言われた。サーセン、そういうの素人なもんで。
しかしこの気配レーダー、有能だな! 不審者対策バッチリだぜ!
「そろそろ連中の勢力圏だね。次の村過ぎたら、夜は街道脇のキャンプエリアで野宿だから、本格的に襲撃に備えるのは明日以降だろうね」
シェラはそう言って、荷物に背中を預けて目を閉じた。
盗賊団か……ゴブリンだったら罪悪感もないが、相手人間だからな……いやまあ悪人だけどさ。
ちょっと目の前でバキューンしちゃうのは躊躇われるよねえ……バキューンじゃなくてバゴーン程度にしとこうな。音的にはバゴーンの方が痛そうだけど。
そういうのも振り切るのが、この世界のやり方なんだろうけどさ。
殺されそうになったら、躊躇ってる場合じゃないもんな。
その日の午後、目的のナントカイ村へ到着。惜しい。
すでに他の隊商が商売を始めていた。森に入る前の宿泊ポイントなので旅人の姿も多く、当然のように宿も多い。村の半分は宿だという。商売用の常設市もあり、村長仕切りなので誰でも申請すればすぐに店が出せるそうだ。
なので、俺たちはここでも軽く買い付けだけで済ませ、今日もまったりと過ごす――というわけにはいかない。
宿の食堂でルートの危険ポイントと、野営ポイントを確認する。
参加メンバーは、リーダーのキャサウェイさん以下、副長ギルダムさん、各馬車のリーダー四人、護衛はマシュさんリリエラさん、そしてビュスナと俺。
「ここでキャンプを張ると、こっち、それとこっちかな――」
リリエラさんが、明日のキャンプ予定地周辺地図から、襲撃が来そうな方向を指し示す。キャサウェイさんらも同じ意見のようで、どういう布陣で対応するかを話し始める。
「夜はそうだな――私ら二人と君ら四人が交代で警戒にあたろう。それで不意打ちは避けられる」
マシュさんの指示は的確だ――リリエラさんがいれば、周辺警戒は余裕だろう。こっち四人は、多分マシュさん&リリエラさんの二人には及ばないだろうが、人数と俺&シェラの警戒でカバーする。それに加えて、〈森の疾走者〉からも一人は交代で哨戒にあたる。
どうせ盗賊団は、こっそり荷を抜き取る、なんてこそ泥みたいなことはしない。堂々と現れて全部奪う。盗賊団というより強盗団だ。
それに対してどう対処するか――一番なのは、「対応できる戦力を持つ」こと。
そのためにリリエラさんの気功術やマシュさんの魔法が有効になる。俺の気功術もどきも、〈絶対領域〉バリエーションも大いに役立つはず。役立ってもらわなきゃ困る。
ともかく、明日からが本番だ。
(´・ω・`)「節子、それ番宣集会やない、萬川集海や」
てれれれってってってー♪
『スキル:気功術→レベル2に上がった!』




