気功術
「はい、それではリリエラ先生の気功術教室、始まりでーす!」
パチパチパチー。先生やる気満タンですね! 気功術だけに!
「先生! 気功術って何ができますか!」
とりあえず生徒としてこの質問は欠かせない。
「いい質問ですねー。ではまず簡単に気功術の概要を説明しましょう」
池上某みたいなノリで、リリエラさんが「気功術とは?」の解説を始める。フリップとか解説ボードがあればよりテレビの教養番組っぽいんだが。
――気功術とは。
生命が発生する「気」――オーラを使って、自身の生命力や他者の生命(気)を操作する技術のこと。
本来は怪我や病気の治療が本命だけど、これを攻撃に転用すると「気功武術」になる。
前にちらっと聞いたけど、これで「竜もぬっ殺せる」とか……マジですか?
「そうですねー、技術的には可能です。
では、実際に気功術とはどういうものか、先にちょこっと体験してもらいましょー」
実体験ですか……何やるんですかね。
「はいではちょっと手を出してー」
リリエラさんに言われるまま、俺は右手を出す。
がすっ
……あれ?
なんですかね、このナイフは……手から生えて……るわけねえ!
ちょ……いった――――ッ!
ナイフ! ナイフ刺さってる! 結構グッサリと! 突き抜けてるっぽいー!!
血! 血ィだばだば出てるー!!
「はーいあわてないあわてない」
こりゃ一休! 何のつもりじゃ! 事と次第によっては許さぬぞ! 打ち首! 打ち首じゃー!
もう痛った! メチャ痛いやん!
――と、リリエラさんが無造作にナイフを引き抜き、傷に手を添える。
その手が、眩いほどに光り――痛みが、一気に引いていく。
「タネも仕掛けもございません、はい元通りー」
数秒でリリエラさんは手を離して――血こそ流れた跡があったものの、傷があった痕跡はどこにもなかった。
痛みもなく、血が少し流れた形跡がなければ、「ちょっと痛かった」ぐらいにしか感じないだろう。
すげえ……これが気功術か! あの痛みと出血がなけりゃ、マジ手品かと思うわ!
……てか、いきなりナイフグッサーはないでげしょナイフグッサーは!
「いやはははーこうやった方が手っ取り早く解ってもらえると思ってー」
トンデモねえ天然姉ちゃんだなこやつ。
いや、確かにその効果は理解したけど……ないわー。そのやり方はないわー。
「だいじょぶだいじょぶ、もうこんなのやらないから。マジデ♪」
そんな可愛くテヘペロしてもダメじゃ! 精神年齢四十路過ぎの俺は騙されんぞ!
「ほんとにやりませんね? 次やったらペナルティでこっちもなんかやり返しますよ?」
「やらないやらない。てか何やり返すつもり?」
「そこはそれ、俺も別のナニかをグッサーと」
「……エロオーラ」
おおっといけねえ、欲望がだだ漏れだぜ。
「……それでは、妙なペナルティは御免被りますので、次の実演を致しますー。痛くないのを」
……ちっ。
「エロオーラ漏れてるよ?
……では、次は竜をも倒しうる技術、同調をやってみますー」
むむ、竜を倒せる技術とな? 男心をくすぐるドラスレ攻略のマル秘テクニックか!
「ではー、今からケン君に対して、同調攻撃をかけてみますー」
「ちょ、同調攻撃ってなんすか攻撃って」
「竜をどうやって殺すかの実演を」
「殺す気か!」
「冗談よぉー。ちょっと同調されたらどうなるか、体験してもらうだけだから♪」
「……マジで体験だけですね?」
「マジで体験だけです」
「今度やらかしてくれたらマジでペナルティですよ?」
「はいはいやりませんやりません」
……この人マジで面白がっとるだけ違うか?
というわけで、俺はリリエラさんと鏡のように同じ構えで、正面に相対する。
右掌を前に、左掌を顎の前あたりに構え――リリエラさんの送る「気」を感じ取るだけでいい、とのこと。
「じゃあ、やるよー」
……リリエラさんの全身が、鈍く光って見える。
神とか天使の背後に光る「後光」というのは、実はこの「オーラ」のことだ。背後から光が発生しているのではなく、自身が光っているのだと。それで神や天使本体ははっきりくっきり認識できるものだから、見え方から「後光」なんてヘンな訳語になってしまったのだと。
ちなみに「天使の輪」、あれこそが本来はこの「後光」そのものなのだが……誰がどこでどのように曲解したのか誤解したのか、日本では天使やテンプレ神様を描くと、頭の輪っかと後光が別に描かれるようになってしまった。特にエセファンタジック漫画的な表現がいかんのだよな……光輪が天使の付属アイテム扱いだし。
その「光」が、俺の方へ流れてきて――手先からじわり、体に染み込んでくる。
すると――不思議なことに、目の前のリリエラさんに「俺自身の姿」が薄く重なって見えるではないか!
「自分の姿が見える? 今ケン君は、あたしの気と同調して、感覚が一体化してきているはずよ」
おお……確かに! リリエラさんが右腕を動かすと、俺の右腕も同じように勝手に動く――「操り人形にされている」ような感覚だ。
「で、攻撃するときは――」
え?
あれ、腕が勝手に背中の方へ捩れて……あいででででで! 折れる折れる! 無理無理無理そっちダメー!
「まあこんな具合にね」
……捩れはすぐに消失し、俺の感覚が戻ってくる。重なってた俺の姿もない。
「ちょ、何ですか今の……」
やられた怒りより、なんでああなるのかの方が疑問だ。
「筋肉を一部、無駄に動かしただけだよ。腕の外側と背筋に力を入れさせると、腕は勝手に後ろへ回るわけ。で、そのままもっと力を入れるようにこっちで操作すると、さっきみたいに勝手に腕が捩れていくみたいに感じるわけよ」
言ってることは確かにそうなんだけど……実際にやられると、不可思議っていうか、謎現象っていうか。
正に「得体の知れない能力」って感じだ。
「……それで竜も殺せる、と?」
そこはちょっと疑問でもある――その気の操作で相手の筋肉を操る、それは解る。
だけども、その操作が竜にまで通用するのかどうか?
気の大きさや総量では、圧倒的に竜に分があると思うんだけど?
「だから『同調』なのよ」
と、リリエラさんは笑う。
「あたしたち気功師は、真っ向から力押しで捻じ伏せるわけじゃないのよ。
相手に合わせて、相手の体と一体化するように、気を合わせていくだけ。
完全に合わせて、相手と一体化したら、あとは自分の体を動かすのと同じ要領で、相手の身体だけ操作するの。
そうすると、どうなると思う?」
相手の体と一体化?
それってつまり……
「……竜は、自分で自分の体を動かしているってこと?」
「そういうこと。頭からの命令を、あたしがちょっとばかし書き換えて手足へ送れば、手足は変な風に曲がったりするわけよ。あたしはあくまで『自分の頭で考えられた命令』にちょっとばかり干渉してるだけ。
だから、竜は自分の力で自分の体を傷つけることになるのよ。
人間の力で正面から戦ったって、竜のあの力に勝てるわけはないでしょ?
でも、竜自身が自分を傷つけるなら――人間の比じゃない、同じ竜の力で傷つけるなら、どうかしらね?」
そういうことか――相手の力を利用して、自分自身を傷つけるように操作する。
だから、相手が誰であろうと、同調さえ許してしまえば勝てるのか。
「この同調って、魔導士にも有効なのよ。
例えば、魔法を発動させようとしている魔導士の気を操作してやれば、魔法を消失させたり、意図しない魔法を発動させたり、待機中の魔法を暴発させたり、相手の魔力を体内で暴発させたり、いろいろな効果が起こせるわね」
……怖ぇな気功術! 思ってたよりずっとえげつねえ!
「それに、人間相手なら――直接心臓を止める方が早いわよねぇ?」
俺に向けた手を握るのはよして! 心臓掴まれて止められるかもしれんやろ! スタンドパワーか!
「あとそうね、筋肉モリモリな相手なら、自分の筋肉の力でボーンて破裂させることもできるよー」
……なんですと! 北斗のアレが実現できるとな!
むむ、確かにアレでも「経絡秘孔に気を流して相手ボーン!」とかいう描写だったな。最後のほうは気だけでボーン&ぐわあ~っ!だったけど。
まあ天性の握力でムリヤリ力ずくでバーン!よりはよっぽど現実的かな。こっちの世界的には。
「はいでは、できることからまずやっていきましょー」
……そこからはひたすら地味な「気の鍛錬」の反復だそうです。
まずは「体内の気の循環を察知する」ところから始めて、「触れた生物の気の察知」「気の放出」「周囲の気の察知」と段階的に進み、それから「同調」をやるんだそうです。
……基礎訓練から始めたら、普通の人間が同調までできるようになるには五年とか十年とかかかるとか……。
……これなら二年我慢して魔法覚えた方が早くね?
とか言ったらリリエラさんは。
「そうなのよねぇー……だから気功術は伝承しようっていうなり手がいなくてねぇー」
……難易度の高い技術はなり手がいない、どんな業界・どんな世界でもそうなんですね……。
「というわけで、ケン君には特別に、気功術の裏技で、気の解放をしちゃいましょー」
「解放? 気の?」
ナンデスカソレ? 美味しいの? コワイのイタイのはイヤですよ?
「気って、普通は生物の身体の中を循環してるだけで、それを訓練によって外の気に対する感覚を身に着けるんだけどね。それをまあ……お手軽に身につけてしまいましょーってこと」
「おい、リリエラそれは……」
なぜかマシュさんが止めるような態度……あれ、なんかちょっとヤバげな感じ。
「大丈夫だよー、ケン君そういうのできそうだから」
リリエラさんはそうおっしゃいますがね、俺にも選択の権利とかないんですかね?
「……まあ、お前がそう言うなら……」
ちょっと? パートナーを信頼するのは結構ですけど、対象である俺の心配はしていただけないんですかねマシュさん? それってなんか身体的な危険が伴いそうな気がほのかにするんですが?
「はーい痛くないからねー大丈夫でちゅよー」
幼児じゃないんですからそういう言葉止めてください。なんか余計に危険な雰囲気しか致しませんことよ?
ちょっと肩押さえつけるの止めてくださいよお姉様!
「ほいっと」
いやちょっと――あれっ、なんか身体の芯からなんか力抜けてくような――おうっ!?
あれ、なんか身体がぶわっと巨大化したような――部屋全体が見える――あれ、なんで二人が後ろから見えて――いやいや俺も見えるんだけど――あれっ、部屋の外まで見えてる感じがする――なんじゃこりゃああああああ!?
「はい終わり」
――リリエラさんのその言葉で、俺の世界は元に戻った。
「どうだった?」
リリエラさんが聞いてくるが……いや、どうって仰られましても……。
「……なんつーか、巨人になったような……部屋全体が一気に見えたっていうか……部屋の外まで見えたっていうか」
「そうそう、なら大丈夫だね、解放できてる」
え? そんだけ?
「そんだけよー。一度身体が解放した感覚を覚えれば、あとはそれを再現するように訓練すれば、すぐに感覚は掴めるよー。それで周囲の気配感知ができるようになるから」
はあ……さいですか。
いや、いきなり全身の力引っこ抜かれるようなのかと思いましたわ。ちょっと幽体離脱したかと思いましたよ。
「そんなことしたら死んじゃうよ? 相手殺すつもりでもなきゃそんなことしないから」
と、リリエラさんは俺を抱え込む。あいやだからそのぽよよんろっくはもっとおながいします。
いやちょっと今、「殺すつもり」の紙一重だったようなこと言われたような……生きてるけどさ。
ぽよよんで全誤魔化されたような気がしないでもない……今は誤魔化されておこう。むっふー。
「さて、今日はもうこのあたりにしておこう。明日もまた早いからな」
マシュさんの言葉で今日はお開き。
まあ、なんだかんだで有意義だった……ということにしておこう。
てれれれってってってー♪
『スキル:気功術→レベル1を取得した!』




