〈シールド〉の可能性?
「ははあ、なるほど……」
その夜。
俺はマシュさん&リリエラさんに〈絶対領域〉を披露するため、リッパス魔導士ギルドの魔導実験室に来ていた。外でやるよりこっちの方が防音が完全だし見られないで済むからだ。
そこで俺は、まず〈絶対領域〉というのがどういうものかを話し、実際に体験してもらう。具体的には、発動させた〈絶対領域〉を手で受けてもらって、ゆっくりぐーっと押してみる……二人がかりでも全く抵抗できないで倒れる。物理的な力じゃなくて「その絶対位置に存在するもの」だから、抗いようがない。同じように〈シールド〉でも試しに受けてもらったが、やはり動かすだけで〈シールド〉が耐え切れずに簡単に割れた。
「……確かに小さいが……これはどうやっても突破できないんだな」
〈絶対領域〉を光らせてみて、変形もさせて、その大きさを確認してみる……ああ、黒くもできますよー。
「そうですね、今のところ突破されたことはないです。というか、突破できなかったものがないです」
「ふむ……性能は君の言うとおり、《シールド》の完全上位だが、やはり面積が問題だな」
仰る通りでして……それが俺の悩みの種なんです。
面積は10平方センチほど。円で直径3センチほど、五百円玉よりちょと大きいぐらい。
「ただ、変形・操作は自在なので、そこで作り出したのが」
俺はそこで、部屋の奥に置いてある一メーター四方ぐらいの四角く切り出した岩に向けて、〈スクリューバレット〉を披露する。打撃力重視で穴が開くだけのものから、目標が「爆散する」ところまで。
「……なるほど、これがゴブリンキングを倒した技の正体か」
さすがにこの威力には二人も驚いたようだ。命中して爆発する魔力の塊である「魔弾」と違い、〈絶対領域〉は爆発しない。なのにこの威力を発揮するという事実は、魔導士としては驚き以外の何物でもないようだ。
半分粉砕された岩を前に、弾丸の図を地面に書いてみて、それをどう使ったか、弾丸がどういった力を発揮したのかを知っている限り全て説明して、マシュさんはやっと納得した。
魔法で頭を吹き飛ばしたにしては、魔弾で焦げたような跡もなかったので、物理攻撃であろうとは推測はしてたらしいが、「こういうモノを飛ばして衝撃で粉砕した」というのはさすがに解らなかったようだ。衝撃波の効果とかね。そりゃまあこっちには銃ないし、物理力に頼らなくても魔力でぶっ飛ばせばいいですからねー。
だけど俺のは魔力じゃなくて「(完全)物理力」ですので。なんか解らんけど「神っぽい力」のおかげで。ありがたやチート様。
「で、今研究中なのがこれです」
と、〈DBグローブ〉と〈絶対斬撃〉(仮)。ついでに初期に開発した、メッシュ状のナックルガードも披露。ただし斬撃はまだ研究の余地大である。接近戦対応は防御が同時にできないとね。
「面積が足りなくて《シールドバッシュ》みたいな『吹き飛ばす』打撃を上手いことやりたくても、打撃技としての使い勝手はイマイチでして。それでこういう形状に」
と、〈DBグローブ〉の形状と大きさを確認してもらう。
「ふむ……だが《シールド》ではここまで精密な変形は難しい。変形可能な、全く別の制御式を作り出さなければならないかな」
〈シールド〉さんでもそこまで自由気ままにはできませんか。
「《シールド》も強度や面積はかなり自在に変えられるし、発動方向を変えればそれ自体が打撃技として使えるが、そこまでなんだ。この自在変形が自由にできる、というのが応用範囲の広さに繋がるんだな。
《シールド》ももっと変形機能を強化すれば、より用途が広がると思うんだけど、その変形機能がなかなか難物でね……」
なんすか、マシュさん〈シールド〉マニアみたいになってますが。
……そうだな、それで俺も今一つ閃いたりした。今ここで披露するのはちょいと危険かもしれん。なんせ「弾丸以上にうるさいことになる」ので。まあそれは今ここで言わなくてもよかろう。実際実験もしたことないし。
「……これ、上に誰か乗っていっても大丈夫かなぁー」
リリエラさんがトンデモなことを言い出す……が、不可能ではないはず。ただ形状を注意しないと「上に乗った人が切れます」ので、ちょっと研究させてください。「キレる」んじゃなくて、物理的にね。
「これねー、誰か上に乗れるとねー、高いとことか上がるのとかー、川渡るのとか便利そうだからさー」
……ほほう? 言われてみれば確かにそういう用途にも使えますな。
これに直乗りするのは些か以上に危険だけど、台を作ってその下を支えるような形にすれば大丈夫かな? その台を壊さないような形状にして支えれば……あと、台を完全にズレないようにできれば、目の届く範囲なら移動手段にも使えそうだ。
「それは確かに便利ですね……ちょっと考えてみます。実験もしてみないといけませんし」
「よろしくねぇー」
「ふむ、もしかしたら《シールド》でも応用できるかもしれないな……」
マシュさん、やっぱりシールドマニアじゃありません?
でも俺もそういう応用編、嫌いじゃないっすよ?
「早いとこ魔法使えるようにならないとなあ」
「そうだね、自分で使えるようになれば、原理も制御式の描き方も解る。ベーシックスペルだけでも改造できれば、もしかしたら売れるような魔法になるかもしれないし」
……売れる? 魔法って作って売れるもんなんすか? 自作のインディーズ魔法とかOK?
「エロい自作魔法」の使い方書いた薄い本とか作ったら売れるかな? みんなで持ち寄って自主制作エロ魔法即売会できる?――おっとこいつは口に出したらダメな意見だ。
大体エロ魔法って何やねん。透視? それともくしゃみで周囲の女子の服が吹き飛ぶ魔法? そういうの創作物の中の魔法だけかと思ったんだけど……実現可能性あるのか? ねーよ。
「現在使われている魔法は、ベーシック・スペル以外は全て誰かが開発したものだよ。一般魔法も職業魔法も、千種を超えるギルド登録魔法は、魔法が研究されてきた七百年以上の歴史そのものなんだよ」
なんと! そうか、今までの魔法は開発の歴史の積み重ねか……IT業界の進化を見るようだな。基本アナログな世界だから、もっと長くかかってるだろうし。
いや、ITじゃなくてMT(Madou Technology)だな!
「じゃあもしかしたら、《シールド》の応用魔法があるかもしれませんね」
「あるにはあるよ。《浮遊板》っていう荷物輸送魔法や、《移動階段》っていう高い位置へ移動する魔法は確認している」
「じゃあそれでいいんじゃないですか?」
するとマシュさんは苦笑気味に、
「《シールド》は空中への物理固定が完璧にはできないんだ。君の《絶対領域》のような空間固定性能がないからね。
《浮遊板》にしても、術者の魔力次第で性能が変わるんだよ。あれも空中に固定しているのではなくて、『下に魔力を放射して支えている』もので、魔力の支えられる重量限界を超えると浮かなくなったり、壊れたりする。
実際、人一人持ち上げた状態で数時間支え続けるのは相当な魔力を消費するんだよ。一瞬、もしくは数秒で終了する多くの魔法と違って、長時間継続する魔法はどうしても大量の魔力を消費する。だからといって消費量を抑えれば大した効果は出せない。《タイマー》や《スイッチ》のようなものなら少量で長時間持たせられるが、重量物を支え続けるのはしんどいんだよ本当に……自分で担ぐ方がマシなぐらいだね」
……試したんですね。魔法得意種族のエルフがそこまで言うんだから、相当しんどいんだなこれ。
となると、〈シールド〉さんをもうちょっと物理強化する方向へ改造する方がいいんじゃないですかね?
「強化すると魔力の消費が激しくなるし、《シールド》は元々対魔法防御壁だからね。物理防御性能は後付けでね、それを強化応用して別の形にできないか、と作られたはいいが、それをさらに便利なものにしようという発想は出なかったみたいでね。実際、魔力消費をなんとかしないと厳しいからねえ」
……まあそうですよねー。
こちらの世界の殺伐度を考えたら、攻撃・防御・探知・支援なんかのいわゆる「戦闘系魔法」がまず発展して、それに次いで一般魔法や職業魔法が出来て……って感じだし。軍事技術の民生化パターンだね。
レベル魔法以外は、一般人が使うために魔力消費はちょびっとだし、逆にレベル魔法は「魔力をガンガン使って威力は青天井で!」っていう、非常にアメリカンな発想なんですよね……アメ車のようにアクセル踏んだら踏んだだけ、燃料食うけどパワーとスピードは出まっせー!みたいな。
ですがー、俺みたいな日本人、特に「効率厨」は「できるだけ効率的にやるのが正義!」ですのでー。自分で乗るならアメ車より、燃費と性能のいい日本車最高です!ってことですよ。大艦巨砲というか、青天井大出力主義者はそれでやってくれて結構ですが。
仕事も「いかに楽にやるか」がキモなんですよ。見た目は大変そうに、しかし実質楽に。それが「デキる仕事人」なのです。まあ俺ビジネスマンじゃないし、こっちの生き死にかかった仕事を楽にやるのって難しいけどねー。安全圏から「さあやれ!」って命令するだけが一番安全でいいんだけど、その地位はちょっと手が出ないです。
てなわけで、「大魔力厨」にデカい面させてるのはなんか気に入らないので、我が〈シールド〉応用編を見事解決してくれようぞ!
……すると、またも「デカメロン二玉セット」が俺の肩に! よいぞよいぞ!
「ねーいつになったら気功術やるのぉー」
……リリエラ嬢がご不満のようですので、〈シールド〉談義はこのあたりに致しましょう。面白いんだけどね。




