料理番なり
……打ち合わせが終わると、晩飯だが。
宿は素泊まり宿ということで、食事が出ない。食事の出る宿は先に来ていた隊商に押さえられているため、自分らで作らなければならない。
というわけで、本日の任務は何ぞ!
料理番なり!
というわけで、食材は大方、村で調達。猪肉と野菜と塩、香草少々、あと黒パン。
料理番となれば、出発前に習得した〈加熱〉さんの出番ですよ!
猪肉は「ちょいとクセある豚肉」なので、まずは肉を筋切り&サイコロステーキ程度にぶつ切りして、塩&臭み消し用ハーブでモミモミ。野菜切る間放置。ニンジン(っぽいの)切る。イモ(っぽいの)切る。俺タマネギ(っぽいの)嫌いヨ!っていう人いたけど構わず切る。他のも色々切る。
そんでタマネギは三割ぐらいみじん切って肉の上へ。マジェマジェモミュモミュする。シャリアピンステーキじゃないけど、タマネギっぽい酵素で蛋白質分解することで柔らかくなると。一応実家でも実験済みだ。
〈森の疾走者〉備品のお高い薄手のセラミックフライパンに、植物油をちょいと引いて、追加で粗みじん切ったタマネギを薄く茶色くなるまで炒め、鍋に投入。続いて輪切り唐辛子と細切れニンニク(っぽいの)とショウガ(っぽいの)を油で熱して風味を移す。香りが立ってきたら、塩を振ったタマネギ肉を投入。軽く表面が固まる程度に焼きを入れる。
火にかけた鍋には買ってきた濃縮スープと水を加え、塩、切ったタマネギ(っぽいの)、ニンジン(っぽいの)、キャベツ(っぽいの)、干しキノコを次々投入。さらに赤・緑唐辛子とニンニク(っぽいの)を少々。唐辛子は入れすぎると味が尖るので、ちょっとピリ辛味で締める程度の少量でいい。トマト(っぽいの)もあるとよかったが、ちょっとこの村では手に入らなかった。ジャガイモ(っぽいの)は煮崩れるので最後に投入。
そのスープ鍋へ炒めた肉と、ローリエやタイム風の青いハーブを追加で少々放り込んで、火を少々弱めてしばし煮込む。
浮いてきた灰汁を念入りに取って、取って、取って――「灰汁は悪だ」なんて言ったのは誰だったか。全部とっちゃうと今度は旨みがなくなる、とかいうのは生前の日本レベルの管理されてる食肉の話なので、ここの肉なら取って、取って、取りまくる。最後に塩で味を調えて、完成ー。ちょっと濃い目に味付けると受けがよろしい。
ポトフっぽいスープー。スープとニクです。ロシア風じゃないです。
これでスパイスが揃っていれば、カレー作れるのに……ああもう、スパイス足りねー! カレー食いてー! 醤油で肉じゃがー!
……やっぱりチート料理人でもよかったかなぁ……と思わないでもない。ちょっとだけ。
「お」
出されたスープ椀から一口すすって、キャサウェイさんが唸った。
「うめぇなこれ……」
鍋を囲んで座っている誰かがそう呟いた。何人かが頷きながら、さらにもう一口。
俺も改めて、自分の分をとって味見――ちょっと塩が強めだが、肉体労働者だからこれでいい。元々出汁たっぷりな上に具沢山のスープにしたので、旨みも十分出ている。野営食としては上出来だ。灰汁をしっかり取ったので、肉の臭みもかなりとれたし、タマネギ効果で多少柔らかくもなってる。
カレーや肉じゃがには及ばないが、まあこれでも十分食えるレベルだ。ここに醤油ベースでカツオ出汁が入れば……けんちん汁風? そこまでいけば小麦粉あるし、うどんぐらいならすぐできそうだな。味噌もあるともっといいが……ないもんはない。
何人かがパンをちぎってスープに放り込み、汁を吸った黒パンを口へ――俺もやってみたが、出来立て熱々のスープを吸った黒パンも熱い。だがなかなか旨い。肉も野菜も大ぶりにゴロゴロ入っているから、「食っている」って満足感もある。栄養バランスとしてはまあ合格だろう。ここに豆でも入れればもっと良かったかね。
「あーもう食べてるー」
そこへリリエラさんが小走りにやってきた。その後ろにはマシュさん。
エルフって肉食わないんじゃ――って前の仕事のとき、ラスさんに聞いたが、別に食わないことはないそうだ。森に住んでいるエルフは、森の動物は「同じ森の居住者」とみているので食べないが、町へ出て冒険者なんぞしているエルフは普通に肉も食べる。
エルフが貧乳とか細いイメージがあるのは、「肉を食わないので痩せている」だけであって、冒険者生活が長くて肉もたっぷり食っているエルフはがっしり細マッチョだったり、「ばいんばいんのおっぱいエルフ」にもなるそうで……おっぱいエルフなんて黒いヤツだけかと思いましたよ。
二人から差し出された椀にスープを注ぎ、黒パンとともに渡す。
「ん! これおぃひぃ!」
もきゅもきゅ口を動かしながら、リリエラさんが喜色を表す。
「食べながら喋るなと……うむ、これは旨いな」
マシュさんも、スープを一口味わって、笑みをつくる。
「こんな野営で作るレベルの味ではないな……ケン君、君ならいい料理人になれる」
あのーマシュさん、俺、料理人になりたいんじゃないんですけどね? 引退したらそれもいいですけど、それまでは冒険者やりますよ?
「おうボウズ、もう一杯もらうぞ」
〈森の疾走者〉の一人が、スープ鍋に寄ってくる。
「お、俺ももらうわ」
「俺にもくれ」
なんかわらわら寄って来た。はい取り合いしないー。十分ありますから。
まあでも、自分が作ったものが評価されるっていいことだよねー。
……ビュスナも食欲には勝てないみたいで、こっそり二杯目。二杯目を取った後で俺の視線に気付き、赤くなってそそくさとナオの陰に逃げる。ナオさん、なんすかそのサムズアップ?
その俺の肩に、ぽんと置かれる手。
「なるほど、そういう掴み方もあるんだね……やるね」
シェラちん、ビビるから突然背後から現れるのやめてね?
てか俺の気配感知普通に避けて潜るってどんだけだよお前。
てかなんだその「掴み方」って。乙πの掴み方? 鷲掴み? そんな話はしてない? ああ胃袋ね。ストマッククローね。
――そんな和やかな食事空間の端に、「殺気」の欠片のようなものがひっかかった。
明らかに、こちらに向けられたものだが――それはすぐに消えた。
気のせい……と言うには、あまりに「チクリと鋭い」気配。
見れば、リリエラさんも口は動かしてはいるが、目だけは「気配の方向」を見ている。
俺はそっとリリエラさんの近くに寄っていき。
「今の――」
「うん」
リリエラさんは食事を続けながら小さく頷く。
「……でも、あたしたちに向けられたっていうより、誰か個人に向けられた感じだった」
「個人に?」
「この中の誰か」
なるほど――俺「たち」じゃなくて、この中の誰かに向けられたのか。
だけど、そんな殺気向けられるような奴って……
「少なくとも、我々や君ではないな」
マシュさんがそう囁く。
「それに、殺気といっても一瞬だ。静かに監視している最中に思わず怒りがこみ上げてしまった――そんな感じだったな」
マシュさんも判るんや……まあリリエラさんと長年組んでるんだ、俺よりはデキるだろうな。
まさか、腹減らしながら監視してる対象が旨そうなもん食ってるから匂いでイラッときたとか? ないとは言えないな……それくらいならいいんだけど。だとしても俺恨まないでね?
「……ずっと監視されてた、ってことですか」
「だろうな。ここから先へ進む隊商に目星を付けて、襲う算段を考えるんだろう。そのために監視役を常駐させている――といったところか。
となると、考えられるのは、《森の疾走者》に過去、痛い目に遭わされた盗賊団の元一員か――」
俺もそんなとこだと思う。となると、殺気の対象はキャサウェイさんあたりか。
だとしたら、俺たちの正体はもうバレたかもしれないのでは? 囮の役目も果たせないんじゃ?
「そうとも限らんさ」
そう答えるマシュさんの考えは。
「個人的な怨恨でこの隊商の誰かを陥れたいなら、むしろ我々は狙われるかもしれない。
監視役の個人の怨恨だけで盗賊団が動くとは思えないし、むしろ正体が知れているなら、わざわざこんな危険な隊商は襲わないと思う。
ならば、正体は黙っていて、逆に盗賊団を利用してぶつけて、その混乱に乗じて恨みを晴らす――といったところじゃないかな。恨みが晴らせれば属している盗賊団などどうでもいい、と考えるなら、そういう思考もあるだろう」
なるほど――だがもし、ターゲットが別の人物の場合は?
例えば――マシュさんか、リリエラさんだったら?
「それならそれで対処は楽だ。我々は向けられる殺意には十分に敏感だからね。そこいらの盗賊程度では不意打ちなど不可能だよ」
おおう、さすがですわパイセン。
まあ可能性としてはもう一つ、ないではない――ナオ、もしくはシェラのどちらかがターゲットの場合。
この二人も過去が知れないので、盗賊団に狙われるようなことをやらかしている可能性もある。
そういう意味では、シェラの方が疑惑が濃厚なのだが……狙われているか?といえば、シェラ自身が盗賊団の手引きをしている可能性だってあるぐらいだが、それなら殺気を向けられるような立場ではないはず。
ターゲットの可能性がゼロなのは俺、極小なのがビュスナ。第一俺は今までの人生、盗賊団とは接点を一度足りと持ったことがない。マシナでも盗人騒ぎなんて身近で起きたこともないし、わざわざ盗賊探しや退治を買って出たことも請け負ったこともないから接点がない。
……そういう可能性なら、ビュスナの親父様が関わって、その娘であるビュスナが狙われても良さそうなものだが……もしビュスナなら、先のゴブリン掃討の際にでも狙えば、ゴブリンにやられた、で済むだろう。
だが、「街道沿いに根城がある盗賊団」が「個人的に殺気を向けてくる」となると、今までこの街道には全く縁のなかったビュスナがターゲットだとは思えない。なので、俺たち以外がターゲットだろうと思われる。
おそらく、マシュさんリリエラさんも違うだろう。自分に向けられたものなら、確実に判る。
俺にもその大体の向けられた方向は解る――少なくとも俺やマシュさんらではない。
やはり〈森の疾走者〉である可能性は大きいか。
まあいい、実際襲撃してくれば判ることだ。
メシテロにはまだ遠い……(´・ω・`)
てれれれってってってー♪
『スキル:料理→レベル3に上がった!(えぇー)』




