マシュ&リリエラ
盗賊相手だが刑事ではない(´・ω・`)
その翌日。
俺はラスさんに、昨日の依頼を受けることを話す。あとの三人は今日もそれぞれの所用で出かけているので、今日もまた一人。俺、なんかほんとにマネージャーっぽくね? こういうのってリーダーがやるもんじゃ……ウチのはやりませんね。ますますアイドル事務所になってきたな……女子力ないしキラキラもしてへんけど。ギラギラはしてるけどな。アイドルってよりプロレスラーや。
「では、出発は五日後、二十七日。明日、打ち合わせを行いますので、昼過ぎ四鐘(午後二時ごろ)にここの一階集合です。
期間は十五日、往路に七日、首都で一日休養・補給して、復路でまた七日。
報酬は終了後に、各自二万ゴネル。その他、パーティごとの報酬になりますが、盗賊捕獲一人につき五千ゴネル、殺害の場合は千ゴネル。盗賊団のアジトが発見できたら別途十万ゴネルが支払われます。輸送用の馬車、任務中の食料・水は支給します。途中の宿代も経費としてこちらが持ちます。
もちろん、可能なら盗賊団自体を壊滅してもらっても構いませんが――それは相手が出来てこない限り難しいでしょうけどね」
そりゃまあ、相手がいる任務ですけ……出てこなかった出てこないで、楽な旅してるだけだけどな。
「では、こちらの依頼書に名前を。あとの方々は、ギルドの受付に申し出てくれれば署名できるようにしておきますので、出発前日までに署名するよう伝えておいてください」
「わかりました」
俺が依頼書にしゅいしゅいとサインする――こちらの文字で慣れたせいか、徐々に漢字とか忘れそうだわー。いや忘れてもいいけどさ。あ、でもヒミツのメモ作るには日本語で書けばバレねーか?
「ところで」
サインを終え、ちょっとティータイムに付き合っていると、ラスさんが訊ねてくる。
「必殺技研究は進んでいますか?」
BU――――――――!!!!
……思わず噴いてしもたやないですか!!
「な、なぜそれを……」
「やっぱり、地下のアレはケン君でしたか」
ふふふ、と笑うラスさん……さっきの噴いた茶も、〈シールド〉で完璧に防いでる。さすがや。そしてカマかけられただけか!
……あー、そういや地下のあれ、放置したまんま帰ったわ……あの切り口や変な穴見たら、魔導士なら「何ぞこれ」って思うか……迂闊!
「そうですねえ、知られたくない実験をするなら、証拠は残さない方がいいですね。犯罪者になったつもりで」
別に犯罪ちゃいますけど……でも知られないようにしたいのは事実。今後気をつけます。反省。
「あと、一つ助言を」
……何です?
「もし、盗賊団が君達を拉致していくようなら、そして命の危険がとりあえずなさそうなら、捕まってアジトを探るのも一つの手段です。
もしケン君の能力が、私の考えているようなものなら――脱出も十分可能でしょうから」
……捕まったふりをしてアジトを探れと?
確かに俺の〈絶対領域〉さんはものすごく有能ですけど……有能ですけど、「完璧」ではないんですよねー。特に防御がダメでして。うちの子は攻めるのばっかり得意で……ドSなんですよ。
「俺はともかく、他の三人にそういった演技ができるかどうか……捕まるならリアルに捕まるでしょうし」
「だったらそこでケン君もいっしょに捕まればいいのでは?」
「……他の三人はともかく、俺じゃその場で殺されそうなんですけど」
盗賊団みたいな連中だと、女なら奴隷としての価値が高いので、殺さずに攫っていくことが多い――特にうちのメンバーなんか、暴れなきゃ掻っ攫われても当然なビジュアルだしなー。
シェラなんか、逆に攫う側にいたんじゃないか疑惑もあるけど……攫わんか。殺すだけだもんな。
「まあ、逆に相手を捕縛して、アジトを吐かせることができればより上等ですけどね」
それができればそうしますわ! わざわざ捕まるとか、リスクでしかないですやん!
「ふふ、まあそれは捕まってしまったときの話です。
マシュやリリエラがいれば、接近してくる敵を見逃すことはありませんから」
「あのお二人、そこまで凄腕なんですか」
なんとなく雰囲気でわからんでもないけど。
「ええ、そうですね――マシュミーヤは私と同じ一族ですし」
へー……って、あの人エルフ!? ミミトンガリじゃありませんでしたが?
「判りませんよね。マシュは普段、変装魔法を使って人間に偽装しています。エルフと知れると、相応の地位や知名度でもないと、無用なトラブルに巻き込まれやすいですから。ですからケン君もマシュのことは」
ラスさんは、人差し指を唇に当てる。
「はぁー……なるほど。判りました……じゃあリリエラさんも?」
「いえ、彼女は違います。見たままですよ――生来持っている力が気功術に非常に向いているので、それで冒険者になったそうで。辺境の少数民族なので、エルフの居住地近くに住んでいたんですよ」
そうか、生乙πか……あれも魔法で偽装されてたらヒャッホー!してた俺が悲しいわ。
「気功術、と言いましたが――それって、どういうものです?」
俺の問いに、ラスさんはふむ、と少し間を置く。
「私も詳しくは知りませんが――魔導でも、気功術の基礎みたいなものは習得します。魔力の発生からコントロールに至るまで、リリエラが言うには気功術の気のコントロールと同じようなものだと。
気功術は、生物の持つオーラ、『気』を操作する技術です。自身の気を操って、攻撃や防御に使ったり、傷の治癒、解毒もやりますが、一番の特徴は『肉体の操作』ですね」
……あー、やっぱり俺の知ってるアレと同類だ。
「肉体の操作……っていうと、離れたところからこう、対象を動かすような?」
「いえいえ、そんなレベルじゃありませんよ。気というのは生命の根源。それを操作できるわけですから、気功師が本気になれば、人なら一瞬で死に至りますし、竜ですら気功術だけで殺すこともできる……そう言われているのですよ」
……竜が死ぬ!? 気功術で!?
恐っ!! こっちの気功術恐っ!! 魔法よりよっぽどおっかないやんけ!
……ってことは、気で人間がボーンするとか!? 「お前はもう死んでいる」的なのもおk!?
「波ァ――――ッッ!!」ってビーム的なものが出せるとか!?
だったら俺、魔法より気功術やりてー!!
「とはいっても、気功師は生命に癒しをもたらす存在です。
彼らは基本、治療師として活動していますし、大抵治療院を開いてそこにいますから、冒険者みたいに年がら年中怪物殺しに血道上げてるような存在とは対極ですからねえ。
薬というのは毒を弱めて使うものですから、それと同じで、癒しも効果が過ぎれば――というのが気功術ですよ」
……そうか、医者みたいなもんなんや……よかった、冒険者にそんなんゴロゴロいたらマジコワイわ。ビーム的なもんが出せないのはちょっと残念だが。まあそれは魔法でやればいいし。
「リリエラはちょっと訳ありで村を出て、冒険者になったクチですからね。どちらかというと、宿屋の看板娘とかが似合うんじゃないかって思うでしょう?」
「そうですねー、その方が似合いますねえ」
あんなお姉ちゃんいたら毎日泊まるね! オレが主人なら絶対メイド服とか着せるし!
「本来ならそういった生活でもしていたはずです。
リリエラが冒険者になった原因は自分にある――マシュはそれでずっとリリエラと組んでいるのですよ。安全で平和な生活ができたはずだった、とね」
へえ……コンビに事情も歴史もあり、だな。
「だからといって、余計な気遣いはしなくていいですよ。リリエラがああいった振る舞いをするのは、わざとやっているところもありますが、半分は天然ですから」
天然なんかい。
そういえば、うちのナオちゃんもそういう無防備なとこあるからな……そういう天然は気をつけないと「好意を持ってる」ってとられかねないんやで! 男はみんなアホですから!
まあナオさんはそういうアホは全部ブン殴って解決するでしょうけど……脳筋脳筋。
「ですから、ケン君をいじって楽しんでいるのを見ると、少しほっとします。
暇なときは、リリエラの相手をしてあげてください」
え、それイジられてくれってこと? あれものっそい背筋モゾモゾするんですけど。
俺も乙πいじっていいなら……いやいや。
――それからしばらくいろいろ話して、俺も部屋に戻って準備を始める。
よし、今度は盗賊退治だ!
極悪非道な盗人にゃ情けはいらねえ、狩りまくってやるぜ!
「盗賊団ナメちゃダメだよ」
次の日。〈ギガントバスタ〉メンバー全員が依頼書にサインしたというので、改めて昼前に打ち合わせをしたのだが。
「ゴブリンより楽かもなぁ」というナオの言葉に、シェラが真面目に注意した。
「相手は人間。ゴブリンみたいに真正面からバカみたいに来る訳がないよ。むしろゴブリンよりも強くて、誰もが魔法も、戦闘技術もずっと上の集団だから。しかも不意打ちのエキスパート。
ゴブリン相手にするような気でいたら、下っ端に」
――いつの間にか、シェラがナオの背後に回りこんでいる。
「こんな風にされるよ?」
ナオの目の下と首をすいっ、と両手の指で撫でる。
「わ、わかった……油断せぇへんよう、注意してかかるわ」
ナオも、首よりも「目」をやられることには、ちょっとビビったらしい。
しかし、シェラがここまで言うとはな……さすがスカウトというべきか。てかこいつの今の動き、暗殺集団の出ってのも納得できるぐらいだな……。
「事前情報も細かく聞いてきたよ」
相手は『闇の荒野』とかいう盗賊団。森を通る街道で隊商を襲うのが専門らしい。広域指名手配も出ていて、かなり広範囲で活動が確認されている、組織的な大規模盗賊団だそうだ。
人数は、確認されただけで三十人前後。後方で待機していたであろう人員も考慮すると、最大で四十人以上いると想定している。だが多分、それも盗賊団全体の一部ではないかといわれている。なんせかなり西方のアークゥエスミィや東方のヴァーサール、もっと南のマージュ王国やら北のファース・エミュールからも手配書が出ている。人類居住圏の大半で手配されてるそうだ。
装備はショートソードとナイフ中心、弓や魔法も使う。戦い方はスカウトのそれと大差なく、スピードと技で翻弄するタイプ。魔法は、直接使ってきたのは二人までは確認されている。ただ、他にも戦闘支援の魔法拳、特にナオのような〈雷神拳〉を使っている可能性もある。
盗賊団の首領は、賞金首のゼザレン。四十前後の男で、生死を問わず、百万ゴネルの賞金がかけられている。ただし変装の名人で、素顔を見た者はいないという噂。
その他のメンバーでも、生かして捕らえれば一人五千~十万ゴネルの賞金が出る。殺しても千~五千ゴネルだそうだ。ギルドの仕事料と合わせるとそれなりにいい報酬になるな。
襲撃は夜間が圧倒的に多いが、人通りが少ない森だと昼間でも襲うことがある。
効率を重視するためか、個人の旅人を襲うことは滅多にない。襲うとしても、メンバーが個人的にやるだけ。
今まで数名のメンバーを捕獲はしたが、複数のアジトを持っているらしく、本体の襲撃にはことごとく失敗している。発見したアジトも完全にもぬけの殻で、逃げた先の痕跡すら追えなかった。
「前回みたいに襲撃が夜間にあったら、マジヤバイからね。《森の疾走者》がいるとはいっても、自分の身は自分で守る。これは鉄則だよ」
……今回はシェラ先生の言うとおり。ビュスナもさすがに大言壮語を吐けない。
ナオもそうだが、ビュスナも正面からの力押しにはかなり強い。それは物量で攻めてきたゴブリンを相当数屠ったことや、ゴブリンキングとの戦いを見れば判る。
だが、「不意打ち」や「計略」で攻めてこられると、この二人はからっきしだ。そういうのは俺とか、シェラの担当になる……とはいっても、俺だって専門家じゃない。前世の人生経験値込みでそっちにも考えが及ぶってだけだ。寝てるときに不意打ち食らったらマジヤヴァイデス。
「ボクらは基本、《森の疾走者》の指示に従うのがベストだよ。彼らは対盗賊団のエキスパートだから、ボクらが下手に考えて行動するよりはずっと判ってる。
あとは……危険区域に入ったら備え怠らず、警戒絶やさず、だね」
むう……緊張がどこまで続くか、どこまで維持できるかが問題だな。
次、やっと出発します(´・ω・`)




