荒野の鉄拳
さて。
責任のなすり合いはさておいて、ゴブ狩りである。
初心に戻って、200程度のコロニーを複数パーティで刈るわけだが……
「いやあ、あの<ギガントバスタ>に受けてもらえるとは、願ったり叶ったりですわ」
……冒険者ギルドの職員が、満面の笑顔で依頼に即受領を了承、ついでに依頼達成にまでハンコ押しかねない勢いでまくしたててきた。いやまだ早い。
「もうね、皆さんの噂はかねがね聞いとりますで?
獣人国でも結構な活躍やったそうで。
しかもオーガ相手にまたやらかしたんですってねえ?」
「やらかしたって何だ。どういう噂が広がってんだ」
……その噂とは。
曰く、オーガの大使を力ずくでフルボッコにして対等の関係で国交を認めさせたとか、獣人国の格闘大会でチャンピオンと場外乱闘をやらかして勝ったとか、オーガ国との戦争になりかかったところをこれまた力ずくで相手の軍団を叩きのめして和平に持って行ったとか、その功績で獣人国の伯爵令嬢との婚約話が持ち上がっているとか……
「噂ってそういうもんだけど、これはまたスゴいねえ」
「尾ひれどころか、腕や足やシッポやツノや翼まで生えてるにゃし。何なら頭まで増えてるぐらいに」
「……やらかしたところが一部は事実っちゅーのも否定しがたいとこやな」
「事実もあるけど、虚構もかなり混じってるじゃない」
……ここで否定しておくべきか、それとももっと煽っておくべきか……
冒険者として名を売るのなら、これに乗っかっておくのも悪くはないが、本人が噂に乗っかってホラ吹いたところで、自分の評判が落ちるだけだしな……
だが事実と違うところは正しておかんとなー。
まず、フルボッコにしたのはオーガの大使ではなく、オーガの大使を狙った反逆者な。
しかもフルボッコにしたんではなく、一匹を二人で瀕死の状態にしただけや。
あとはオーガ同士の5×5、伝説級のオーガバトルだし。オーガ同士のボコり合い。
んで、最後はその俺らを囲んだ反逆者を、オーガの大使の援軍がさらに囲むというイミフな結末。
オーガの大使は最初から友好的に交渉に臨んでたからな? ボコったりしてへーん。
「それはそれで信じがたい事実も混じってるよね……」
「二人でオーガ一体を完全に倒してるもんな……」
「これはアレだね、勇者演劇でよくある、『ここを守るのはいいが、敵は全て倒してしまっても良いのだろう?』ってやつだよ」
「過剰戦力にゃしね……オーガ相手に」
「オーガ相手に過剰戦力ってのも逆にどうなのって思うわ……」
「それ噂って言うんかな……尾ひれついても、ほぼオーガとの関係性を正しただけやで」
……その事実を伝えておくのが重要なんだよ!
そんでウーゴニアスリータでチャンピオンと場外乱闘……いやこれは事実だな。
ガルネルとコーチが殴り合って地響き起きたやつ。勝ってはいない。引き分けだ。
「ああ、あれはスゴかったねえ……」
「うちほんまたまに夢に見んねん。あれが自分やったらどやろ、とか、自分が殴られたらどうなんねやろ、とかな……飛び起きるけど」
「獣人大会関係は大体事実だからな」
「あ、そういえばここに名誉猿人がいるな」
「それヴルニャスカだよね?」
「いいじゃん名誉猿人。おめでとー」
「えーなんかやだー」
「猿人村でも歓迎されてたじゃん。友好だよ友好」
「それと名誉猿人は別」
次に……オーガとの戦争を力ずくで止めたってのは――
否定したいところだが、実際にウーゴ・ブオールの正式発表で、オーガ国の反乱勢力との戦争になりかけたけどならんで済んだ、ってのはある。
そして確かに、俺がスケルトン軍団をほぼ一掃したことで、戦力均衡が崩れてそれどころじゃなくなったってのもあるにはあるが……魔導士ギルドだって出張ったんだし、だいたいそっちの功績でよくなくね?
最終的には「管理者」とかいうのが敵側にいて、そいつが原因だったしな。
そんで結果、「管理者」同士の戦いになって、俺らはそのおこぼれで戦争終結にもっていけただけだし……
「……まあ結果としては間違っとらんけど……」
「だね。結果から、こういう経過だったら面白いよね、っていう願望が入ってたりするけど」
「願望で噂流されるのはなあ……」
「噂なんてそんなもんだから」
「そんなもんだけどさあ……なんで俺らばっか絡めようとするんだよ」
「実際主体で動いてたようなもんじゃない?」
うーん、この件に関しては事実を述べるのもよろしくないし……
協力はした、あとはオーガ国の戦士団がなんとかした!ってところへ持って行くか。
そこらへんが落としどころとしては適当だろう。
そんで最後の……伯爵令嬢?
誰やそれ。
「……これ、ミーチャリアル様かな? 自分で流してたりして」
……ああ、ミーチャ様か。令嬢ってか当主ですけども。あながち間違いでもないか。
だがありえそうで怖い。
あの人、この程度の情報操作、さらっとやりかねんし……。
「ケンのこと、面白いオモチャを見つけた目で見てたしねー」
「ネズミ見つけたネコの目やったな」
「オモチャっていうのは間違いないにゃし」
「マジやめろよ。オモチャは勘弁だ」
お貴族様の専属オモチャなんぞ御免被る。
庶民の皆さんには裏山かもしれんが、そんなええもんと違いまっせ……
金で自由を売るのは、最後の手段だからな……。
それに俺はそんなドMじゃねえ。
ギルド職員さんは「面白い情報が入った!」と喜んでいたが……
それよりゴブ狩りの方頼むよ。
「おっとそうでした。
<ギガントバスタ>さんでしたらね、もうさらっとゴブ狩りしてもらえると思っとりますけど、ほんでもまあ、一応地元の最有力パーティの方がね、地理的にも明るい言うことでリーダー務めさせてもらいますけど……よろしゅおますか?」
それは構わん。むしろそうしてくれ。
俺らは初見の土地でも任せとけ!なんて言うほど自惚れちゃいねーから。
むしろ地元でもえっらい目に遭ったぐらいだし……
あの一件はほんともう、最初から最後まで思い出したくねーわ。
「んで、リーダーやる言うんは誰やのん?」
「ああ、えーとですねぇ……<荒野の鉄拳>の、ディノですわ」
「……ディノかいな」
「知り合い?」
「……あー、多分、昔一緒の道場で習っとった奴や。
あの頃は先輩にボコスカやられてよー泣いとったなー」
「余計なこと言うなや」
――ナオの言葉に被せるように、背後で声を上げたのは。
「ああ、ディノさん。ちょうどええとこに」
……ギルド職員の言葉に、全員がディノに視線を向けた。
ナオの「昔先輩に泣かされていた」イメージはそこにはなく、むしろ「歴戦の勇士」といった雰囲気すらある、少年から青年になりつつある男。鍛えられた身体は、一端の拳士のそれだ。腕や顔にも、いくつかの傷跡も見える。
髪は薄い茶色、鳶色の瞳、太く意志の強そうな眉、大きな口につながる鼻筋は、女子百人がいたら90人は「イケメン(ワイルド系)」と評することだろう。妬ましや、ああ妬ましや妬ましや。
「ディノ……かいな。ほんまに?」
「せや。お前も……口の悪さ以外は変わったな」
数年ぶりの再会に、互いの変化を見ている二人。
……おやぁ? これはもしかしたら、そういう……
突然、ナオの拳がディノに飛んだ。
それを無造作に片手で受けるディノ。
……え? ええ……蛮族の挨拶? オーガ流?
「手の早さは相変わらずやな」
「ほんでも、受けられるようにはなったやんか」
「何年経った思とんねん」
……互いに笑みを浮かべ、二人は手を放す。
……ええ、ナオのいた道場って、こういう挨拶すんの?
人類の文明レベル下げんなよ……オーガじゃないんだからさ……。
そこで、ディノがこちらに向き直り。
「ほんで、こちらさんが例の、<ギガントバスタ>かいな」
「せや。なかなかに面白い連中やで」
ナオがビュスナの肩にもたれ。
「こいつがうちらのリーダー、ビュスナ・ヴァロースな」
「さよか――<荒野の鉄拳>リーダー、ディノや。今回のゴブリン狩りの仕切りさせてもらうけど、よろしゅうな」
「ええ、よろしく。地元に詳しい人にやってもらえるなら助かるわ」
ビュスナがいつものツン子ぶりを隠して、ディノと握手。
「ほんでこいつが」
と、ナオは今度は俺を引っ張り出し。
「キング・キラー、そしてオーガ・キラーや」
「ほう……あんたが」
ディノの目がすっと細められる。
……そのオーラが、右の拳に集約している。
おいおい、俺にも試す気か?
「ケンだ。その挨拶は勘弁してくれ。俺はあんたらの道場のやり方は知らんからな」
ディノが、一瞬眉を潜め――吹き出すように笑った。
「くっ、はっははははは! 噂だけか思たら、やるやないか!」
と、今度は敵意抜きに、俺の肩をバンバン叩いてきた。
俺はちょっとげんなりしつつも、
「そういうのがやりたいなら、コーチを相手してやってくれ」
「コーチ?」
「こいつだ」
と、後ろにいるコーチを指さす。
「仕事前にやるとえらいことになるからな。やるなら終わってからだ」
「…………」
ディノは、またも細めた目でコーチを見ていた、が。
「……せやな。今試したら、こっちがえらい目に遭うわ」
「まーコーチと闘るなら覚悟しとき? うちは初めて闘ったとき、ワンパンで三回転させられたでーっはっはっは」
「……三回転?」
なんで楽しそうやねん。ディノ君が怪訝な顔しとるやろ。
コーチとの初戦は、ナオにとっては大きな転換点になった。
オーガに対して、尋常ならぬ敵愾心を持っていたナオだったが、そのオーガであるコーチにブン殴られて、教えを請う立場になった。
……今聞いても意味わかんねーな。
ポ○ナレフさんが沸いてくるぜ。
「……ま、味方が強い分にはなんも悪いことあらへん。
力はゴブ相手に存分に発揮してくれたらええ。お手並みはそこで見せてもらうわ」
「まあそこらへんは期待しといてええで」
ついでに、ディノ君のお仲間とも顔合わせする。
魔導士のエッシャー、グリット。魔法拳士のヴァドルト。スカウトのリシャール。
この四人が、<荒野の鉄拳>のメンバーだ。
今回参加するパーティは、俺らと<荒野の鉄拳>五人の他、4パーティ22人。合計33人に、ギルドの監査官で「銀級」のボルティモール氏が同行する。
「私は状況経過の記録と、後方でヒーラーやらしてもらいますわ」
監査官のボルティモール氏は、アラフォーぐらいでちょっと疲れた感じのおっさんだ。
だが銀級ということは、手練れのヒーラーなのだろう。そしてただのヒーラーではあるまい。
「他のパーティは、明日打ち合わせしますんで、その時にでも」
「わかりました」




